ある工場で、労働組合が20パーセントの賃上げ交渉を行いました。
交渉によって要求は受け入れられ、会社側が賃上げを実施したところ、会社側では、その賃上げの結果として、毎週金曜日と月曜日に、欠勤者が異常に多くなることに気がついたのです。
担当の人事課長が、その欠勤するうちの何人かに、欠勤の理由について尋ねてみたところ、多くの人が次のように答えました。
「私は今まで5日かかって作っていたものを4日間で作っています。ですから金曜日には働く気になれないのです。だからといって、収入が経る訳でもありませんし……。」
ですから、この人達に取っての認める価値は、余計に稼ぐより余計に休む方が大切なのかも知れません。
同じような現象は、コミッションセールスマンにも見られます。
セールスマンの場合は、収入目標を達成してしまうと、そのあとは仕事のペースダウンしたり、仕事を休んでしまうことさえあります。
だからといって、この問題は、やる気を出させる動機づけに、お金を利用しては、いけないと言うことではありません。
お金は、他のモチベーターと一緒に用いることで、はじめて大きな効果を発揮しますから、そのやり方を配慮する必要があります。
しかし、一部の人達、とりわけ意志決定を下す管理者達には、金が強力なモチベーターになります。
彼らにモチベーターを分け与えるときは、金をモチベーターにすればまず間違いはありません。
金をモチベーターに使う神話がまだ生きている理由の一つは、金銭そのものは、モチベーターとしてあまり効果が無い場合でも、金銭と絡み合う他のモチベーターが有効に働いて、結果的には動機づけに役立っていることです。
金銭の最もハッキリした特徴は、活力のシンボルになると言うことです。
金は必要な物や欲しいものを買う手段であるばかりでなく、人を動機づけるあらゆる価値を包含してそれを象徴する物です。
業績、名声、権力、安全‥‥何れも有力なモチベーターです。しかし、これらは、すべて金によって象徴されるものです。
人によっては、金および金が象徴するものが生活の全てという者もいます。
この様な人は犠牲を払い、危険を犯し、長く辛い仕事をし、あるいは豊かな創造力と知性を仕事に生かします。
何れも仕事がもたらす金を得るためにです。
そのほかの人達には、金は最小限度の要求を満たすだけの価値しか持っておりません。一生懸命に働けば、それだけ多くの金が稼げる機会があっても、他のことに気を取られて、チャンスを逃がしてしまうことになります。
また、消費生活の向上や生活環境の変化などに伴って、モチベーターとして金に対する態度が変わってくることがあります。
いまは、金に心を動かされない若者でも、結婚して家族を養う段になると、行動や態度が一変します。そのときは、お金が第一のモチベーターになるようになります。
しかし、加齢を重ねた晩年になると再び金に動かされなくなります。自分自身のエネルギーがかき立てられてきます。
1966年、モチベーターの研究を行ったハズバーク等によって、労働者の満足、不満足に関する動機づけの衛生理論が成立されました。
ハズバークは、技術系や事務系の労働者に直接面接を行い、その結果、今までモチベーターと考えられていたある種の要因は、実際には殆ど動機づけの働きをしませんでしたが、労働者の満足と本質的な関わりを持っていることが解りました。
彼は、これを「保障要因」と呼んでいます。
彼によると、この原因がなくなると、仕事に対する労働者の不満が増大するというものです。この要因があれば、積極的な満足や、動機づけが得られないとしても、不満を防ぐ働きがあるとします。
この要因は、不愉快な思いをしたくないと言う気持ちに答えるものですから、仕事の背景と大いに関係があることになります。 つづく
|