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 phase17 絶望の行方
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■エヴァ量産機
 メインスクリーンは、ネルフ本部の上空を映し出している。焼けただれ、かろうじて空中に浮かんでいるセフィロトの使徒達の向こうに、白く巨大な翼を広げた9機のエヴァ量産機が映っていた。彼らは、まるで獲物を狙う猛禽のように、使徒の上空をゆっくりと円を描きながら滑空していた。
 
 量産機達は、体こそ初号機などと同様の形状をしていたが、その頭部は似ても似つかなかった。
外観は真っ白なトカゲのようにも見え、ニッと不気味な笑みを浮かべる真っ赤な唇が細長い顔に沿って大きく裂けている。目は無く、代わりに顔の中央に真っ赤な文字で機体番号を現すローマ数字が刻まれていた。そんな量産機の姿は、見る者に、ヌメヌメと蠢く寄生虫のようなおぞましさを与えた。
 
「バカな! ダミープラグは無いはずだ! 動くはずがない!!」
床に座り込んだまま、冬月はスクリーンに向かい叫んだ。だが、そこに映る量産機達は明らかに意志を持った行動を取っている。
サブスクリーンには、9体のセフィロトの使徒達の表示と対を成し、伍号機から拾参号機までの情報ウィンドウが開いた。パイロットの欄には、UNKNOWNと表示されていた。
 
 ミサトは、スクリーンを見つめ、うめいた。
「あのエヴァ達がセフィロトの使徒に取って代わるのだとしたら…。マズイ! 直ちに使徒の援護を!!」
「もう遅い!!!」
冬月は、メインスクリーンをにらみ付けながら叫んだ。
「あれは!?!」
日向は、量産機の1体を拡大投影した。その手には、漆黒に鈍く光る黒い槍が握られていた。
「ロンギヌスの槍?!」
「レプリカだ。あそこまで完成していたとは…。オリジナルには及ばなくとも、今の使徒相手なら十分通用するだろう」
冬月がそう告げた途端、円陣を組んでいた量産機達は、1機を残し急降下を開始した。
 
 N2弾道弾によるネルフ本部上部施設の全壊と、毒ガス攻撃による職員の抹殺、施設の封鎖により、発令所に残るミサトたちには、迎撃するための手段が何もなかった。唯一、エヴァを出撃させることだけが残されてはいたが、もはや間に合わないのは明らかだ。
 
 量産機達は、焼けただれ身動きもままならないセフィロトの使徒の目の前に舞い降りると、容赦なく攻撃を開始した。
エヴァ量産機の動きは、それほど俊敏というわけではない。どちらかと言えば、ほとんどの機体が、緩慢な動きに見えた。だがそんな量産機相手でも、今の傷ついた使徒達には何の抵抗も出来なかった。
 量産機達は、黒いロンギヌスの槍を長刀のように振り回し、純白の使徒達の体をズタズタに切り刻んでいった。傷跡からは、黄金色のL.C.Lが血のように噴き出し、滴った。8機のエヴァ量産機は、真っ赤な唇を広げ、ニヤニヤしながら使徒への攻撃を続けている。彼らは明らかに、その行為を楽しんでいた。
 8機のエヴァ量産機の内、拾参号機だけは、2体の使徒の相手をしていた。拾参号機の動きは、他の量産機に比べ、抜きんでていた。
 
 使徒達を散々嬲り物にすると、エヴァ拾参号機は槍を高々とかかげた。そして、それを合図に、量産機達は、セフィロトの使徒のコアを、漆黒の槍で貫いた。その途端、使徒達は、断末魔の叫びと共に、まるで針でつついた水風船のように一瞬にして弾け、L.C.Lの雨となって大地に降り注いだ。
 
 
 
■絶望の行方
「セフィロトの使徒……、9体、総て消滅…」
伊吹は、青ざめた表情で報告した。
「…これで、アダムの説得が、ますます難しくなったな」
加持は、ひきつった笑みを浮かべた。
「いったい、どうすれば…」
日向達は、不安な表情をミサトに向けた。だが、ミサトとて、その答えを持ち合わせてはいない。
 
「リリスを殺せ。そして、2機のエヴァも破壊するんだ」
虚ろな表情で床に座り込んでいる碇ゲンドウが、口を開いた。ミサトは、その発言に驚き、振り返った。
「既に人類のみらいには、一縷の望みも残っていない。せめて、ゼーレの野望だけでも阻止しろ」
「いや、待て、碇。今や、人類が生き抜ける可能性は、ゼーレのシナリオにしか残されていない。降伏すべきだ。…たとえ奴隷の身であろうとも、滅びるよりはマシだ」
そう反論する冬月の視線もまた、宙をさまよっていた。
『…もはや二人とも、哀れな敗残者でしかないんだわ』
ミサトは、ゲンドウと冬月を、沈痛な面持ちで見下した。
『でも、…どうすればいい?』
ミサトは、まだ諦めてはいない。だが、それが既に悪足掻きに近いことも重々承知していた。
『それでも、最後の最後の瞬間まで足掻き通してみせる。私は生まれつき、往生際が悪いのよ!』
ミサトは二人を見捨てると、再びスクリーンを見上げた。
 
 最後のセフィロトの使徒を倒すと、量産機達は、悠然と羽ばたきながら、1機、また1機と地上に舞い降りた。大地に立つと、巨大な翼は、背中にある二つの円形の突起に瞬時に格納された。最後に拾参号機が降り立ったとき、8機のエヴァ量産機は、ネルフ本部に向かい機体番号順に横一列に整列していた。量産機の足元では、加持のスイカ畑が、無惨に踏みにじられていた。
 量産機達は、両手でロンギヌスの槍を掲げると、左右4機ずつに分かれた。そして、一糸乱れぬ動きで二つの縦隊を作った。
「あれは!!」
ミサトたちが見守る中、2列に分かれた量産機の中央に、最後の1機が巨大な影を抱えながら、ゆっくりと舞い降りてきた。顔に6と刻まれたその量産機が手にしている物は、巨大な真紅の十字架だった。他の8機と別行動をとった六号機は、上空に待機する機体番号1と書かれた輸送機からそれを受領し、ゆっくりと降下して来たのだった。
「ゴルゴダの十字…。そうか…、そういうことか…」
冬月は、虚ろな表情でスクリーンを見つめると、そうつぶやいた。
「ゴルゴダの十字架? あれはまるで、ターミナルドグマでリリスを封印していた物と…」
ミサトは冬月を問いただした。
「そう。あれと同じ…、いや、遙かに強力な物だろう。ゼーレは、あれで、パイロットの魂を初号機ごと自由にするつもりだ」
 
 六号機は、巨大な十字架をゆっくりと地面に立てると、それを両手で支えた。量産機達は、槍を下ろすと、半壊したネルフ本部施設を真っ直ぐに見据えた。そしてその隊列から、エヴァンゲリオン拾参号機が、量産機を代表して前に進み出た。中央に立つと、拾参号機は、不気味にニヤリと笑った。
 
 
 
■最後の敵
 突然、マギに対し、エヴァ量産機たちの回線が開いた。
「量産機との回線接続! 機体情報、プラグ内映像、出ます!」
伊吹マヤがそう告げると、サブスクリーンに、拾弐号機までのパイロット情報とプラグ内の映像が映し出された。そしてそれを目にした瞬間、全員の血が凍った。
 
 そこに映し出されたのは、全裸の体をドス黒いベルトでギリギリと緊縛された少年少女の姿だった。髪の毛は丸坊主に刈られ、体中の至る所にチューブやケーブルが射し込まれている。目や耳、口の部分には、杭を思わせるグロテスクな器具が押し込まれ、その食い込んだ部分からは血が滲んでいる。
胸の呼吸の動きから、彼らがまだ生きていることは見て取れる。だが、それ以上の動きは無かった。…いや、動くことさえ出来ないのだろう。子供達の体は、その心さえも、既に完全にゼーレの道具にされていた。これは、子供達を部品にして作り上げられた、ゼーレのダミープラグなのだ。
そして、その犠牲となった少年少女達こそ、疎開したはずのシンジ達のクラスメート、第3新東京市立中学校2年A組の生徒達だった。
 
「…なんて酷いことをっ!!!」
怒りに震えるミサトの握り拳から血が流れた。
「イヤーーーーーー!!! 鈴原ーーーー!!!」
ミサトは、洞木ヒカリの絶叫にハッとなり、彼女の視線の先を見た。十字架を支えるエヴァンゲリオン六号機のパイロット欄には、「鈴原トウジ」と表示されていた。
 
 赤木リツコは、突然マヤのコンソールを奪うと、極秘の直轄回線を呼び出し、パスコードを入力した。モニターに、ガランとしたコアL.C.L安置室の映像が映し出された。
「無い!! コアL.C.Lが、一つも無い!!!」
 赤木博士の幽閉さえも、ゼーレの計算の内だったのだ。コアL.C.Lの管理を任されている赤木リツコを、わざとゲンドウに造反するように仕向けて送り返し、彼女の幽閉によりその管理が手薄になったところを利用して、まんまとコアL.C.Lを奪い去ったのだ。そして一方では、疎開しゲンドウ達の管理下を離れたチルドレンたちを追跡・監視し、この日のために密かに拉致していたのだった。
 リツコは、両の拳をコンソールに叩き付けた。散々利用された屈辱に、リツコの両肩がワナワナと震えていた。
 
 一同が、ゼーレの凶行に震撼させられたところで、最後に残った拾参号機の回線が接続した。
「よう、シンジ。そこにいるんだろ? 見ていてくれたかい?」
飛び込んできたその声と映像に、シンジは愕然とした。エヴァンゲリオン拾参号機のパイロットは、相田ケンスケだった。
 相田ケンスケだけは、口が自由に使えるようになっていた。目に食い込む器具も、グロテスクなゴーグル状の物に換わっている。だが、彼もまた、正気じゃないことは明らかだった。相田ケンスケは、シンジ達を惑わすためにあえて話が出来るように処置されているのだろう。その虚ろな表情からも、強力な洗脳処理を受けていることは明らかだった。
 
「ボクもとうとうエヴァのパイロットになれたんだぜ。サイコーの気分さ! アハハハハハハハハ-----」
「ケンスケ……!!」
シンジの拳が、ゼーレへの怒りで震えていた。
「ボクの操縦も、大したもんだろ? もう邪魔な使徒達は全部やっつけた。あとは一緒にアダムを迎えるだけさ。----見ろよ、シンジ」
拾参号機が、鈴原トウジの持つ血の色の十字架を指さした。
「シンジのために、立派な指定席も用意したんだぜ。初号機ごとあそこに張り付けになれば、最後の審判の準備は整う。我が人類の補完…、積年の願いは完結する!!」
ケンスケの言葉の最後に、キール・ローレンツの声が重なった。
 
「キール議長!! …いるな、あそこに」
加持リョウジは、スクリーンに映るゴルゴダの十字架をにらみ付けた。
 
 
 
■決意
「出て来いよ、シンジ〜。早くしないと本部ごと潰しちまうぜ。…そうそう、惣流と綾波は大人しくしてろよ。出てきたら、槍で一突きだ。もっとも、出てこなくても結局殺しちゃうけどさ。アハハハハハハ!」
ケンスケの狂気に満ちた笑い声が、発令所を包んだ。
 
 ミサトは苦しい決断を迫られた。
『リリスと初号機はともかく、弐号機はケーブル付き。対する向こうは全機S2機関搭載の最新型で、オマケにロンギヌスの槍まで持っている。いいとこ、戦力比は3:9…。それに向こうのパイロットはシンジくん達の友達で、コアはその母親ときてる。これじゃぁ、人質と戦うのと同じじゃない。いったい、どうやって戦えっていうの………』
さすがにミサトも、心が挫けそうになった。だが、その時。
 
 碇シンジは、ゆっくりと顔を上げた。シンジは、ふと、加持を見た。加持リョウジもまた、シンジの目を真っ直ぐに見、そして静かに小さくうなずいた。
シンジは、ケージの方に向かってゆっくりと歩き始めた。アスカとレイも、真っ直ぐにシンジを見ていた。そして二人は、何も言わずにシンジの隣に並び、同行した。
ミサトは、発令所を後にしようとする子供たちに驚き、思わず呼び止めた。
「シンジくん?!!」
ミサトの呼びかけに、三人は立ち止まり、そして振り向いた。三人の瞳には、静かな決意がみなぎっていた。
「行って来るよ、ミサトさん。……このままじゃ、みんな殺される。でも、ゼーレの言いなりになんてならない。トウジも、ケンスケも、みんな助ける。………どうすればいいのかはわからないけど…、きっとみんなを助ける!」
「心配しないで、ミサト。アタシ達がエヴァ操縦のプロだってことを、連中に教えてやるわ」
「…出撃命令を」
シンジ。アスカ。レイ。三人の心は、既に決まっていた。
三人の胸に、力強く、真紅の輝きが灯った。
 
「マインドコアが…三人とも…?!」
「これは…いったい……?」
ミサトは、思わず体が震えるのを感じた。
 
 赤木リツコの目にも、三人の子供達がまぶしく映っていた。
『子供達でさえ、自分のやるべきことを理解し、前に進もうとしているというのに…。それに引き替え、私と来たら………』
「ホント…、無様ね」
リツコは、自分を笑い、そして立ち上がった。
 
「エントリープラグよ」
「リツコ?」
ミサトは、思わず赤木リツコの方を振り返った。
赤木博士は、真っ直ぐにシンジ達を見つめると、言葉を続けた。もはや彼女の精神状態は、正常な状態に回復していた。
「あの子達の母親のことなら心配いらないわ。コアL.C.Lと言っても、エヴァに物理的に組み込まれているわけではないの。母親達の魂は、人格移植技術を使って、コアL.C.Lからエヴァのコアに移されているのよ。つまり、今、彼らの母親達にとっての体は、コアL.C.L本体と、エヴァのコアの二つが存在している」
「それじゃあ、エントリープラグさえ無事なら、たとえ量産機を破壊しても?!」
「そういうこと。量産機が倒されれば、母親達の魂は元のコアL.C.Lへと還っていく。このことは、参号機の事件で既に実証済みよ。そして、機体の損壊によるフィードバックは避けられないとしても、エントリープラグそのものが無事なら…、あの子達は必ず助けるわ。私の命に代えても」
ミサトは、思わずリツコに抱きついた。
「ありがとう、リツコ!!」
「その言葉は、まだ早いわよ。問題は、あのエヴァ達を倒せるかどうか…」
赤木博士は、まっすぐに子供達を見た。彼女の心を受け取り、シンジ達の決意は、更に強固なものとなった。
『まだ可能性はある!!』
ミサトは、そう確信した。
 ミサトは、リツコから離れると、発令所の中央に立ち、全スタッフに対し命令した。
 
「発進準備!!」
 
 
 
■最後の出撃
 ドグマに残された全スタッフは、全身全霊をこの作業に注ぎ込んだ。
「重火器は使えないわよ。装備は格闘戦を主体とした近接戦闘装備! 日向君。弐号機の予備のケーブルの手配は?」
「予想戦闘エリア内で生き残っている予備は3つ。ですが、状況から判断して、ケーブルが切断された場合、再接続出来る可能性は極めて低いものと思われます。新型の予備バッテリーに期待するしか有りません」
「あとはアスカの腕次第か…。青葉君。射出ルートの確保は?」
「3番、4番、7番が有効です。上部フロアからの妨害工作、認められません」
 
 一方、ケージでは、初号機たちの換装作業が急ピッチで進められていた。
リリスは、形状こそ零号機とそっくりだが、両肩のパイロンに装備をマウントするわけにもいかなかった。そのため、リリスには携帯武装として長刀が用意された。初号機は、左右のパイロンに、太刀と脇差しが取り付けられた。そして、弐号機は、パイロンに大容量小型軽量化された予備バッテリーを装備し、右腕にはソードブレイカー、左腕には細身のプログナイフ、そして両手にはバーストナックルがはめられた。
 
 各ケージへ、真新しいプラグスーツに身を包んだ子供達が到着した。シンジとアスカは、エントリープラグへ搭乗、レイはリリスの前に設置されたアンビリカルブリッジの中央に立った。
 
 日向達は、いつも通り、慣れた手つきでエヴァの発進作業をこなしていく。
「プラグ固定完了」
「第一次接続開始。L.C.L注水」
「主電源全回路接続。起動用システム作動」
「第二次接続開始」
「A10神経接続。全回路正常」
「第三次接続開始」
「チェック2580までリストクリア。絶対境界線突破します」
「ハーモニクス正常。シンクロ率…」
一瞬、伊吹はギクリとし、プラグ内映像に映るアスカとシンジを見た。二人とも静かに発進準備が整うのを待っていた。
「シンクロ率、120%。起動正常。発進準備よろし!」
「了解!」
ミサトは、大きくうなずくと、直ちに発進体制に移らせた。
「全機、射出口へ!」
 
 ミサトたちが出撃準備を急ピッチで進める傍ら、加持リョウジは、ミサトから少し離れて、小型の通信機を使い、どこかと何やら話をしていた。
 
 シンジは、プラグ内の最終確認を済ますと、静かに目を閉じた。シンジは、目の前に母の存在を感じ取った。
『………………………行こう、お母さん!』
 
 アスカもまた、静かに目を閉じ、プラグ内で母の存在を感じていた。
『ママ…、ゴメンナサイ。いつもそこにいてくれてたのね………。ワタシは、もう迷わない。エヴァンゲリオン弐号機パイロット、惣流・アスカ・ラングレーとして、ベストを尽くします』
アスカは、母が微笑んでいるのを感じた。
 
 レイは、ゆっくりと辺りを見渡した。そこには、レイの思い出と呼べる物は、何一つ無い。だがレイには、ここに自分の居場所があることを感じ、その思いを噛みしめていた。
『ここには、ワタシのいる場所がある。ここには、ワタシを迎えてくれる人たちがいる。そして、ワタシ、ここに、いる』
レイは、大切な最初の友だちを見上げ、微笑んだ。
「…行きましょう」
アンビリカルブリッジが、ゆっくりと動き始めた。レイは、そこから一歩踏み出すと、リリスのコアの前までゆっくりと降下した。そして、コアに背を向けて立つと、そのまま背中からリリスのコアの中へと沈んでいった。レイが中に完全に消えると、コアが一瞬激しく輝いた。
 リリスとレイが一体化すると、リリスからマギにテレパシーのような通信コンタクトが始まった。マギは直ちにその情報を解析し、映像情報へと変換した。映像には、若干不鮮明だが、レイの姿が現れた。それは、レイの状態を知らせるイメージだった。レイ=リリスは、みんなとのコンタクトのために、そのイメージを送り始めたのだった。
マギは、それをリリスのパイロット情報として表示した。エントリープラグ内で発進を待つシンジ、アスカと共に、レイの映像も並べられた。
 
 やれることは総てやった。ドグマに残されたネルフ本部全職員は、射出口へと移動する3体の戦機に思いの総てを託し、見送った。
「発進準備、完了しました」
ミサトは、日向からマイクを受け取った。
「------シンジくん。アスカ。レイ。…これが最後の出撃よ。人類の未来総てを、あなた達に預けます。………思う存分、暴れてきなさい!」
「発進!!」
 
 3体の戦機は、囚われる友の待つ戦場に向けて、一斉に飛び立った。
 
 
 
■援軍
 リリス、初号機、弐号機の三体は、ネルフ本部正面に出現した。シンジ達は、ケンスケ達と向かい合う格好になった。
「やっと出てきたね、シンジ。…あれ〜? 何だい、その格好は? オマケに惣流や綾波も…。まさか僕たちに抵抗出来るなんて思ってる? クックックッ…。身の程を知らないんだなぁ〜」
「ケンスケ………」
シンジは、そんなケンスケを見て、苦悶の表情を浮かべた。
 
「始まるわね…」
もはやミサトたちには、モニター越しにシンジ達を応援することぐらいしか出来ない。いらついた表情を見せるミサトは、何やら通信機で会話を続けている加持に気付くと、毒づいた。
「ちょっと…、こんな時に何やってんの!」
「エ? ああ、いや………。微力ながら、加勢しようと思ってね」
加持は、親指でスクリーンの方を示した。
「エ?」
 
 天井部分の消滅により、ジオフロントは今やクレーター状の地形と化していた。そしてその周囲を取り囲む斜面の上部に、一つ、また一つと、巨大な影が現れた。
それらは、どれもエヴァほどの大きさを持っていた。エヴァ量産機を背後から半包囲する形に出現したその影は、全部で十三体にのぼった。だが、その姿は、どれ一つとして同じ物は無い。甲冑に身を包んだ重装備の騎士を思わせるもの、細身のピエロのようなもの、6本足の昆虫のようなものや、背中に6機のジェットエンジンを付けた恐竜を思わせるシルエットのものもいる。
「あれは、いったい…?」
その形状には統一感が全く無かったが、どの機体にも同じ言葉と機体ナンバーが記されていた。日向は、その言葉の部分を拡大投影した。
『 Jam Angels 』(使徒どもをぶっ潰せ!)
「JA!?!」
「JAプロジェクトの本体さ。我々のプロジェクト妨害工作扇動に、ネルフもゼーレもうまく乗ってくれたからね。あの時の機体はデータ収集用のテスト機、つまり零番機だったんだ。完成披露会の頃には、とっくに実験データは収集済み。つまり、既にお払い箱の機体だったのさ。碇司令が妨害工作成功に満足してくれたおかげで、JAプロジェクトの本体部分は、うまく隠し通すことが出来たわけだ。……これなら3対9よりはマシになるだろ」
冬月は、十三体のJAを一瞥すると、フッと笑った。
「よくやる…。エヴァには通常兵器は効かんのだぞ」
「もちろん、対策は考えてますよ」
スクリーンに新たな動きが現れた。十三体のJAの間から、巨大なパラボラを積んだ装甲トレーラーが次々と現れた。
「ATフィールド中和装置。…残念ながら、まだ完成はしてませんが、効果は期待できるでしょう。あの披露記念会の時に、司会がうっかりATフィールドのことまで口を滑らした時には、余計な注意を引いたんじゃないかとヒヤヒヤしましたがね」
結局、あの時ミサトは、二重三重に用意された舞台の真ん真ん中で、一人でピエロを演じてしまったのだ。
ミサトは、加持の行為を嬉しく思いつつも、彼の足を思い切り踏ん付けた。
「イテッ------!!」
 
 JAシリーズ及びATフィールド中和部隊の展開が完了しようとしている。エヴァ量産機達は、今や一転して包囲される立場になっていた。
『これなら、互角の戦いが出来るかもしれない!』
ミサトたちは、スクリーンに集中した。
 
 ついに、運命の一戦が始まった。
 

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