ボリショイ劇場 くるみわり人形


2000年1月29日(土)

配役

シュタルバウム:A.E.ロパレヴィチ、
その妻:I.V.ドミトリエヴァ、
マーシャ:イリーナ・ピャトキナ
フリッツ:O.A.ソコローヴァ、
ドロッセルマイヤー:A.L.ポポフチェンコ 、
くるみわり人形
:K.N.プチョールキナ、
王子(くるみわり人形):ユーリー・クレフツォフ
ネズミの王様:G.V.ゲラスキン、
アルルカン:D.V.メドヴェージェフ、
コロンビーナ:S.Iu.ウヴァーロヴァ、
悪魔:O.P.ジュルバ、悪魔岩田守弘
スペインの人形:アナスタシーア・ヤツェンコ、Ia.V.ゴドフスキー
インドの人形:イリーナ・ズィブロヴァ、V.B.モイセーエフ
中国の人形:Iu.U.チチェヴァ、K.A.シュレポフ
ロシアの人形:A.Iu.レベツカヤ、A.A.メラニン
フランスの人形:S.V.グネドヴァ、P.S.カズィミルク

指揮:M.F.エルムレル

演出:Iu.N.グリゴローヴィチ

音楽:ピョートル・チャイコフスキー

原作:E.T.A.ホフマン


いつもだと、指揮者の登場もはっきりわからないまま演奏がはじまり、序曲の中頃まではざわついていて、再現部を過ぎるあたりから静まっていく。そうしたなか、このバレエのはじまりを待つわくわくした気分が段々と盛り上がってくる。

が、今日は上演に先立ち、ヴァシーリエフが登場。モスクワ大学創立275周年の記念品が総長からボリショイ劇場に贈呈された。そのあと舞台が暗くなり、しーんとした中で演奏開始。雑音のない序曲を聞いてみたいと以前は思っていたが、実際そうなってみるとなんか物足りなず、変な気分であった。

薄暗い中、クリスマスパーティーの開かれるマーシャ宅へ、お客さんたちがバレエ歩きで三々五々はいっていき、くるみわり人形を抱いたドロッセルマイヤーさんが最後に家の中に消えると同時に幕が開いて明るく広い広間があらわれる。この場面は何度みてもおとぎの世界への入り口のようで思わずほほえんでしまう。

こどもたち、おとなたちが入り乱れながらもそれは嬉しそうに次々に集まってくる。広間の奥にクリスマスツリー、その奥には窓があり、外には雪が降っているのがみえる。それは招待客が館へ入っていく時のライトによる降雪と対照をなしていて、同じ雪でも内と外で微妙に違うのを表現しているのはさすが。

他にも、クリスマスツリーがどんどん大きくなるところ(これはどこまでいくの、と思うほど際限なく巨大化する)、その中にお人形たちが隠れているところ、ねずみの大群との闘いで死んだかのようにみえるくるみわり人形が王子に変わっているところ、ツリーが雪模様の白一色になるところ、マーシャと王子がゴンドラにのっておとぎの国へ旅立つところ、そして最後にマーシャが夢から現実に戻る所など、ハットするような舞台転換がいくつもあり、それらはからくりを知っていても、見るたびに感動があらたになる。

今回のプリマはピャトキナ。マーシャはマクシーモヴァのあたり役で有名なように、この役にはバレエが自然にうまく、そして少女らしいあどけないかわいらしさをもっているバレリーナが欲しい。ピャトキナはとてもきれいだけどもきらきら輝くようなところはなく、どちらかというと地味な人。だけど、この役にはぴったり。技術的にぴたりとていねいに踊っていて、超がつくほどのベテランだけれども、それでいて踊りがとても新鮮。彼女はあとどれだけマーシャを踊るのだろうか。
クレフツォフはとてもきれいな王子。スパルタークの印象が強い人だが、きりりとした男らしい強さだけでなく、今回はちょっとやわな雰囲気も持っていて、その意味では役柄にあっていた。だけど少し調子が悪いのか、回転は速くでびしりと決めていたがジャンプがあまり高くなく、踊りは少し物足りなかった。
その他の踊り手で印象に残ったのは、ドロセルマイヤーの手品のひとつとしてでてくる悪魔人形の岩田と、スペインの人形のヤツェンコ。二人とも今回の役ではもったいないくらい、でもそれぞれしっかりと登場人物の一人をつとめていた。

そして出色なのがエルムレル指揮のオーケストラ。実は昨年末、同じコンビの演奏会でくるみ割人形の第二幕全部を聞いたのだが、その時にはいわゆるロシアのオケらしく、おおざっぱでデカイ音を誇るようなところがありがっかりだった。が、今回はとても繊細。序曲のはじめからかちりと音を出しそれがきまっていて、やや遅めのインテンポを最後まで保っていた。強弱もメゾピアノからメゾフォルテの幅で、舞台が壊れないように大事に 大事にていねいに演奏する、という感じだった。

ボリショイ劇場ではどれもがそうなのだが、その中でもグリゴローヴィチ版のくるみ割人形は他では決して見ることのできない特別な宝物である。


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