仮想心中
 

−4−

『やれやれ。大したタマだな』
ライターと言うとデスクワークを想像しがちだが、実際には、いろんな相手に取材したり、営業活動も自分で行うわけだ。人付き合いが上手くないと、やっていけないのかもしれない。
「ンディールの大深海蛇のクエストがあったのよ。これは倒してすぐ貰った物だから、この辺りじゃまだ珍しいでしょ? 島に行けば、まだ手に入るわよン」
「まだ売ってるの?」
「もち。大深海蛇だもん。まだ数はあるわよ」
『おいおい。よくまあベラベラと出任せが言えるもんだな』
俺達は既に三つの町を旅している。酒場はこの店で、もう五軒目だ。
俺はカウンターの隅で、女盗賊サマーミストのたち振る舞いを呆れながら眺めていた。酒場を埋める客達は、すっかり彼女の話に乗せられている。
 しばらくすると、彼女が小走りに戻り、パーティー専用モードで話しかけてきた。
「改造コントローラーを扱ってる人がわかったわ。今ログインしてるって。行くわよ。さあ、早く!」
彼女はサッと出口に向かった。
「サマーミストさん、出かけるの?」
「がんばってね。また会いましょー」
「どっちの方に行くの? 今度パーティー組みましょうよ」
女盗賊は出口に立つと振り返り、別れの挨拶をした。
「今度は北の入り江の方でも行ってみるわ。じゃ、またね」
俺は彼女に続いて酒場を出ると、パーティーモードで話しかけた。
「おいおい、ここの北に入り江なんて」
「いいから。改造コントローラーを売ってる人が、西の大陸のソカクって町にいるそうなの。今すぐ行ける?」
「ああ、お易い御用だ」
俺は管理システムを動かし、パーティーをソカクの町へ移動させた。
 
 ソカクは、別名「不運の町」と呼ばれている町だ。治安レベルはかなり低く設定されており、当然、悪の属性のプレイヤーがよく集まる。まあ、改造コントローラーを扱うには、うってつけかもしれない。
 ソカクに着くと、彼女は裏道にある一軒の闇商人の店に入った。盗品属性の付いたアイテムを、正規品属性に書き換える商売をしている店だ。彼女は、迷わず店の地下室へと降りていった。
『ホントかよ…。よくこんなとこ聞き出せたな…』
俺は、彼女がプロだということを実感した。
 
「改造コントローラー?」
「聞いた事があるような、無いような(笑)」
石組みで出来たランプの明かりだけの薄暗い地下室には、四人のプレイヤーがいた。主の闇商人に、盗賊、獣人、狂戦士。よくもまあ、いかにもというキャラを選んでるものだ。
「改造コントローラーの話なんて、スタッフに見つかったらID停止喰らうかもしれないんだぜ。会話のログは取らない規則にはなってるけど、軽々しく喋れるわけにはいかないよな」
どうやら闇商人がリーダーらしい。
「勿論、タダとは言わないわ。このジャケット、珍しいでしょ? まだ出たばかりのアイテムなのよ。この辺りなら高値で転がせると思うけど、どう?」
女盗賊は、レアアイテムのジャケットを脱いで見せた。上半身は黒のブラだけになった。
「オ------!」
「パチパチパチ。(^^)」
『オイオイ…』
俺は頭痛がしてきた。
 
 もはや完全に彼女のペースだ。彼らは余計なことまでベラベラと話し始めた。まあ連中も案外、話したかったのかもしれないが。
「そんなヤバイ改造は、聞いたこと無いなー」
「俺達のは、感電死するような大容量は扱わないし」
「ショートさせて基板が燃えたってのはいたな」
散々歩き回ったものの、結局、死亡したユーザーにつながるような話は、何一つ得られなかった。
 

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For the best creative work