「そして結局――あの人の言うとおり、あたし達には何も出来なかったの…、何も」
エマは《主》が消えた瞬間を思い返していた。
一人の消滅と一人の復活、そして、何も出来ずに泣いていただけの自分の姿を……。
二人が光の渦に目を細めて見守る中、それまで地面に横たわっていた娘が身体を起こす。
己れの身に何が起きたのかも解らぬ様子で――。
◆
そこまで一息に話してしまったエマは、ふと振り返ってラルフの顔を覗き込んだ。
「――ラルフ?」
いつしか、少年は深い眠りに落ちていたようだ。気持ち良さそうに寝息を立てている。
「何だ……眠っちゃったの?」
エマは小さなため息をもらした。
それからラルフを起こさぬように、そぉっとベッドから降り、灯りの小さくなった手燭を
掲げ、古びた扉を慎重に開ける。
「おやすみ。良い夢を…」
エマはそう呟くと、ラルフの部屋を後にした。
◆
…トントントン……階段を降りながらも、エマは話の続きに思いを巡らせていた。
(でも……いまでも彼女は探し続けてるのよ。彼を救けられる人間を――……)
コトッ。
階下で人の気配がしたのは、その時だった。
手すり越しに階下を見下ろすと、家の入口付近に白くボウッっとした人影があった。
頭からすっぽりと、マントで覆っているのだ。
「サーリア…?」
エマの呼びかけに気付いた人影は、頭部のフードをパサリ…と後ろへ落とした。
現れたのは漆黒の髪をした美しい少女――《主》に助けられたという件の娘である。
サーリアと呼ばれたその少女はエマを見上げ、諦めと悲しみの入り混じったような顔で、
こう告げた。
「ただいま…。またダメでしたわ」
エマは少しの間瞳を閉じ、静かに呼吸を整えた。そして、努めて落ち着いた声で、サーリアを
迎え入れようとする。
いつとも、どことも知れぬ道を探す彼女の心が、少しでも安らぐようにと。
「――……お帰りなさい……」
こうして使い慣れている言葉を口にした。
彼女と出会って以来、幾度となくそうしてきたように――。
FINE
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