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 モンスターハンター・ゼロ外伝 「黒き神の記憶」

 クエスト6 「悪いが付き合ってもらうよ」
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「アハハハハ。凄い凄い!」
 ナツキは思わず笑い出した。ナツキにとって空を飛ぶのはこれが初めてだ。しかも飛竜の背中となれば、滅多にあることではない。クロはゆっくり原っぱの上空を旋回した。ナツキは手綱を握りながら周囲を見回した。遠くの空を至る所で飛竜が舞っている。大樹海は広い。そびえるユグドラシルを中心に、東西約百キロ、南北二百キロにも及ぶ。地形も一様という訳ではない。高さが百メートルを越える巨樹の密集地も有れば、低木の群生地もある。小高い丘や開けた沼地、巨石が連なる場所もある。ナツキはクロの首を叩くと、北西に見える小高い丘を指差した。クロはゆっくりと旋回し、ユグドラシルを背にするように丘を目指した。
 クロはあまり高度を取ろうとはしない。陽はまだそれ程高くはないが、地上と違い空は明るい。ナルガクルガは暗がりを得意とするモンスターだけに眩しい場所は苦手なのだ。そのためクロも、陽が高い真昼はあまり飛ばない。そもそも真っ黒な体では、日中飛ぶには目立ち過ぎる。
「ギャウ?」
 クロがこのまま飛んでいいのかと尋ねている。クロにとっても住処からこれほど離れるのは始めての経験だ。ナツキは丘を指差しながら告げた。
「このまま進みな。まずはユグドラシルを離れた場所から始めるよ」
 大樹海は外縁部の方が大型モンスターの密度も低く、強いモンスターも少ない。勿論その土地にはその土地に適したモンスターがいるので一概には言えないが、クロに経験を積ませるには様々な地形を訪ね歩く方がいい。今のところ目指す丘の上空には飛竜の姿は見あたらない。どんな相手と出会えるか。ナツキは不敵な笑みを浮かべた。

 丘に近付くとナツキは高度を下げさせた。樹上を舐めるように滑空する。川沿いの少し開けた場所が見えた。見たところモンスターの姿は無い。
「クロ、あそこに降りな」
 ナツキはクロを着地させた。首を優しく叩くとクロは首を下げ、ナツキは軽々と地面に飛び降りた。ナツキはクロを川辺に導き水を飲ませた。空を飛ぶことは想像以上にスタミナを使う。クロが水を飲む間、ナツキは辺りを観察した。生い茂る木々はせいぜい数十メートルの高さ。巨樹はそれほど無く、樹海と言うよりは比較的有り触れた森丘や密林に近い。日差しは充分地面に降り注ぎ、下草や花も溢れている。こういう場所は草食獣が好む場所だ。クロの餌を確保するにも都合が良い。
「グルル」
 水を飲み終えたクロはナツキの傍にくるとすり寄ってきた。そわそわと辺りを見回している。クロにとっては初めての遠出だ。無理もない。ナツキはクスッと笑うと、クロの顎を撫でてやった。
「胸を張りな。お前は一人前の飛竜なんだ」
 川下の方に草食獣らしき気配がある。ナツキは手招きすると、クロを連れて川下へと歩いた。
「お腹が空いただろ。ケルビがいるといいけどね」
 ポッカリ開けた広場が見えてきた。ふたりは気配を消して近付いた。ブルファンゴやアプトノスに混じり数頭のケルビもいる。クロが舌舐めずりをした。ナツキはクロの首をポンと叩くと離れてやった。クロはひとりで音も無く風下へ回り接近した。草食獣たちが殺気に気付きキョロキョロと辺りを見回す。
『気取られるようじゃ、まだまだだね』
 ナツキはブッシュの影で苦笑いした。クロは一気にケルビの前にジャンプし、草食獣の群から分断した。驚いたケルビが群と反対の方向へ走り出す。クロはジャンプでケルビを飛び越し尻尾で薙ぎ払った。ケルビが宙を舞い、地面に叩き付けられた。他の草食獣が慌てて林の中へ逃げていく。クロは見向きもせず悠然と仕留めた獲物に近付くと、ゆっくり食べ始めた。
「なかなか上手くなったじゃないか」
 ナツキは立ち上がりクロへと近付いていった。クロが嘴を鳴らし美味しそうに食べている。ほぼ完食したその時、ナツキは大型モンスターの接近を察知した。林の中から何か来る。ナツキはゆっくりライトボウガンを構えた。クロも気配に気付きナツキの横に並ぶ。
「一頭だけ……足音が軽い。飛竜種じゃなさそうだね。鳥竜種か?」
 林の奥に巨大な鳥のシルエットが浮かぶ。二本足。大きな翼。大きな嘴と柊の葉のような大きな耳。背中には棘の生えた甲殻。コブ状になった尻尾の先にも鋭い棘が生えている。暗い紫の体が木漏れ日を照り返し不気味に光る。好戦的な鳥竜種、黒狼鳥イャンガルルガだ。全長が十メートル以上あるキングサイズだが、クロよりは小さい。ナツキはニヤリと笑った。
「いきなりいい相手がおいででないかい。銀レウスの練習にはおあつらえ向きだよ」
 黒狼鳥イャンガルルガは、火竜のように口から火球を放ち、尻尾の棘には毒を持つ。甲殻も固く凶暴な奴だが、銀のリオレウスに比べればそれ程ではない。ナツキは発煙弾を四発装填した。三発は白、四発目は赤の発煙弾だ。赤の発煙弾は白の発煙弾に更にサボテンの花の色素を加えた物で赤みがかった煙が出る。クロに危険な場所を教えるために作った弾だ。
「さて、どれ程の相手か。悪いが付き合ってもらうよ」
 ナツキはクロに左手でその場で待つように指示した。まずは発煙弾で攻撃するポイントを教えるのだ。イャンガルルガが広場へ出てくる。クロとナツキを睨んでいる。縄張りを荒らす者と判断したのだろう。明らかにやる気だ。
「ガァ――!」
 いきなりナツキ目掛けて火球を放ってきた。ナツキはサイドステップで躱すと発煙弾を奴の嘴に当てた。そのまま側面へと接近する。イャンガルルガは思い切り首を跳ね上げると、大きな嘴で右に左に地面を突き刺しながらナツキ目掛けて突進した。一見無駄な動作に見えるがそうではない。攻撃範囲を広くしながら相手を威嚇しているのだ。大きな動きに圧倒され反応が遅れれば、たちまちピッケルのような嘴の餌食となる。だが、それが通用するのは並のハンターまでだ。ライトボウガン使いに必要なのはクール&クレバー。ナツキには通用しない。彼女は冷静に回り込むように回避し、イャンガルルガの背後を取った。突進が止まり地面に刺さった嘴を抜く。その隙にナツキは、足と腹に白の、尻尾に赤の発煙弾を叩き込んだ。二色の煙がクロの目にもはっきりと映る。
「クロ! 出番だよ!」
「ギャゥ――!」
 ジャンプ一閃。クロの黒爪がイャンガルルガの翼を襲う。硬いが弾かれる程ではない。イャンガルルガの翼に生えた棘の一部が砕け散った。イャンガルルガはすぐさまその場で体を回し、尻尾の棘でクロを襲った。バックジャンプで毒棘を躱す。銀レウスに比べれば、対峙できぬ相手ではない。ナツキは弐式弾を装填し、奴の右足を攻撃した。
 一般的に、鳥竜種は飛竜種より格下と見られている。飛竜種の全長が二十メートル程あるのに対し、大怪鳥など大型の鳥竜種はせいぜい十数メートル。体格も体力、攻撃力も明らかに劣る。だがモンスター同士の争いとなると事はそう単純ではない。小さい事が不利とばかりも言えないのだ。そもそもモンスターの体はモンスター同士の争いを基本として進化している。頭や背中、尻尾など体の外側には、硬い甲殻や相手を傷付ける棘などが備わっている。一方、攻撃を受けにくい腹部は、皮膚の作りも柔らかい。大型モンスターより遙かに小さいハンターであればこそ柔らかい腹部を簡単に攻撃できるが、大型モンスター同士、特に相手の方が小さければ、柔らかい腹部などそう簡単に攻撃させてはもらえない。クロにとっても、硬い黒爪や刃翼はともかく、長くしなやかな尻尾で迂闊に棘だらけのイャンガルルガの甲殻を攻撃すれば、逆に自分の尻尾を痛めかねない。ましてやそれが百戦錬磨の相手であれば、体格の差など吹き飛んでしまう。クロにとっては例えイャンガルルガと言えど、軽々にあしらえる相手ではないのだ。
 ナツキが示した弱点は三つ。頭は炎を吐かれるリスクがある。腹部や足は、危険な尻尾に気を付けねばならない。クロにとってこの三カ所は、簡単に攻められる場所ではなかった。だがナツキもその事は重々承知している。力押しできないクロが強くなるには、巧みに弱点を攻める賢さが必要だ。技と共に狩りの知恵を磨かせる。クール&クレバー。それこそがナツキがクロに教えたい事だった。
 クロはなかなか弱点を攻撃できずにいた。イャンガルルガの攻撃は、初手こそ大技を繰り出したものの、その後は小刻みに技を繋いでいる。初めの大技は威嚇で、相手が逃げれば良しとする見せ技だ。相手が逃げないとみるや隙の少ない小技に切り替えてきた。ここからが本当の実力だ。ナツキはあまり積極的には攻撃参加せずイャンガルルガの実力を分析した。体格差は少ないとはいえ、奴は飛竜であるクロに臆する事無く攻撃している。意図的に攻撃方法を切り替える事からも、かなりのベテランである事が分かる。色で分かりにくいが甲殻のあちらこちらに幾つもの古傷も残っている。クロが奴を出し抜く事は難しい。
「ほら、クロ。一発ぐらいいいのを呉れてやりな」
 ナツキはわざと手を抜き、確実に右足を狙える時だけ攻撃した。ナツキの持つグレネードバレルは、雷撃榴弾、参式拡散弾、参式徹甲榴弾の三種類がある。今は参式徹甲榴弾のバレルをマウンターに装着しているが、まだ使うタイミングではない。このバトルは、あくまでもイャンガルルガの胸を借りるのが目的だ。奴を敗走させられるか。それともクロが敗走するか。ナツキは相手の力量を計った上で、新米のクロが対等に戦える程度に支援した。
 イャンガルルガは地を這う姿勢のクロ目掛けて連続でついばみ攻撃を仕掛けてきた。クロは小さな斜めバックステップで連続回避する。炎を警戒し正面を避け、隙を見て反撃できる距離を保っているのだ。イャンガルルガもクロの逃げる方向に合わせ連続ついばみの方向を変える。隙が少ない。ナツキはニヤリと笑った。
『そのついばみ攻撃はフェイントだよ。クロ、お前に分かるかい?』
 クロの回避が奴の正面と交差する。その瞬間、イャンガルルガは翼の勢いも使いつんのめるように突進した。真正面でこそ無かったが、奴の翼がジャンプ中のクロの体を弾き飛ばした。バランスを崩したクロが、巻き込まれるように激しく転がる。イャンガルルガもヘッドスライディングのように倒れ込む。クロは起き上がると慌てて奴を探した。奴も起き上がる所だ。クロはカッとなって飛び掛かった。奴は二歩ほど下がって反動を付け、バク転するように飛び上がった。奴の尻尾が唸りを上げ、飛び掛かるクロの顎にアッパーカットを喰らわせた。
「ギャゥゥ!」
 叩き落とされたクロが地面に無様に這いつくばる。
「アチャ――。やっぱ、奴の方が一枚上手だね」
 イャンガルルガは着地すると、硬い嘴でとどめを刺そうと、思い切り頭を振り上げた。だがその時、ナツキの放った参式徹甲榴弾が奴の右足に炸裂した。イャンガルルガは吹き飛ぶように倒れ、痛みに喘いだ。
「クロ! 一旦下がりな!」
 ナツキは大きく手招きした。クロがナツキの後ろへジャンプする。着地の足が乱れた。尻尾の毒を喰らったのだ。ナツキはポーチからボール大の丸薬を取りだしクロの顔に放り投げた。パクッと食べる。ナツキがクロのためにこしらえた解毒ボールだ。解毒草と薬草を刻み合わせ、ホワイトレバーのパテでボール状にしたものだ。本来ナルガクルガは毒には強いモンスターだが、耐性は成体となる事で強化される。まだ一歳に満たないクロにとっては、こんな即席の解毒薬でも充分サポートになる。
「ギャゥ――!」
 目の回りから頬にかけて皮膚が赤く充血する。瞳が真っ赤に輝き出す。クロのエンジンが掛かった。第二ラウンド開始だ。ナツキを飛び越え、ジグザグに連続ジャンプしながらイャンガルルガに急接近する。奴がついばみ迎撃する。クロは左右にステップし黒爪を振る。いきなり仕掛けても喰らってくれるような相手ではない。イャンガルルガも巧みなステップで攻撃を躱し反撃のチャンスを伺っている。
「まったく。クロの動きはムダだらけだね」
 ナツキは呆れて頭を抱えた。戦い慣れていない分、動きにほとんど意図が無い。只うろちょろとイャンガルルガの周囲を跳び回っている。子供の動きとはそうした物だ。やたらと元気だけは有り余っている。だがそれは、対するイャンガルルガにとっては堪らない。只でさえスタミナを消耗する戦闘状態で子供の相手をさせられるのだ。回避の動きが鈍りだす。じれたイャンガルルガはクロを追い払うため三方向に火球を放った。クロは巧みにそれを躱し、奴の後ろへ回り込んだ。千載一遇のチャンスだ。
「上手いよ、クロ。あんたのスピードなら、先の先でも後の先でも楽に狙える。主導権をもぎ取りな!」
 奴が慌てて後ろを向く。そこにクロの姿は無い。イャンガルルガは完全にクロを見失った。クロは地を這うような低いジャンプで奴の足下に滑り込み、素早く旋回し奴の膝裏を長い尻尾で薙ぎ払った。大きく仰け反りながら二、三歩よろける。奴は怒りで口から炎を溢れさせながら、背後のクロ目掛け振りかぶるように体を回し噛み付いてきた。クロはギリギリまで引きつけると掠めるようにショートジャンプで躱した。素早く地面に伏し尻尾の毒棘をやり過ごす。奴の足の付け根から下腹部にかけて鋭い鞭を浴びせる。ブルファンゴの遊びでやっていた軌道を変える薙払いだ。脚部への連撃に、たまらずイャンガルルガは横転した。仰向けになった腹部目掛け、飛び越すように思い切り黒爪を浴びせた。身を翻しクロが着地した瞬間、川の字になった爪痕から鮮血が噴き上がった。クリティカルヒットだ。イャンガルルガは起き上がると、鋭い眼光でクロを睨んだ。
「グググ、ガ――」
 傷付いた腹部から血が滴る。暫く睨み合うと、イャンガルルガはチラリとナツキを見た。モンスターといえど戦い慣れた者であるほど自分の置かれた状況を正確に分析する。ナツキの攻撃には余力がある。一対一ならともかく、この状況では勝ちを拾うのは難しい。イャンガルルガの眼光が鈍る。戦意を喪失し二、三歩後退すると、少し足を引きずりながら林の中へと帰って行った。対イャンガルルガ戦終了。クロの勝ちだ。クロはその場へ両手を付いて座り、林へ消えるイャンガルルガを見送った。
「よくやったね。上出来だよ、クロ」
 ナツキは手を叩きながら笑顔でクロに近付いた。クロの瞬発力は、填れば強力な武器になる。ひとりで戦うにはまだまだだが、今日の所は及第点だ。ナツキは傷の具合を確認し手早く治療すると、クロの頬を優しく撫でてやった。
 ナツキはアイテム補給と今夜の寝床を探すため、イャンガルルガが消えた方向とは反対の林へクロを引き連れ入っていった。広場に静寂が訪れる。草むらの影から一頭の小型モンスター、鳥竜種のジャギィが顔を出した。ジャギィは後ろを向き、そのままどこかへ走り去った。

 ふたりは付近に生えた巨樹の樹上で一夜を明かした。
「さて、今日はどっちに行こうかねえ」
 ふたりで当てもなく歩くと、昨日の広場の方から騒々しいモンスターの声が聞こえてきた。
「何事だい?」
 広場に接近する。夥しい数のジャギィが飛び跳ねている。群を率いるドスジャギィも四、五頭いる。そしてドスジャギィたちを追い払おうと、昨日の黒狼鳥イャンガルルガと二羽の大怪鳥イャンクックが応戦していた。イャンガルルガの傷は回復していない。動きは明らかに精彩を欠き、ジャギィやドスジャギィの攻撃を躱せずにいる。二羽のイャンクックも必死に応戦しているが多勢に無勢だ。
「こいつは……そう言うことかい!」
 イャンクックやイャンガルルガなど大怪鳥は、ミミズや昆虫、木の実などを主食とし、肉食の飛竜やドスジャギィとは餌の奪い合いは起こらない。しかし餌のミミズなどが豊富にあるためには、肥えた土地が必要となる。そのためには大量の糞を残す草食獣の存在が欠かせない。大怪鳥と草食獣は共生関係にあるのだ。昨日のクロとの戦いで、この大怪鳥の楽園を守るイャンガルルガは傷付いてしまった。あのドスジャギィたちは戦力の中心であるイャンガルルガの負傷を知り、この付近の縄張りを奪いに来たのだ。
「ごめんよ。悪いことをしちまったね」
 ナツキは頭を掻くと、参式拡散弾のグレネードバレルをライトボウガンに装着した。クロの体毛が逆立ち波打つ。クロもジャギィたちは住処で散々相手にしている。
「クロ。あの五月蠅い犬どもを蹴散らすよ!」
 参式拡散弾を全弾撃ち込みジャギィの群を吹き飛ばす。弐式弾をフル装填しブッシュから躍り出た。
「クロ! あいつらを一匹たりとも生かして返すな!」
「ギャ──ゥ!」
 クロは大ジャンプで群の中心に飛び込み、刃翼でまとめて切り裂いた。右に左に長い尾を振り吹き飛ばす。ジャギィの群は、突然現れた黒い疾風にパニックを起こした。尻尾をサーベルのように叩き付け、ドスジャギィの頭を割る。連続ジャンプで退路を塞ぎ、鋭い刃翼で切り刻む。イャンガルルガたちは唖然としながら遠巻きに黒い乱入者を見守った。クロの瞳が真っ赤に輝く。赤い光跡が広場を巻き取り締め上げる。旋風が巻き起こり、むせ返る血臭が舞い上がる。広場が見る見るジャギィたちの死体で埋め尽くされる。逃げる者には、ナツキのバレットが容赦なく襲う。それはあまりにも圧倒的な殺戮だった。
 血煙舞う乱戦が終わると、広場の中央にはクロとナツキだけが立っていた。負傷したイャンガルルガは、広場の片隅からじっとクロとナツキを見ていた。
「ガ──、ガ──、グァ──!」
 二羽のイャンクックが、飛び跳ねながらナツキたちを睨んでいる。イャンガルルガを負傷させたことを怒っているのだ。
「分かった分かった。別に悪気があった訳じゃないんだよ」
 ナツキは困りながら弁解した。隣でクロが不思議そうな顔でナツキを見ている。ナツキは手綱を握るとクロの背中に飛び乗った。
「クロ。次の場所へ移動するよ」
 そそくさと逃げるように舞い上がる。イャンガルルガたちが見上げている。ナツキは思わず頭を掻いた。
「モンスターの世界ってのも、なかなか面倒なもんだね〜」
 ナツキとクロは、新たな挑戦相手を求めて次の場所へと飛翔した。

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