10月後半
うちで越冬させることが決まったので、餌をどうしようかと悩む。ホトトギスは何度も書いているように毛虫が大好物の鳥である。しかし、冬の間は毛虫はとても十分ではないだろう。何とかして人工餌にも慣らさなければ。そこで、他の施設ではどのようなものを食べさせているのか聞いてみることにした。ところが、5箇所の施設に聞いてみたのだが、ホトトギスについての情報は全くなかった。そんなに珍しい鳥とは思わなかったぞ!それでもカッコウやツツドリの例は少しあったので、それを教えていただいた。まず、餌はそのほとんどがすり餌とミルワームということで、これは少々意外だった。その他にとても参考になったのは、小松菜を食べさせている施設が1箇所だがあったこと、暖房をしている施設があったこと、また脚に怪我をさせないよう気をつけることなどであった。
部屋の隅に作った止まり木でくつろぐ黒棒
しかし、すり餌だけではどうも心もとないように感じられて、ある獣医さんが、ムクドリを育てるのに使っているという「ラウディブッシュ社(米)」のペレットと、オオルリなどの餌として一部で評判のよい「クラウス社(独)」の乾燥虫を原料とした餌も混ぜてみることにした。それから、ミルワームはもちろん自宅でいろいろな餌を使い飼い直したものである。
また、青菜は使っている施設もあった反面、虫食の鳥に野菜は消化がよくないのではないかという意見もあり、迷ったのだが、本人に決めさせることにした。つまり、少し与えてみて、その様子で決めようということだ。最初は小松菜のみじん切り。これは意外にもすぐに食べた。ニンジンは四角く切ったものは食べなかったが、刺身のツマのように細長く切ると、虫に見えるのか抵抗なく食べた。例のごとく、ビシバシと止まり木にたたきつけ、(このときに、ニンジンは固いものだから、けっこう折れてしまって行方不明となる。黒棒は呆然として下をのぞいている)さんざん振り回してから飲み込む。そのうちに四角く切ったものも食べるようになった。どうやら野菜はとても気に入ったらしく、小松菜などは餌入れに混ぜていると、それだけを最初に取り出して食べてしまうようになった。毛虫は一日中葉っぱばかり食べているのだから、やはり体中が葉っぱの成分みたいなものなんだろう、だから葉っぱをたくさん食べたって同じようなもんだろう……と勝手に考える!我ながら強引な説だ。フンの具合に気をつけていたが、今まで尿酸がとても多いようで、真っ白なフンばかりだったのが 、少し黒いところが混ざるようになってきた。全体に今までより調子がいいようである。そういうわけで野菜もこれからずっと入れてやることにした。
その後、黒棒が食べた野菜の種類は非常に多い。小松菜、ニンジン、ハクサイ、大根、パセリ、シソ、トマト、サラダ菜、レタス、インゲン、ブロッコリー、ニラ、チンゲンサイ、などである。果物ではリンゴを特に好む。
また、野菜ばかりでなく、ゆで卵の黄身もときどき加える。また、カルシウム不足をふせぐため、インコ用の「イカの甲」を削って週に1度混ぜている。しばらくこの餌で続けてみたい。
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| これらとミルワームを混ぜ合わせると…… | このような混ぜご飯の出来上がり! | |
人工餌に餌付くかどうか心配だったが、幸い黒棒はピンセットで目の前に出されたものは一応くわえる性格がある。そこでこのぐちゃぐちゃ混ぜご飯を少しピンセットでつまみ、口の前に持っていく。条件反射のようにくわえ、そして条件反射で振り回し、たたきつける! あ〜ぁ、ぜんぶ吹っ飛んだ!
それでも少しずつ食べさせているうちに味を覚えたようだ。次はぐちゃぐちゃご飯を小さな容器に入れて目の前に突き出してやる。中のミルワームにつられて食べた。それからはえさ箱に降りてきて、この人工餌もつつくようになった。が、はっきり言えば、吹っ飛ばす量の方が多い!まあ、しかたないだろう。少しでも口に入ればよしとしよう。しかし、やはり基本的には虫の方がずっとよいらしく、ミルワームやその他の虫をすべて食べてしまい、次に野菜も全部食べてしまい、それでもどうしてもお腹がすくと、しかたなくすり餌もついばむという具合である。
11月
くちばしのまわりに以前出血を見たことがあったが、このごろまた荒れてきている。突然血がにじんだり、羽の生え際が後退してしまったりしている。どんどん後退して、ハゲタカのようになってしまったらどうしよう!? いろいろと調べたり相談したりしてみるが、どうもはっきりした答えは得られない。何か栄養素が足りないのだろうとは思うのだが……。ビタミン剤は今までもミルワームを漬け込む液に溶かして使ってはいたのだが、別の種類のビタミン剤を処方してもらい、餌に混ぜる。また、ヨードを飲み水とミルワーム漬け込み液に混ぜる。しかし、あまりはっきりした効果は得られていない。
どなたかよいご提案があれば教えてください!
12月
どんな動物にもお日様の光は大切だろう。そう思って積極的に日光浴をさせていた。ただ、何しろ寒がりの夏鳥なのだから、外に出すのは一番暖かい12時頃から2時頃の2時間以内。もちろん快晴の暖かい日を選ぶ。しかも暖房を入れたままである。お日様の光が当たると同時に黒棒はパーーッと羽を広げる。ちょっとでも曇るとサッと羽を閉じ、またお日様が当たるとその瞬間にパッと羽を広げる。精密なセンサーのようである。やはりそれだけ太陽を必要としているんだろう。ところが、ある日、その日光浴の最中に下に降りて丸まっているのに気付いた。そういえば昨日も2回ほど床に下りていたっけ……何となく異常を感じ、あわてて中に入れる。そして取り出し、胸をさわって驚いた。このところ10日ほど胸の肉を調べていなかったのだが、げっそりと落ちている。体重も明らかに減っている。2日ほど前からちょっと食欲が落ちたなとは思ったのだが、それほど目立つものではなかったし、ミルワームはよく食べていたのであまり気にしていなかったのだ。だが、実際は思った以上に食欲不振であったらしい。
あわてて保温と高栄養を維持させることに努める。カメのザビエルさんに、彼が使っている暖房を一時貸してくれと頼んでみる。彼は親切なカメなので快く貸してくれた!それから、栄養を取らせたいが、どうしようかと悩む。幸いまだ完全に食べられないわけではなく、ミルワームや毛虫はよく食べる。そこで、とっておきの冷凍毛虫をごっそりごちそうすることにした。これは秋のうちに他のボランティアさんたちの協力もあり、いくらか集めて冷凍しておいたものである。何しろ長い冬の貯えなので、1日に1〜2匹ずつケチケチと使っていたものだ。しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。ゴソッと掴み、解凍する。解凍といっても、レンジなどは使わない。ただベランダにころがしておくだけだが……。
とっておきの冷凍毛虫
それから、ミルワームである。普通ならリンが多いのであまりたくさん食べさせるとよくないと言われているが、とにかく今は体重をもとにもどしたいので、これもゴソッとやる。ただし、ミルワーム漬け込み液の中にもう少しビタミン剤を追加し、ついでに病鳥用の粉末餌も追加する。良いのかどうか分からないが、はっきり言って誰にも分からない。試してみるだけである。獣医さんと相談しながら様子を見る。ここまでやったらあとは膝を抱えて眺めているしかない。黒棒は思いきり羽を膨らませてウトウトと眠り続けている。イヤな予感が頭をよぎる。
黒棒のケージ。
止まり木で脚を傷つけないように、止まり木に包帯を巻いている。これで、止まり木の太さも少し太くすることができる。カバーつきヒヨコ電球を2つ入れたので少し狭くなってしまった。
毛虫が解凍できたので、与えてみるとすぐに寄ってくる。これはよい兆候だ。しかし、例のごとくビシバシビシバシをいつまでも続けているので、それだけでくたびれてしまうらしい。毛虫を口にくわえたまま、また眠り始めてしまった。そこで、毛虫を短く切って食べやすいようにしてやった。あまり気持ちのいい作業ではないが、黒棒のためだ。毛虫を切っていると、突然天啓を得た!!冷凍毛虫は中がスカスカになっているのである。ここに栄養のある餌をつめられないだろうか。我ながらとんでもない発想だが、大きめの毛虫を選び、早速その作業にとりかかる。上記の混ぜご飯に病鳥用の粉末餌も混ぜ、それを練って毛虫の中に詰め込む。根気のいる作業だが、1cmほどの長さの詰め物料理をたくさん作って黒棒に供する。彼はやはりビシバシをやって、人の苦労の半分は吹っ飛ばしてくれたが、それでもかなりたくさん彼の胃袋に納まったと思う。
2日、3日とたつうちに黒棒は徐々に回復していった。もう危機は脱したといってよいだろう。あの詰め物料理が意外によかったのかもしれない。しかし、あれを毎日作る時間はない。今はもとに戻している。しかし、病鳥用の粉末餌は今でも餌に混ぜているし、ミルワームは少し多めに与えるようにした。また暖房は20Wだけだったのだが、60Wのものも入れた。こうしておけば天候によって20W、60W、80Wの3段階に切り替えることができる。さらに、ミミズも時々しか与えていなかったが、これからしばらくは毎日与えてみることにする。飲み水にも若干の栄養剤を混ぜる。それから体重はもっと頻繁に量るように気をつけたい。以上が今回得た教訓であった。この餌でしばらく続けてみて、また何か問題があればその時に考えてみよう。