All I Need is…
〜 Ralph -ZERO- 〜
written by KAZMI SAKUMA                                                6/7

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 辻を曲がり、ようやく着いた――そう思った瞬間、ラルフは我が目を疑った。
 見慣れていた白茶色の外壁は跡形もなく、真っ黒に焼け焦げた建物の残骸があるばかり
だったのだ。
 訳の判らぬまま、ラルフは友人の姿を探した。
「カティア!? マーサ!? ノイラ!? どこだよ!?」
 幾度も人込みを掻き分け、どれだけ大声で呼ぼうとも返事は聞こえなかった。
 辺りを見回すうちにふと目に入ったのは、焼け跡の傍にいた一団だった。
 彼らは二・三人組みで大きな包みを運ぼうとしているところだ。
 風に煽られて包みの端がはらりと捲れた。そこから覗いたのは赤黒い小さな塊。
 それが人間の――子どもの手だと判ったのは、だらりと腕全体がぶら下がったためだ。
 そのはずみで、何かが地面に転がり落ちたようだ。
 ラルフは息を呑んだ。不安が全身を駆け巡っている。
 きっと違う! 絶対に違うんだ!! そう思いながらも不安の方が大きくなるのが自分でも分かる。
 まさか?
 まさか!?
 まさか――!!!
 ふらふらと引き寄せられるようにして、焼け跡の傍へと近づいて行く。
 それが変わり果てた友人の姿だなどとは考えたくもなかった。
 しかし――。
 そこに転がっていたのは紛れもなく、あの日、半分に割った天蒼石だったのだ。

「カティア――――――――――――――――ッ!!!」

 友人の名を呼びながら駆け寄ろうとするラルフを制したのは、先に駆け出していた騎士
だった。
「やめときな、坊主」
「でも…!!」
 なおも近づこうとしてもがくラルフを片腕で押し留め、低く強張った声で警告する。
「見ないほうがいい」
 その場で押し問答をしているうちに、さらに集まってきた野次馬たちの話し声が耳に
入るようになった。

『ひでェもんだってなぁ。メッタ刺しのうえに火ぃまでかけられちまって』
『何年かぶりに旦那が帰ってきたと思ったら、母子三人道連れだなんてねぇ…』
『朝から立て篭もって、終いにはこれかい? 何てこった……』
『ノイラも男運がなかったのかねぇ……可哀相に…』
『子どもたちはもっと可哀相だよ。まだこれからだったのにさ』

 それを聞いたラルフは、見る間に蒼ざめていく。

(…あ……さ…!? そんな…!!)

 今朝、いつものように開店する頃に訪ねて行くと、店は閉まったままだった。
 あの時既に、この惨劇が始まっていたというのだろうか?

(じゃあ……それじゃあもしかして、僕が行った時には…まだ)

 店の扉を叩いても、中からの返事は聞こえなかった。
 しかし、動けない状態で必死に助けを求めていたのだとしたら?
 今しがた目に飛び込んできた小さな腕が――焼け爛れて判別すら難しいほどの赤黒い
塊が、目に焼き付いて離れない。

(これは……この状態は、僕が気付けなかった結果……!?)

 ラルフの全身から急激に力が抜けていく。
 視界からは色彩がなくなり、目の前がすうっと暗くなる。
「おい、大丈夫か坊主? おい!?」
 腕の中でおとなしくなったラルフを心配している騎士の声も、既に耳には届かなくなって
いる。
 両膝がガクガクと震え、騎士の支えがなければ立っていられない状態だ。

―― ボ ク ガ ア ノ ト キ キ ヅ イ テ イ レ バ ――

 ラルフはうわ言のように呟きはじめた。
 見開いた瞳には変わり果てた友人の姿しか映っていない。
「……よ…う………どう…し…よう……僕の…僕のせい…だ…僕……」
「坊主?」
「…くが…僕が……気づいてたら…こんな…こ…なことに…は……」
 騎士の外套を力いっぱい握り締め、必死で精神のバランスを保っている。

「気が付いていたら、一体何ができたって言うの?」
 人込みの中から突然現れたのは、黒いベールを頭から身に纏ったエマと、旅装のサーリア
だった。ベールが風に揺れるたび、黄金の髪の輝きが見え隠れする。
 他人の目を気にしているような余裕もなかったのだろう。
 エマがラルフの頬にそっと手をやると、次第に色を取り戻し、焦点が定まり、ようやく
目の前に立っている養い親を見上げることが出来るようになった。
「エマ……だって…だって僕が……!!」
「じゃあ聞くわ。今のあんたがこれだけの焔を消せたっていうの?」
「……ううん」
 ラルフは力なく答える。
「刃物が怖くないの?」
「……怖い」
「それなら、もしも事前に気が付いていたとして、あんたに何ができた?」
 悔しそうに下唇を噛んでいるラルフ。
 血が滲みはじめた時、吐き捨てるように答えた。
「ないよ……何にもないよ! そんなもの……!!」
 目の端にうっすらと涙を浮かべている。
「……ィア……カ…ティア……!」
 ラルフは友人の名を繰り返し呟いた。
 これが引き金となったのか、ようやくひとすじの涙が頬を滑り落ちていく。
 友人との永の別れを実感したかのように。


...to be continued → Ralph -ZERO・7-

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