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前頁 第4話 戦端 目次
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■ 戦端
 その一瞬の出来事に、タレス達は愕然とした。
「ありゃ何だ! 軍用機じゃないのか?」
 着弾の振動が管制センターを揺らす。
「非常警報! 正体不明機の攻撃を受けていると通報しろ!」
 室長の怒鳴り声が響く。遅れて射出されたドローンが至近で撃破され、閃光が大窓を照らす。
「ゲート・シェルはまだか?!」
「動いた! もう少し持ちこたえて!」
「おい! ここも退避した方が──」
 その時、大窓の向こうに、弧を描き飛来するミサイルが見えた。2本の軌跡が大鎌の切っ先となってドームに突き刺さる。第二宇宙港管制センターは、一瞬にして爆炎に飲み込まれた。
 
 * * *
 
「返事をしてくれ! 室長! みんな! おい!」
 エンデはホワイトノイズを返す通信回線に向かって必死に呼びかけた。コロニー施設の防災ディスプレイが非常警報を発している。第二宇宙港ドーム中央部分が真っ赤に点滅していた。
「第二センターがやられた! エンデ、保安部に連絡だ。俺は司政局に通報する。相手は半端じゃないぞ!」
 デルタ9近傍を写すセンサースクリーンに、突如艦隊の姿があらわれた。非常警報が鳴り響く中、管制官は港の警備システムをフル稼働させる。警備ロボットが全機起動し、港の内へ外へと散っていく。管制センターのスクリーンが次々と点灯し、膨大な量の情報があふれ出す。今、第一宇宙港管制センター内には、エンデを含めてもオペレータが五人しかいない。もちろん、総ての情報に目を通すのは不可能だ。エンデの脳裏に、ロビーに残してきたロアン達の事がよぎったが、今は持ち場を離れる訳にはいかなかった。
 
 * * *
 
 第一宇宙港の死角に隠れながら、ゲルト・バウアー少佐は迷っていた。
 今確認したのは、間違いなく作戦開始の合図だった。状況から見て、ダレル隊から出された物に違いない。
『まさか発見されるとは……。このままでは、こちらは遊兵になりかねん。役目を取り替えるだけの戦力は、こちらには無いぞ』
 第一宇宙港から、何体もの警備ロボットが壁を這うように次々と現れた。バウアーは、直ちに部下達へ作戦変更の指示を与えた。
「全機、突入準備。マイケルとブラドは西ウィングを強襲、EVUの発進を食い止めろ。カールは東ウィングだ。ただし、船舶は極力傷付けるな。住民の送還に使わなければならない。私は中央で管制塔を牽制する。行くぞ!」
 バウアー隊は、擬装を解除しブースターを吹かした。その途端、港外壁で捜索中だった警備ロボット達が一斉に反応し、スタンワイヤーで次々と攻撃してくる。バウアー隊は、ロボットを撃破しながら一気に第一宇宙港へと雪崩れ込んでいった。
 
 * * *
 
 到着ロビーにサイレンがけたたましく鳴り響く。ワゴン車ほどの大きさの警備ロボットが次々と現れ、何かを探すように盛んにモノアイを振り回している。
「ロアン」
「いったい、何が起こったんだ?」
 ロアンは、ほとんど反射的に、守るようにレノアの肩を抱き寄せた。目の前の信号塔によじ登った警備ロボットが、不意にロアン達を発見する。五人は、一瞬体をこわばらせた。ロボットは、五人の市民コードを認識すると、再び動き始めた。
「みんな。とにかくここから避難しよう」
 ラジェスが点滅する退避サインを指さした。その時、メインゲートの向こうに四体のEVUが躍り出た。入り口を固めていた警備ロボットが、侵入機の機銃掃射により次々と破壊されていく。一方的な破壊が、真空の港内で音も無く繰り広げられる。五人には、一瞬その光景が理解出来なかった。
「っ、野郎──!」
 ケインは、近くの手すりを足場に、西ウィングに向けて体を飛ばした。それを見たラジェスが、叫ぶ。
「おい、ケイン! どこ行くんだ!」
「決まってんだろ! 保安部のじいさん達を手伝うんだよ!」
 ケインは怒鳴り返すと、そのまま自家用機が置いてある西ウィング連絡口へと消えていった。
「しょうがない。俺達だけでも」
 そう言って振り返ると、今度はロアンとレノアが東ウィングへと体を飛ばしていた。
「ロアン! お前達まで──」
「積み荷が心配なんだ! 先に行ってくれ!」
「ア〜ン。ロアン、待ってよ〜!」
「お前らな〜!」
 ラジェスは、頭を抱えた。その時、武装したEVUが到着ロビーの目前まで迫ってきた。
「マズい。行こう!」
 ラジェスは、イリーナを強引に抱き寄せると、避難路に向けて力任せに飛んだ。
 
 * * *
 
 夏霧冴子とカワウニは、第二宇宙港麓のモノレール駅で立ち往生していた。
「乗車禁止ってのは、どういう事よ?」
「管制センターで何か起きたらしいノ。港は大騒ぎノ」
 カワウニは、案内端末から、せっせと情報を集めている。
「ちょっと待つノ……。大変ノ! 全市に非常事態が宣言されたノ! えらい事ノ!」
「非常事態?」
 冴子は、駅の外に向かって走り出した。カワウニも慌てて後を追う。外に飛び出た時、背後で飛翔音がした。振り返ると、遙か上空の進入ゲートから軍用EVUが次々と飛び出すのが見えた。冴子は素早くカメラを向け、その様子を捕らえた。全部で八機、内、数機には戦闘の傷跡が見られる。機体の側面には、白く「UN」の文字が刻まれていた。
「こりゃ、運が向いてきた!」
 冴子は嬉々としてサイドカーに駆け寄った。それをカワウニが慌ててさえぎる。
「ちょっと待つノ! どこ行くつもりノ?」
「決まってんでしょ。後を追うのよ」
 冴子は、カワウニにかまわずサイドカーにまたがった。カワウニも慌てて船によじ登り、サイドカーのコントロールを奪った。
「非常事態ノ! 逃げなきゃ駄目ノ! ガイドを仰せつかった以上、ワシには冴子さんを守る義務があるノ!」
 カワウニは必死に止めに入った。だが、そんな事に従う冴子ではない。
「だったらガイドはひとまず中止。あんたはこの辺で住民の安全確保でもしてなさい」
 そう言うと、冴子は足下の連結レバーを力一杯引いた。サイドカーの船がガコンと外れ、カワウニがバランスを崩す。
「ノ〜!」
 冴子は、カワウニを置き去りにしたまま、軍の後を追って北へとバイクを飛ばした。

 
【次頁】 あとがき&次回予告 目次
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