PART W
10月前半
とうとう間に合わなかった!羽の状態がますます悪くなってしまったのである。朝起きてカゴを覗くと1枚、2枚と落ちているし、ちょっとバタバタッとはばたくと3枚、4枚……そして、嬉しいしいことにこのごろよく羽づくろいをするようになったのだが、羽づくろいをすると5枚、6枚、7枚……と抜けていく。毎日毎日、その日抜けた羽を見つめては1枚、2枚……と数えていると恐ろしくなってくる。まるで番町皿屋敷のお菊さん状態である。今に全身丸裸になってしまったらどうしよう……。当然のことながらまるで飛べない。同じ部屋で飼われているウズラの方がよっぽど上手に飛ぶ。ウズラに負けるホトトギス!ああ、情けない。とにかくこれではとうてい放野はムリである。越冬をかんがえなくては……。
 |
|
 |
| 付け根はボロボロ! |
|
風切もスカスカ! |
 |
|
 |
| 新しい尾羽もズタズタ! |
|
抜け落ちたり折れたりした羽−最悪! |
 |
| 木の皮の裏にひそむミルワームを探す |
とはいえ、黒棒は幸せな鳥である。まあ、人間の手に落ちたことは最大の不幸といえるのだろうが、こんなにみんなに心配してもらい、餌のお世話になっている鳥もいないだろう。ここで少しこのころの黒棒の餌のことについて触れておこう。毛虫ばっかり食べているヤツだから私一人ではどうしても集めきれない。もちろんぜいたくは言わせず、他の虫もできるだけ食べさせてはいるのだが、センターの掲示板にポスターを貼っておいた。「黒棒の餌が足りません。特に毛虫類が欲しいのです。つかまえたらぜひ冷凍しておいてください。」何日か後に冷凍庫を見るとあるわあるわ、さまざまな毛虫がいっぱいである。その後もどんどん集まっているという。しばらくセンターに行けなかったらたまりすぎてしまった。そこで仲間のボラさんに宅急便で送ってもらうことにした。次の日、早速届いた荷物を見て笑ってしまった。何しろ宛名が「○○黒棒様」になっていたのだから!しかし、箱を開けたらギャッと叫んでみんなひっくり返った。30匹ほどの“ぶざまな毛虫”が生きたままでウニウニとうごめいている!イラガの幼虫だ。実は以前にもこれを捕らえたことがあるのだが、黒棒はメ
チャクチャ気にいったのである。本当に有難い。他にもさまざまな毛虫やイモムシ、バッタや蛾、トンボなどの「冷凍食品」がいろいろ入っていた。カマキリなどは一度冷凍したというのだが、配達中にしっかり生き返り、いっしょに送られたバッタに喰らいついていた。この生命力が野生というものなのだろう。
 |
黒棒のお食事の痕
エンマコオロギの脚と頭
|
強制給餌していたころはどんな虫でも食べたが、自分で食べるようになると好みがうるさい。親ミルワーム程度の小さく柔らかいものなら食べるが、その他の甲虫類はほとんど食べない。コオロギ、バッタ、トンボなども決して好きではない。柔らかいところをほんの少し食べて、あとは食い散らかしている。蝶や蛾はモンシロチョウ程度までの小さいものなら好むが大型のものは胴体だけしか食べない。せっかく「オオミズアオ」を捕らえてきてやったのに、半分しか食べなかった。頭だけ残したのだ。(羽はあまり粉っぽかったので、最初から切り落としてやった)抵抗なく食べたのは、小さいトカゲやヒルである。柔らかいものばかりを好む。ジジムサイ!
わが家で冬を越すことに決まったものの、放野するためには自力採餌できなければ困る。あるとき公園で低いところに集団でくっついている毛虫たちを見つけた。しめしめ、コイツらに訓練台になってもらおう。早速やっこらさとケージごと持ち出し、その木のところへ。黒棒のケージは前が大きく開くのでそこからその毛虫のついた枝を差し入れ、また戸を閉じておく。その時うっかりその枝がはじけてしまって、毛虫がバラバラッといっせいに落ちた!うへっ!もう死にたいほどの恐怖!私はホントは毛虫なんて大大大ーーーっっ嫌いなんだよぅ!
しかしこれも黒棒のためだ。また拾って葉っぱの表や裏に這わす。鳥肌が立つ!止まり木は少し後ろにして、枝に飛び移らないと捕れないようにしておく。黒棒はずいぶん驚いたようだ。バタついたりはしないが、目がまん丸になってさかんに首をひねっている(本当によく首をひねる鳥なのだ)。毛虫がいることにはすぐに気付いたようだ。しかし、捕りにはいかない。じーっと睨みつけたまま相変わらずどってぇんである。待つこと30分ほど。もうだめかと諦めかけたとき、不意に枝に飛び移り、食べてくれた!
 |
|
 |
| 公園の木の根元で採餌訓練 |
|
旨そうな……どうやって食べるんだろ |
 |
目の前にいるんだけど……
うーん、よだれが…… |
PART Xへ
野生鳥獣トップに戻る
ホームに戻る