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 モンスターハンター・ゼロ3 「贄の剣」(にえのつるぎ)

 クエスト3 「反撃の狼煙は高く」
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 結界草の効果は直ぐに現れた。土塁の付近からアプトノスなど草食獣の姿は消え、ランポスなど肉食獣のいななきは更に遠くへ退いた。スザク村の南側の使える土地は、一気に三倍に拡がった。新たに獲得した土地に開墾の鍬音が響く。一方でレブンは北エリアの拡張にも着手した。土塁に結界草が植えられ、村の支配地域が更に拡がる。スザク村の住人は、老人から子供まで総動員された。目の回る忙しさに嬉しい悲鳴が上がる。開墾された畑に豆や麦が芽吹いてゆく。スザク村は豊かになる。総ての村人が確かな手応えに胸を踊らせた。そしてそれをもたらしてくれたのは、まよい子として遠ざけられてきたリンだ。もはやリンを差別する村人はひとりもいない。リンもリクも満面の笑みを浮かべながらスザク村の一員として精一杯に働いた。
 北エリアの開墾が軌道に乗ると、レブンはいよいよ最後の仕上げに取りかかった。イーオスの群から東の森を奪還する。守備隊も小型モンスターなら充分撃退できる力を付けた。初歩的な物ではあるが武器も防具も揃った。東の森奪還に必要な物資も整った。あとは実行あるのみだ。
 レブンはこれまで東の森には手を出さず、境界にある巨石の丘に監視のみを置いていた。観測結果から東の森には三十頭以上のイーオスが住み着いていると推測された。予想以上に大きな群れだ。目立った敵対勢力も無いため、奴らは我が物顔で東の森全体に広がっている。レブンは村人を広場に集め、三段階からなる『東の森奪還作戦』を説明した。
 東の森を奪還するには、ボスであるドスイーオスを討伐する必要がある。アガラバザルに戻れない奴は、必死に抵抗するはずだ。対モンスター用の戦闘訓練を積んでいるレブンにとって、ドスイーオスを殺すことは難しくない。問題は手下のイーオスだ。ボスを失えば奴らは散り散りに敗走する。その一部はスザク村へと迫るだろう。レブンは守備隊の中から優れた者八名を選び、四人一組のチームを作らせた。彼らはスザク村へ迫るはぐれイーオスを撃退する役目を負う。だが守備隊はまだイーオスとの戦闘経験が無い。奪還作戦の第一段階では、レブンが守備隊を指導しながら威力偵察を敢行する。メンバーにイーオス戦の経験を積ませつつ、奴らの数を削るのだ。
 まずレブンは一隊を率いて東の森に入る。巨石の丘には観測班としてリンとリク他数名の村人が陣取り、イーオスの動きを狼煙玉で知らせる。守備隊のもう一隊は巨石の丘の下に待機し、万が一の事態に備える。最初の隊がある程度戦果を上げたところで一旦引き上げ、控えの隊と交代する。第一段階では、この威力偵察を繰り返し、群れの中心位置を割り出しつつ十数頭のイーオスを倒す計画だ。
「何でもっとやっつけないのさ?」
 リクが素朴な疑問を口にした。レブンはいい質問だとばかりに答えた。
「イーオスどももバカじゃない。今は油断しているから森のあちこちに分散しているが、急速に仲間の数が減れば、警戒して群れの中心付近に密集する。威力偵察で数を減らせるのはそこまでだ。そして奴らが充分集まった所で、作戦の第二段階として俺が群れの中心を叩く」
 無論、わざわざ手下を集結させてからドスイーオスを倒すこの作戦は、レブンの負担を大きくする。その結果レブン自身が倒れるようでは元も子もない。だが村人への被害を最小限に食い止めるには、こうするほか無い。ギルドナイトは常に人々の安全と自分の力量を秤に掛け、最大効果にして確実に達成可能な作戦を立案しなければならない。
『必ず生き残ること』
 これはギルドナイトの鉄則だ。

 翌朝夜明けと共に作戦は開始された。レブンは一番隊を率いて東の森へ侵入した。巨石の丘を振り返る。赤の狼煙が一本。南に小さな群れがいる。レブンが先行して気配を探す。若いイーオスが二頭、小さな広場で侵入者を見張っている。守備隊の練習相手にはおあつらえ向きだ。レブンはハンドサインで一番隊を配置につかせると突撃を命じた。一番隊は大剣一名、片手剣二名、弓一名から構成されている。草むらから虚を突き躍り出る。一頭に攻撃が当たった。剣士三人が半包囲し、弓でイーオスの足を止めるように支援する。
 今日モンスターハンターがパーティーを組む時には四人を最大とするチームを作る。巷では、なぜ四人編成なのかその理由付けに諸説あり、余りはっきりした答えは無い。モンスターハンターは基本的にフリーのハンターであり、チーム編成による戦術論は重要視されないからだ。ハンターズギルドに残る記録を辿ると、最大四名を一組とするチーム編成は、ギルドナイツ設立当初からナザルガザルにおける戦術研究の中で確立されたことが見て取れる。武器も装備も貧弱だった暗黒期、単独で大型モンスターと対峙することは難しく、チームによる戦闘が数多く見られた。威力を増すため大振りに作られたハンターの武器は基本的に広い可動範囲を必要とし、密集すると仲間を巻き込むため攻撃を自由に繰り出すことが出来ない。お互いの状態を把握し、次に繰り出す攻撃や支援の有無を相互に把握するのに最適な人数、お互いの間合いを確保しつつ最大限にモンスターに対応できる構成として四人一組のチーム編成は確立された。四方からの全包囲、オフェンス三・サポート一による半包囲、ツー・バイ・ツーによる挟撃陣形など、ナザルガザルで積み上げられた膨大な戦術研究の結晶として、四人一組による対モンスター戦術は編み出されたのだ。レブンはスザク村の守備隊にも基本的な陣形戦術を指導していた。彼らは最新の戦術論の恩恵を受け、初めて対峙するイーオスにも充分に対応することが出来た。
「中央下がれ、防御だ! 毒が来るぞ!」
「弓で牽制、逃げ道を塞げ! 当たらなくてもいい!」
 レブンは少し離れた位置から一番隊のメンバーを指揮した。クリティカルヒットは望めないが、守備隊は大きな損害を受けることなく善戦し、ついに最初の戦果を上げた。
 一番隊のメンバーは、無残に死んだ二頭のイーオスから皮や牙など使えそうな素材を剥ぎ取ると、死骸を茂みの陰に隠し消臭玉で臭いを消した。仲間のイーオスに見つからないようにするためだ。
 ギルドナイツでは、モンスターの死骸でさえもその扱い方に様々な工夫が施されている。『剥ぎ取り』はモンスターハンターがモンスター素材を得るため行う行為だが、ギルドナイツでは特に小型モンスターに対してはもう一つ別の意味もある。あたかも何者かに喰い殺されたかのように死体を無惨に損壊させ、そこが危険な場所であると仲間のモンスターに警告するのだ。総ての小型モンスターに有効という訳では無いが、群れの接近を阻む方法の一つとして広く用いられている。今回レブンが守備隊に命じた死骸の処理は、いわばその逆である。同様な手法としては、剥ぎ取りを行わず岩や木の枝にくくりつけ、仲間がいると擬装するテクニックなども存在する。これらの知識集成もまた、ギルドナイトとモンスターハンターの決定的な違いの一つと言えるだろう。
 一番隊が五頭の戦果を上げた所で、レブンは二番隊と交代させた。片手剣三、弓一からなる二番隊も、四頭のイーオスを討伐した。次の日、その次の日も威力偵察を敢行し、討伐数は十五頭に及んだ。森中に散っていたイーオスたちは集結を始めた。
「どうやら群れの中心はこの先のようだな」
「レブンさん……」
 一番隊のメンバーが緊張した顔でレブンを見る。東の森の最深部で、レブンは作戦を第二段階に進める決断をした。レブンは黄色の狼煙玉を上げ、手はず通り守備隊を森の境界線まで下がらせる。
「ご武運を!」
 一番隊のメンバーが音を立てず撤収する。レブンは一旦片手剣を抜き、刃の具合を確かめた。鋭く研ぎ澄まされた刃に木漏れ日が照り返す。
『行くぞ!』
 レブンは自分を鼓舞し、東の森の最深部へ突入した。侵入者に斥候のイーオスが雄叫びを上げる。あちこちで遠吠えが上がり伝搬する。一際大きな声が左手から聞こえた。
「向こうか!」
 三頭のイーオスが躍り出て行く手を塞ぐ。レブンは一頭も漏らすことなく俊敏な動きで斬りつけた。さすがに一刀両断というわけにはいかない。鱗も硬く明らかに格上のイーオスだ。レブンは包囲されぬよう立ち回り、一頭ずつ確実に仕留めていった。奥へと走る。途中更に二頭を倒し、開けた場所へ飛び出した。中央に巨樹が生えたリング状の広場だ。右に四頭、左に三頭、そして巨樹の陰から一際大きな姿が現れた。立派なトサカを生やした群れのボス、ドスイーオスだ。手下のイーオスどもが天を突くように咆吼を上げる。
「ウォ――!」
 レブンは雄叫びを上げるとドスイーオス目掛け突進した。アドレナリンが沸騰する。左右から襲うイーオスをかいくぐり一気に間合いを詰める。ドスイーオスが上体を斧のように振り下ろし、唸りを上げて噛み付いてきた。レブンはトップスピードのままスライディングで奴の腹の下へ滑り込み、噛み付きを躱した。ドスイーオスの真下を滑り、すれ違いざま一太刀浴びせた。鱗の薄い腹部に刀傷が走る。だが切り裂くには剣の威力が足りない。背後に擦り抜けたレブンは、そのまま素早く起き上がった。群れがレブンへと振り返る。不敵に笑うレブンの頭上に、ふわりと閃光玉が上がっていた。激しい光に群れの視力が奪われた。レブンは群れの中へ突っ込み、イーオスどもを巻き込みながらドスイーオスの周囲を舞うように攻撃した。視力を奪われたドスイーオスは闇雲に反撃した。出鱈目に噛み付き、毒を吐く。同士討ちとなり次々と手下が吹き飛ぶ。視力を取り戻した頃には、手下は半数を切っていた。怒るドスイーオスがレブンを探す。振り向いた馬面の顔面に、カウンターの盾がぶちかまされた。大きく体勢が崩れる。レブンは目にも留まらぬ連撃で一気にラッシュした。自慢のトサカが木っ端微塵に砕け散った。ドスイーオスは苦し紛れにジャンプして襲い掛かった。だがレブンはスルリと側面へ回って躱す。ドスイーオスの跳び蹴りが更に手下のイーオスを吹き飛ばした。残る手下は二頭しかいない。ドスイーオスは背を伸ばし天を突くように遠吠えを上げた。仲間を集めるのだ。レブンはその瞬間を狙い、がら空きの腹部を稲妻のように切り裂いた。遠吠えが終わらぬうちに、たまらずドスイーオスは悲鳴を上げて地面を不様に転がった。レブンは残りのイーオスの攻撃を躱しつつ、のたうつドスイーオスに斬りつけた。
『くそう! タフな奴だ!』
 圧倒的優勢とはいえ、レブンにも疲労は蓄積する。掌から伝わる剣の切れ味もかなり鈍くなってきた。刃が綻び始めているのだ。一旦体勢を立て直すべきか。ドスイーオスが起き上がる。広場の周囲に新たな気配が次々と現れる。増援のイーオスだ。五、六頭はいる。
『消耗戦をやる余裕は無い!』
 レブンは身を翻しドスイーオスから距離を取ると、集まる増援の前に閃光玉を投げた。増援のイーオスを足止めする。突然右肩に噛み付きを喰らった。
「なにっ!?」
 巨樹の裏からも増援が来ていたのだ。体勢の崩れたレブンをドスイーオスの爪が襲った。レブンは力に逆らわず弾き飛ばされ、身を翻し起きあがった。
「クッ、ここで決める!」
 レブンは攻撃重視のステップに切り換え、標的をドスイーオス一頭に絞り勝負に出た。増援のイーオスの爪が掠める。ドスイーオスもかなり息が上がり動きが鈍い。乱打戦の様相を呈し、レブンの盾防御も限界に達している。足止めした増援の目眩が直る。
「ウォ────ッ!!」
 新手が加勢しようとした正に直前、レブンの放った渾身の横斬り斬り返しの連撃が、ドスイーオスの白い喉笛をついに真っ二つに斬り裂いた。天を仰いだ朱色の頭がそのままゆっくり真後ろへ倒れる。首から血が噴水のように噴き出しイーオスどもに降り注ぐ。総てのイーオスが目を見開き動きを止めた。
『ボスがやられた!』
 一頭、また一頭と後ずさる。パニックを起こし散り散りになる。敗走する気だ。
「ま、待て!」
 レブンは追おうとしたが足が付いていかず、崩れるように倒れた。慌てて剣を地面に突き立て体を支える。疲労とダメージの蓄積が馬鹿にならない。生き残っているイーオスはどれも強い個体ばかりだ。村へ向かわせるわけにはいかない。回復を計る余裕は無い。イーオスが広場から出ようとする。その時、何本もの矢が茂みからイーオスを襲った。パニックを起こしたイーオスどもの足が止まる。茂みから守備隊メンバーが躍り出た。境界線まで下がった一番隊が、二番隊を伴い戻ってきたのだ。
「無茶な真似を!」
 レブンは急ぎ回復薬をあおり怪力の実をかじった。疲弊した体力はそう簡単には戻らない。だが強壮効果を加えることで短時間なら元の状態まで引き上げられる。レブンは腰に下げた棒状の砥石を抜き、素早く刃に走らせた。これで切れ味も幾らかましになる。
「ウォ──ッ!」
 レブンはイーオスどもに背後から襲い掛かり、必死に食い止める守備隊に加勢した。血煙舞う乱戦が終わると、広場にはレブンと守備隊八名だけが立っていた。守備隊の半数が負傷したが、大事に至る怪我ではない。スザク村の方角へ向かおうとしたイーオスは総て討伐できた。何頭かは異なる方角へ逃げていったが、今は追う必要は無い。
「村が心配だ。境界線まで戻るぞ!」
 レブンたちは負傷者に肩を貸し境界線へ向かった。境界線では戦える者たちが鍬や竹槍を手にイーオスの侵入を阻んでいた。
「こっち来んな、この野郎!」
 リクは村人の前に飛び出し、自慢の槍を振り回してはぐれイーオスを追い払っていた。幸いまだ若いイーオスで力は弱い。他の場所にいた奴だろう。
「リク!」
 駆けつけたレブンは素早くイーオスの懐に飛び込み、朱色の胴を切り裂いた。イーオスは為す術なく天を仰ぎ、そのままドサリと地に伏した。守備隊の帰還により更に二頭のイーオスを始末し、村への脅威は掃討した。これで作戦の第二段階は終了だ。レブンは僅かな監視を巨石の丘へ残し一旦村へと引き上げた。

 翌朝、いよいよ東の森奪還作戦の総仕上げに取り掛かった。レブンと守備隊は、笛と狼煙玉で連携しながら東の森にローラー索敵を行い、鳥竜の残党狩りを行った。彼らの後方にはスコップと大量の消臭玉を担いだチームが続き、イーオスの寝床や糞の塚などマーキングをひとつひとつ消して歩いた。地味で人手の掛かる作業だが、奴らを戻らせないためには大事な作業だ。
 レブンはリクとリンを引き連れ、アガラバザル山へ続く道沿いに進んだ。途中ドスイーオスと戦った広場へ立ち寄り、後続班が処理すべき場所に目印を残した。ドスイーオスの死骸には、既に死肉を喰う蛆が湧いていた。リクは無惨に横たわる十メートル近い巨体に興奮した。一方リンは朽ちていくその姿をあまり見ようとはしなかった。
 広場を抜けしばらく進むと、突然リンが立ち止まった。岩と低木が入り組んだ場所をジッと見ている。
「あそこ……何かいるよ」
 岩の上を飛び跳ねて進むと、円形の窪みが現れた。そこはイーオスの巣だった。瓜のような細長い卵が十個ほど並び、孵化したばかりの幼体が七頭、餌を求めてキャーキャーと鳴いている。
「ウワ──、可愛い!」
 小さなイーオスを見てリリルが微笑む。リクはそんなリリルに驚いた。
「何言ってんだよ! こいつらのせいでお前が殺されそうになったんだぞ!」
 リクが槍を抜いた。リンはリクの腕を掴んだ。
「殺しちゃうの?」
「あたりめーだろ! モンスターは一匹残らず殺すんだ!」
 レブンはふたりの肩に手を置くと静かに告げた。
「リン、お前は向こうに離れていなさい。リク、お前は卵を壊せ。幼体は俺がやろう」
 レブンの言葉にふたりは黙って従った。リンは巣から充分に離れ、リクは一つ目の卵の前に立った。卵は大きく殻も厚い。リクは刃を突き立てると飛び跳ねて全体重を掛けた。刃が突き刺さり中身が飛び散る。割れた殻の隙間から孵化しかかったイーオスの頭が流れ出た。一瞬リクの表情が強張った。だが直ぐに気合いを入れ直し、二つ目の卵に取り掛かった。レブンはリクの反応を見届けると、一匹目の幼体の頭を口を塞ぐように掴み、巣から引き抜き仰向けに横たえた。片手剣の切っ先を皮膚の薄い胸に立て、斬り裂くように心臓をひと突きする。ビュッと血が噴き出し、そのままぐったり動かなくなる。レブンは流れ作業のようにイーオスの幼体を処分した。
「俺たちの仕事は殺生だ。いいとか悪いとかではなく。その事を覚えておけよ」
 レブンの静かな言葉に、リクは黙って頷いた。
 総ての幼体と卵を処分すると、レブンは土を掛け巣の跡を消した。リンの所へ戻ると、リンは耳を塞いでうずくまっていた。
「何だよ、リン。お前、泣いてんのか?」
 リクの言葉にリンが顔を背ける。レブンは右手でリンを優しく抱き締めてやった。殺さねばならない小さな命。まよい子であったリンにすれば、例えそれがモンスターであろうと見るに忍びないだろう。それはリクにも分かっている。レブンは静かな眼差しで二人を見た。この双子が成人する頃には、今よりはましな世の中にしたい。レブンは心からそう願うのだった。
 東の森の掃討処理は終了した。僅かに残ったイーオスも余所の土地へと逃げていった。東の森の反対側まで到達したレブンたちは、急いで土塁を築き結界草を植えた。森を抜けると、ゴツゴツした岩と低木の荒れ地が始まり、アガラバザル山へと続いていく。遠くにはリノプロスなど荒れた土地に適応した草食獣の姿も見える。連中に対しても結界草は効果がある。肉食獣にとっても、東の森は獲物のいない場所に見えるだろう。ひとまずこれで東の森の奪還は完了だ。村人たちは笑顔で村へ引き上げた。

 その夜は祝いの祭りとなった。守備隊が狩ってきたアプトノスの肉が振る舞われ、拡張エリアで収穫された作物の料理が並ぶ。広場に家々に笑い声が溢れ、陽気に酒を酌み交わす音が村中を包んだ。東の森を取り戻し、スザク村の土地は以前の倍以上に拡がった。
 広場に設えた宴席では、レブンや村長たちが酒や料理を楽しみながら語り合っている。リクとリンはレブンの両脇に陣取り、料理を食べながらはしゃいでいた。
「結界拡張の手はずは既に伝えてあります。ただし実行するのは半年ほど先がいいでしょう。今は結界によって周辺のモンスターの縄張りが不安定になっていますから、過剰な刺激を与えるのは避けた方がいい」
 レブンの言葉に村長は改めて礼を述べた。
「まっこと、レブン殿にはお礼の言葉もない。ハンターズギルドの方々にも宜しくお伝え下され」
 村長の言葉にリクとリンはハッとした。
「にいちゃん、帰っちまうのか!?」
 リクは詰め寄り、リンはレブンの腕を掴んだ。レブンはちょっと困った顔でふたりを見ると話し始めた。
「この村でやるべき仕事は終わったからな。だが、ギルド本部へ帰る前に、ちょっと調べたいことがあるんだ」
 レブンは元々鉱山町であるザダムを目指しこの地へ来た。ザダム村が何者に襲われ滅んだのか、調査しハンターズギルドに報告する必要がある。レブンがザダム村へ向かうと聞き、リクとリンは身を乗り出して申し出た。
「オレも行く! オレがザダム村まで案内する!」
「あたしも!」
「いや……どんなモンスターと出くわすか分からないし、俺ひとりの方が……」
 困るレブンを見て、村長は笑いながら告げた。
「モンスターを倒しに行くわけではないのであろう? お荷物かもしれぬが、どうかふたりを連れて行ってやってくれ。ふたりも少しは物の役にたとうて」
 レブンは少し困った笑みを浮かべて頭を掻いた。
 宴と共に夜が更けていく。スザク村の人々は、ようやく手に入れた平安を感慨深く噛み締めていた。

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