ボリショイ劇場 ジゼル


2000年5月26日(金)

配役

ジゼルアンナ・アントニチェヴァ
アルベルト伯爵ヴラディーミル・ニパロージニー
ヒラリオン:ルスラン・プローニン、
ベルタ(ジゼルの母):スヴェトラーナ・チグレヴァ、
バチルダ:M.A.イスプラトフスカヤ、
公爵:A.E.ロパレヴィチ、
ヴィルフリード:M.E.ヴァルキン、
ジゼルの友達:
E.G.ドルガレヴァ、L.V.エルマコーヴァ、Iu.V.エフィーモヴァ、イリーナ・ズィブロヴァ、I.A.フェドートヴァ、オクサーナ・ツヴェトニツカヤ、

ミルタマリヤ・アラーシュ
二人のヴィリーエリナ・パリシナアナスタシーア・ヤツェンコ
パ・ダクシオン:
ニーナ・カプツォーヴァ、A.Iu.レベツカヤ、A.I.ツィガンコヴァ、ジュユン・ベ、A.A.ヴォイチューク、ヤン・ゴドフスキー、アンドレイ・エヴドキモフ、デニス・メドヴェージェフ

指揮:F.Sh.マンスロフ

演出:ヴァシーリエフ(コラッリ、ペッロ、プチパ、ゴールスキー、L.ラヴロフスキー原振付け)

美術:セルゲイ・バルヒン

衣装:ユベール・ジヴァンシー


ステパネンコがジゼルだというので切符(二階、皇帝席の隣14番ロージャ)を買ったのに・・・
という愚痴はともかくとして。

率直にいって、アントニチェヴァがでてきても、舞台がぱっと明るくなる、ということは全然なく、
第一幕では、文字どおり、ただの村娘。バレエテクニックはそこそこあるのだろうけれど、
それを超える「雰囲気」がまるでない。だから今回アントニチェヴァでみてはじめて、ジゼルが
ただ立って、別の人物の動作を待つ、という場面があることに気がついた。 つまり、いままで
観たプリマだと、ただ立っているだけで十分演技になっていたのが、今回は、「ジゼルが早く
動作をしないかなぁ」と、変にどきどきしてしまった。また、ポワント音のうるささ。 一人でまる
で群舞並みの音量。
アルベルトが貴族と知ってからの狂乱の場面も、前の演技と断絶面がなく、そのまま
ちょっと病気になっちゃったという程度の変身。物足りなかった。

ジャクソンコンクールで優勝、というので、いかにもアメリカ的に点数をつけうる
技術面(といってもさほど技術もない)にばかり注目するのか同コンクールの特徴なのか、
と思ってしまう。バランシンのように中性的なバレエにはいいのかも知れないが。

第一幕では、いつもながらパダクシオンが見せ場。
カプツォーヴァ、ベ、メドヴェージェフといったソリスト級のバレリーナが、それぞれ競う かのように
大きなジャンプをみせてくれるこの場面は、踊りや衣装のはなやかさにぴったりときまっていた。

うってかわってしまっていたのが第二幕。
ミルタを演じるアラーシュの登場の仕方!こきざみに足を動かしながら、音ひとつたてずに
すーっと前へでてくるのはまさに妖精そのもの。からだもおおきく、どちらかというと恐いめ
の無表情さが、ヴィリーの女王にぴったり。ジャンプもフワリと宙に浮くようで、その風をうけ
ると、いかにもヴィリーの魔の罠にかかってしまいそうな雰囲気。

班長役のヤツェンコとパリシナ、そして大勢のヴィリーたち。
なにかがありそうなしーんとした静けさによって、舞台はまさに不思議な 力の支配する森の
なかになっていた。

それに触発されたのか、アントニチェヴァのヴィリーも変に大袈裟なところがなく、たんたんと
しながらこまかい動きが冴えてきて、可憐な心に動きが醸し出されてきた。
ヒラリオンのプローニンは、まぁ、普通の出来。こちらは大袈裟な動作をふくむ演出なのだが、
空回りするかのように、とても小さくみえた。

よかったのがニパロージニー。彼はとても上品な王子様で、ジャンプにしても回転にしても
大きなところはないのだが、例えばブリゼなどで足の細かな動きが小波のようにあとから
あとから力強い線となって現われてくる様は、画家が筆をすすめていく様子をバレエという
かたちで見せてもらったよう。

ということで、今日の舞台は、アントニチェヴァとアラーシュの最もよい部分を味わえた。

オーケストラは、舞台と同じく第一幕はまるでダメ。主力はアメリカ公演に備えてオフなのだ、
と断言したくなるほど。木管など1940年代の演奏をレコードできいているようなスカスカさ。
弦は弦で伸びも弾力性もないし。
第二幕になって、木管群はよくはならなかったが、全体的にはしっとりした感じがでてきて
まずまずのできになる。
舞台とオケとは一体で、やはり「のる」感じが伝わるのだろうか。

・・・といってもボリショイの底力はこんなものでなく、失礼ながら二軍の総力をあわせたら、十分に満足いく舞台になる、という印象。
アラーシュのミルタは絶品。この役では有数のバレリーナだし、ボリショイで最高のミルタだといってもいい。
もしアレクサンドロヴァがいなければ。


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