在宅医療は古くて新しい医療です。

 太古より30年前まで、多くの日本人は病院ではなく自宅の畳の上で死にました。
 しかし、近年、病院が数多く建ち、日本人の経済力が向上するにつれ、死に場所は病院になってきています。1994年で73%の人が病院で死亡しています。
 死に場所は病院のベッドの上で、畳の上ではない。つまり「畳の上で死ねない」のです。


 癌で闘病の末、死んでいった人を見たことがありますか?
 癌の末期というのは肉体的、精神的、社会的に苦しみます。
 病院で癌で死ぬときに、病院の医療設備を最大限使って延命措置をしてくれますが、死にゆく者にとっては非日常的な苦痛の連続です。事実、病院で癌で死んだ人の形相は苦痛にゆがんだ顔です。癌末期の延命措置は医療者と家族の自己満足、面子の保持でしかないと思います。
 私だったら、住み慣れた家庭で家族に見守れながら、家族と別れの言葉を交わして、延命措置などせずに静かに安らかに死んでいきたい。それを側面から援助するのが在宅医療です。在宅で癌で死んだ人は眠るような安らかな顔です。
 ホスピスも都内で6カ所以上できてきましたが、やっぱり自宅がいい。苦痛をコントロールして自宅にいたい。現代医学なら自宅で疼痛コントロール可能です。

 また、家族が入院した経験は多くの人があることでしょう。
 自分が実際に入院した人もいると思います。退院して自宅に帰ってきたときの喜びと安堵感は、病気回復という理由もあるでしょうが、住み慣れた自宅で親しい家族に囲まれて再び生活できる喜びのほうが大きいのではないでしょうか?
 病院は病気を治す一時避難の場所とみなさん割り切っています。
 個室は差額ベッド代がかかり、われわれ庶民は大部屋です。差額ベッド代は4人部屋、6人部屋、10人部屋でも徴収されます。大部屋は共同生活、気配りが一番です。今時9時消灯なんて、ライフスタイルからして20代30代で入院した者ほどついていけません。整形外科病棟では午後11時になっても喫煙コーナーで入院中の若者達が楽しく会話しています。

 しかし、脳梗塞などで回復の見込みもなく寝たきりになったらどうでしょう?最近は長期入院は病院にとって赤字の元として回復の見込みのない患者はどんどん退院させられます。(橋本元首相のお母様は特権で長期入院されていらっしゃた話は有名です。)退院させられた患者は最終的に家庭に戻ってきます。家族、自治体、医療機関に支えられて「回復の見込みはない、しかし、すぐに死ぬことなく、あと何年かは生きられそう」という寝たきり状態です。
 家族の都合で病院に慢性期でも入院させておくことを「社会的入院」といいます。急性期を過ぎ本来なら退院して自宅に戻れるのですが、在宅介護の条件が整わないために、軽い病気なのに入院している状態となります。この入院にかかる医療費も今運営が赤字といわれる医療費なのです。
 在宅医療は往診してくれる医師、訪問看護をしてくれる看護婦、家族の愛情があれば、長く続けられるでしょう。
 私の住む葛飾区では、自宅で寝たきりだが医者にもかかっていないという人がまだまだたくさんいます。一人暮らしでヘルパーに支えられて自宅療養中の在宅患者さんもいます。寝たきりの80歳の夫を介護する75歳の老婦人がいます。

 あなたが患者自身だったらどうしてほしいですか?

 また、あなたが家族だったらどうしますか?

 ちなみに国民医療費は27兆円で、パチンコ産業の30兆円よりも低い金額です。

 公共事業には50兆円かけるが、福祉には20兆円しか出さないこの日本です。
 支出を減らして収入を増やすのが家計です。
 公益法人への補助金など支出はそのままで、消費税や薬剤負担など国庫に入る金を増やすなんて。
 病気になっても金がなければ医療機関にかかれない世の中になるのでしょうか?

 橋本龍太郎元首相の御母堂は国立国際医療センターに3年も入院されていた由。都心の大病院に3年も病室を確保できるとは、厚生族にして一国の前首相だけのことはありますが、権力を使う相手が違っていました。


 私の住む葛飾区は人口42万人です。そして65歳以上の高齢者が6万2千人います。その高齢者のうち5千3百人が一人暮らしです。また、2千9百人が寝たきりです。


在宅患者とその家族の皆さんへ 

  1. インフルエンザの流行に備え、10月のうちに患者本人と介護者はインフルエンザワクチンをしましょう。一般に7割の確率で予防できますが副作用もごくまれにあります。
  2. 肺の働きの悪い患者さんは肺炎予防のため肺炎球菌ワクチンを打っておきましょう。
  3. 誰でも例外なく死は訪れます。患者さん本人の病状が安定しているうちから、もしものとき、自宅で看取るのか、病院に死にに入院するのか家族で(できれば本人も交えて)相談しておきましょう。
  4. 一般に呼吸が5分止まれば脳に後遺症が遺ります。自宅で何かあったとき医師が駆けつけるまで必ず5分以上はかかりますから、家族はそのことを理解しておきましょう。万全を期待する介護者は救急蘇生法をマスターしたらよいでしょう。

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文責 石垣 宏 平成21年5月10日更新


日立メディスコープ(閉鎖されたホームページ)に掲載したQ&Aより

[相談] 在宅医療

在宅医療という言葉をよく聞きますが、実際家にいてどの程度までの医療を受けることが可能ですか。

[回答]
在宅医療とは文字通り、自宅にいて医師の診察と療養指導を受けながら病気療養をすることです。今では病気療養というと病院に入院して治療を受けることが当たり前のように想像されますが、病院が少なかった一昔前までは病気療養というと自宅療養、在宅医療でした。医学の進歩によって在宅医療は当時とは違ったものになっています。

長期入院がしにくい医療制度と社会的入院の問題化のため在宅医療が注目されています。病院に入院していてもこれ以上の改善が望めず、在宅でも現状維持できると思われる患者さんには退院して在宅療養になるように医師から言われると思います。介護する人と訪問診療する医師がいれば在宅医療は可能です。訪問看護婦やヘルパーの協力も必要になることがあります。管理栄養士による食事の指導(栄養指導)を受けることもできます。40歳以上の人は介護保険も利用できます。

医師が在宅医療を行う場合、個別に患者さんを診察して診療計画を立てて、どのくらいの頻度で患者さん宅を訪問して診察していくか決めます。この診察を「訪問診療」といい、患者さんから臨時の要請があって患者さん宅を訪問する「往診」と区別されます。在宅でできる医療内容としては

などがあります。
携帯できない(自宅まで持っていけない)器械を使用する検査や治療はできませんが、列記したようにある程度までの医療は可能となっています。

在宅医療の限界としては、

在宅医療をうけるときの家族の心得として 在宅医療では、住み慣れた家庭で親しい家族に囲まれて気兼ねなく療養生活を送ることができることが利点です。
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実際の在宅医療の一例(もっと知りたい方はこちらへ)

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