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星組公演 『イコンの誘惑』
第1幕  (2/2)

☆ 第六場A〜F 追憶A〜F ☆
 10年前、タチアーナはソ連にいて16歳でプリマに抜擢されたホープでした。が父親が反体制の活動家だったので国外に公演に出してもらう事がありません。その時も、ヨーロッパ公演メンバーからはずされたタチアーナは、その理由として新作「セレナーデ」の作成に携わって欲しいからと説明されます。そしてその「セレナーデ」の相手役としてミハイル・コルサコフと出会います。

 最初の頃2人は息が全く合いません。タチアーナはミハイルが自分のせいで海外公演に行けなかったから自分を嫌っていると感じ、ミハイルは頑なに心を開かないタチアーナに苛立ちを覚えます。10年前ということなので、ミハイルは20代前半くらいでしょうか、で、タチアーナは16才くらい。若い二人なだけにぶつかりも激しい感じです。が、パートナーとは公演の間中、身も心も通わせたいと願うミハイルの気持ちがいつしかタチアーナに通じ、「セレナーデが流れている間は恋人同士になれる。」とミハイルが言った通り二人は素晴らしいカップルと呼ばれるまでになりました。

 この頃に二人はレオナードに出会います。アメリカ大使館の人間として現れたレオナードは、最初からタチアーナにひとめぼれと言った風で、ミハイルはおもしろくなさそうです。最初の出会いはソ連のどこかでの初演の前だと思います。

 そして「セレナーデ」の初演の幕が開きます。始まる直前、薄暗がりの中でミハイルとタチアーナは見つめ合います。ミハイルが励ますようにうなずくとタチアーナもうなずき二人の間に何かが流れます。
 「セレナーデ」はなかなか壮大に作られていて、感じはよく出ていると思います。世界的に評判の高いピアノ・コンチェルト「国境のない地図」よりも私はいいのでは…と思います。もちろん音楽は「弦楽セレナーデ」ですし、振付も格調高くロマンチックで情熱的で…。そして、「セレナーデ」の幕が降りたとき、二人は本当の恋人同士になったのでした。

 初演の幕は大喝采のうちに降ろします。観客のカーテンコールに答える前に、後ろに立つ二人は一瞬見つめ合いタチアーナが「セレナーデは終わってしまったわ。」とミハイルに問いかけます。「だが、二人の愛は終わらない。」…ミハイルが期待通りに答え、タチアーナが笑みを浮かべます。ここがすごく好きです。この作品の好きなところはところどころにポイントとなるセリフがあるところ。「好きだ。愛してる。」と連発する恋愛よりも私はそれとなく匂わせるセリフが散りばめられている方が好きなんです。登場人物の心を読みとるのが楽しいというか…。

 「セレナーデ」のアメリカメンバーからタチアーナとミハイルは降ろされます。せめてミハイルだけでも行かせたいと言うタチアーナにミハイルは「セレナーデは君としか踊らない。」と言い切ります。そして、ウィーンにレオナードに来れるかと聞きます。亡命の手伝いを暗に頼んだ訳です。
 レオナードはうなずきますが、この後3人を離れたところから見つめるバレエ団マネージャー(実はKGB)のゲオルギー(夏美よう)とも目を合わせうなずきあいます。これがバウの初日の頃はなかったんです。ゲオルギーは見ていましたが、レオナードはゲオルギーとうなずきあいはしなかった。そのため、私は初日にレオナードがゲオルギーとぐるであった事に1幕の地下水道まで気が付かなかったし、2幕の最後にレオナードが元KGBであった事を告白するまで確信を持てなかったんです。結論から言えばこの方が良かったと思います。 今はどんどん派手になってきてゲオルギーとしっかりうなづきあってしまうので「レオナードはKGBとぐるなのね。」とレオナードが二人の亡命を手助けをする前にはっきり確信しますから、その後の「もしかしてレオナードって…?」「あぁ…やっぱり。」というドキドキ感が全くなくなってしまいました。それとなく匂わせていて欲しかったです。

 そんな訳で種明かしが前場面ですでに終わっているこのゴロですが、ウィーンでレオナードが終演後に二人に花束を渡し、その中に入ったカードにアメリカ行きの航空券が入っています。それを持って出ようとするとミハイルだけが呼び止められ取材を受けさせられます。取材のためにポーズを取るため、花束をゲオルギーに預け、その間にカードを抜き取られ、動かぬ証拠の航空券と共に連行されるミハイル。何回見ても、ポーズを取っている間にゲオルギーにカードを抜かれるところは胸が痛くなってしまいます。タチアーナにはミハイルは亡命しないと連絡があったと伝えられひとりでアメリカに亡命します。やがて足を故障してバレエをやめ、唯一頼れる人であったレオナードと結婚。ミハイルは収容所に入れられ、ソ連の崩壊と共
に解放され現在の地位を築き上げました。二人が別れた後の10年間は余りにもかけはなれたものだったのです。

☆ 第七場 クラブ「ゴールデン・エンジェル」 ☆
 そんな別れた後を語り合った二人。タチアーナはミハイルが一緒に亡命してくれなかった本当の訳を知り驚きます。が、今は夫のレオナードを探さなければなりません。ミハイルは別れたくて別れた訳ではないかつての恋人が人妻として現れ、動揺が隠せない様子。他でもないタチアーナの望みならば夫の捜索も手伝わざるを得ないようです。ひとまずタチアーナをホテルに帰します。
 このときにタチアーナはミハイルと握手をしながら「あなたはひとりじゃないわ。金髪の天使が見守っている。」と優しい言葉をかけるのですが、このときのタチアーナのしっとりとした雰囲気が好きです。ミハイルでなくてもポーッ(*^_^*)としてしまいそう。そしてミハイルはタチアーナが去った後、お約束のように握手をした手を見つめてしまうのでした…。二人の間には今でも何かが通っていそうです。
 ミハイルの今の気持ちを込めて「ゴールデン・エンジェル」を歌います。ミハイルはタチアーナの事を今でも忘れられず、再会して人妻と知った今はその気持ちは許されないものと抑えようとしているのです。せつない空気が流れます。
 タチアーナが帰った後、スカーフを忘れていった事にきがついてミハイルはホテルに電話を入れます。ところがタチアーナはその日のうちにすでにホテルを引き払ったと言われ、タチアーナの身に何かが起きた事を知ります。タチアーナをホテルに連れていったのはミハイルの信頼出来るリムジンサービスの運転手で、その話からどうやらホテルの入り口のドアマンが怪しい事が分かります。すかさず裏の世界のボス、ボリスに応援を頼みますが、この時にボリスに思わず本当の気持ちをしゃべりかけ、今まで気づかなかった自分の気持ちに気が付きます。
「彼女を二度も失いたくな…」しゃべりかけてハッとするミハイル。こういう細かい演技・表情から、全てを語らずとも気持ちが伝わってきます。

☆ 第八場 ホテル・メトロポールの入り口 ☆
 まずは元気のいい若者チームがホテルの前に集まり、探りを入れているとミハイルも到着。ドアマンに話を聞きます。ロシアのホテルでは宿泊者であることをパスポートで確認してから中に入れるのですが、そもそもホテルを引き払ったはずのタチアーナを入れたのはおかしい。ミハイルの言葉には虚勢を張るドアマンですが、ボリスが声をかけると震えだします。ボリスは多分ヴェラとお楽しみの最中に呼び出されたので縞縞パジャマの上に毛皮のコートを羽織ってお茶目なんですが、震え出すほど怖いらしいです。ボリスの言葉にはすぐに従って「クリモフに買収されたんだ。」と白状しました。
 今からすぐにクリモフ達元KGBのアジトにタチアーナを助けに行くというミハイルとボリスは明日にならないと手勢が集まらないからよせ!と止めます。仲間は集めた…とオトコちゃんたち若者チームを指すミハイルにボリスは心配だから(^^;)と銃を渡します。ミハイルが銃を撃った事がないと言うとボリスがすんごいうれしそうにこう撃つんだ〜と教えてあげるのですが、教えるボリスも教えられるミハイルも楽しそうで思わずオペラで表情を確認してしまいます。銃を構えたミハイルは格好よくてドキッとします。ここもオペラポイント。(*^_^*)

☆ 第九場 KGBのアジト(地下水道内密室) ☆
 KGBのアジトに連れてこられたタチアーナ。そこで元バレエミストレスのオリガ(英真なおき)ゲオルギーと再会します。亡命したタチアーナは3人には憎しみの対象ですが、今は冷戦は終わりタチアーナはアメリカ市民。タチアーナに「密告して人を陥れる時代は終わった。」と言われて元KGBたちが怒りの・悲しみの歌を歌います。
 最初はシリアスな歌だと思っていたんですが、この3人はコメディー色が強く、実は笑える歌でした。笑えるけどちょっぴり寂しいです。私の価値観から見れば、彼らの信じる道は愚かな事だけれど、彼らは「密告して守る正しい世界」であってその世界の復活を信じている訳です。組長・副組長はさることながら端正で美しいヒロコちゃんがコメディー色を漂わしているのがなかなかはまっていて新境地を開いた感じです。美しい人のコメディーって見応えがあるというか…。
 その歌の中でレオナードはルシファー教団という新興宗教のアジトにいること。レオナードとパブロフはKGBの隠し財産のありかを示す2枚のイコンを持ち出して隠れたことなどが分かります。彼らはタチアーナを人質にしてレオナードからイコンを取り戻そうとしたのですが…。
 そこへ、ミハイルと仲間達がかけつけます。地下水道の中を通って来たので、お疲れ〜と言った感じ。「靴の中までびしょびしょだぁ〜」その雰囲気が妙に明るくてお気に入りです。ボリスが反対方向からKGBの手下を捕まえてきてくれたので彼らとタチアーナを人質交換し、ボリスの援護の元そこから脱出しますがその前にミハイルはゲオルギーの言った「レオナードとはずっと前から知り合いだ。」という言葉を聞き逃しませんでした。ここでミハイルはそもそもレオナードもKGBとぐるだった事を確信したのです。このときに観客もからくりに気づく方がおもしろいと思うのですが…。

☆ 第十場 地下水道内 ☆
 地下水道内をミハイル達が逃げ、ゲオルギー達がそれを追います。ちょっとレ・ミゼラブルが入っているかしら〜という雰囲気です。懐中電灯を持って若者チームが前を行き、後を行くらしいミハイルとタチアーナは階段のセットの上に立ち、セット毎動きます。このあたり、照明・装置・音楽の相乗効果で雰囲気をすごく出していていいです。肩出しドレス姿で寒そうなタチアーナに静かに自分のコートを着せ掛けるミハイルにファンは釘付け。ボーっとなる一瞬です。(*^_^*)
 この後音楽はどんどんアップテンポになりダンスが入ります。追われるミハイル達、追うゲオルギー達、レオナードが身を隠したルシファー教団、みんなが探すレオナードとパブロフ、そして2枚のイコン。立体的に次々と構図がかわり、この後どうなるんだろう〜と期待が高まったところで音楽が最高に盛り上がりミハイルが思いを込めて「タチアーナ…」、、、そしていかにもな音楽で幕が降ります。
 うーん、確かにミハイルはタチアーナを想っている…というのはこの作品の重要なテーマなんですが、そのタチアーナはミハイルのすぐそばに今この時立っているんですよねぇ〜。タチアーナを今から助けに行くなら良かったのに…。なんか今探している「レオナード…」ってつぶやいた方が感じは合うよなぁ〜(もちろんそれはそれで変なんですけどね(^^;))と一幕のラストだけは微妙に納得しきれずに終わるのでした。
 全体的には「おもしろかったぁ〜!これはヒット!!」という感想と二幕への期待感を持って休憩に入る事ができます。

  ★Nifty−serveより転載★

   
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