− 10 −
俺達はホシイを出た。
町の店の多くは、既にシャッターを降ろしている。無言でタクシーの順番を待つ人々。どこからか聞こえてくる酔っぱらいの声。俺達に目もくれず、すれ違うサラリーマン。
おしゃべりな仮想(ヴァーチャル)。
無口な現実(リアル)。
そのどちらにも居場所が見つけられないとしたら、いったい、どこへ行けばいいのだろう。
「冬河…?」
夏霧が俺を心配そうに覗き込んでいる。
「……飯、食いに行こうか」
「ご馳走してくれるの?」
「ん。OK」
夏霧が、きつくギュッと抱きついてくる。俺は彼女の肩をしっかりと抱いた。
俺達の住む街が、冷たい風の底に沈んでいる。
彼女の温もりだけが、ただそれだけが温かかった。
− 終わり −
|