・トウモロコシにまつわる情けない思い出・

トウモロコシの穂が伸びてきた。あと少しの辛抱で採れたてのトウモロコシが食
べられる。何人かの友達に声を掛けてあるが、今年こそ食べに来てもらいたいと
思っている。何せ今年のトウモロコシは種袋に「世界一甘い」というキャッチフ
レーズが堂々と記されていたのだ。本当かどうかを評価してもらはなくては。
「トウモロコシを食べた後にはお水はいけませんよ。ぬるま湯にしなさい」と子
供の頃、母によく言われた。母方の祖母は私には甘かったので、夏休みになると
一人で泊まりがけで遊びに行ったが、それは母のような「やかましさ」がなかっ
たからではないかと思い当たる。食後、トウモロコシとスイカが同時にお膳に上
がる。食べ終わると「ブドウもあるよ。ほら、お食べ」と曲がった腰でツツと歩
いて来て、またお膳に並べてくれた。散歩に出て氷屋さんにも入る。私が「氷あ
づき」で祖母は「氷いちご」だった。店員さんは決まって逆に運んできた。店員
さんの間違えをいいことに、祖母は自分の手元に運ばれた氷あづきのフワフワの
氷をシワシワの大きな手で押さえ込んで固めてから私に回した。「お婆ちゃん、
そうやって固めると、よけいにこぼれやすくなるんだから!」と、私の睨む視線
など気づく風でもなく「早くおあがりよ」と答える。食べ終わる頃には唇が紫色
になり、翌日は必ずお腹の具合が悪くなった。しかし祖母は「なんだ、お腹をこ
わしたのか。赤玉でも飲んどけば大丈夫だよ」と悪びれもせずに言ったものだ。
伯母の家ではトウモロコシを畑一面に作っていた。私のトウモロコシ好きを知っ
て、子供好きの叔父はトウモロコシを餌に私に泊まりに来いと誘ってくれた。ト
ウモロコシは食べたいのだが、叔父と一緒に風呂に入り力強くゴシゴシと体を洗
われるのが恐ろしかった。そして、もっと恐ろしかったのは胃腸が弱い私のこと
を知っている伯母は「お母さんに怒られるから、お水はだめだよ」と、トウモロ
コシを食べた後には一切水分をとらせてくれないことだった。年の離れた従姉妹
たちは「お水が飲みたい」と半べそ状態の私を気の毒そうに見ているだけで、誰
も助けてはくれないのだった。
アフガンハウンドという犬をご存じだろうか?アフガニスタン原産の大型犬だ。
床に届くほど伸ばした毛を風に颯爽となびかせて走る姿は格好いい。お顔も高貴
な雰囲気を漂わせている。しかし、あまりお利口とは言えない。わが家で飼って
いたアフガンは非常に食い意地が張っていて、食べ物の臭いに敏感で何でも欲し
がった。ある日縁側でトウモロコシを食べていたらクウォーン、クウォーンと犬
が鳴く。トウモロコシまで食べたいのである。仕方がないので、私がちょっと分
けてあげると弟もまねをして食べさせようとしたのだが、なぜか手元の大きな方
をとられてしまった。丸ごとトウモロコシをせしめて犬の方は満足げだったが、
そのことが原因で我々は父に大目玉を食らうことになったのだった。
翌日、何を思ったか父がアフガンを珍しく散歩に連れ出した。そして、散歩から
戻るなり顔を赤くした父が縁側から叫んだ。「だれだ、犬にトウモロコシを食わ
せたのは!」。なぜ、我々の悪戯がバレたのかはご想像にお任せしたい。
(1998.6.26)

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