翌朝早く、ヴォイスが畑の手伝いから家に戻ると、サガの姿が無かった。盾と片手剣も無い。母親の腕の傍らに、1枚のメモが残されていた。指からは金の指輪が無くなっている。
『塔を調べに行ってくる。すまないが指輪を借りた。夕食までには戻る。 サガ』
昨日の今日だ。ナツキは同行していないだろう。指輪をどうするつもりかは知らないが、一人で塔を登るとも考えにくい。見回すと、道具棚から携帯用ピッケルが無くなっていた。ついでに採掘でもしてくるらしい。ヴォイスが呆れた笑みを浮かべ溜息を吐くと、戸口からナツキが入ってきた。
「ヴォイス、いる?」
甲冑で完全武装しているが、愛用のライトボウガンを下げていない。ヴォイスは軽く挨拶すると、メモをナツキに見せた。指輪をどうするつもりかは、ナツキにも見当が付かなかった。
「そう言えば、指輪に刻まれた金の紋章については、話を聞いて無かったわね」
ナツキの疑問に、ヴォイスはフッと笑った。
「聞くまでも無いだろう。過去を知るために、サガより先に塔を目指した人間だぞ?」
「……大帝の子孫」
ヴォイスは少し肩をすくめて同意した。真実を知りたいのは、大帝の子孫も同様だろう。大帝の血族ならば、村長がわざわざリリルを守れとヴォイスに命じた理由も合点がいく。もっとも村長は、近衛衆の使命としてヴォイスに命じた訳では無いだろう。むしろリリルを過去の因果から解き放つため、ヴォイスに守れと命じたのだ。
「サガがいないなら丁度いいわ。ヴォイス、ひと狩り付き合ってくれない?」
ナツキが真剣な表情でヴォイスに告げた。只の狩りでは無いようだ。
「昨日はしゃくなんで話さなかったけど、サガが言ってた事は本当よ。悔しいけど、あたしはまだ、この武器を使いこなせていない。あんたにアドバイスして欲しいのよ」
ナツキは腰に巻かれたローズレッドのベルトを外すと、右手で柄(つか)の部分を握り左手で伸ばした。1メートルほどの棒状になる。
「こいつは閃刀鞭(せんとうべん)って言ってね。マリーベル村に残された帝国の武器さ。村を去る時、オヤジに貰ったんだ」
柄の部分に、一輪の白薔薇と黒のクロスの紋章が描かれている。ヴォイスは頷くと、狩りの準備を始めた。ナツキは火竜を狩ることを告げた。
「リオレウスか……少し遠いが、火山の方が見つけやすいな。ひ弱な若い奴は少ないし、俺の斬馬刀は当てには出来んぞ。それでもいいか?」
ヴォイスは少し挑発的に微笑んだ。ナツキが頷くと、ふたりは火山用の装備を調え、ナザルガザル村を出発した。
「やはり、この気配は慣れないな」
再び古代の塔を訪れたサガは、基部第一層ホールの天井を見上げて呟いた。ひとりで頂上を目指すことは不可能だ。だが、塔の基部においても調べておくべき場所がある。リリルと母親は、本当に塔まで辿り着けなかったのか。そして、いずれヴォイスを説得し塔へ登るために、手に入れておきたい物もある。サガはホールの奥にある出口から、更に基部を分け入った。採掘が出来そうな場所を探す。携帯用のピッケルを取り出し、一万年前の遺物を探す。ドグライト鉱石、ユニオン鉱石、かつて帝国で用いられていたレアメタルが再結晶化し、握りこぶし大の塊となって掘り出される。
「これじゃない。塔は軍事拠点だったんだ。帝国時代の武器が掘り出せれば……おや?」
サガは大きなさびた塊を掘り当てた。慎重に岩を剥がす。どうやら剣のようだ。
「やったぞ! 何とかこいつを鍛え直せば、ヴォイスの斬馬刀よりは威力が出せるはずだ!」
サガはさびた塊を大切に担ぐと、更に基部の中心を目指した。
第三層まで上がり、大きな吹き抜けの場所へ辿り着いた。塔の基部、螺旋回廊の最下層だ。今までにも増して強い殺気がのし掛かる。サガは円筒形の空間の中央に立った。壁面には、頂上を目指し螺旋状に長い回廊が延びている。吹き抜けの上部は暗くてよく分からない。塔は外壁と内壁の二重構造になっている。二重の筒の隙間には所々部屋が作られ、外壁から伸びる翼塔などに繋がっている。内壁の内側に付けられた螺旋回廊。それはむしろ本来は補助的に使われた施設だ。サガは、かつてここがどのように使われていたのかを知っている。感慨に全身が震える。
「着いたぞ……エレベーターホールだ!」
朽ち果てた遺跡に、動きそうな物は無い。サガは緊張した面持ちで、ポケットから金の指輪を取り出した。指輪でゆっくりと周囲を指し示す。だが、何も起きない。最後に天井を指し示す。
「やはり駄目か。機能は完全に死んでいる」
帝国の時代、ここには光る床があり、人々はその床に乗って塔の頂上と行き来したという。だが今や、その機能は完全に失われていた。塔の頂上を目指すには、本来は非常用に作られた長い螺旋回廊を登るしかない。
「やはり、ふたりはここまで辿り着いていなかったのか。この殺気の中、リリルを連れて螺旋回廊を登るのは難しいだろう。仮に登れたとしても、あの子ひとりで樹海まで逃げ延びるなんて到底無理だ」
いったい何があったのか、リリルから聞き出せれば話は早い。だが、ヴォイスやオカワリでさえ、それを聞き出すことは出来ていない。サガは指輪を大切にしまうと、ゆっくりとエレベーターホールを後にしようとした。その時、ふと足に何かが絡みついた。だが足下には何も無い。布のような感触だけが、左脚にまとわりついている。
「まさか!」
サガはしゃがむと、見えない布を掴んだ。手で縁をたぐり、裏返す。表が見えない大きな布が現れた。
「これは大帝の秘宝『神隠しの羽衣』!」
それはかつて大図が古龍オオナズチを研究し大帝へ献上した、姿が見えなくなる布だった。
「やはり彼女たちは、ここまで辿り着いていたんだ!」
サガは神隠しの羽衣を上着の隠しポケットに大切にしまうと、改めてエレベーターホールを隅々まで隈無く調べた。
「間違いない! ふたりはここまで来ている!」
必死に辺りを調べる。だが、やはり動く物の形跡は見つけられなかった。サガは改めて吹き抜けを見上げた。
「こんな所に羽衣が落ちてた……頂上から落ちてきたのか?」
頭脳をフル回転させる。神隠しの羽衣さえ有れば、モンスターに気付かれることなくリリルひとりで逃げ延びることも出来る。だが羽衣はここにあり、リリルは樹海で発見された。サガは最後の可能性に辿り着いた。
「まさか、そんな事が……いいや、ダメだ。第一ヴォイスが賛成するはずが無い!」
サガは大きく頭を振った。ここでリリルと母親に何かが起きた。頂上には何かが待っている。ここが自分の旅の終着点となる。サガはその事を確信した。
ヴォイスとナツキは火山地帯へ足を踏み入れた。今と違い、ハンターズギルドも無いこの時代、ベースキャンプのような安全な場所も無い。貧弱な装備に過酷な環境、そして無尽に蠢くモンスター。多種多様な武器やハンターズギルドの支援が充実した現代とは比べものにならない過酷なフィールドが広がっている。ふたりは灼熱地帯の外れにある狭い広場のような場所に出た。硬い皮膚を持つサイのような小型の草食竜リノプロスが3頭、地表の苔をこそぎ取るように食べている。
「さて。リオレウスを探す前に、君の武器を見ておきたい」
ヴォイスに促されると、ナツキは一歩前に進み出て腰に巻いた閃刀鞭を外し棒状に伸ばした。ナツキは獲物の方を見ながらヴォイスに告げた。
「ぶつからないように注意してね」
ナツキは更に数歩前に出ると、ローズレッドの棒を地面に向けて振り下ろした。柄を除く部分がスライドするように薄膜状に伸び、鋭利な刃を持った鞭へと変わった。リノプロスがナツキに気付き、敵意を剥き出しにノシノシと近付いてくる。距離約10メートル。リノプロスが突進しようとした瞬間、ナツキは半身に構え大きく振りかぶり、閃刀鞭を飛ばした。手前の2頭の間に閃刀鞭が燕のように飛翔し、左の奴の側面を切り裂く。ナツキは素早く手首を返し、そのまま右のリノプロスも切り裂いた。瀕死の重傷を負った2頭は、たまらずその場で膝を折り藻掻いた。ナツキは再び閃刀鞭を振りかぶり、2頭まとめて袈裟斬りにしてとどめを刺した。
ヴォイスは始めて見る閃刀鞭の特徴を正確に見切っていた。帝国の武器だけあり、威力は斬馬刀やナツキのボウガンとは桁違いだ。間合いはボウガンより短いが、常に最適な距離を維持して狙撃するナツキの狩猟スタイルには丁度良い。十分に鞭を振る為に、盾を持つ事は難しい。防御に不安が残るのは、やむを得ないだろう。
残る1頭がナツキに突進する。難なく躱しリノプロスの方へ向き直ると、力を貯めるように前傾姿勢を取った。閃刀鞭を後方へ引き戻し、伸びきった瞬間に思い切りリノプロス目掛け振り切った。閃刀鞭が超長射程の槍のようにリノプロスの体を貫通し、引き戻しの斬撃で真っ二つになった。
『こいつは凄いな・・・だが・・・』
ヴォイスは閃刀鞭の威力に驚くと共に、重大な欠点も見抜いていた。
「さて。それじゃ、リオレウスを探しに行くか」
ヴォイスとナツキは、火山地帯の巡回を開始した。
早々に目的を果たしたサガは、塔を離れ峡谷の抜け道を急いだ。戻ってさびた塊を鍛え直す方法を探さねばならない。出口を飛び降り樹海に足を踏み入れる。そこに、運悪く偶然にも傭兵達の集団が鉢合わせした。七、八人いる傭兵達がサガの行く手を遮る。中央から、黒衣の男がゆっくりとサガに近付いて来た。
「おや。こんな所で奇遇ですな、先生」
サガはあからさまにしまったという顔をした。男は黒いフードを深々と被り、顔はよく見えない。竜人族特有の長い耳が微かに見える。身長が二メートル近くもある大男だ。どう見ても振り切れる状況では無い。
男はサガの前に立つと、漆黒のマントをはだいた。甲冑の胸に、銀のクロスの紋章が光っている。
「大図の末裔が、こんな所で散歩でもあるまい」
サガは男達から逃れる方策を必死に考えた。男はサガが出てきた峡谷を見上げた。
「なるほど。こんな所に塔への抜け道があったとは。案内して戴けますかな、先生」
「今日の調査は終わったところでね。ここを抜ければ塔は直ぐそこだ。どうぞ、ご自由に」
サガは一行をやり過ごそうとした。
「近衛の村に戻るのかな? 昼食にはまだ早かろう」
男はすれ違おうとするサガから背負っている錆びた大剣を奪った。
「先生が使うには重すぎないかね。それとも、こいつで加勢を頼まねばならぬモンスターが、塔には待っているのかな?」
見抜かれている。さすがは銀の紋章を継ぐ者、大連の子孫だ。サガは緊張した面もちで言葉を探した。黒衣の男はサガの肩を掴むと、ニヤニヤしながら話し掛けた。
「先生。わたしと組め。近衛の連中は協力してくれんのだろう?」
黒衣の男は右手のドラゴンフィストを装着して見せた。サガは男と傭兵達を見回した。傭兵達は大した戦力にはならないが、男の武器は帝国時代の物だ。漆黒のマントも、大連に伝わる『常闇の帳(とこやみのとばり)』だ。リオレウスの火球だろうと物ともしない。サガは、警戒しながら男に尋ねた。
「君はなぜ帝都を探す?」
男は一瞬怪訝な顔をすると、ゆっくりと語り始めた。
「お前も諸国を旅してきたなら分かっておろう。既に帝国の威光は無い。運良く生き残った辺境の木っ端役人どもは、不埒にも王家や貴族を名乗り、数多の小国や都市国家を作っている。既に大帝家に力は無い。大連が帝国の記憶を引き継ぎ、この醜い世界を再び束ねるのだ。先生もそれを望むだろう?」
「ボクはそんな事には興味は無いね。この世界は、生き残った人々が新たな時代を作ればいい。ボクが知りたいのは、このモンスターだらけの世界を終わらせる方法だけさ」
サガの言葉に、男はフッと笑った。
「まあいい。醜いモンスターどもを一掃する点では、我らは同士だ」
サガは考えた。ナザルガザル村の村長は、協力してはくれないだろう。村唯一の狩人であるヴォイスも、村長に背くとは思えない。ナツキについても同様だ。
「ひとつ、条件がある」
サガは真剣な表情で黒衣の男を見た。
溶岩の川の脇を警戒しながら進む。凄まじい熱気と共に光り輝く地形。今まで意識したことは無かったが、溶岩にまみれた光景は、確かに街の跡に見える。こんな火山の真ん中に街を作るはずが無い。かつてここは気候穏やかな場所で、人々の声が溢れていたのだ。森羅がそこに火山を作り、溶岩の海に沈めた。容易には信じがたい現実に、ヴォイスは怒りと畏怖を覚えた。
「ヴォイス!」
ナツキが急に右手の岩山を指差した。飛竜の影が岩肌をよぎる。だが、一瞬の出来事で、種類までは判別できなかった。ナツキは影の消え去った方角へと走り出した。
「待て、ナツキ!」
ヴォイスはナツキの後を追った。首の後ろがチリチリする。ヴォイスの勘が強敵であることを告げている。この過酷な環境を縄張りとするモンスターは、強力な奴ばかりだ。正体も確かめず、迂闊に挑むのは死を意味する。ナツキが岩のアーチの奥へと消える。
「あのオテンバが!」
ヴォイスもアーチの向こうへと飛び込んでいった。
『いる!』
噴煙で空はよく見えない。右手に岩山、左手に溶岩の海。薄日と赤い照り返しが広場を熱く照らしている。ナツキは中央に立ち、降下する飛竜に身構えている。羽ばたきが聞こえない。足の細いリオレウスは、羽ばたきゆっくりと降下する。噴煙を突き抜け、巨大な飛竜が落下した。地響きを立て、ナツキの目の前に着地する。大きく発達した顎、どす黒い皮膚に縞模様。
「何こいつ?! リオレウスじゃない!」
「いかん! 黒轟竜だ!」
後にハンターの間でティガレックスの名で知られる凶暴な飛竜、その亜種だ。ヴォイスの斬馬刀では、まともにやり合う事が難しい相手だ。如何にナツキの閃刀鞭が帝国時代の武器でも、初見で相手をするには分が悪い。しかもヴォイスの見る限り、閃刀鞭では不利な相手だ。
「まあいいわ。こいつの方が、いい素材が取れそうじゃない!」
ナツキは閃刀鞭を構え、一撃を加えた。黒轟竜がふたりに気付き、雄叫びを上げる。
「チィ!」
ヴォイスは斬馬刀に手を掛けると、ナツキの援護のために突入した。
「気を付けろ! 前足が発達した分、こいつの突進は鋭いぞ!」
黒轟竜が雄叫びを上げながらふたりに向かい突進する。前足をバタつかせるその動きは、飛竜種でありながら攻撃範囲が広い。ヴォイスとナツキは、素早く左右に分かれ回転回避した。ナツキは起きあがると同時に振り向きざま閃刀鞭を放った。鋭い切っ先で奴の後ろ足から背中に向けて切り上げる。だが奴は怯むこと無く滑りながら向きを変え、再びナツキに向かい突進した。ナツキも慌てて回避したが、僅かに前足に接触した。衝撃でナツキの体が吹っ飛ばされる。ナツキは崖を背にする位置に追いつめられた。ヴォイスは黒轟竜の停止位置に飛び込み、振り向く頭に合わせ一撃を加えた。奴の注意がヴォイスに向き、その隙にナツキは体勢を立て直した。黒轟竜が再びナツキに狙いを定める。背後は崖で閃刀鞭を大きく振ることは出来ない。ナツキは頭上に輪を描くように閃刀鞭を振り、牽制の斬撃を繰り出しながら右手に回り込み回避した。
「流石だ」
ヴォイスはナツキの的確な反応に改めて感心した。閃刀鞭は性質上周囲に広いスペースを必要とする。自分の立ち位置を瞬時に把握できないようでは扱うことすら出来ない。正にベテラン限定の武器だ。だがそれでも、致命的な欠点だけは補いようがない。ここは撤退すべきだ。ヴォイスはナツキを連れて脱出するチャンスを探した。
ナツキの長射程の斬撃が黒轟竜を襲う。一瞬怯んだ後、ナツキ目掛けて突進した。やり過ごし短い斬撃で反撃しようとしたまさにその瞬間、突然黒轟竜は急停止し、ナツキに向かい大咆哮を放った。巨大な肺活量から繰り出される咆哮は瞬間音速を超え、衝撃波となってナツキを襲った。放った閃刀鞭もろともナツキの体が吹き飛ばされる。刀身の軽い閃刀鞭にとって、風圧は最大の敵だ。ナツキの体がしたたかに地面に叩き付けられる。黒轟竜が気を失ったナツキを強靱な顎で噛み砕こうと身構える。その瞬間、鋭い閃光が黒轟竜の眼前で炸裂した。ヴォイスが閃光玉を放ったのだ。視力を奪われた黒轟竜が、闇雲に前足を振り回す。ヴォイスはナツキに駆け寄り奪うように肩に担ぐと、この僅かな間隙を突いて脱出した。
ヴォイスはナツキを狭い河原の岩陰へと運んだ。河原の傍では温泉が噴き出し、立ち上る水蒸気がモンスターの視界を遮ってくれる。ヴォイスがベースキャンプ代わりに利用している数少ない安全地帯だ。
ナツキはまだ気を失っている。衝撃波をまともに喰らい、全身が硬直で痙攣している。ヴォイスは温泉と川の水を合わせ、小さな温めの湯船を作った。
「許せよ」
ナツキの甲冑と下着を脱がす。全身激しく打ち付けてはいるが、目立った傷はない。ヴォイスはナツキをゆっくりと湯船に浸した。温めの湯がナツキの緊張を解していく。取り置きの薬を少しずつ口に含ませる。どうやら大事には至らないようだ。ヴォイスは大きく安堵の溜息を吐いた。ナツキの豊かな裸体が湯船に揺らめいている。ヴォイスはちょっと困った顔をすると、手ぬぐいをナツキの体に掛けた。
携帯用の干し肉をかじる。ヴォイスは棒状に戻った閃刀鞭を手に取った。どんな仕掛けかは見当も付かない。大型モンスターと渡り合うにはこれぐらいの威力が必要だ。撃退がせいぜいの斬馬刀では、望むべくも無い。両親の仇のミラボレアス、塔の頂上に巣くう謎の古龍。ヴォイスは己が非力を痛感した。
川面に波しぶきが荒れ狂う。大きな黒い影が、血の帯を引きながら、のたうつように遡上してくる。ヴォイス不在のナザルガザル村に、重大な危機が迫っていた。
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