SCENEZ01::

"HUNTIN' NITE"

シーン01::ハンティン・ナイト 〜猟犬たちの夜〜

 N◎VA中央区を一望する高層道路の脇に、二人の男がバイクを停めると一休み。一台は和光技研の“ステッペンウルフ”、もう一台はチャーリー&ロバーツの“ゴーストライダー”。
 だがボディを彩る黒と金のペイント、そして黄金の犬のシンボルを見れば、バイクを盗みに来た大概のパンクは考えを改めるだろう――悪名高い特務警察、ブラック・ハウンドのシンボル。

「はぁ〜、今度はちゃちいゾク共の抗争かよ。たまにパトロールすりゃこれだ‥‥」
 ステッペンウルフの乗り手は黒髪の東洋人。中肉中背、にやけた口許から愚痴がこぼれる。

「いちいちわめくな。出張帰りで体が鈍ってたところだ。丁度いい運動になったぜ」
 ゴーストライダーの方は大柄なオーストラリア系。鞘に入れた降魔刀で肩を叩いている。

 人呼んでブラックハウンド“最凶”コンビ。“汚職警官”レンズに“暴力警官”ゼロ。二人が組んでパトロールするのは久し振りだった。オメガ隊長の指示で突然だったのだが。

「“闘奴(トード)”とそれに相手は‥‥何とかダンサーだったっけ? しっかし最近のガキ共はマシンガンまで持ち出すんかね‥‥」
 レンズがため息をつく。彼の武器は明晰な頭脳。戦いの方はそれほど得意ではない。
「あのガキ共は“麗舞断沙亜(レイヴダンサー)”だ。帝京第四工業の連中だぜ。ずっと元力使って隠れてたお前が言うな。しかし一般人の被害者の程度が普通じゃねえな。ありゃゾクの仕業だけじゃねえ。きっと何かある」
 ゼロが不敵な笑みを浮かべて答える。

「ああ‥‥。しっかしおめーなぁ、刀で銃弾弾くのはいいとして、何で連中のバイクまで真っ二つにする必要があるんだ? しかも一台じゃなく? またあのタコ親父に‥‥」
「刀は俺の“指輪”なんでね」ニヤリ。
「それよりレンズ、あの髪逆立てたデカいゾクのガキが連れてた二人組、どう思う? 奴らも何かを探りに来てたんじゃねえのか?」

 二人の脳裏に、騒ぎの中で出会った見慣れぬ二人組の姿が浮かび上がった。
 左手にクリスタル・シールド、フェイト・コートを着込んだ典型的なカブト・スタイルの欧米人。もう一人はゾクの連中とさして変わらぬ年の東洋系の若者。レザージャケットの背中には龍のプリントが舞っていた。
 ゾクの一人の大柄な少年に導かれ、二人も何かを追っていた。

「‥‥あのガキ、ただのニューロキッズじゃねえぜ。あのオーヴァドライヴ並みの動きは尋常じゃねえ。身のこなしもな。絶対何かの格闘技を学んだチャクラだ。多分夏(シア)の――中国拳法だろう」
「あのカブトのあんちゃんもな」レンズが続ける。
「ありゃ元力使い(エレメンタリスト)だ。身に纏った影がはっきり見えた。ヤツは“闇の王(ダーク・ロード)”だ。ついでに髪の毛ツンツンのゾクのガキの方は“凪の騎士(ミュート・ナイト)”だな」
 そういうレンズは“光の運び手(ライト・ブリンガー)”。N◎VAでは公式には確認されていない、バサラの一人。

「あのイギリス系のカブトの兄ちゃん、こっちが聞いたら“デス・ロード”だとか言ったよな」
 ゼロは彼にしては珍しく、考え込むように言った。
「全然知らん名だな。今度アカネちゃんにでも調べてもらうか‥‥」

「そいつがどうしたってんだ?」レンズが尋ねる。「よくいるフリーランスのカブトだろ? 盾だったら、竜二にやらせればいいじゃねえか。あの“シンマイ”によぉ」

「そんなんじゃねえ。オレにガードなんていらねぇよ」ゼロの顔つきは真面目だった。
「なあ。銃撃が激しいんで一緒に隠れてた時、ヤツと二言三言交わしたよな」
「ああ‥‥。で?」レンズは頭をポリポリ掻いた。

「ヤツが確かこう言った。『特務警察の高名なるハウンド(猟犬)にお会いできるとは光栄だな』。
 んでオレが『フン。こちとら、ケレブロスの加護があるんでな』って答えた」

「‥‥あぁん?」レンズのフェイトの頭脳も答えが出せない。
「そしたらやっこさん、『それは奇遇だ。俺にも加護がある。闇の公子の加護がね』って言いやがったんだ!」

「‥‥だから、それがどうしたって?」レンズはポカンと口を開いた。
「闇の公子(ナイツ・マスター)アズュラーンだよ! 知らんのか? 災厄前の小説だ! このN◎VAにアレを知ってる奴がいたとはな‥‥。きっと『指輪』の事も知ってるに違いねえ」
 ゼロの目の色が変わっていた。話す様子ははしゃぐ子供そのもの。

「‥‥だぁ〜ッ!!」ようやくレンズにも話が飲み込めた。
「まぁたその話か! おめーなぁー、ずっと前のダンの時の一件でもそうだったじゃねえか! お陰で危ない目に遭ったってのに!」
「だってな、ありゃファンタジーじゃ有名な‥‥」
「うるせぇ! いつもいつもガンダルフがどうしたこうしたとか‥‥。第一なあ、ゼロ、お前、いい年して自分で言ってて似合わんとか思わんのか?」
「て、てめぇ、言ったな!」

 その時、二人のバイクの無線にコール音。最凶コンビの表情が変わる。“黒い猟犬”の名は伊達ではない。

“こちらブラック・ハウンド本部。タタラ街のガンショップで少年による銃乱射事件発生。客により犯人は射殺の模様。少年はニューロ(神経錯乱)気味だったとか。至急急行願います。場所は‥‥”

 二人は顔を見合わせた。
「アカネちゃん、オレ達の他にパトロール中の警官は?」ゼロが無線を取る。

“それが、但馬巡査がいたんだけど‥‥呼び出したら何故かウェットシティにいたのよ”

 オペレーター・ルームの声は困惑気味。“剣殺官”こと但馬備前。ゼロにも並ぶ剣術の腕の持ち主。女にも手が早い問題警官の一人。
「あの備前のアホウが! どうせ女のケツでも追いかけてたんだろ?」
 ゼロは荒々しくゴーストライダーにまたがると、吐き捨てるように言った。
「まあそう言うなよ」レンズはステッペンウルフの上でニヤニヤ笑っていた。
「あの辺の店にゃあ、俺の馴染みのカワイコちゃんも沢山いるからな‥‥」

“とにかく、あなた達が一番距離的に近いの。とにかく現場へ向かって!”

「了解! 先に行ってるぜ!」
 アクセルをフル・スロットル。爆音を盛大に響かせ、ゼロはバイクを飛ばした。

 残ったレンズは中央区の夜景を振り返った。アーコロジーと高層ビルの光。夜空を照らすレーザー・ライト。ネオンの輝きが、まるで超新星のようにこの街を照らしている。
「さぁて‥‥今宵も、ショータイムの始まりだ!」
“汚職警官”はバイクを走らせた。

 今宵もまた、猟犬たちの狩りが始まる‥‥。

The Only doorway to the isolated Japan,

TOKYO N◎VA

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