異界 その弐

小学校中級向けの童話を読みました
(小学3年生から6年生くらい)

うーうーうー
(平成15年11月上梓)


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No.

本 の 名 前

著 者

No.

本 の 名 前

著 者

038

こんや円盤がやってくる 福島正実

039

校長先生のカモとり作戦 山脇あさ子

036

風の見た街 竹田まゆみ

037

魔女の宅急便 角野栄子

034

おかしな金曜日 国松俊英

035

かがやく山のひみつ いいだよしこ

032

まひるの変身 斎藤了一

033

まぼろしの村はどこに 手島悠介

030

みどりの島が燃えた 久保喬

031

ムンジャクンジュは毛虫じゃない 岡田淳

028

おとうさんの旗を 丸川栄子

029

おじさんは原始人だった 大原興三郎

026

おかしな魔女っ子一年生 浅川じゅん

027

おこんじょうるり さねとうあきら

024

天の赤馬 斎藤隆介

025

月と星の首飾り 立原えりか

022

シャクシャイン物語 中野みち子

023

だれも知らない小さな国 佐藤さとる

120

土の童児 那須田実

021

白いいるかと青い海 牧原辰

018

こがね谷のひみつ 木暮正夫

019

すっとび三太とさびぃんぼ 吉橋通夫

016

さらば、おやじどの 上野瞭

017

にげだした兵隊 竹崎有斐

014

オホーツクの歌 菊地慶一

015

はるかなり長安 乾谷敦子

012

二分間の冒険 岡田淳

013

想い出のアン 和田登

010

ひげよ、さらば 上野瞭

011

人魚がくれたさくら貝 長崎源之助

008

冒険者たち 斎藤あつ夫

009

ガンバとカワウソの冒険 斎藤あつ夫

006

千年の夢とひきかえに 武井直紀

007

くらやみの谷の小人たち いぬいとみこ

004

よみがえる魔法の物語 わたりむつこ

005

あの空をとべたら 椎名龍二

002

はなはなみんみ物語 わたりむつこ

003

ゆらぎの詩の物語 わたりむつこ

001

シラカバと少女 那須田稔

000


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山脇あさ子 『校長先生のカモとり作戦』 岩崎書店 (小中) LF

桜小学校のプールにカルガモ一家が住みついた。おかげでプール開きができない。校長先生を先頭に生けどり作戦が開始された。プールに入りたし、カルガモのヒナ達も守りたし、と子供達の揺れる心がさわやかに語られていく。大川に放されたカモ一家、けれど厳しい現実がそこにもあることを作者はきちんと知らせている。生活展開型の佳作。
テーマは命、その厳しさ。1985年。

福島正実 『こんや円盤がやってくる』 岩崎書店 (小中) FTLF

勉強嫌いで犬になりたいなんて思っている和彦は宇宙の犬を守るパトロール船の船長に会う。級友のよし子をだまそうと犬に変身して現れる。ちょっと面白いストーリー展開で人物描写もまずまず。SF調のファンタジー。しかし、テーマは不明だ。1978年。

角野栄子 『魔女の宅急便』 福音館書店 (小中) FT

13歳の満月の夜、キキは一人前の魔女になるため、父母の家を出て遠い町に移り住む。町の人々との交情、奇抜で愉快な出来事がエピソディックに展開する。現代の普通の町に魔女が当たり前のごとく共存する世界は和洋折衷のバタ臭さと違和感を与えるが、現代っ子は気にかけないのだろう。「13歳の満月」は本来意味深長で、少女が女性に脱皮する日を暗示する。
テーマは思春期・自立だが、やや突っ込み不足。ファンタジー型。1985年。

竹田まゆみ 『風の見た街』 ポプラ社 (小中) AR

私は風。或る日出会った洪介少年の一生を挿話風に描く。少年(戦前)青年(戦後)壮年(高度成長期)老年(現在)を通し、少年の夢と原爆症で友を失った悲しみ、息子を失った苦しみ、少女を救って命を落とす人生の最期など時代を映して示唆に富む。悲しい終わり方で子供には難しい。置換型の佳作。
テーマは人生。1985年。

いいだよしこ 『かがやく山のひみつ』 新日本出版 (小上) FTLF

山の精たちが密かに会合を開き、一斉に噴火することを決めた。あるとき真也たちは山が人間の無差別開発を怒っていると知る。動植物が滅びることを悲しむキクリと真也たちは一計を案じてこの噴火を阻止する。自然を守る心、生き物への愛情が子供達の活躍を通して描かれる。女性らしいタッチのアドベンチャー。社会型ファンタジー。
テーマは自然への愛、環境破壊批判。1988年。

国松俊英 『おかしな金曜日』 偕成社 (小中) LF

五年生の洋一は母と弟(一年生)の三人暮らし。一年前父が蒸発し、そしてある金曜日母も家出してしまう。洋一と健二の懸命の「自立生活」が始まる。みさ子と山田が協力してくれるが、金がなくなって児童相談所へ行く決心をする。小学生ながらしたたかな生活力と意地が描かれていて面白い。不幸な話なのに少しも暗さが感じられないのは作者の筆の力のせいか。生活展開型の佳作。
テーマは意外な子供の生活力。1978年。

手島悠介 『まぼろしの村はどこに』 国土社 (小中) FT

南の小さな国と大きな国が戦争を始めた。姉が殺され、弟のロロは少年兵になるが、敵の侵入でロロと母は死に、錦に織りこんだ幻の村へ消える。テーマは反戦らしいが幻の村の意味が不明。全体に描き切れてない。
テーマは反戦・平和。1979年。

斎藤了一 『まひるのへんしん』 理論社 (小中) FTLF

銀座でふと知り会った子は実は宇宙人。目の前で次々に奇妙なことが起こる。中1の琴也はカエルになったり玉虫になったりして、あげくはハエから親の仇と狙われる。「ワガコトヤハコロシヤノウタガイアリ」なんて言われる。確かに大好きなカエルのためにハエを取ったことがあった。あとで鏡を見るとその子は自分にそっくりだった。ふと自分の姿を垣間見てしまう一瞬。
テーマは自分の発見。1978年。

岡田淳 『ムンジャクンジュは毛虫じゃない』 偕成社 (小上) FTLF

良枝が発見したクロヤマの花畑が町の人々に荒らされてしまった。その後、不思議な生き物ムンジャクンジュを見つける。この虫はクロヤマソウを食べてどんどん大きくなるのだが、責任を感じた克彦と稔はクラスの全員に呼び掛けて花を集める。破壊された自然を必死に取り戻そうとする子供達の純粋な心がクロヤマの花畑を復活させた。社会型ファンタジーの佳作。
テーマは自然と生命、環境破壊批判。1979年。

久保喬 『みどりの島が燃えた』 金の星社 (小中) NF

1983年10月3日、三宅島が噴火した。島民は全員無事だったが、阿古地区は全滅。畑に甚大な被害が出た。失意の中、村を再生させようと立ち上がる人々の姿を子供達を通して描く。ドキュメント風の味を持った作品だ。佳作。全国からの励ましに応えて、お礼に溶岩の小片を送るのがよい。
テーマは苦難から再生する人間の強さ。1985年。


コーヒータイム
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大原興三郎 『おじさんは原始人だった』 偕成社 (小上) LF

六年生の勇気と一年生の元気はある丘で原始人そのままの生活をするおじさんにであって楽しい一夏を送る。勇気はおじさんがこじきで障害者であることを知る。大人や子供達の偏見から守ろうとする二人。勇気は人間らしさや真の勇気を学んでいく。土器に残された兄の弟を思う偽りの手紙が感動的。生活展開型の秀作。
テーマは偏見を乗り越えた人間への愛情。1981年。

丸川栄子 『おとうさんの旗を』 PHP研究所 (小中) LF

登は四年生。母と妹と三人家族。父は三歳のとき死んだ。縁日で露店商のおばあさんと知り合う。おばあさんの不幸だった人生とがんばりを知って、登は「大人になったら山に登ってお父さんの旗を立てる」と言う。老人と子供の交情が感動的だが、全編「がんばれ」のかけどおしがいやみだ。「(登は)はりあいがない」とあっさり言ってのける母との交渉ももっと屈折しているはずなのに描写不足。生活展開型。
テーマは生活、成長。1980年。

さねとうあきら 『おこんじょうるり』 理論社 (小中) FK

イタコ(呪師)のばばさまは術の力が落ちた。病気で寝こんだとき、きつねのおこんがやってきて一緒に暮らす。おこんのじょうるりは病気を治す力があった。最後におこんはばばさまの身代わりになって死ぬ。民話的な香り。絵は井上洋介。民話型。
テーマは動物の恩返し。1977年。

浅川じゅん 『おかしな魔女っ子一年生』 ポプラ社 (小中) FTLF

三年生のしづかは元気者で勉強が苦手。ある夜、魔女の一年生がやってきた。しづかは魔女学校に連れていってもらい、みごと入試に合格する。一夜の楽しい夢を見てしづかはまた元気に登校する。生活ファンタジーの亜型。
テーマは想像力。1982年。

立原えりか 『月と星の首飾り』 講談社 (小上) FT

四年に一度来る2月29日、その日生まれた「花とみつ」の子供達が南の島に招かれる。しかし、島はどろの仮面に侵されつつあった。さらとほのおの二人は事情を知る人々を探し一歩づつ秘密に近づく。さらは愛の力(魔法)によってどろの仮面達を倒す。テーマは愛の奇跡。しかし、この異世界は十分説明されておらず、人間社会との整合性に欠ける。人間社会で愛を見付けたものはその重みで飛べなくなるという発想をもっと巧くからませてほしかった。女の子の There & back Again 。ファンタジー。1982年。

斎藤隆介 『天の赤馬』 岩崎書店 (小上) OD

百姓の伜の源は元気があって釣りが大好きで、怖いものがあるとそこにドンと座りこんでしまう子供だ。飢饉続きの或る日赤馬山に迷い込み、藩の隠し銀山を見付ける。やがて起こる一揆。銀山の暴動。源は死に直面しながら大活躍する。百姓達の苦しい生活とその中で成長していく源の姿がリアルに描かれている。時代ものの力作。切り絵は滝平二郎。
テーマは人間的成長、権力への抵抗。1977年。

佐藤さとる『だれも知らない小さな国』講談社(小上)FTLE

せいたかさんと小人の出会い、敗戦、小人の国の危機、おちびさんの協力、コロボクル小国の成立まで、綿密なストーリー展開で飽きることがない。戦争や道路開発など、人間社会との危機的接点をポイントとしながらもファンタジックな世界の創造に力点が置かれている。生活型ファンタジーの秀作。
テーマは想像力、共存。1959年。

中野みち子 『シャクシャイン物語』 けやき書房(小上)HS

アイヌ抵抗の指導者シャクシャインの物語をほぼ史実に基づいて構成した。和人に虐げられたアイヌ達の自然と共に生きようとする姿がよく描かれている。「アイヌモシリはアイヌの手で」という叫びは私達の胸にも痛烈に響いて、現代の侵略戦争への批判にもなっている。歴史童話の力作。
テーマは民族の悲劇、権力への抵抗。1980年。

牧原辰 『白いいるかと青い海』 講談社 (小中) LF

太陽と潮風の満ちる南の町で5歳のタアチと6歳のサヨは出会う。二人を取り巻く大人達との交情。人形劇団を解散したバクさんの青春の輝きがさわやかだ。しかし、タアチの言動は5歳児らしくなく、不自然。幼児としての生活感がない。初めのシーンがラストに結び付く構成はバクさんのテーマと不可分だから味が良い。生活展開型。
テーマは青春の輝きか。1980年。

那須田実 『土の童児』 金の星社 (小中) FK

働き者の仙六と小夜。子供はないが、畑の土の下に眠る(と信じている)童児がなぐさめ。ある年道普請のため畑を取り上げられて、その後、小夜は死ぬ。「だめになってしまったものも、土にあずければしゃんとなる」という仙六の純粋な生き方が描かれている。後半は土の童児が登場し、老いた仙六に若さを与え、一時の夢を見させる。民話的な香りがするが、前後のつながりが不明。切り絵は滝平二郎。民話型時代もの。
テーマは農民の生活。1970年。


疲れませんか
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木暮正夫 『こがね谷のひみつ』 金の星社 (小上) LF

五年生のトシユキとえつ子は花山に連れられて夏休み北海道へ行く。そこでこがね谷の砂金とマンモスの秘密を知る。牧農生活や風土がよく描かれているが、「自然」の強調がややいやみに響く。大企業の陰謀が暴かれて現代的批判となるが、せっかくの夢を覚まされた気がする。THERE&BACK形式だが、内容に乏しい。活冒険型。
テーマは自然破壊批判。1982年。

上野瞭 『さらば、おやじどの』 理論社 (小上) OD

町中を裸で突っ走り、喧嘩もする新吾は今で言う暴走族。城下にはボケ老人もいれば動機もなく父を殺す若者もいた。入牢した新吾は奇妙な老人に会う。やがて美作村の不思議な事件が浮かんだ。闇に葬られた真実を求めて若者達が動きだした。暗躍する穏密、藩による麻薬作り、証拠隠滅のため一村皆殺し。父と子の相克の中で現実を知っていく若者達の成長が静かに語られていく。子供が親から独立していく姿なのかもしれない。時代もの童話の力作。
テーマは思春期、子供の自立。1982年。

竹崎有斐 『にげだした兵隊』 岩崎書店 (小上) LF

大学生の一平が兵隊になった。軍隊での厳しい訓練。幸運な負傷、復隊、チフス騒ぎで南方送りをまぬがれ、やがて朝鮮へ。そこで終戦。戦闘場面は一つもなく、緊迫した描写もない。幸運のいたずらで、一平は確かに「にげだした」兵隊だったのかも知れない。作者の体験が入っているのだろう。
テーマは一応反戦平和らしいが、よく見えない作品である。1983年。

菊地慶一 『オホーツクの歌』 岩崎書店 (小上) LF

オロッコの少年清の学校に良夫が転校してきた。劣等感、対決、仲直り、祭りでの祖父のシャーマン役、父の海難などを通じ、作者は少年の成長をやさしく見つめている。清がオロッコ人の歴史を少しづつ理解し、むしろ誇りさえ感じる姿は読む人に勇気を与えてくれるだろう。
アイヌの問題にも通じる民族の誇りがテーマである。生活展開型の佳作。1978年。

乾谷敦子 『はるかなり長安』 岩崎書店 (小上) HS

八世紀、唐に渡りついに帰朝できなかった阿部仲麻呂を描いた歴史小説。ペルシャから流入する新文化を迎え華やかな長安を舞台に、一方で安禄山の動乱を乗り越え、なおかつ故国日本に思いをはせる仲麻呂の姿が感動的である。子供には難しい歴史型。
異国で生涯を終えた古代の日本人の生き様がテーマ。1982年。

和田登 『想い出のアン』 岩崎書店 (小上) LF

北信濃の結核療養所はカナダ・キリスト教徒の援助で建てられたものだった。周作少年の父はそこで礼拝堂の牧師を勤めていた。アンはリスター医師の娘。八歳と六歳の二人の交情が始まる。しかし、時代は満州事変から日中戦争へと動き、両家は冷たい目に晒される。カナダからの援助は打ち切られ人々の善意と愛情が戦争のかけ声によってどんどん引き裂かれていく。後半、物語は太平洋戦争、アンとの別れ、敗戦、そして再会とめまぐるしく進んでしまう。良い作品なのでじっくり描いてほしかった。
テーマは反戦・平和。1984年。

長崎源之助 『人魚がくれたさくら貝』 偕成社 (小中) LF

一人でやって来た母の故郷。サチコは幻の人魚から(実はテツジ)さくら貝をもらう。幸福を呼ぶさくら貝は友情をこめて再びテツジの手に渡る。サチコは自分の一番大切な母がしっかりと自分の許にあることを確信して東京に帰る。女の子の There & back again 形式(しかたしん「ふたつのたいよう」を参照)。生活展開型の佳作。
テーマは母と娘の愛情。1974年。

岡田淳 『二分間の冒険』 偕成社 (小中) FT

悟はひょんなことから黒猫に会い不思議な世界に導かれる。そこで彼は龍と戦うため大切なこと、力を合わせることを学ぶ。最も確かなもの、それが自分であり確かなものと感じた友達であることを知る。現実世界ではわずか二分間の冒険の後、悟は「確かなもの」を持ち帰った。想像力豊かな There & back again 形式を持つファンタジーの秀作。
テーマは冒険と思春期の成長。1985年。

吉橋通夫『すっとび三太とさびぃんぼ』 岩崎書店 (小中) FK

京都の夏は暑い。そこで涼しくするためにさびぃんぼを呼んだ。初めありがたがっていた京の人々もさびぃんぼのくしゃみに閉口して手のひらを返して邪魔にする。このあたりの描写は面白い。けれど呼んできた三太は困った。さびぃんぼは雲になって追い返されるが、三太の葛藤がもっと描かれているとよい。
テーマは人情と心移りか。1982年。


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上野瞭 『ひげよ、さらば』 理論社 (小上) AR

記憶喪失のヨゴロウザは見知らぬ土地にいる自分に気づく。そこで彼は様々なノラ猫に出会い、仲間を作っていく。そして野犬との戦い、仲間の死と別れ、これらを通してヨゴロウザは一人前のノラ猫になっていった。動物置換型の力作。
テーマは逞しい生きざま。1982年。

斎藤あつ夫『ガンバとカワウソの冒険』岩波書店(小上)AR

ガンバと十五匹の仲間が再び冒険の旅に出た。今では滅びたと思われたカワウソの存在を知り、仲間達は探索に出掛ける。恐ろしい野犬と戦いながら、彼らはカワウソ達を豊かな流れへとみちびいていく。手に汗にぎる大冒険。前作同様、There & back again の形式を持つファンタジーの力作。
テーマは滅び行く者への愛情と冒険。1982年。

斎藤淳夫「冒険者たち」岩波書店(1982)小上 AR

冒険の虫が鳴き始めたガンバ。そこへちょうど忠太ネズミが救いを求めてやってくる。夢見ガ島でイタチのノロイ一族がネズミたちをおそっているという。ガンバは仲間を連れて島に向かった。助け合い喧嘩もしながら、旅の困難を乗り越えて、ノロイと対決する。十五匹とガンバを描き分ける作者の力量が見所。典型的な There & back again 形式(「ふたつの太陽」を参照)。動物置換型ファンタジーの力作。
テーマは友情と冒険。

武井直紀「千年の夢とひきかえに」小峰書店(?)小上 FT

インカ帝国の伝説の娘チュキリャントウを追いもとめる日本の青年。苦難のアマゾン探検が彼を不可思議な世界に導き、やがて現実と四百年前の幻想が交錯する。主人公ヒロシの背景描写の欠落が難だが、内容は壮大なファンタジーロマンである。
テーマは夢と冒険。

いぬいとみこ「くらやみの谷の小人たち」福音館(1972)小中 FTLF

「木かげの家の小人たち」の続編。暗闇となった谷を昔の楽園に戻そうとする小人たち、力をあわせれば大きな敵にもたち向かっていけることを一人一人が気づいていく。戦後、日本の右傾化が同時進行的に示 唆されているが、人間世界と小人の世界の関係が前作同様あいまいである。大ガニ、大ガマ、大杉の精たちの伝説的構成は独創的である。ファンタジーの佳作。
テーマは冒険、悪権力への反抗。

那須田稔 『シラカバと少女』実業之日本社(1965)小上 LF

日中戦争下満州での話、少年は不思議な少女に出会う。彼らは戦争とは関係なく子供の世界を展開していくが、軍部が干渉してくる。やがて雪の中にとじこめられた子供達は生き延びるために力を合わせた。戦争がもたらす不幸と子供達の生きる力をレアルに描いている。
テーマは反戦・平和。

わたりむつこ『はなはなみんみ物語』リブリオ出版 小上 FT

こびとで双子のはなはな・みんみ。大戦争で全滅したと思った小人族の仲間を探して冒険の旅にでた。動物達と交流しながら苦難を乗り越えていく。ファンタジーの秀作。
テーマは冒険と旅立ち。1980年。

わたりむつこ『ゆらぎの詩の物語』リブリオ出版 小上 FT

小人達は浜辺で平和な日々を送っていたが、その島は「ゆらぐ島」だった。彼らは協力して大地の苦しみをぬぐおうとする。自然とともに生きる姿が美しい。ファンタジーの秀作。
テーマは自然への愛。1981年。

わたりむつこ『よみがえる魔法の物語』リブリオ出版 小上 FT

小人シリーズ完結編。小人一族は大戦争の難を逃れるため「いのちの幕」と呼ばれるドームを作ってとじこもった。のびととはなはな・みんみは「物投げの術」で励ましあう。戦争がもたらす犠牲の大きさ平和を回復するための多くの努力、読む人の胸に強烈に訴えかけて感動的である。ファンタジーの秀作。
テーマは反戦・平和。1982年。

椎名龍二 『あの空をとべたら』岩崎書店(1983)小上 LF

日中戦争終末から現在まで中国残留孤児の成長と苦難を描いている。後半は文化大革命の混乱を中心に展開するが、きめの細かさに欠け、筋があらい。テーマは反戦 ・平和。




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