ボリショイ劇場 ロメオとジュリエット


2000年1月5日(水)

配役

ジュリエット:ニーナ・アナニアシビリ、ロメオ:セルゲイ・フィリン、ジュリエットの乳母:E.K.ヴォロチコヴァ、パリス(ジュリエットの婚約者):A.V.バルセギャン、 メルクツィオ:コンスタンチン・イヴァノフ 、ティバルド:ヴラディーミル・モイセーエフ、道化:ゲンナジー・ヤーニン

指揮:A.コプィロフ

演出:L.ラヴロフスキー

音楽:セルゲイ・プロコフィエフ






今年初めてのバレエ公演である。
どんなバレエになるのか、期待を胸に久しぶりにボリショイ劇場に入る。
ちょうど一年ぶりにロメオとジュリエットをみたことになるが、今回の配役はジュリエットがニーナ。今回はどんなジュリエットを見せてくれるのだろうか。

劇場が暗くなって音楽が始まった。
あれ??あれれ?
ちょっと、ちょっと全然音楽が揃わないではないですか。
どうしたんでしょう?音もスカスカしたようなどちらかというと、中味のない音。これではプロコフィエフの名曲がなくじゃないか。
バレエの方もドタバタとした感じがぬぐえない。
やれやれ。

シーン2に入って、ジュリエットと乳母の楽しいやり取りのはずが・・・。なかなか呼吸が合わない感じ。アナニアシヴィリのノリも今一つである。バレエに軽さとキレを感じない。

ロメオとその友達たちが出てくるシーン3に入ってようやくバレエの軽快さやキレを感じるようになってくる。
なかなかイケるのはフィーリンのロメオではなく、イヴァーノフのメルクツィオである。
陽気でひょうきんなロメオを乗せてしまう役をうまく演じている。
どちらかといえば、ラヴロフスキー版は演劇的要素の高いバレエである。
バレエを観ているという感じより、演劇の中にバレエが混じっているといっても過言ではない。
その中で上手い役者が登場すると、とてもその演目は締まってくる。 ちょうどイヴァーノフはそんな役柄をこのバレエの中で引き受けてくれていた。

フィーリンのロメオでは、ジュリエットの愛を受け止めるには穏やかすぎるような或いは感情移入が足りないような気もしてくる。二人の愛を確認する場面もサラリと過ぎてしまう。
また、フィーリンのジャンプがあまり立派ではない。
二人が月光の中で愛を確認する場面も、至高の愛をたたえてこれから燃え出そうとする静かな火種を感じられない。
ジュリエットは美しいが二人の愛の絡まりがあまりにも乾いたままで終わってしまうのだ。


2幕目に入ると、オーケストラが俄然調子を取り戻してくる。
プロコフィエフの音楽が堂々と流れ出す。これでこそのオケである。
ジュリエットの手紙をロメオに乳母が渡すシーン。ロメオはその手紙に何が書いてあるのか早く知りたいが、乳母はなかなか渡さないで焦らす。
その攻防は観ていて楽しい。
そして、神父の前での二人だけの結婚式。ジュリエットの清純で愛らしい姿。しかしこの恋の行方を占うかのように机の上にはドクロが・・・。
神の前に進むジュリエットの足元に白い花がばら撒かれる。 その白い花は無垢で孤独な花嫁の心を模したもののようである。二人の愛の純粋さもこの花によって象徴されているのだろうか。

場面が変わってシーン3になる。メルクツィオとジュリエットのいとこの闘い。ふとした事から、闘いにもつれ合った二人を懸命に止めようとするロメオ。最後に二人の間に止めに入ったロメオ。そのロメオに気がとられてしまうメルクツィオ。終始、軽くふざけた調子で闘っていたメルクツィオは、ロメオの身体を張った仲裁を受け入れようとした途端、相手の剣にやられてしまう。
その時までメルクツィオは自分の死を信じてはいなかったであろう。
それなのに・・・。
止めに入ったばかりに友達を死なせてしまったロメオの怒りは手に剣を取らせる事になる。
そして、ジュリエットのいとこはたおれてしまう。


残念だったのは骸と化した甥の死の悲しみをその演技で表わさなければならないジュリエットの母役の演技がなんとも中途半端だったこと。ここは思いっきり悲しみと怒りに燃え、はだけた胸をかきむしっても、まだなお恨み骨髄に沁みている所を見せてもらいたい所。これはバレエではなく、ほとんど手と身体の振りだけで表現する場所。こんな悲しみが怒りがあったのであろうかと身悶えしてもらいたかった。


3幕目は、ベローナの町から追放されるロメオとの夜を明かしたジュリエット。そのアダージョは美しく決まる。別れの悲しみ。恋のつらさ。それを遺憾無く表現してくれる。
そして両親がパリスを連れてくるが、彼に触れられる事さえ拒むジュリエット。
シーン2に入って、苦しい胸のうち、両親に理解されないでパリスとの結婚を迫られるジュリエットは神父に会いにいく。
そこで薬をもらう。死んだように見せる薬である。 その薬を飲んだジュリエットの寝所に、パリスとの結婚を祝う友達(スペランスカヤ)とその恋人が入ってくる。二人の祝いの舞は、出来としては合格点。しかし余り大きな印象も残らない。美しく優しく若々しい舞であって欲しかったが、若々しさという点に問題があった。形通りのバレエを観たという感じ。

ロメオはジュリエットの死を知って埋葬室にやってくる。そこでジュリエットを狂おしく抱く。そして自らもジュリエットと同じ毒を飲んで死のうとするのだが、その毒はもう残されてはいない。そこで別の毒を飲み干して死ぬ。

深い眠りから目覚めたジュリエット。最愛の死とが死んで階段からさかさまに頭をさかさまにしたような形で横たわっている。それを見たジュリエットはロメオをかき抱く。そして自分も短剣で胸を刺して死ぬ。
3幕は非常に緊迫したしかし調和に満ちたいい場面であった。

ちょうどロージャ・ベヌアーラ(一階の右側桟敷席)の3番目の席で見ていた私たちにはダンサーの表情が良く見る事が出来、3幕目は思わずバレエに引き込まれていた。
静さに満ちた悲しみ。そして別離。
この時のフィーリンとアナニアシヴィリは最高に美しかった。

音楽が良くなってくると共に、ダンサーの動きも感情移入もとても素晴らしく、終わった時にはそこに佇んでいた。


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