異界 その壱

(第九頁)


うううう〜
 

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幻影「八丈島のシマンシー」




1 夢で出会った「しまぬしぃ(島の子)」

 しまぬしぃ、もしくは(多少の訛の違いで)シマンシー。

みずから名乗ったわけではないので正しい名前ではない。ぼくがあとから付けたものだ。

八丈島にずっと住み着いている霊なので「島の子」(しまぬしぃ)と呼ぶことにした。

彼らは海辺にある小さな公園の小さな祠(ほこら)にいた。

その祠に向かって二拍一礼すると、ぼくに気づいたようだった。

でも、そのとき彼らはお祭の準備の最中だったのだ。

それを邪魔されて、ちょっと怒ったのかもしれない。

ぼくがそれに気づいたのはずっとあとだった。

この夏、ぼくは生まれて初めて八丈島に遊びに行った。


2 シマンシーの贈り物



(0)海辺

 八丈島は海も空も晴れ渡っていた。

昼の浜辺は真夏の太陽の光が注いで、焼けるようだ。

波打ち際は子供達でにぎわっており、若い男女は砂に寝転び、

大人も子供も寄せる波と戯れている。



とつぜん、日が翳った。目の奥が暗くなり、一瞬、景色が変わった。

(1)遭遇

 遊んでいた海辺の、道をはさんだすぐ上に公園があった。

小さな公園で、遊具が一つ、二つ。入り口の正面、ずっと奥に祠(ほこら)がある。

横1メートル、高さ1メートル半ほどの小さな祠だ。

八王子なら、大通りを一つ入った裏道の家々の隙間に、当たり前のようにたたずんでいる

普通の祠と変わらなかった。

ぼくはあいさつのつもりで手を二度叩いた。



 ぼくが海辺に戻ったとき、シマンシーは突然現れた。

もちろん、それが遭遇だったらしいことは後になって気づいたのだ。

ぼくは足を掬われてしまった。そして、転んで、肋骨を折ってしまった。




(2)仲直り

その夜、胸の痛みを抑えて眠るぼくの夢にシマンシーが現れた。

シマンシーたちはぞくぞくと現れた。

暗い夜空の下で、彼らの姿はぼんやりと銀色に光っていた。


シマンシーは「この村のとても大事な物だ」と言って、手にもつものを見せてくれた。

手に乗り切らない大きなものもあった。それは様々な道具類(?)のようだった。

けれど、夢が覚めてみると、それらが何であったかすっかり忘れてしまった。

一つも思い出すことができないのだ。

でも、夢の中のシマンシーはとても親切だった。

多分、彼らは「仲直り」に来たのだろうとぼくは思った。

翌日から、シマンシーはたくさんの景色をぼくに見せてくれたのだから。



(3)星砂誕生

流星が一つ、穏やかな入り江に落ちた。

真っ暗な水面の上で、波紋がきらきらと輝きながら広がった。

浅瀬の底には無数の星砂が散っていた。



(4)語らい

静かな夜更けに、シマンシーは花と語らう。

そよ風とそっくりな声で、一晩中語り明かす。

花の言葉は蜜の味。花びらの揺らぎは笑い。香りは秘め事。



(5)火の祭


年に一度の火の祭。

シマンシーたちは体を揺すり、伸びたり縮んだりを繰り返す。

それがかれらの踊り。

森の奥の暗闇のしじまから、蛍にも似た灯りが見えたら、

足音を立てずにそっと近寄ってごらんなさい。

あなたにもきっと見つけられるから。




 

(6)月夜はうれしい

風の穏やかな月の夜は青と黄と白と赤の入混じった光がおりてくる。

心に透き通る光が地上に降り注ぐ。

月と地上が結ばれる月夜はうれしい。



(7)シマンシーがくれた幻影

突然、森が立ち現れた。木々が林立する。ぼくの周囲にたくさんの植物が手足を伸ばした。

ハイビスカスがあった。百合とガクアジサイとはまゆうもあった。あとは名前も知らない木と草たち。

そうだ。きっと、あの林の奥にシマンシーたちの住処があるのだ。

かつて人が立ち入ることのない、あの森の奥にシマンシーの国がある。



(8)お別れの挨拶

最後の夜、たくさのシマンシーたちがお別れの挨拶に訪れた。




3 ごあいさつ

拙い絵で申し訳ありません。
また、私の夢物語にお付き合い頂き、有難うございました。
(館主)。






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