■パイロットスーツ
ロアン、ラジェス、ケインの3人組は、既に教員宿舎前に集まっていた。待ち合わせの時間には、まだ大分早い。彼らがふざけあっていると、そこへレノアとイリーナが走ってきた。
「ロア――ン!」
レノアは両手を差し出し、ロアンの胸に飛び込んでくる。今朝は、いつにも増して上機嫌だ。
「おはよう、レノア」
ロアンは、彼女の体をしっかり受け止めた。彼女はそのままロアンの胸にしがみついている。見ると、ロアンのウィンドブレーカーの両襟を掴み、中に顔をツッコミながらクスクスと笑っていた。そして、満面の笑みを浮かべ、不意にロアンの顔を覗き込んできた。
「や〜っぱり、着てきたんだ〜〜」
モスグリーンのウィンドブレーカーの下は、アダムのパイロットスーツだった。レノアは、両手を離すと、羽織っている桜色のカーディガンをはだけ、胸を張ってイブのスーツを見せた。
「ほら──。私も〜〜」
レノアの若々しい膨らみが目の前に差し出される。ロアンは、ちょっと顔を赤らめて視線を逸らし、鼻の頭を掻いた。
ケインは、ラジェスの肩にドッカと体を預けると、二人を指さし悪態を付いた。
「見ろよ、ったく。こいつら人の忠告、ちっとも聞きゃしね〜〜!」
宿舎前に、笑い声があふれた。
コロニーに納品されるEVUは、機体登記が済むまでは、受領者に渡される事はない。個人所有機も珍しくなくなったとはいえ、全長が優に十メートルを越えるEVUはまだまだ特殊重機であり、その運用は様々な許認可の元に置かれている。
勿論、ロアンも、そんな事は百も承知だ。だが、この日を待ち望んだ彼は、白を基調とした専用スーツを着て来ずにはいられないのだった。
一方、レノアがスーツを着てきた理由は、彼とはちょっと違っていた。
PEVUプロジェクトに関わる中で、レノア一番のお気に入りは、実はこのお揃いのパイロットスーツだった。ペアルックに見えるのは、単に二人分しか無いからに過ぎないのだが、そんな事情はレノアの眼中には無い。私物ではなく、支給された二人専用のペアスーツであるという事が、レノアの乙女心を激しくくすぐるのであった。
そして、アダムとイブが到着する今日こそ、ロアンとお揃いのスーツで外出出来る初めてのチャンスだった。ロアンが申し訳程度に上着を羽織ってくる事も、彼女にはお見通しだった。
「ロ・ア・ン。クスクス……」
レノアは、ロアンの腕に甘えながら、うれしさを堪えきれずにいた。
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