仮想心中
 

−9−

「ここが、終点だ」
俺達は、森を抜けた岬の突端に立つ塔の天辺に立っていた。三六0度の大パノラマが、目の前に広がっている。金色に輝く夕陽が、オレンジからパープルへと移り行く空を従えて、キラキラと照り返す海へと没していく。俺達の耳に、潮風の声が木霊する。
「ここは、『明日への塔』。アルトゥハンで最も美しい場所だ」
俺達のすぐ側で、カラスがじっとしている。
「彼は…、弓島くんは、ここで自分が育てた精霊と最後の時間を過ごしたのね…」
「この場所には、『飛翔』のイベントというのがあるんだ。『希望のカケラ』を持っていれば、ここから空を飛ぶことが出来る。だが、持っていなければ……。あのコントローラーは、おそらくイベント失敗の信号をトリガーにしていたんだと思う。そして、唯一理解する相手と、ここから二人で飛んだんだ」
「……仮想…心中…」
突然、カラスが走り出し、俺達の目の前で、飛び立つことなく塔から落下していった。
夏霧のすすり泣く声が聞こえる。
俺達には、それが安らかな眠りであるよう祈ることしか出来なかった。
 

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For the best creative work