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『ダル・レークの恋』
第1幕 (2/3)

 第六場 B 元のホテルの広間(続き)
 ラッチマンが消えたとたん、カマラはラッチマンを心ならずも傷つけた事に自分が深く傷つき、ソファーに倒れこみます。その姿を満足げに見守るインディラ達。こういう王族って、私のようなバイシャには理解できないところがありますが、違う世界に生きる人々には違う考え方があるのだということは理解できます。
 ラッチマンこそがラジエンドラである!というジャスビル(英真なおき)とパタナック(にしき愛)の報告は「ラジエンドラが今この地に来ている。ラジエンドラは騎兵隊の軍服を着用している。ラッチマンは氏素性の分からない騎兵隊長だ。大体ヴァイシャの身でありながらカマラ姫に対するあのふらちな行為はなんだ!怪しいヤツだと前から思っていた。だから、ラッチマンはラジエンドラである。」という超いいかげんな報告なのですが、王族達にはとっさに自分たちの身に降りかかる火の粉を払う事しか考えられずそのまま信じてしまいます。これも、もしもラッチマンがマハ・ラジアの世継ぎと知っていたらまっさきに「そんなことはないはず!」と思ったのだと思うのです。相手の身分が低いと聞けば、悪い噂も信じてしまう。ここでも身分を重要視する事のバカらしさを目にすることとなります。

 呼ばれてきたラッチマンは、「何をばかな事を。」と笑い飛ばすのですが、周りの王族達が自分をラジエンドラだと信じているのを見て傷つきます。それでもカマラだけは信じていてくれたら誤解を解く方向で動いたのでしょうが、カマラまでもが自分を信じていない様子に、自暴自棄になってしまいます。
 もともと、自分はラジエンドラではないのだから、ここで捕まっても最後には真実が明らかにされる訳ですし、この人達の前で今更いいわけする気もおきなかったのだと思います。でもこれはラッチマンの早とちりであったと思うのです。カマラはまだそのときまでは「まさか」という気持ちの方が強かったと思うのです。ただ、周りの人々の反応と自分の立場の事を思うと、全面的にラッチマンを信じる側には回れなかった。それなのに、ラッチマンの口から「そうです。私がラジエンドラです。」と聞かされて今度はカマラが驚き、ショックを受けます。ここで二人はボタンを大きくかけ違ったのではないでしょうか?
 自分が「ラジエンドラである。」と認めたラッチマンは、最初はやけっぱちの様です。ところが、自分を捕らえず、逃がしたいという王族達の言葉を聞いて、先が読めてきます。自分から見たら一番きらいな愚かな考え方。ならば逆にわざと捕まってやろうと思い、そういって更に反応をみると、どうやら王族達はラッチマンが捕まり今までの出来事を全て悪く言いふらされるのがおそれて取引をしたがっていることが分かります。そこでラッチマンはこの機会を使ってもう一度カマラと二人きりになろうとします。それはラジエンドラとしての言葉なので「カマラと一夜を共に」という言葉となります。ラッチマンは自分がラジエンドラだと思いこまれいる状況を楽しみ、また利用しようとしたのです。ラッチマンはほとんどしゃべらないのですが、表情がどんどん変わっていくので、考えていることが手に取るように分かります。
 ラッチマンが出ていくとインディラはカマラの行動一つにクマール一族の名誉がかかっている…と諭し、動揺しているカマラをラッチマンに突き出すかの如く部屋に下がってしまいます。ここらへん、王族の考えはヴァイシャの私には計り知れないって感じです。
 一つ気になるのは、「私たちは部屋に下がっています。」と言ってインディラが引き下がるときに「さぁ、アルマ」とアルマだけを呼ぶことです。そりゃクリスナは次の場面にも出演しますが、あれはカマラに頼られたからであって、初めは部屋に下がろうしていていたはずなのに、何も仲の悪いアルマにだけ声をかけなくても…。いつもここで違和感を感じます。

第七場 月はひとつ
 カマラは動揺しています。この後自分が一体どうなるのか恐ろしくて。もしかして殺されるのかも。よくていわゆるカマラからみた「卑しい行為」をされるだろう。自分はどうしたらいいのか、、。 兄と慕うクリスナを頼るのですが、クリスナはクリスナで守るべき立場もあり、また王族として生まれたのならば、守るべきために犠牲を払うのは仕方がない。せめて、誇りをもっていて欲しいと願うことしかできないのです。
 …ということは分かるのですが、クリスナとカマラの歌う歌の歌詞とは今ひとつちぐはぐしていると思います。
 場面転換の音は、本当に惨いです。床の材質の違いとかが関係するんでしょうか?

第八場 月のバルコニー
 幕が開くとラッチマンがバルコニーのテーブルに腰掛けて呆然としています。背中から「どうしたものか…」というとまどいが感じられます。
 ラッチマンはここでは少し自分の気持ちを持て余し気味。カマラを心から愛している…一方で自分を信じてくれないカマラの頑な王族の誇りがうとましい。カマラの本当の気持ちを教えて欲しい。一方で今後どうなっても構わない。いろんな気持ちがラッチマンの中で交錯しているのがよく分かります。大劇場公演の後半になって変わってきたのは交錯する気持ちのうち、「カマラを愛している。カマラにも愛して欲しい。自分を信じて欲しい。」側の気持ちが強く見えてきたことです。バルコニー上での「本当の事を言ってください。」や「私には卑しい事など出来ません。あなたに愛情を贈ります。」の言い方、表情が必死で切なげですごくいいのです。が、あくまでも頑ななカマラに業を煮やし、会話を打ち切ってしまうラッチマン。
 こうなったら力尽くで…という感じでして、実はこの場面が「愛のバレエ」よりも濃厚な気がします。銀橋がなくなった…というハンデをものともせず、この場面のパワーアップぶりには驚きました。(゚ _゚;)でもって、嬉しい〜〜☆
 う〜ん。細かいことですが、その演出…振付の変更は誰が決めたんでしょう〜?どんな風に話があったのかなぁ?とか、二人で話し合って決めたとか?とか、変更に至った経緯が妙に気になっちゃいます。(^^;)
 後、バルコニーからダル・レークのボートハウスまでは近かったんだろうか〜?歩いていけたのかなぁ〜?ラッチマンはその間高笑いしっぱなし?カマラもキャイキャイ言ってたのかしらん?途中から疲れてシーンって感じ?インドだから象に乗って行ってたりして(^^;)あ、騎兵大尉だから馬で行ったんだろうな……などなど、想像し出すと止まりません。

第九場 恋と名誉(睡蓮のカーテン前)
 カマラに一族の名誉を背負わせて立ち去ったお祖母様が、平民のカップルの幸せな姿に目を留める。そして、「私たちは王族なのだから。」と自らの取った行動を言い聞かせている。王族達とて肉親の情はある。しかし、王族の名誉を守る事が優先されることを強調しています。
 帝劇からインディラお祖母様は邦なつきさんになりました。立さんより若干若そうな役作りで杖をついていませんが、杖がないと威厳を保つのが難しそうに思いました。立さんの演技は味があるというか独特で、それと比べると邦さんの演技は言葉の持つ意味・感情そのままにストレートで分かりやすいと言えると思います。でも威厳は保てていないと思いました。あれで扇か何かを手に持っていればもう少し動きが違ってきたんじゃないかなぁと思いました。

第十場 ダル・レークの恋(流れる紅い花 愛のバレエ)
 月のバルコニーの最後では、ラッチマンは本気で「罰」としてカマラを連れて行っていますし、ここでも最初ラッチマンはカマラを愛しい気持ちにカマラをこらしめたい気持ちが勝っていると思います。…が、思いがけずカマラから飛び込んでこられたら、一気にカマラを愛しく思う気持ちが吹き出してしまいます。
 このカマラがラッチマンの背中にしがみついてきて、振り向いたラッチマンの驚いた顔。抱きしめるときのせつない表情。カマラの必死な表情を見ていると、こういうせっぱつまった恋愛へ憧れてしまいます。
 ここの音楽・振付もすごくいいですね。そそられる…というか…。
 ラッチマンのビジュアルも最高にいいです。ターバンをほどいた瞬間とか、しがみついてきたカマラを振り返ったときにライトが強められた瞬間とか、1回目にベットに倒れ込んだ瞬間とか、瞬間瞬間の絵がすごく綺麗で…。エリザベートのトートに負けてないと思います。ファン冥利に尽きます。(*^_^*)

第十一場 酒場のあるダルの湖岸
 皆さん書いてらっしゃいますが、ここは大劇場とは演出が変わって、船から出てきた二人はラブラブです。大劇場のラッチマンは「昨夜は昨夜、今日はまた別の支払いをしてもらうぞっ!」みたいな感じに出てきますが、帝劇のラッチマンは「昨夜でカマラがより一層愛しくなった。いい朝だなぁ〜。」という感じです。それはカマラも同じで祭りの踊りの輪に加わるときも、カマラは大劇場では恐る恐るという風でしたが帝劇では最初から楽しそうにしていますし、最大に違うのは船から出てきてラッチマンとキスをするときですね。大劇場ではキスされた…という感じでしたが、帝劇ではキスを交わした…という感じになっていて、カマラがラッチマンに心を開いているのが分かります。
 この日、二人はこの後どうなるのかは考えないようにしていて、ただお互いを愛している…それだけの気持ちでいました。そこで、村人たちにいろいろ話しかけられて、そのたびに「南の方から来た百姓だ。」「百姓の娘なの。」「来年結婚するんだ。」「こいつが俺に惚れてやがってね。」「とても。(好き)」と答えるのは嘘というよりも「そうであれたらいいのに…。」という思いでいるのだと思います。

第十二場 愛の誓いを…(湖岸のヒンドゥーの寺院)
 カマラが「とても好きだ。」と答えた後、ラッチマンがカマラを抱きしめて歌う「愛の誓いを…」では、お互いの気持ちが言葉ではなく全身からにじみでていて、本当にせつないです。私はここではまだ二人は別れるとは思っていないと思います。どうなるのかは分からない。どうすればいいかも分からない。ただ一緒にいたい…それだけで…。
 多分、船の上で一夜を過ごして二人にはある種の魔法がかかっていたと思います。
 カマラが自分が王族でラッチマンというかラジエンドラと結ばれる事は出来ない…と思い出さなければ二人は別れなかったのではないでしょうか?
 たとえ、ラッチマンがラジエンドラで、世界的な詐欺師であったとしても、カマラを心から愛しているのは本当で、そのラッチマンをカマラが信じることが出来れば魔法はとけて、カマラはラッチマン・カプールの妃になったのではないでしょうか。
 カマラが「私はチャンドラ・クマールのカマラ姫です。」と言った瞬間、もう一つの方法で魔法がとけてしまった。そんな気がします。そして、カマラがラッチマンを残して走り去ったとき、ラッチマンはカマラとの恋愛の破局を確信したと思うのです。暗転する直前のラッチマンの表情に胸が痛みます。

 ★Nifty-serveより転載★

   
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