また地図を見ながらゆっくりとバーボンを飲んでると向こうで異常に盛り上がっていた男どもが、その女の子の方に近付いて
きてしつこく一緒に飲もうと、誘ってきた。女の子が無言のまま首を横に振ったが、それでもなおしつこく迫る。
それも狂った完璧な酔っぱらいと化して。

僕もいい加減、情けなくなってきた。こんな馬鹿な野郎と一緒にここにいることが。そのうち酔っぱらいの1人が勢い余って
僕の脚にのしかかってきた。
この時、僕の頭のどこかで「ぷちんっ!」と音がした。そしてとうとう言ってしまった。「てめーらうるせーんだよ。
嫌がってんだろう。いい加減にしろよ!」と。
隣の関西男と言えば、手をたたいて喜んでいる。関西弁でしきりに僕を褒めちぎる。どいつもこいつもどうなってんだ。
別にその女の人にいいところを見せるつもりでもなく、変な下心もなかった。僕も女性ツアラーとの出会いがあれば、
それはそれで、いいなと思う。僕も女は嫌いじゃないから、男はつらいよの寅さんの様な旅先での、
何とも風情がある出会いはあこがれてしまうが、やはりもっとスマートにして欲しいものだ。旅人としては。
彼女は小さな声で「ありがとう」と言った。僕は何も言わず目を閉じた。

朝になりもうほとんどの人が荷作りを終え、出掛けていったらしい。僕はと言えば、いつものように朝はのんびりだ。
ようやく起きあがり、隣を見ると大阪オフローダーが待っている。「もうみんな出掛けましたぜ。早く行きまひょ」と。
今日も最悪の目覚めだ。いい加減ほっといて欲しいものだ。行きたいならとっとと言ってくれ!どうやら悪霊にとりつかれてしまったようだ

荷作りを終え下に降りていきブーツを履いていると、昨日の女の人が近付いてきた。「昨夜のお礼を言いたくて、待ってたんです」
と僕に言う。話によると大阪からきたらしい。大阪の女にしては標準語だ。。。「別にお礼を言われるほどのことじゃないですから」
と答えたが。あまり言葉を並べるのが得意じゃない方なので、無言のままバイクに荷物を積んでると、その人は
「今日はどちらの方へ行くんですか?」と聞いてくる。
「屈斜路湖の方に行くんですけど」と言うと何か考え込んでいる。そして次に出てきた言葉が、
何とも予想もしていなかった言葉だった。「一緒に付いて行っていいですか?」と。僕は言葉に詰まった。
どういう展開だこれは。何とも不思議な気分でその女の事を見ていた。


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