孫に語るじじの九十九噺
〜八王子篇〜




ぶん と しゃしん・絵

よしむら・ふみひこ
吉村史彦 著
Auther:YOSIHIMURA Fumihiko
Mail Address:fyosh@kpa.biglobe.ne.jp
All Right Resereved by YOSHIMURA Fumihiko




《弁天池の七不思議》番外「弁天池と榎池の争い」


君に 弁天池の 不思議を 話そう。

弁天弁天池と 榎池は どちらが 古いと 思う。

どちらも 地下から 水が こんこんと 湧き出ていて 昔から あるんだ。

どちらが 古いかなんて 誰も 知らない。

けれど、あるとき、二つの 池が どちらが 古いかで 言い争いをした。







弁天池の タヌキは

「わしらは 百年前から ここで 太鼓を 叩いているが、もう 池が あったな。百年よりも 古いぞ」

と言った。榎池の キツネは

「あたしたちが この池で 人を ばかしはじめたのも 100年前からよ」

と言った。どちらも 百年よりも 前からあったのじゃ。

弁天池の 真鯉は

「わたしたちが 弁天池で 生まれてから 五百年 たつ」

と言った。すると、榎池の アメンボウは

「青虫の ワムパスの ご先祖さまと セグロゴケクモの ご先祖さまが いっしょに 糸つくりを 始めたのが 五百年前と 聞いていますよ」

と言った。池が できたのは 五百年より 前のことらしい。

榎池のエノキ君も 弁天池の べてん君も それより 古いことは 知らないらしい。






こうして、えのき池と べんてん池の 言い争いは 決着が つかず、
ついには 喧嘩となって お互いに 石を ぶつけたり、虫をとばしたり、騒々しいこと この上が なかった。

そこで、榎池が 考えた。

「よし、どちらが 深いかで 決めよう」

これには、弁天池も 異存が なかったので、この方法で 池の 深さを 測ることになった。

榎池の フナが 水に 潜って こう言った。

「深さが 1メートルくらいです。あとは どろが たまって もぐれませんでした」

つぎに、べんてん池の 真鯉が もぐって こう言った。

「深さは 1メートルほどです。あとは どろが あるので、わかりません」

これを 聞いて えのき池が 機嫌を悪くした。

「ええい、役に立たない 魚どもだ。おーい、キツネ。お前は ここに よく遊びに来る カイ君という こどもを さらってこい。

「池に 放りこんで 頭が 水から 出るかどうか 調べる。
 そして、べんてん池でも 同じことをして、おぼれたほうが 
 深いことにしよう。さあ つれてこい」


池の フナも コイも アメンボウも べてん君も 

「ずいぶん らんぼうだなあ」

と思ったけれど、キツネは さっと とびだして、カイ君を さらってきてしまった。

キツネは えのき池の 命令で カイ君を 池に 放りこんだ。

カイ君が ぶくぶくと 沈んでいくので、これは 一大事と フナが カイ君の 下に もぐった。

フナの 背中に またがった カイ君の 頭が 水の上に出てきた。

「えのき池の 深さは カイ君の 頭の下と 決まったぞ。つぎは べんてん池の 番だ」

というので、タヌキが 走ってきて カイ君を べんてん池まで はこび、同じように 放りこんだ。

べんてん池の 真鯉たちは びっくりして にげだした。







カイ君が ぶくぶく 沈んでいく。

このままでは おぼれてしまう。

「べんてん池の 深さは カイ君の 頭の上だ」

と決まったところで、岸に 生えていた 片葉の あしたちが いっせいに 手を のばして カイ君を すくいあげた。

こうして べんてん池のほうが えのき池よりも 古いことが 決まった。

えのき池は ぐうの音も 出なかったが、あとになって フナが カイ君を 助けて、背中に 乗せたことを 知り、かんかんに 怒って、フナたちを 池から 追い出した。

えのき池に 魚がすんでいないのは そういう わけだ。






 


とんと 昔の 話しじゃ。ろーそく一本 火が 消えた。(令和2年8月)

この話しを 聞いて、じじは 竜に 「本当は どちらが 古いのか」と 尋ねてみた。
しかし、竜は げらげら 笑うだけだったぞ。







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