TOP メニュー 目次

 phase12 ネルフ本部攻防戦
前へ 次へ

 
■想い
 人工進化研究所3号分室で、レイは自分というものに、一つの答えを得ることが出来た。
「おかあさん。……わたしの親である女。わたしを産んだ女。わたしを育てた女。使徒と同じにおいのする子供を生んだ人間。わたしの…おかあさん」
 おかあさん。その不意に浮かび上がった言葉に、レイは戸惑いを覚えた。だが、その言葉を口にする度に、熱いものがこみ上げてくる。
「前にも…こういうことがあった気がする……」
記憶のない三人目のレイには、それが二人目のレイの死の直前の感情であることなど、わかるはずもない。だがそれは、レイたちの中で確実に受け継がれ、少しずつ、しかし着実に、育っていった。
「心…、想い…、熱い想い………。心が…熱い………」
レイは、両手で胸を押さえ、その感情をしっかりと確かめた。
 
 レイは、自分の母親の顔をイメージすることを試みた。あるはずのない記憶の代わりに、レイはこみ上げてくる感情を、与えられた僅かばかりの知識を使って形にしようとした。
 だがもちろん、何度やってもその姿は現れてはこない。おぼろげに、気配を感じるくらいだった。
 そうこうするうちに、レイはこの部屋に感じるもう一人の感覚が気になりだした。レイは、その者に言葉を与えてみた。
「おとうさん…?」
その言葉は、レイの乏しい記憶の中から、碇ゲンドウの顔を導いてきた。だが、なぜかレイの心がそれを認めなかった。碇ゲンドウのイメージには、どうしてもその言葉が遠ざけられてしまうのだ。
 それは、ゲンドウの、一人目のレイに対する接し方のせいだった。
ゲンドウも当時は、その激務から、レイに接する時間が十分に取れなかった。そして、ユイを失った後は、ユイとの約束を果たすため心を鬼にし、レイを計画遂行の道具として扱うことにしたのだった。そして、幼いレイを、孤児・綾波レイとして扱い、自らも父ではなく所長として接したのだ。
 無論、三人目のレイはそんな事情を知る由もない。
「碇……司令…」
 レイは、複雑な想いを胸に、3号分室を後にした。
 
 そしてレイは、もう一つの気になる者のところへと向かった。
 
 
 
■オンナの勘
 ネルフ本部は、第1種警戒態勢をとり続けていた。
しかし実状は既に、その期待効果を満たせる状況にはなかった。現場の士気の低下は著しく、連日の警戒シフト勤務による疲労から、部署によっては、通常レベルの機能維持さえ怪しかった。
 第一発令所においては、潜在的に、更に深刻な状況が生まれていた。
 碇司令はゼーレとの会見に釘付けにされている。ネルフの頭脳と呼ばれる赤木博士は、未だに幽閉を解かれてはいない。作戦本部長である葛城ミサトとその副官にあたる日向マコトは、勤務シフトの関係から、待機状態に入ってしまい、本部の外にいる。そして、発令所に残された青葉や伊吹はもちろん、冬月副司令もまた、権謀術数に向くたちではない。
戦闘組織としてみた場合、今のネルフ本部は、最も危険な状態にあると言えた。
 
 だが、そんな状況下において、唯一精力的に活動する頼もしい存在があった。
 人格移植OSにおいて、そもそもオンナの勘などというものが存在しうるのかどうかはわからない。だが、赤木ナオコ博士のオンナとしての人格を移植されたマギ・カスパーだけが、この小康状態下において、臨戦態勢さながらに活動していた。
 カスパーは、余剰能力の実に9割以上を割いて、ネルフ本部施設及び周辺部の各種観測データを、一つ一つつぶさに検証していた。時折、メルキオールとバルタザールから、そのタスクが能力資源の浪費であると、即時中止の提訴を受けたが、カスパーはその警告を即決で破棄し、処理を続行した。
「何だか、胸騒ぎがするのよ」
もしもその時のやり取りを人間の会話に置き換えさせたら、カスパーはきっとこんなことを言ったに違いない。
 だが、残念ながら、そんなカスパーの不安は、オペレーターの伊吹までには伝わらなかった。
『…またジレンマ』
彼女は、時折起きる短い対立モードに気付いてはいたが、マギにはよくある事として意に介さなかったのだった。
 
 
 
■ママの想い出
 303病室を抜け出したアスカたちは、他の職員たちとの無用な接触を避けるため、大胆にも、緊急時用に用意されたVIP専用通路を使った。
この緊急通路は、ネルフVIPが、使徒襲来時など、セントラルドグマへいち早く出頭できるように特別に確保された館内交通システムであり、セントラルドグマ・ターミナルドグマ以外でマギの独占管理下に置かれた数少ない施設の一つであった。人付き合いに慎重なシンジと違い、集合時間に遅れそうなときなど、アスカはよくこの通路を利用していた。
 
 VIP専用通路に入る時、マギにちょっとした議論が起こった。メルキオールが、ヒカリがネルフVIPでないとの理由から、警告を発することを提案した。これに対しカスパーは、現警戒態勢下ではセカンド,サードチルドレンをいち早くセントラルドグマへ入れることが優先するとして、彼らの通行許可を主張した。そしてバルタザールは、いったん発言を留保し、データの検討を行った。そして、アスカには介助が必要なこと、ヒカリがエヴァ適格者候補であること、ヒカリの危険レベルが極めて低いことをあげ、VIPであるアスカ,シンジの判断を尊重し、監視のみ継続し通行を認める折衷案を提示した。この結果、三人の通過は、賛成1,条件付き賛成1,保留1で可決された。
 この程度のマギの判断処理は、人間から見れば認識できないほど一瞬のことである。アスカたちも、そんなマギの目があったことなど、気が付きもしなかった。
 
 そして、ましてや、躊躇無くこの通路を使ったアスカの判断が、間一髪のところで三人の命を救うことになったことなど、まったく知る由もなかった。
 
 アスカは、ヒカリとシンジの手を借り、修理の完了したエヴァ弐号機のところに着いた。
 作業が一段落したからだろうか。弐号機の周辺には、職員は誰もいなかった。
「…ホントに、私がこんなところまで入ってもいいの?」
ヒカリは、アスカに肩を貸しながら、不安げに聞いた。
「大丈夫よ。私が無理に連れてきてもらったんだから。見つかっても、私が謝れば済むことよ」
アスカは、ヒカリの心配を意に介する様子もなく告げた。
 
 三人は、アンビリカル・ブリッジを伝って、弐号機の顔の前に立った。
 シンジが初号機で付けた傷跡は、全く残っていなかった。弐号機の頭部は、新品同様にピカピカに磨き上げられている。シンジは、その様子を見てホッとした。
 弐号機の頭部横には、おそらく修理の最終チェックにでも使用されたのだろう、いくつのも装置が、頭部に取り付けられた足場と共に残されている。そしてその向こうには、エントリープラグが外された状態で固定されていた。
 そして、そのエントリープラグに、「D」の刻印がしてあることに、シンジたちは気が付かなかった。
 
 アスカは、二人の肩から腕を外すと、一人で弐号機の前に進み出た。
『………ママ、…ママ!』
無論、弐号機は答えてなどくれない。アスカは、幼い日の母との記憶を、思い出していた。そして、弐号機と共に過ごした日々のことも…。
 アスカの瞳からは、静かに涙があふれていた。
 
 
 
■『神』
 これまでの奇妙に和やかな雰囲気と変わり、ゼーレの面々の口調に、碇ゲンドウに対する明らかな敵意が感じられるようになってきた。
 
「君がまとめ上げた裏死海文書は、実に良く出来ていた。それだけに、我らもまた、君に対し、あまりにも過分に権限を与えすぎてきたようだ」
「左様。如何に優れようと、飼い犬は飼い犬。しつけを忘れるようではいかん。このことは、我らとしても大いに反省せねばなるまい」
 ゲンドウは、ゼーレのメンバーの会話に全く反応せず、黙って聞いていた。不思議なことに、キール・ローレンツもまた、そんなゲンドウをジッと観察するかのように、話をしなくなった。
 
「『神』は、死海文書(禁典)の予言により、人類に二つの道を示された。一つは、『神』の御心に委ねる道。そしてもう一つは、人として足掻く道。『神』が二つ目の道を残されたのは、人のあざとさを見越してのこと。それもまた、人の光と見てのことだ。だが我らは、その『神』すらあざむこうと思い立った。そして君は、そのすべを我らに示した。エヴァンゲリオン初号機という、偽りのリリスを生むことによってな」
「裏死海文書第四の計画・E計画遂行における君の手腕は、実に見事だった。本来、初号機の盾となり剣となるべきトリオのエヴァも弐号機1機のみという状況下で、実験機に過ぎん零号機を加えることだけで、見事、十五使徒すべての挑戦を退けた。これは賞賛に値する」
「だがそれもすべて、我らに忠実であればのこと。パイロットの分離に成功したとはいえ、我らのリリスに覚醒と解放を許し、しかも、本物のリリスを封じておくための切り札であるロンギヌスの槍までも失われてしまった」
「もし、初号機を失い、リリスが再び目覚めるようなことになれば、我らのシナリオは水泡に帰することになる。まさか貴様、今頃になって、すべてを『神』の手に返すつもりか。リリスが御し得ないことは、貴様が一番よくわかっているはずだ」
「今さらこの男が改心するわけがあるまい。死海文書(禁典)に挑むことへの欲求なら、我らをもしのぐ男だ」
「ならば、我らを出し抜き、貴様が神になるつもりか。人類補完計画を提唱した貴様だ。そのくらいは十分考えられる」
「だがそれでは、初号機を失いかけ、リリスの覚醒を助けるマネをすることの説明にはならん」
「マルドゥック計画により、『約束の子』の秘密を一手に牛耳って以来、この男は我らを出し抜く算段をしていたのだ。そして、我らを偽り、綾波レイとエヴァ零号機を用意した」
「では、零号機を貴様のリリスにでもするつもりだったのか?」
「それならば問題はあるまい。既に零号機は失われている」
 
『沈黙は金とはよく言ったものだ』
ゲンドウは、ゼーレのやり取りを聞いていて、おかしくなった。結局のところ、ゼーレはゲンドウのシナリオの正体を、まったく突き止められていないのだ。
 ゲンドウは、フッと嘲笑の笑みを浮かべかけた。が、それをゼーレの言葉がさえぎった。
 
「おかしいかね? 碇君」
嘲笑の響きを含むのは、むしろゼーレの方だった。
「我々には、君のシナリオなど、どうでもよいのだよ」
 
 
 
■アスカ抹殺命令
 303病室のベッドは空だった。
 アスカたちは、病院を抜け出す時に、毛布と換えのパジャマを使って簡単な細工をしておいた。病院区画から離れるだけの時間が稼げれば十分だったが、警備員の注意も散漫になっていたこともあり、今まで気付かれずにいたのだった。
 
 病室に踏み込んできた男たちには、まるで立つ瀬がなかった。男たちは、その『セカンドチルドレンは病室にいる』という情報に、まんまと引っかかってしまったのだ。
 サイレンサー付きの銃を手にした男たちは、障害となる者を排除しながら病院内の検索を行った。
しばらくして、ナースセンターにある映像記録を調べに向かった者たちが、走って戻ってきた。
「セカンドは、ここにはいない。どうやら少し前に、本部の方にいったようだ」
「なに? …いや、それなら手間が省けて好都合か……」
 襲撃部隊のリーダーは、次にとるべき行動を考えた。
「念のため、付近の捜索だ。作戦エリアにはC装備無しでは近付くなよ。管制室方面の部隊と突入班にも連絡しろ。何としてもセカンドチルドレンを殺せ!」
 
 事態は、動き出していた。
 
 
 
■フェイク
 病院まで襲撃を受けているというのに、発令所のメンバーは、まったく気が付いていなかった。モニター上には、事態の変化がまったく表示されないのだ。
 だがそんな発令所に、突然、警報が鳴り響いた。
「警告! 特例582発令。セントラルドグマ以下の施設は、10秒後に完全に物理閉鎖されます。10、9、8、…」
 
「何事だ!」
「わかりません。異常はまったく関知されないんですが…」
冬月は、青葉のモニターをのぞき込んだが、何の異常も表示されてはいない。
 特例582は、危機的状況下において人間の判断が出せない場合、マギに危機管理の全権が委譲され、人工知能の判断のみで事態に対処することを記した条項である。この条項の発令は、かなり特殊な状況にならない限り起こり得ないはずであった。過去には、第11使徒イロウルによって利用されたケースをのぞけば、発行されたことは一度もない。
「マギの全会一致の判断です。マギにも異常は認められません」
伊吹は、素早い指使いでデータの再チェックを行いながら叫んだ。
「閉鎖、完了します!」
「…3、2、1、」
ズズーーーーーン!!
その時、発令所に爆発音が伝わってきた。
「何だ!」
「第13ルートで爆発です。隔壁が破壊されました! 被害状況は…。何だこりゃ?! 隣接する上部階層では爆発が感知されません!」
「マギから警告です!! マギは、ドグマ以外の全観測データがフェイクだと回答しています!!!」
 
 その発見は、カスパーの努力のたまものだった。カスパーは、その「静かすぎる」状況に言い得ぬ不安を覚え、全力で調査した。そして、その静かな状況そのものに、奇妙な癖を発見したのだった。
 それは、普段なら完全に見過ごしてしまう非常にわずかな変化だった。二つの音が共鳴するかのように、送られてくる情報を解析するカスパーの処理に、奇妙なリズムが生まれたのだった。このことは、ただちにバルタザール、メルキオールに伝えられ、検討され、そして驚くべき結論を得た。
「我々は、マギシリーズによって創られた世界を見ている!!!」
 
「何て事だ! 全館に警報! マギの判断を全面的に受け入れる。ただちにマギに偽情報の識別表示を指示するんだ!」
冬月の命令が、伊吹によってマギに伝えられた。そのとたん、各モニターに映し出されている風景,施設内の様子,和やかな人々の動きの映像すべてに、真っ赤な FAKE の文字がスーパーインポーズされていった。
 
「第13ルートに武装部隊侵入! …やばい! 弐号機のところに向かっています!」
「マギより警告! 第7ケージの応答、ありません!」
「エヴァを押さえるつもりか!」
 
 ゼーレの準備は、周到だった。
 第14使徒ゼルエル戦の後、碇ゲンドウに不審を抱いたゼーレは、ゲンドウの造反を想定した場合の最優先事項として、エヴァ初号機を奪還する手段の準備に着手した。
ゼーレは、エヴァ初号機の活動凍結の期間を利用して、監査部に対し、ゲンドウたちに気付かれぬよう第7ケージに細工をすることを指示していた。
 そして、その保険が今、機能したのだった。
 
「ただちに応戦しろ! 何としてもエヴァを死守するんだ。 …そうだ、いかん! 子供たちはどうした?」
冬月の脳裏に、病室に残されたアスカの事が浮かんだ。だがマギは、吉報を持っていた。
「レイはターミナルドグマにいます。アスカは………。アスカは無事です! シンジくんと一緒に弐号機のところに」
「弐号機のところ?!」
「まずい!!」
 
 冬月たちは、完全に後手に回らされた。
 
 
 
■ネルフ解体
 ズーーーーーン!
 ゲンドウの座る席に、微かに振動が伝わってきた。
『?! 近い!』
この特別通信室は、セントラルドグマの奥にある。しかも、機密保持のために、厳重な防音構造が取られているのだ。ゲンドウは、爆発がセントラルドグマ付近で起きたことを悟った。
 
「どうやら始まったようだな」
「さすがはマギ・オリジナルと言ったところか。どうやら我らの策に気付いたようだな」
「だが、既に遅い。エヴァを失ったネルフなど、恐るるに足らん」
 
『冬月…』
碇ゲンドウの中に、不安がよぎった。
 
「碇君。委員会は、現時刻をもって、特務機関ネルフの解体を宣言する」
「そして、ネルフを私的占有・煽動した罪により、危険反動分子・碇ゲンドウ,冬月コウゾウ両名の処刑。ならびに、その他危険分子の識別不能により、ネルフ本部職員全員の抹殺を宣告する」
 
 
 
■四面楚歌
 セントラルドグマに動揺が走った。各種情報モニター、通信回線を通じて、全員の死刑宣告が伝えられたからだ。
 
 青葉と伊吹は、思わず冬月を見た。その表情には、明らかな迷いが生じていた。
「落ち着け! 敵は、人類補完委員会そのものだ。我らの敵はゼーレだ!」
 冬月には、彼らが自分を支持してくれるかどうか、まったく自信が無かった。
だが結果的に、冬月コウゾウの人となりが、彼らの支持を取り付けた。碇ゲンドウと違い、冬月には人徳があった。
そして、マギもまた、冬月支持を表明した。マギは、特例582を解除し、指揮権を冬月に委譲した。
 第一発令所のこの判断は、ただちに全館に通達された。そして、冬月支持の意向は、波紋のように職員全員に伝わっていった。みんなの命が冬月の双肩に預けられた。
 
 結果として委員会の宣告は、逆にネルフ本部職員の士気を高める結果となった。だが、その次の情報が、再び冬月たちを震撼させた。
 マギシリーズによる偽の外部情報が突然途切れ、代わりに本当の映像が飛び込んできた!
「イヤーーーーーーー!!!」
伊吹の絶叫が発令所にこだました。
 ドグマを除く本部上層階に、生きている者はいなかった。通路と言わず部屋と言わず、館内のすべてが死体の山だった。死体は皆、赤黒く醜く腫れ上がっていた。
「…ガスかっ!!!」
冬月の噛みしめた唇から、血が流れた。
 即効性のビラン性毒ガスが使われたのは明らかだった。
 
 いかにマギシリーズの工作があるにせよ、大部隊を発見されることなく本部に突入させるなど不可能だ。それに、最少人数による最大効果は、ゼーレの十八番である。
反乱部隊は、中央施設管制室を占拠し、ドグマを除く本部施設すべての主導権を手中にした。そして、空調システムに毒ガスを流し、一気に上層階の本部職員を抹殺したのだ。まさに、地下型施設最大の弱点を突いた攻撃だった。
 だがそんな中でも、唯一の例外があった。彼らは、工作の漏洩を避けるため、マギの直接管理下にある施設は、ガスの散布対象から外していたのである。そしてその幸運により、偶然にもVIP専用通路を使ったアスカたちは、無事セントラルドグマに戻ることが出来たのだった。
 
 冬月たちは、状況の挽回を計るべく、賢明に対処した。そしてそのためには、マギのサポートが欠かせなかった。
 だが今度は、そのマギが標的にされた。
「こいつは! マギがハッキングを受けています!!」
「ベルリン、マサチューセッツ、ハンブルク、北京! マギタイプによるハッキングです!!」
青葉も伊吹も、悲鳴に近い声を上げた。
 マギ・オリジナルは、4機のマギに対抗するだけで手一杯となってしまった。
 冬月は、幽閉している赤木博士のことを思いだした。しかし…。
『今さら、協力は得られまい…』
 
 冬月たちは、確実に追いつめられていった。
 
 
 
■パワーバランス
「いったい、何が起こってるの?」
 爆発音、警報、委員会の宣告。アスカたちは、急速に変化しつつある状況に戸惑っていた。そして、その恐怖の足音が三人の元へと迫ってきた。
「おい、見ろ! セカンドチルドレンがいるぞ!」
突然、完全武装した兵士たちが、アンビリカル・ブリッジにつながる入り口に現れた!
兵士たちは、アスカを狙い発砲してきた。
シンジたちは慌てて弐号機の陰に飛び込んだ。
「危ない!!」
「キャア!」
銃弾が、アスカをかばったヒカリの足をかすめた。傷そのものは軽かったが、三人は完全にそこから動くことが出来なくなった。
 
「おい、待て。発砲するな! サードもいるぞ!」
「サードは生きたまま確保しろ。他は殺せ!」
二人の兵士が、アスカたちの方へ突進してきた。だが!
 ガガガガガ・・・
「ギャーーーー!!」
作戦課の部隊が反対側の入り口を確保し、アンビリカル・ブリッジに突入してきた兵士を射殺した。突入した兵士たちは、真っ逆さまにブリッジから転落していった。
 アンビリカル・ブリッジは、渡ろうにも安全に身を隠せる遮蔽物がまったくない。今のところチルドレンたちは安全だが、救出することもまた、不可能だった。
「君たち、そこから出るんじゃないぞ!」
シンジは、弐号機の顔の脇にある機器類によって作られた狭い空間の一番奥にふたりを隠した。アスカは、病室から羽織ってきたガウンの裾を破り、ヒカリの傷の応急処置をした。
「アンタも、もっとこっちに来てなさいよ」
「いや、大丈夫だよ」
「ったく。無理しちゃって」
シンジは近くを見回したが、使えそうな物は何もない。
『いったい…どうしたら…』
小康状態になったかと一瞬安堵したシンジの視界に、新たな局面が飛び込んできた。弐号機を見下ろす位置にあるコントロール室に、兵士たちが乱入する様子が見えたのだった。
 
 * * * * *
 
 兵士たちに続き、技術者たちがコントロール室に乱入してきた。彼らは、計器類をチェックすると、手はず通りに作業を開始した。
「マギ・オリジナルとの接続を全面カット。松代のマギ2号を呼び出せ! ダミープラグを使う!」
 
 
 
■走れ!
 一方、加持の残してくれた道で第一発令所を目指していたミサトと日向は、セントラルドグマの直上階の位置まで辿り着いていた。
「…危なかったですね」
日向とミサトは、ドッと冷や汗をかいていた。
 
 ふたりがいる場所は、昔、建設計画の変更により工事途中で破棄された区画だった。そこからだと、セントラルドグマの入り口は、目と鼻の先である。本来なら動かないはずのドアパネルは、加持の細工により動かせるようになっていた。そしてそこへ日向の端末をつなぎ、内部の安全を確認し、まさに開けようとしたその時、突然内部の映像が死体の山へと変わったのだった。
 
「もし開けてたら、私たちもこうなってたところね」
ガスが使われたなら、セントラルドグマは物理閉鎖されているはずだ。当然、このルートは使えない。
「どうやらゼーレを甘く見ていたようね…。行くわよ! 発令所にはチョッチ遠回りだけど…」
ミサトは、さらに奥にある直接セントラルドグマへ侵入できるルートに向かって走った。そして、その出口が、あの場所に近いことを思い出した。
「こりゃ、応援を呼んだ方が良さそうね」
「え? 応援って?」
「あのブァカよ!」
ミサトは、リツコの所へ向かった!
 

前へ 次へ
 
TOP メニュー 目次
 
For the best creative work