All I Need is…
〜 Ralph -ZERO- 〜
written by KAZMI SAKUMA                                                4/7

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 陽が傾きかけた頃、ラルフ達は街の南西を流れている川のほとりにいた。
 終日、のんびりと釣り糸を垂れながら、とりとめもなくいろんな話をしていた。
 家族のこと、街のこと、好きなもののこと、そして――将来のこと。
「ちぇっ! 結局なぁんにも収穫なしかよ」
 気が付いてみればすでに餌はなく、魚籠の中身も空のままだった。二人は諦め顔で、
そのまましばらく川面を眺めていた。
 少しずつではあるが、しだいに空と川面とが暁に染まっていく。
 そんな時ふとラルフの目に映ったのは、程近い浅瀬に映る淡い光だった。
 くるぶしほどの深さの川底から、ぼうっと青白い光が洩れているのだ。
「なんだ、あれ?」
 ラルフは長靴を履いたまま近づくと、川底から光の源をすくい上げた。
「あ! これって…」
「天蒼石じゃねーか!!」
 顔を寄せたカティアが驚いて声をあげる。
 ラルフの手の中で淡い光を放っているのは、天蒼石の原石――その名が示すとおり、
磨くと深く美しい青色に輝くため、貴石の中でも珍重されている部類に入る。
 また、この石は魔力を宿し易いとも言い伝えられており、それが為に買い求める人間も
多いと聞く。
 原石はかなり大きく、ラルフたちの握り拳ひとつ分ほどの塊だった。
「へぇっ! ここいらじゃめったに見つからないんだぜ、これ!!」
「鉱山の方から流れてきたのかな。なんだかキレイだよね」
「ああ、んじゃこれが今日の戦利品ってことだな。俺たちで分けちまおうぜ!」
 そう言ってカティアが手近にあった鋭利な石で衝撃を加えると、柔らかな天蒼石はさして
抵抗もなく真っ二つに割れた。
「よし。帰ったら、なくさないように加工してやるよ」
 カティアは空の魚籠に、割った原石をしまい込んだ。
「カティア、そんなことできるの!?」
「あったりめーだろ! 俺、商売のことなんかは分かんねぇんだけどさ、こういうのは割と
得意なんだぜ」
 カティアは、器用さには自信があるんだ、と少しばかり誇らしげに笑った。





「おっそーい!!」
 空がすっかり夕闇に包まれた後、家へと戻ったラルフを待ち受けていたのは保護者
二人だった。当然のごとく、エマから説教を食らうことになる。
「暗くなる前には帰れって、いつも言ってるでしょ!? ホントにあんたってば――」
「エマの場合は心配の度が過ぎますわね。
どうせお友達の家で、食事でも頂いてきたのでしょう?」
 自分の役割と心得ているのか、横合いからサーリアが優しくなだめに入る。
「あ、うん。そうなんだ。おばさんが夕飯食べて行きなさいって用意してくれて。
カティアもマーサもね、いつも三人だけだから人数は多い方が楽しいって言うし――」
 ひとしきり言い訳めいたことを呟いたラルフは、少し首をうなだれて言葉を続けた。
「でもごめんなさい、遅くなって……」
「…無事に帰ってきたなら、それでいいわ」
 大きく溜め息をつき、そのまま背中を向けてしまったエマ。
 ラルフは居心地の悪さを感じていた。だが同時に少しくすぐったい気持ちもあった。
 普段どれだけ憎まれ口を叩いても、やはり心配してくれたのだ――そう思うと嬉しくて。
「大丈夫、照れ隠しよ」そうこっそりと耳打ちしてくれたのは、サーリアだった。

「だ・れ・が・よ!!」

 エマは後ろを向いたまま、強い口調で否定の言葉を述べた。
「浮かれるのもいいけど、その分『術』が甘くなってるっての」
 肩越しに少年を一瞥したエマが、ぽそりと呟いた。
「…ったく、見えてるわよ、耳としっぽ」
「え!? ホント!?」
 ラルフは慌てて別室の姿見の前へと確かめに行った。
「ふん、からかい甲斐のあるヤツ」
 からかうような表情でぺろりと舌を出し、サーリアと話していると、すぐに駆け戻ってくる
足音が聞こえてきた。
「ひどいよ!! 見えてないじゃないか、エマのいじわる!」
 思い切り頬を紅潮させて戻ってきたラルフを見て、保護者二人は揃って吹き出した。
 それは決して嘲笑などではなく、包み込むような暖かい空気だった。





 夜半、エマは自室の小さな灯かりの下で鏡を見つめていた。
 生業としている占いに使っている小道具だ。
「これで……やっと元どおりかしらね」
 鏡を掲げ、エマは満足そうに微笑む。
 ラルフに踏みつけられ、更に自分も腹立ち紛れに乱暴に扱って広げてしまった亀裂も、
ようやく修繕できた様子だ。
 それを片付けようとして立ち上がった時、突然、鏡から激しい光が放たれた。
 エマの瞳が驚愕に見開かれる。

「な…っ!! これは――!?」

 次第に収まっていく光の向こうに映っていたのは一面の赤だった。
 燃え盛る焔。
 崩れ落ちる数々の柱。
 床に流れ出している鮮血。
 そして炎の海の中、血に染まって倒れている人影。
 全く生気のないそれは――。

「ラルフ――!?」

 エマは慌てて鏡を手元に寄せたが、それらの情景は既になかった。始まった時と同じく、
突如として掻き消えてしまったのだ。
 残っているのは先と変わらぬ鏡だけだ。

(今のはいったい……何だっていうの――?)

 エマは胸の中にじわりと不安が広がっていくのを感じていた。


...to be continued → Ralph -ZERO・5-

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