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 phase8 セカンドインパクト(前編)
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■南極へ
「あの人から手紙なんて、珍しいわね」
 母は、読み終わった便せんを、ミサトへまわした。
 
 西暦2000年、夏休みももう終わろうというその時期に、父からの手紙は届いた。
 両親が離婚してからというもの、何度か父と会うことはあっても、手紙が来たのは始めてだった。
「最近、噂を聞かないと思ってたけど…、まさか、南極にいるとはね」
「へー。遊びにこないか、だって」
「どうせ誘うなら、もっと早くよこせばいいのに。…ま、あの人がそういうことに無神経なのは、前からだけとね。あら〜、きれい」
「なになに?」
 大きめの封筒には、四つ切りサイズのオーロラの写真が1枚同封されていた。そこには、夜空に吸い込まれるように続く、見事な光のカーテンが写し出されていた。
「気象班の人に分けてもらった、って書いてあるわ」
「すご〜い。こんなの見たこと無いよ」
 ミサトの目は、そのオーロラに釘付けになった。
「気象班の人も、こんなにきれいなのは初めてだ、って言ってるそうよ。…あの人がいるのはチョットいまいちだけど、こんなのが見られるなら、行ってみたかったわね〜。何でもっと早く連絡よこさなかったのかしら、まったく…」
「ねえ。この写真もらっていい?」
「? ええ、いいわよ」
 
 ミサトは、その写真に、強くひかれていった。
 別段、ミサトにとって、オーロラの写真が始めてというわけではない。だが、どういうわけか、その写真は、ミサトを強く捕らえて放さなかった。それはまるで、そのオーロラが、ミサトを呼んでいるかのようだった。
 
 ミサトが、母を説得し、単身、無理矢理南極へ渡ったのは、新学期が始まってすぐの事だった。
 
 * * * * *
 
 書類の散乱する薄暗い部屋の中央に、六分儀ゲンドウは一人腰掛けていた。
 彼のそばには、何やら沢山の人名と記号が殴り書きされたホワイトボードが立っている。机の上には、光の巨人の最新調査資料と、南極遺跡調査基地と接触した人間に関する最新情報が置かれていた。
 
 六分儀の手には、調査基地行き偽装連絡便の乗客リストが握られていた。
「………葛城博士のお嬢さんとはな」
 
 六分儀ゲンドウは、ミサトと同じ便に乗るため、ただちに南極入りの手配をした。
 
 
 
■鼓動
「うひゃ〜。寒いの通り越して、痛いよ、これ〜」
 いの一番に滑走路に降りたミサトは、左手で道案内のガイドロープをしっかり握りながら、案内の職員と共に基地施設内へと急いだ。
「こんなに簡単に来れるなんて、君は運がいいよ。時には悪天候で1週間ぐらい足留めを喰うことだってあるんだからね」
「それより、早く中に入りましょ。寒くて死んじゃう!」
「ハハハ。ほら、足元に気をつけて。そんなに慌てると、転んじゃうぞ」
 
 その時、不意にミサトは、誰かが自分を呼んだような気がした。
 立ち止まり、あたりを見回したが、特にそんな様子はない。連絡便からは、同乗していた人達が降り始めていたが、その人達では無いようだ。
「? どうかしたかい?」
「ううん。何でもない」
 ミサトは基地へと入っていった。
 
 父の出迎えは、実にぎこちなかった。実の娘とはいえ、父親を拒絶した娘である。腫れ物を扱うような態度になるのも、いたしかたなかろう。
『ま、しゃ〜ないか』
 ミサトは、ちょっぴり父が可哀想に思えた。
 
 だが、そんな父の姿も、次の日には、見えなくなってしまった。
 父の案内で施設内を見学していたときのこと、一人の職員が、慌てて二人のところにやってきた。そして、何やら父に耳打ちすると、父の顔色が変わった。父は、ミサトを他の職員に預けると、そのままどこかへ行ってしまった。
 もはや父の姿は、ミサトのよく知る葛城博士へと戻っていた。
 
 * * * * *
 
 葛城博士は地下区画へ降りると、直ちに中央解析室に飛び込んだ。
「すみません、葛城博士。せっかくお嬢様がいらしてるのに、お呼びだてして…」
「そんなことはいい。それより、状況は?」
 若い調査員が、報告した。
「これを見てください。まだ、変化そのものは小さいですが、昨日から光の巨人に、内部エネルギーの上昇傾向が出ています」
「S2機関が、活性化し始めたのか。…で、治まる可能性は?」
「このデータからは考えられません。少なくともしばらくは、上昇を続けるものと思われます。巨人表面の発光現象を計測している光度計にも、わずかながら変化が現れています」
 葛城博士は、解析室の窓から、淡く光る巨人を見下ろした。無論、観測された変化は、視認出来るほど大きいわけではない。だが、葛城博士は、横たわる巨人を見ながら、まるでその鼓動がだんだん大きくなっていくかの様な感覚を覚えた。
 
 
 
■夢
 父の姿を見ること無く数日が過ぎた。
 ミサトのことは、地上施設勤務の職員達が面倒を見てくれた。
 ミサトは、地上施設については、かなり自由に見学することが出来た。だが、地上にあるのは、職員達の居住区画や動力区画、発掘初期に使われた旧調査施設などがほとんどで、今のここの中心は、地下区画にあるらしかった。
 ミサトは、父が缶詰になっている地下区画についても尋ねてみたが、見学はもちろん、その内容も教えてはもらえなかった。
 いかに葛城博士の娘とはいえ、所詮は部外者である。非公開の調査基地の活動内容を、そう簡単に教えてもらえるはずもない。ミサトとしても、そのあたりは十分わきまえていたし、余計な詮索をするつもりもなかったので、地下区画については、気にしないことにした。
「ま、いいや。私には関係無いし」
 ミサトにとっては、父の仕事への関心より、ここの美しいオーロラをこの目で見られたことと、滅多に体験できない場所にいるのだという満足感の方が、遥かに大きかった。
 ミサトは、ここでの生活を楽しむことに専念した。
 
 ミサトは毎日、サンルーム(と呼ばれているが、あいにく冬の南極では日がささない)にかよった。ここが一番オーロラを見やすいからだ。ここから見上げるオーロラは、送られた写真のそれより、遥かに雄大で荘厳な美しさをたたえていた。聞くところによると、ミサトが来る前日あたりから、このオーロラの偉容は続いているという。
「こんなの…、観測始まって以来よ…」
 気象班の職員は、青ざめてさえいた。
 
 特にすることの無いミサトは、日中は地上施設の雑用の手伝いをし、空いた時間はサンルームで過ごすようになった。
 サンルームでは、寝転んでオーロラを見上げるのが一番好きだった。こうすると、まるでオーロラに吸い込まれるような気分になるのだ。丁度、落下するような感覚だった。
 
 ミサトは、今日も飽きもせずオーロラを眺めていた。
 今はサンルームには誰もいない。だが、ミサトは、誰かが自分を呼んでいるような気がした。
 もちろん、耳を澄ましても、その呼び声は聞こえない。ただ、何となく、呼ばれているような感じがするのだ。そして、それは心地よい感覚だった。
 ふと、ミサトは、背中から誰かに抱き止められるような感触を感じた。振り返ると、闇が広がり、ミサトの体は宙に浮いていた。だが、不思議と恐怖感はない。
「………誰?」
 闇の奥から淡い光が現れた。
「…何? ………あなたは私を知ってるの?」
 光は、少しずつ大きくなっていった。
 
「………。…サト。ミサト」
「……ん、…うん?」
「こんなところで寝ていると、風邪をひくよ」
「……あれ? …私寝てたの?」
 どうやら、いつのまにか眠ってしまったらしい。通り掛かった職員が、ミサトを起こしてくれたようだ。ミサトはそそくさと、自分の部屋に戻った。
「………夢かぁ。変な夢」
 
 しかし、その日から、ミサトは毎晩その夢を見るようになった。しかも、夢に出てくる光が、段々大きく、明るくなっていった。
 
 9月12日。ミサトはいつも通り、親しくなった職員たちと食堂で朝食をとっていた。
「ここんとこ毎日、その夢を見るんですよ〜」
「う〜ん、それは、あれね。日本が恋しくなってきたんじゃない?」
「えー。そんなんじゃ無いよ〜。ホームシックになるような子供じゃありませーん」
「アハハハハハ」
 ミサトは、軽い気持ちで、不思議な夢のことを話していた。職員たちも、特別意に介すること無く、単なる朝食時の話題として聞き流していた。
 だが、そんなミサトの話を、六分儀ゲンドウだけは、じっと背後の席で聞いていた。
 
 
 
■チャイルド
 六分儀ゲンドウは、ミサトの日本出発からこれまでの間、その行動を逐一監視していた。
 彼は、日本を発つとき、形式的にミサトと挨拶を交わしていた。だが、その人当たりの悪い性格が幸いし、ミサトに余計な関心を示されずに済んだ。結果、ミサトの監視はスムーズに進み、六分儀は確実に計画を遂行できた。
 
 昨年1999年暮れ、ゼーレは、シナリオを実行に移すべく、第1計画「パンドラ」を開始した。偽の死海文書の情報を駆使したその計略により、キールらは、国連の掌握を着々と進めていった。
 一方、時を同じくして、六分儀ゲンドウは、キールらと離れ、シナリオの第2計画を、単身遂行していた。
 
「マルドゥック計画」
 天地創造神の名を冠するその計画が、彼の任務だった。
 この計画における彼の最初の任務は、死海文書(禁典)の予言に記された、ある一人の子供を探しだす事だった。
 
「約束の子 (The Child of Promise)」
 リリスと出会うことを約束された、運命の子。
 14才になるというその子供のことを、ゼーレでは「チャイルド」と呼んだ。
 
 六分儀は、南極から送られてくるリリスのデータをもとにチャイルドの特長・条件を探り出す一方、南極に関わるすべての人間とその関係者を注意深く洗い出した。そして、南極基地に関わりそうな全ての14才の子供に対し、南極への接触が出来ぬよう計略を巡らし、注意深くこれを排除していった。
 
 しかし、そんな六分儀の妨害にも関わらず、その手をいとも簡単にすり抜けていく少女が一人出現した。
 公式,非公式、採りうる限りの手段を用いたにも関わらず、伝達ミス,誤解,予想外の協力者の出現など、まるで六分儀の努力をあざ笑うかのように、あらゆる妨害がその少女の前では無力だった。恐ろしいまでの強運。まさに、神を味方にした少女だった。
 
『いよいよだな…』
 もはや疑問の余地は無い。
 六分儀ゲンドウは、葛城ミサトを「チャイルド」と特定した。そして、その事は同時に、マルドゥック計画が第2段階へ入ることを意味していた。
 
 畏怖、動揺、好奇、自信、誘惑、誇り、傲慢、勇気、快感、……。六分儀の心の中は、激しく渦巻いていた。そして、自分の中のもう一人の自分が、彼にこう命じた。
『やれ!』
 六分儀は、微かにニヤリと笑った。
 
 
 
■強奪
 葛城博士は、助手たちと共に、真近から光の巨人を見上げた。
 
 巨人は、胸の中央にある紅い球状の部分を除き、全身から光を放っていた。そして今やその光は、巨人の表面が不明瞭になるほどに、明るくなっていた。巨人の放つ光は、なぜか熱を帯びてはいなかった。そのため、光度が上昇しても、巨人の放出する熱量自体にはそう大きな変化は無く、周囲の氷もそれほど解けることは無かった。
 
「葛城博士…。このままいくと、この巨人は……」
「わからん。このまま光度を増すだけか、得たエネルギーで動き出すのか、それとも爆発でもするか…」
「止めることは出来ませんか? 何とか解体して…」
「馬鹿を言うな。相手はエネルギーの塊だぞ。その出所がS2機関だとわかっているとはいえ、あくまでも理論として理解しているにすぎない。到底、我々だけの手におえる代物じゃない」
 計測データは、既に光の巨人のS2機関が、大型原子炉並みのエネルギーを生み出していることを示している。残念ながら、博士たちには、何も打つ手が無かった。
 
 
 中央解析室へ戻ると、何やら様子がおかしかった。
「何をしている!!」
 そこでは、サングラスの男たちが、調査資料の梱包や、データの吸い上げを行っていた。博士たちは、慌てて止めに入ろうとしたが、六分儀ゲンドウがそれを遮った。
「これは、葛城博士。どうかなさいましたか」
「六分儀君、これは何のマネだ!」
「ご覧の通り、調査資料の回収をしているところです。すぐに終わりますので、しばらく席を外して頂けますか」
「馬鹿な! 今回の調査報告なら、昨日渡したじゃないか!」
「今回の、ではありません。我々の任務は、これまでの調査資料全ての回収です」
「な----」
「それに…」
六分儀は、窓から光の巨人を見下ろした。
「このままでは、どんな不測の事態が起きるかわかりません。むざむざ貴重な資料を失うわけにもいかんでしょう」
「しかし…」
「ご心配無く。何も、没収しようというのではありません。バックアップを取ったらお返ししますよ」
 
『何がバックアップだ』
 男たちは、手当たり次第に資料を梱包している。作業が終われば、ここが機能不全に陥ることは明らかだった。
 
 葛城博士は、これまでにも度々ベルリンの調査本部と対立することがあった。本部の、あまりにも強引なやり方に、憎悪さえ抱いていた。そして、そんなやり取りの間にも、何度かこの六分儀という男に会っていた。一見、現場担当者のように動くこの男が、実際には、相当な権力を持っているということも、十分思い知らされていた。
 
「これは、本部の決定ですので。あしからず」
「本部? ゼーレの間違いだろう」
 博士は、苦虫を噛み潰した。
 
 
 
■避難
 六分儀達は、次の作業場所へと向かい、出ていった。
 彼らが引き上げると、中央解析室はまるで引っ越し後の事務所のように荒れ果てた。ただ、そんな中でも、コンピューターや観測装置類は、機能し続けている。
「…諸君。計器の再確認を。巨人の観測を続けよう。…我々は、巨人の調査が任務だ」
 葛城博士は、そう自分に言い聞かせると、まだ生きている装置群の再確認を始めた。助手達もそれに従った。
 
「葛城博士…。奴等、何か隠してるんじゃないでしょうか?」
「連中はいつだって、何も明かしはしないよ」
「いえ、そうじゃありません。こんな事をするなんて…。何か、根拠があるんじゃないでしょうか。資料を引き上げなきゃならない根拠が」
 若い研究者は、不安な表情を浮かべながら続けた。
「奴等だって、こんな事をすれば、ここが使えなくなることぐらいわかるはずです。調査の支障をきたしてまでやるような行為でしょうか?」
「おいおい。ここは巨人調査の最前線だぞ。最新データはすべてここにある。データ解析についても、衛星回線を通じて、世界中のスーパーコンピューターを最優先で使用している。つまり、今やここは、世界最高の研究施設でもあるわけだ。ここでわからない事実を、どうして連中が掴めると言うんだ?」
「それは、そうですが…」
「大方、政治的な理由でも出来たんだろう。科学で世の中は動かんからな」
「はあ…」
 葛城博士は、窓の下の巨人を見た。
「だが、諸君の心配もわかる。…不測の事態に備え、それなりの備えはしておいてくれ」
「わかりました」
「そうだ…。博士のお嬢さんは、どうされますか? 万一のためにも、ここから避難させては?」
「ミサトか」
 葛城博士は、娘が来ていることをすっかり忘れていた。
「そうですよ、その方がいい。早速、臨時便を出せるよう手配します」
「そうか…。そうしてくれ」
『またやってしまったか…』
 葛城博士は、苦笑いした。
 
 
 
■最後の晩餐
「エ? 明日の早朝便?」
 その急な申し出に、夕食をとるミサトの手が止まった。
「ごめんね、ミサト。ちょっと困った事態が起きてね。総出でそっちの対応をしなきゃならないのよ。それに…」
「理由は別にいいよ。地下のお仕事の関係なんでしょ? 私もお仕事の邪魔はしないわ。それに、もう10日近くなるし。いいかげん帰らないと、お母さんにも怒られちゃう」
「ほんとにごめんなさいね…。一段落したら、またいらっしゃい。いつでも歓迎するわ」
 
 不意に、ミサト達のテーブルに、夕食のトレーを持った葛城博士が現れた。どうやら、最後の夜ぐらい一緒に食事を取ろうと思ったようだ。
「ここ…いいかな?」
「うん」
 博士は、ミサトの隣に座った。
「………すまなかったな」
「ううん。別に、気にしてないよ」
 父は、ちょっと淋しそうに笑った。何か話そうと思ったが、博士には娘と話す話題が見つからなかった。
「お仕事、がんばってね」
「ああ。…ありがとう」
 妙な緊張感の漂う夕食だった。だがこれが、ふたりの最後の晩餐となった。
 
 
 
■地下へ
「明日は、いよいよ日本か…」
 ミサトは、オーロラの見納めにとサンルームに現れた。
 そこには、もう誰もいなかった。おそらく、皆、自室へと戻ったのだろう。
 ミサトは、サンルームの中央に立つと、オーロラを見上げた。
 オーロラは、これまで見た中で最も美しい姿を見せていた。赤、ピンク、紫、青、白、黄色、黄緑。オーロラは、目まぐるしく色を変えながら、大きな渦を描いていた。それは、光のカーテンというよりは、台風の目を思わせた。
「……凄い…」
 
『…………、……………』
「なに?!!」
 
 ミサトは、目覚めたまま、夢の光の声を聞いた。
「オーロラ!? ………違う。下から!」
「何かが、私を呼んでる…」
 突然、ミサトは、その声の主に会いたい思いに駆られた。
「…あなた、誰なの?」
 正面を向くと、ガラス窓の向こうに地下区画に繋がるシャフト棟が見える。ミサトは、その建物をじっと見つめた。
 
「地下に、降りたいかね?」
 男は、ミサトの心を見透かすように尋ねた。
 ミサトは、ハッとなり、声の方へ振り向いた。
 そこには、六分儀ゲンドウと数人のサングラスをかけた男達が立っていた。彼らは皆、防寒服を着ていた。
 
 六分儀は、黙ってミサト用の防寒服を差し出した。
 ミサトは、恐る恐るその服を受け取った。
 
 * * * * *
 
 全ての資料が持ち去られたため、地下区画では十分な作業が出来なかった。そのため今夜は、ほとんどの職員が地上区画に帰っていた。中央解析室のメンバーも全員、地上に戻っていた。
 
 そのことは、葛城博士も例外ではなかった。それに、明日の朝には、娘を見送らねばならない。
 博士は、自室で、ベッドに入ろうとしていた。
 
「博士! 葛城博士!!」
 突然、助手の一人が、激しくドアを叩いた。
「どうした、こんな夜中に」
「巨人のエネルギー値が急上昇を初めています!」
「なに?」
 博士は、自室のパソコンに観測データを表示した。
「何だ、これは!」
「20分ほど前から、急にこうなりだしたようです。いったい…何が起きたのか…」
「とにかく、ここじゃ話にならん。君。スタッフを中央…」
 中央解析室は、まだ使える状態に無い。それに、今から地下に降りるのは、ハイリスクに思えた。
「そうだ。旧解析室を使おう。あそこなら、すぐに使えるだろう?」
「はい。1時間以内には」
「よし。直ちに作業にかかってくれ。私もすぐに行く」
 葛城博士は、そう言って助手を送り出すと、急いで服を着替え始めた。その間、博士は、巨人の様子が気になり、パソコン上に監視映像を呼び出した。映像が次々と切り変わり、様々な角度から巨人を映し出した。巨人の光度が、どうやら増しているようだ。
 着替えが終わり、旧解析室へ行こうとしたまさにその時、パソコン上に、数人の人影が現れた。
「!! ミサト!?!」
「バカな! なぜミサトがあそこに!」
 博士は、カメラを切り替え、ミサト達を追った。博士の目に、男達に守られるように先頭を歩くミサトの姿がはっきりと映った。ミサトのすぐ後ろには、あの男がいた。
「六分儀!!!」
 博士は、防寒服を掴み、いったん机の所に戻ると、引出から拳銃を取り出した。
『娘をどうする気だ?!!』
 葛城博士は、ミサト達を追って、単身地下区画へと急いだ。
 

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