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 act.4 ミッシング・リンク
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「わたしはそろそろ戻るとしよう。見張り、頼んだぞ」
 小一時間ほど玉座の間の詰め所に張り込んでいたバニラは、見張りの衆に後を任せ、その場を立ち去ろうとした。その時、クマーリ門の結界が急に光り始め、誰かが森から出てくることを告げた。見張りの衆に緊張が走り、いつでも魔攻陣が展開できるよう身構える。まばゆい光の中に、4人の人影が浮かび上がった。
「さあ、着いたわよ。ここまで来れば大丈夫」
 フレア=キュアは、笑顔でゼロとメロディーに告げた。シド=ジルもだいぶ落ち着きを取り戻していた。メロディーがフレア=キュアに話し掛けようとしたとき、笑顔で近付いて来る女戦士の姿に気付いた。
「お帰りなさい、キュア、ジル」
 メロディーは思わずフレア=キュアにしがみついた。
「ただいま、バニラ首座」
 バニラはフレア=キュアの手を取ると、照れくさそうに笑った。
「その呼び方はやめて。それより無事で良かったッス。大事な体なんスから」
 バニラも、キュアが妊娠していることに気付いていた。と言うより、ジルだけが気がついていないと言った方が正しかろう。
『なんスから、って……エ〜?』
 ゼロは、バニラの華麗な容姿と言葉遣いのギャップに戸惑い、呆然と見つめていた。
「キュア。この子たちは?」
『この子って、2,3歳しか違わないんじゃないの?』
 メロディーは、バニラの言葉にちょっとムッとしたが、メロディーもまた、彼女の年齢を見誤っていた。実際にはバニラとふたりの年齢は、一つしか違わなかった。日々聖魔と戦い、死線をくぐってきたバニラには、一流の戦士としての貫録がある。それに引き替え、ゼロとメロディーは、平和で裕福な2007年を生きてきた。バニラから見て、ふたりが幼く見えるのは、仕方のない事だった。
「この子たちは、はるばる訪ねてきたジルの甥っ子なの。聖魔の森がどうしても見たいっていうから連れてったんだけど、メガカルマが出ちゃってね。ちょっと危なかったわ」
 フレア=キュアは、口裏を合わせるようにと、ゼロたちにウィンクした。ゼロもメロディーも、平然とキュアを演じる母親に呆れるのだった。
「素人を森に連れてくなんて、何て無茶を!」
「ゴメンね。その代わり、収穫もあったわ。ねえ、ジル」
「え? あ、ああ」
 フレアは話をシドに振ってみた。まだ、まともに相手が出来る状態ではないようだ。
「ジル、どうかしたッスか?」
 シド=ジルの様子を見て、バニラが尋ねた。フレア=キュアは、慌てて取り繕った。
「わたしたちを守ろうとして、ちょっとメガカルマにやられたの」
「そいつはいけないッス。すぐに医務室に」
「いや、僕なら大丈夫だ。それより早くジルの家に行って研究資料を調べたい」
 シド=ジルはゼロの助けを解くと、フレア=キュアに近付き、話し掛けた。
「分かったわ。ここはわたしが何とかするから、先に”アナタ”の家に帰ってて」
 フレア=キュアは、シド=ジルに軽くキスをすると、彼を一人で行かせた。シド=ジルは、記憶では慣れている初めての道を、まるで暗がりを歩くような足取りで歩いていった。
「えっと……キュアおばさん。ボクも父さ……ジルおじさんについてった方が良くないかな?」
 ゼロは父親を心配して、母に尋ねた。フレア=キュアはニッコリ笑うと、ゼロのおでこを指で小突いた。
「キュア姉さんって呼んでちょうだい。ジルなら大丈夫よ。それより、森での収穫をみんなに知らせなきゃ。バニラ。主立ったメンバーをキキナクの所に集めてちょうだい」
「オ、オウ。お安い御用ッス」
 バニラはジルとキュアの様子に妙な違和感を感じながら、みんなを率いて歩き始めた。

 * * *

「申し訳ありません、マテイ様」
 白い甲冑を身につけた聖霊が、白いローブをまとう聖霊マテイに対し、深々と頭を下げている。マテイは、光を失ったリオーブを見上げたまま、静かに答えた。
「過ぎたことは致し方あるまい。巡回のメガカルマは、おまえの第一軍に属したとはいえ新参者であろう。それに、これはその者の未熟で説明が付く現象ではない。気にするな、シャマイン」
 マテイは、第一軍団長シャマインに向け、軽く手を横に振った。
 頭上のリオーブは、完全に沈黙していた。輝きは枯れたままで、空気を震わすようなパワーも消滅している。だが、茎もリオーブを包む花弁も、瑞々しく生気を保っていた。
「どうなのだ、マハノン」
 マテイは、隣でリオーブを見上げている女性の聖霊に話し掛けた。マハノンは、別段動じることもなくリオーブを見ていた。マテイの問いかけに、彼女は軽くため息をついて微笑むと、腰まで伸びた長い髪と純白のドレスを微かに揺らし彼の方を見た。
「案ずるには及びません。リオーブは花が散っただけのこと。また力を貯めまする」
 そう告げると、手に持っている竪琴をそっとつま弾いた。優しい音色が立ちのぼり、リオーブへと届く。リオーブの芯に小さな光が灯った。
 再びリオーブを見上げたマハノンは、ほんの少し表情を曇らせた。
「問題は、なぜ花が散ったのか……」
 マテイは、けげんな表情をした。
「弾けてしまったのではないのか?」
 マハノンは真剣な眼差しで光を貯め始めたリオーブを見つめながら答えた。
「それならば、この森も只では済みますまい。花は見事その役を果たし、散っておりまする」
「まさか、魔攻衆どもがリオーブを動かしたとでも言うのか!?」
「あるいは、誰かがここへやってきたのか……」
 リオーブの中に、小さな光が蛍のように舞い始めた。
「フッ、まさかな。だが、意図的にせよ偶然にせよ、どこかにつながったことは間違いないということか……。他のリオーブまで散らされたのでは厄介だ。戻り、ゼブルに相談するとしよう。あいつなら何か分かるやもしれぬ。シャマイン。総てのリオーブ、警護を怠るな。これ以上、計画を遅らせる訳にはいかん」
 マテイとマハノンは、ゼロたちを召還した皇帝カズラを跡にすると、森の奥へと消えていった。

 * * *

「有り得ない! 有り得ないよ!」
 キキナクは、小さな翼をバタつかせながら、駄々っ子のようにフレア=キュアの言葉を否定した。
「ジルが倒したメガカルマが、そう言ったのよ。白いメガカルマは聖霊だって」
 神殿の中に設けられたキキナク商会のロビーには、魔攻衆の主立ったメンバーが集まっていた。居並ぶメンバーは手練れ揃いではあったが、それでも戦力不足の感は否めなかった。かつての魔攻十傑衆メンバーで出席しているのは、首座のバニラとキュアだけである。カフーは未だ森の中で、ウーとミントも傷が癒えていない。緊張の面もちで、全員がフレア=キュアとキキナクの会話に聞き入っていた。
「あのホワイト・ヴァイスは、七聖霊の一人のマテイという聖霊が、わたしたちを森から追い出すために立てた企てだって。キキナク、アンタも聖霊だったんでしょ。聖霊のことなら、アンタに聞くのが一番よね?」
「有り得ないよ! 生き残った聖霊は、ドロップアウトした僕とヤム一家だけなんだ。他の聖霊は全員死に絶えて、エルリムの奴も二度と聖霊を創れなくなったんだ。ハハッ、ざまーみろ! 聖霊の中で一番強くて一番賢くて一番美しい僕を、こんな姿にしやがって。当然の報いさ。もう聖霊は生まれっこないんだ!」
 まくし立てるキキナクの顔に、玉の汗が流れる。聖霊の復活に、相当激しく動揺しているようだ。
 キキナクは、神話の中にも登場する聖霊であった。かつて彼は聖霊アモスと呼ばれ、エルリムの命を受け、他の聖霊たちと共に様々な獣を創り出した。そして彼が座興に創った聖霊によく似た獣、それが人間だとされている。その後、聖霊マモンが人間に知恵を与えてしまい、エルリムはその知恵ある獣を忌み、アモスに交わることを禁じたという。だがアモスはエルリムとの契約を破り、人間と交わり、聖霊の力を持つ人間が生まれてしまった。その血族こそ、かつて聖魔を封じ、繭使いを支えたナギ人だとされている。契約を破ったアモスはエルリムの罰を受け、姿を変えられ鳥人キキナクとなった。そして知恵の聖霊マモンもまた、物欲に溺れたため、姿を変えられ追放された。それが森人ヤム一家だと伝えられている。
 キュアもその伝説をジルから聞かされていた。だが、当然フレアは、それが真実ではないことを知っている。2007年の世界では、4000年前の遺跡も、人類の祖先の化石も発掘されている。森の神エルリムの神話も、聖霊による人類創造も、未来の世界には伝わっていない。今ここで語られている神話の世界は、わずか千数百年の期間の消失創世の中の話なのだ。
『この世界の人たちは、神話の話を周知の事実として受け止めている。オマケに目の前には、その生き証人までいる。これは一体、どういうことなの?』
 フレア=キュアは、目の前の大きな矛盾に戸惑いながらも、キキナクの話を聞いた。
「聖霊は……あなたは本当に人間を創ったの?」
「失礼だよ、キュア。僕が土人形の君たちに命を吹き込み、人間を創ったんだ。まあ、数が多かったから、他の聖霊たちにも手伝わせたけどね。ごうつくのマモンに知恵を付けられた人間は、ゲヘナパレ帝国を作り、繁栄を謳歌したのさ。僕がこうして追放された後、エルリムと人間たちとの間にいざこざが起きて、その結果、総ての聖霊は死に絶えてしまった。ゲヘナパレも滅んだけど、エルリムの奴も、しもべである聖霊を二度と生み出せなくなったんだ。だから聖霊が再び現れるなんて事は、絶対に有り得ないよ!」
 興奮し疲れたキキナクは、肩を落としてうなだれた。
「それでも森の神エルリムは、再び聖霊を生む力を取り戻した」
「そしてそれが、マテイたち七聖霊ってことッスね」
 魔攻衆たちに動揺が走った。
「そんな神みたいな連中と戦って、勝つことなんて出来るんですかい?」
 フレア=キュアは、それに対する一つの答えを持っている。未来には聖霊もエルリムもいないという事実を。だが、今それを言ったところで、混乱を増すばかりだろう。フレア=キュアは、ゼロとメロディーを見た。事情が良く飲み込めないふたりは、キョトンとした顔でこっちを見ている。フレア=キュアは肩をすくめると、みんなを落ち着かせるために話をまとめた。
「とりあえず聖霊の話は置いといて、今は皇帝カズラに不用意に近付かないようにしましょ。おそらくメガカルマ達の警戒が強まっているはずよ」
「そうッスね。カフーの帰りを待って、それから次の手を考えるしか無いッス」
 バニラ首座の言葉で、その場はひとまず解散することとなった。

 この場をしのいだフレア=キュアは、ゼロとメロディーを連れてケムエル神殿を跡にした。魔攻衆たちと別れると、メロディーが早速フレア=キュアに話し掛けてきた。
「ねえ、ママ。あのキキナクって、遺跡で見た……」
「あなたも気付いたのね」
 フレア=キュアが微笑んだ。
「じゃあ、やっぱりここは過去なんだ」
 ゼロは遺跡での記憶と照らし合わせながら、町を見渡した。パレル歴999年。バニシング・ジェネシス末期にあたるこの時代、森の神エルリムと魔攻衆の戦いが続くこの時代、おそらく何かが起きたのだ。白蝋化したキキナク、巨樹のドーム、無人の廃墟。この神殿町は森を切り開いた場所にあり、周囲を深い森に囲まれている。だが、見上げれば青空が広がり、肝心の町中には、ドームを築くような巨木は一本も生えていない。父さんが言うように、あのドームがこの後どうやって出来るのか。そもそもここが千年前の世界だということが、どうにもしっくりこない。こんな世界が本当に過去であり得るのか?
 ゼロが釈然としない顔をしていると、フレア=キュアがふたりの肩に手を置いた。
「あなた達がもっと驚く物を見せてあげるわ」
 ケムエル神殿から真っ直ぐに伸びた大通り。それはほんの半日前、ゼロたちが通った遺跡の路であった。そしてその通りの反対側の端に、市場のような大きな建物が見える。遺跡では、樹木のドームの外にあたる場所だ。
「キキナク・ステーション?」
 キキナクをデザインした巨大な看板が掛かっている。周囲には様々な商店や屋台がひしめき合っている。店の主人やすれ違う人々が、次々とフレア=キュアに話し掛けてくる。彼女もまた、それに愛想良く応えた。声はそっくりだし、歳の差こそあれ外見もそっくりだ。だが、こうして過去の町にとけ込んでいる彼女の姿は、明らかにゼロとメロディーの知る母ではない。メロディーは急に不安を覚えた。
「ねえ、ママ。ママは、ママ……よね?」
 フレア=キュアは、一瞬キョトンとすると、ニッコリ優しく微笑んだ。
「そうね。ママはあなたたちのママだけど、同時にキュアでもあるのよ。不思議なことに、キュアとわたしは、好みや感じ方も似ているみたい。勿論あなたたちがわたしの子供だって分かっているけど、おそらくキュアとしての感情でしょう、正直、ちょっぴり違和感も感じているわ。今はママの方が濃く現れてるけど、キュアも一緒にあなた達を見てるのよ」
「それって、混ざっちゃってるってこと?」
 ゼロが不思議そうに尋ねると、フレア=キュアはニッコリと微笑んだ。
「まあ、そんなとこかしら。だから今はキュアとして、この町を案内してあげるわ」
 ゼロとメロディーは戸惑いを覚え、顔を見合わせた。
 フレア=キュアは、夕食の買い物をしながら、周りに怪しまれない程度にこの世界の生活をふたりに教えて歩いた。ゼロとメロディーは、フレア=キュアという最適なガイドによって、すんなりとこの世界に馴染んでいくことが出来た。不思議だったことは、学校の授業で教わった知識や時代劇の町に比べ、人々の服装や町の賑わいに奇妙な違和感を感じることだった。
 巨大な市場のようなキキナク・ステーションの中に足を踏み入れる。
「おう、どいたどいた!」
 ゼロとメロディーは、荷物を山積みしたその荷車を見て愕然とした。荷車という表現は正確ではない。何しろ車輪がないのだ。地面から30センチほど浮き上がり、滑るように移動している。
 ドルルルルル……
 奇妙な滑空音を残し、ホコリ一つ巻き上げずに、ゆっくりと通りへ出ていく。
「タイヤが無い。浮いてるよ、あれ」
「ヤダ、ウソ!」
 今度はメロディーが壁の方を見て驚いた。一見、人がいる案内ブースの列だと思ったそれは、完全な三次元映像による通信施設だった。幾人もの商人たちが、空いたブースを見つけては、どこかの商談相手を呼び出し、交渉している。
「こっちはもっと凄いわよ」
 フレア=キュアは、驚くふたりの肩を押し、建物の奥へと導いた。
 ゼロとメロディーには、そこが何のための場所なのか分からなかった。何やら石とも金属とも付かない材質で出来た少し高い大きな台が、横一列に並んでいる。そこをキキナクの下僕であるトリ男たちが、何やら指示を出しながら行ったり来たりしている。
「ほら、あそこを見ててご覧なさい」
 フレア=キュアが3番と書かれた大きい台を指さした。何もない台の上に光が現れ、それが台の上一杯に広がったかと思うと、中からさっきと同じ荷車が現れた。
「あれは他の町と繋がる転送装置。ここはキキナクがゲヘナパレの遺物を発掘して作ったターミナルステーションなの」
 どれもこれも2007年には無い技術ばかりである。荷物を抱えた行商人や他の荷馬車が、次々と台に乗っては消え、また現れる。
「こんな過去なんて……」
「どうなってるんだ、いったい」
 呆然とするふたりの肩を抱くと、フレア=キュアがため息混じりに笑った。
「その答はパパに聞いてみましょ。きっと今頃、夢中になって調べてるはずよ」

 ジルの家は、研究資料で溢れかえっていた。
「考古学者ってのは、今も昔もおんなじだな」
 ゼロは辺りを見回しながら苦笑した。石版、標本、タペストリー。ガラクタにしか見えない物が、所狭しと並んでいる。自分の家もシドの研究資料でごった返している。ゼロは、父とジルの共通点を見て、この家に親近感を覚えるのだった。
「ちょっと、ゼロ。アンタも手伝いなさいよ!」
 メロディーは、フレア=キュアの手料理を運びながら、ゼロに怒った。
 シド=ジルを研究室から連れ出し、夕食を囲んだ。家族四人、過去に飛ばされてから、ようやく持てたくつろげる時間だ。キュアのレシピにフレアのアレンジを加えたご馳走が、テーブル狭しと並んでいる。
「こういう時は、美味しいものを沢山食べて元気を出すのが大切なのよ」
 ゼロもメロディーも、母の手料理を元気に食べ始めた。一家はこの家で暮らすことにした。キュアの家は別にあったが、まあ問題は無いだろう。当面の生活基盤が確保できたことで、一家の心配は当然今後のことに向けられる。
「それで父さん。ボクらの時代に帰る方法は、何か見つかりそう?」
 ゼロはなるべく深刻にならぬよう、自然に質問した。シド=ジルはちょっと苦笑いした。
「そうだね。今のところ、これといった方法は見あたらないよ。ただ、ここの歴史を紐解くと、信じられないような出来事が沢山出てくる。古代超文明や神の力、聖魔や聖霊、それに異次元の森。きっとヒントになる物があるはずだ。どっちかというと、これはママの専門領域だけど、どう思う?」
「まずはあのリオーブね。わたしたちが光に包まれた遺跡の部屋、あそこはケムエル神殿の玉座の間に間違いないわ。そしてこの世界の玉座の間は、時空の狭間の森へと繋がっている」
 フレア=キュアは、辺りを見回し紐を見つけると、それを両手でピンと張って見せた。
「2007年の世界とこの世界が、仮に時間という一本の紐にある二つの点だったとすると、この紐のまわりにあるのが時空の狭間。あのリオーブが、もしこの二つの点をくっつける力を持っているとしたらどうかしら?」
 フレア=キュアは、紐をたるませ、つまんだ両手をくっつけて見せた。
「じゃあ、森に入ってリオーブを見つければいいんだ」
「でも、どうやって動かすの?」
 ゼロとメロディーの疑問にシド=ジルが答えた。
「リオーブは森に沢山あるよ。ただ、その動かし方は分からない。ママ、あのときママの体から光が出ていたけど、あれは何かの術なのかい?」
「それが、キュアは何もしていないのよ。蛾男の攻撃で体が痺れて苦しんでいただけ」
 食卓に重い空気が流れ始める。それを跳ね返すように、ゼロは勢いよく焼き魚にかぶりついた。
「ま、何とかなるさ。とにかく腹ごしらえは、しとこう。美味しいね、これ」
「そうそう。別にケガした訳でもないし。そのうち何か見つかるわよ。楽勝楽勝」
 ゼロとメロディーは、残りの料理を美味しそうに平らげていく。シドとフレアは、愛するわが子たちを優しく見つめながら微笑んだ。

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