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日本青年館星組公演 
『武蔵野の露と消ゆとも』
扇の変更点


 様々な細かい変更点がある青年館バージョンの『武蔵野の露と消ゆとも』ですが、中でも最大の変更点といえるのは第一幕の連れ舞でしょう。
 お互いに気持ちを抱えながらの別れの連れ舞。ふと和宮が落とした扇を拾い、差し出す実梁。その一瞬に流れるあふれる想いにバウでも胸をつかれましたが、ちょっとした変更で更に深くなりました。

 バウホールでの扇の取り落とし場面はこうでした。
 見詰め合う瞬間に、和宮が思わず扇を落としてしまいます。すぐに跪き、扇を拾いあげる実梁。そして跪いたまた拾った扇を差し出し、和宮に渡します。一瞬の交流に二人の想いがあふれ、その後再び舞い始めるとしっとりとした雰囲気になっていました。

 バウホール時でもすでに大好きだったこの扇にまつわるやりとりなのですが、青年館になると更にパワーアップ。

 青年館版の扇の取り落とし場面。
 見詰め合う瞬間に、和宮が思わず扇を落としてしまいます。すぐに跪く実梁。ここまでは同じです。しかし、ここからが素晴らしい!
 なんと、実梁は自分の扇を持ち直しその要を和宮に向けて差し出すのです。一瞬驚き、そしてすぐに喜びに変わる和宮。実梁の扇を受け取ります。
 そして、実梁は和宮の落とした扇を見つめ、大切そうに拾い上げると、また想いを心にしまってすっと立ちあがり、静かに舞い始めるのです。

 別れを前にして、二人は扇を取り替えて持つことになったんですね。もちろん、和宮をその扇を持って降嫁し、実梁も和宮の扇をずっと持ちつづけていた訳です。

 そうなると必然的に扇が出てくると和宮を強く思い出すことになり、特に1幕ラストの実梁1人での連れ舞のせつなさといったらありません。」
 降りしきる雪の中、扇を取り出しじっと見つめる実梁。一人で連れ舞を踊り、扇を取り替えた場面に近づくにつれ、和宮が降嫁していったことが改めて実梁の心に染みてきます。
 和宮のいない空間を見つめ、身を震わせて涙をこらえる実梁。悲しい笛の音と共に幕。実梁の心の痛みが前よりも一層伝わるようになり、私も涙してしまいました。

 そして、2幕で大政奉還が実現し、再会した実梁と和宮。
 実梁に頭を下げる和宮にたまらなくなり、実梁は前のように叱って欲しいと頼みます。
 そして、和宮がようやく実梁に言ったわがままが「連れ舞を今一度踊りたい・・・。」、取り出した扇はもちろんあの時の実梁の扇です。
 実梁がそっと取り出した扇も、もちろん・・・。

 扇を取り替えたあの場面を知っているだけに、何も言わない2人の気持ちがより深く伝わってきます。

 素敵な変更点であったと思います。

   
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