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前頁 第3話 エデンの受難 目次
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■艦隊
 大小十二隻の艦艇からなる宇宙艦隊が、静かにデルタ9を目指している。前衛には、ブリッグ級哨戒艦三隻。後方には、巨大なタンクを抱えた工作艦八隻。そして中央には、艦隊旗艦を務めるEVU母艦「シアトル」が陣取っている。
 魚の骨を彷彿させるシアトルの係留橋(ピアー)には、四脚タイプの戦闘用EVU「サラマンダー」十二機と、最新の人型戦闘用EVU「エリオス」一機が、強襲上陸装備で係留されていた。既に全機、機体の最終チェックを済ませ、いつでも出撃できる体制を整えている。
 艦のセンサーが、ダンパー粒子濃度の上昇を捉えて始めた。艦隊が、フロントアイランズ領海である緩衝宙域へ侵入した証だ。艦隊は、粒子が反応しないよう、既に領海巡航速度一杯まで減速していた。
 
 * * *
 
 ダンパー粒子とは、抗エネルギー分子群の通称である。隕石の運動エネルギーや太陽フレアの放つ高エネルギー・プロトンなど、一定以上のエネルギー衝突がこの粒子に加わると、分子群が連鎖干渉しつつ発光現象を伴った粒子崩壊の形で急速にエネルギーを吸収する。この粒子を宇宙空間に大量散布し、強烈な太陽風やスペースデブリ、メテオロイド(小隕石)を防ぐクッションとしている空間を、緩衝宙域という。ラグランジュポイントは、重力的に安定なため、散布した粒子が拡散しにくい。各アイランズでは、大量のダンパー粒子を散布し、直径一万キロを越える保護空間を形成している。コロニー公社のデブリ監視網では、ダンパー粒子の崩壊発光現象を日夜観測する事により、コロニーの安全を守り続けているのである。
 
 一方、宇宙船がこの空間に粒子反応限界を超える高速で突入した場合にも、同様の効果は発生する。その際、船体は波紋に似た崩壊光の航跡を曳き、エネルギー吸収の衝撃で船体が損傷する場合もある。その為、緩衝宙域内では、粒子が干渉しない領海巡航速度で航行するのが普通である。
 
 * * *
 
 シアトルのブリーフィング・ルームでは、EVUパイロットが集合し、デルタ9接収作戦の最終確認が行われていた。スピーチボックスでは、上陸部隊を指揮するジェニファー・J・ダレル少佐が、デルタ9の見取り図を背にしながら話していた。
「二日前の情報では、デルタ9の人口は924名。内、七割は学校関係者が占める。抵抗勢力としては、保安局のEVUがあるが、現在の人員は予備役も含め3名のみ。しかも、平均年齢は五十を越えている。残りの住民も、デルタ9に未練を残し転居を渋る老人ばかりだ」
 パイロット達は肩をすくめた。
「確かに、取るに足らない相手だ。だがそれだけに、完璧に成功させなければ意味が無い」
 ダレルは、キツい視線でパイロット一人一人の顔を見回した。男の様に切り詰められた金髪が、背後のパネルの明かりを背負い輝いている。なまじ端正な顔立ちをしているだけに、にらんだ時の眼光の鋭さは男達を牽制するのに十分だった。
『やれやれ……』
 ゲルト・バウアーは、いつにも増してカリカリしている同僚に苦笑した。
 ダレル少佐は、各隊の配置を再確認するべく、デルタ9の見取り図を示し、説明した。
「現在、住民は、第一宇宙港付近と学園街周辺に居住している。これより南側は、第二宇宙港まで総てゴーストタウンだ。第二宇宙港自体、既に1年前から閉鎖されている」
 デルタ9を中心とした三次元マップに、艦隊を示すマークが現れる。
「作戦開始と共に、工作艦はデルタ9の情報封鎖を行う。同時に、バウアー少佐指揮下のEVU四機は、第一宇宙港へ侵入、デルタ9接収の勧告を行う。少佐がコロニー側の注意を引き付けている間に、主力の我が隊は、第二宇宙港から強行突入。速やかにコロニー内の制圧を行う。聞き分けのない老人の抵抗ぐらいはあるだろうが、反抗の拡大を防ぐよう速やかに鎮圧せよ」
 作戦の確認が終わると、スピーチボックスに艦隊司令のオルトマン大佐が立った。
「諸君も知っての通り、本作戦は『再生の光』作戦を側面支援する極めて重要なものだ。住民全員を速やかに退去させ、デルタ9を接収する事が本作戦の任務だが、フロントアイランズとの関係を考え、住民への被害は最小限に抑えたい。諸君の健闘を期待する」

 
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