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前頁 第4話 戦端 目次
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■ 誤算
『いったい、何が起こっている?』
 ジェニファー・J・ダレル少佐は混乱していた。カムフラージュは完璧だし、第二宇宙港は無人のはずだ。にもかかわらず、彼女の耳には警告が飛び込んでくる。発見されたとは、にわかに信じられなかった。もしかすると、偶然、付近に無関係の機体がおり、そのやり取りに出くわしたのではないのか? だが、アクティブ・センサーを封印している現在は、付近をサーチする事は出来ない。
『まさか情報が漏れていた? いや、それなら警備艇ぐらいいるはず。罠にしては不自然過ぎる……。とにかく、このまま進むしか無い』
 彼女は、作戦の続行を決めた。だがその時、港に変化が生じた。大きく口を開けているメインゲートから三つの機影が次々と飛び立ち、こちらへ向かって来る。途端に、サラマンダーの航行システムがニアミスコースの警報を発した。コックピットが赤い明滅に染まる。
『捕捉されてる!? まさか!』
 
 飛び立った作業ドローンは、港内で艦船の誘導着岸をサポートするタグボートのタイプである。馬力と小回りはきくが、稼働範囲は宇宙港周囲に限られる。タレスは、不明機にプレッシャーを掛け正体を暴く為に、わざと視認可能な速度で衝突スレスレのコースにドローンを飛ばした。
 
 ジェニファーは、警報の中、接近する機体のコースを慎重にチェックした。このままの速度で直進しても、向こうがコースを変えない限り、ぎりぎりで衝突しない。だが、こちらの進路は、三機の丁度中心を抜けて行く計算になる。彼女は、捕捉されている事実を痛感した。
『何て事……。これでは、バウアーを行かせた意味が無い。作戦時間にはまだ間があるし、警告から見て、こちらの正体までは掴んでいないらしい。ここは、このままやり過ごして時間を稼ぐか?』
 この時、彼女の思考は明らかに柔軟性を欠いていた。編隊の先頭に立つ彼女は、見る見る大きくなるドローンを見据えながら直進を続けた。だがそこへ、タレスの駄目押しがかけられた。ドローンが全機一斉にこれ見よがしのコース変更を始めたのだ。姿勢制御ブースターの噴射光が、彼女達の目にハッキリと写る。三機の蒼白い航跡が螺旋を描き、その中心に編隊を捕らえる。三機のドローンが、まるで巨大なミキサーの様に彼女達を飲み込んでいく。
『大丈夫。衝突は無い!』
 だが、彼女の率いる部隊は急造編成であった。プレッシャーに負けた部下達が、スラスターに点火し、回避行動を取るべく隊列を崩してしまった。
「待て! これはブラフ──」
 言葉は届かなかった。編隊の光学擬装がバラバラに砕け散る。先頭のドローンが編隊の機影を捕らえ、急激な回避行動を取りながらすれ違っていく。
 隊列から飛び出した一機が、急接近する二機目のドローンに向けて背中の砲門を開いた。無反動砲の火線が、ドローンと交錯する。機体は木っ端微塵となり、爆風が一瞬にして彼女達の目と耳を奪う。部隊は、もはや完全に統制不能に陥った。
「うかつに散開するな! 防御姿勢、紡錘陣──」
 ジェニファーは、記憶を頼りに三機目のドローンの飛行コースを予測し、編隊を安全な方向へ誘導しようとした。だがその時、後衛の一機が、爆煙を避けようと機体を大きくロールさせ編隊から飛び出す。そこへ爆煙の中から三機目のドローンが突っ込んできた。
「曹長──!」
 確かにそれは偶然の出来事だった。ドローンの頑丈な船首が、サラマンダーのコックピットを容赦無くえぐる。閃光が走り、二機とも大爆発を起こした。
 編隊が爆圧にあおられる。各機、四脚のブースターを点火し回避行動を行いつつ、闇雲に宇宙港に向けて砲門を開いていった。宇宙港の中から、警備ロボットが次々と現れるのが見えた。
 コックピットの時計は11時50分を回ったばかりである。本作戦は、再生の光作戦に呼応して行われる。だが、その開始時間には、まだ10分近くも早い。
 ジェニファー・J・ダレル少佐は、両肩を震わせ唇を噛み締めた。もはや作戦の修正は効かない。彼女は、作戦の開始を示す信号弾を準備すると、叩き付けるように火器管制システムのロックを解除した。彼女に出せる命令は、もはや一つしか残っていなかった。
「──全機、突入せよ!」

 
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