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どこからか、風に乗って歌声が聞こえる。
いったい誰が歌ってるんだろう?
歌詞はよく分かんないけど、すごくきれいな歌。
でも、寂しい歌だ。
そういえば、僕はいったいどこにいるんだろう?
フワフワしてて、すごくいい気持ちなんだけどな。
おーい! 誰かいませんか――!?
あ、いたいた!!
なんだ、すぐ側にいたんじゃないか。
声掛けてくれればいいのに。
ほらぁ、光の洪水だ! キラキラしててきれいだよなぁ。
ね?
あれ、なんで先に行っちゃうのさ?
ここ歩きづらいんだもん。
待って! ねぇ待ってよ!! 待ってってば!
カ――…
「――ティア!!」
◇
ラルフが気付いた時、最初に見たもの――それは自分の部屋の天井だった。
「あ……ゆめ…?」
「やっと目が覚めたみたいね」
突然掛けられた声に驚き、慌てて上半身を起こしてみると、エマがベッドの傍に腰を
降ろしていた。
(エマ、いつからいたんだろう?)
少しすっきりした頭で考えようとした時、微かに歌声が聞こえてきた。
ついさっき、夢の中で聞いた旋律だ。
「歌……どこ…?」
ラルフの呟きを聞いたエマは、部屋の窓を開けた。
視線の先にはサーリアが居る。木漏れ日を浴びながら、高く艶のある声で歌っているのは
古の鎮魂歌――。
「サリィだったんだ」
「そう。ノイラとその子どもたちの為にね」
「え……?」
エマは少し辛そうな表情でラルフに尋ねた。
「ラルフ。あんた昨日のこと、一体どこまで覚えてる?」
「どこって……何…」
何のことだ――そう答えようとしたラルフの脳裡に、友人の惨状がまざまざと蘇えってきた。
覚えているのは焼け焦げた建物と、見る影もない友人の姿――。
思い出すだけで、パタパタと涙が拳の上に落ちて行く。
「ショックが強すぎて気を失ったんだけど……その様子だと覚えてるようね。良かった」
「よかった!? 何が? 覚えてることが?」
ラルフは弾かれたように一気にまくし立てる。
「こんな苦しいこと、忘れてた方がマシだった! ううん、ずっと忘れていたかったよ!!」
そう言って抱きかかえた枕に顔を埋め、声を上げて泣きはじめた。
エマはそっとラルフの頭を撫でてやり、静かに言い聞かせる。
「…好きなだけ泣き明かせばいいわ。涙が出るのは、心が痛みを受けてる証なんだから」
「……っ…く…」
「でもね、悲しいからって、このことを――大切な人のことを忘れてしまわないで」
少しだけ落ち着きを取り戻したラルフは、この言葉に反応した。
「だ…けど……っく…思…だすと……苦し…ぃんだ……」
涙を抑えようとして、必死で言葉を紡ぎだしている。
エマはこの養い子の肩を抱き寄せて、コツンと自分の頭をくっつけた。
「嬉しかったこと、楽しかったことをいっぱい覚えていればいいわ。
悲しいこと、苦しいことは心の片隅にしまっておけばいいだけのことよ。
あんたにならきっと、時が味方してくれるでしょう」
「……」
「大丈夫、あんたは強いわ。あたしなんかよりも遥かに、ね」
この言葉を聞いた後、ラルフは再び眠りへと落ちて行った。
◇
ラルフがようやく部屋から出てきたのは、それから更に三日後の朝だった。
顔を合わせるなり、真剣な表情でエマに問い掛ける。
「ねぇ、僕は……僕には何ができるようになる?」
少年の眼差しは鋭く、固い意志を秘めていることが感じられた。
これにはエマも真剣に答えを返す。
「何でも――と言いたいところだけど、それはこれからのあんた次第。でしょう?」
「……うん!!」
しっかりと前を見つめて、ラルフは肯いた。
「僕、もうこんな苦しい思いはしたくないんだ。
もっともっといろんなことができるように、大切な誰かを助けられるようになる、絶対に!」
これが始まり。
少年はこうして、自分の道を探すための第一歩を踏み出したのだ――。
FINE
...Thanks A Lot!! → あとがき