イルレイン「わたしはイルレイン。白のイルレイン。ハイデルランドを旅する、刻まれし者のひとりだった。
志なかばで私は力尽き、ある闇の魔剣との戦いで倒れてしまった。いや――元から魔術師に作られた人形であった私だ。死んだのではなく壊れただけかもしれない。私の体の一部と、聖痕を失ったツインブレイドはケルバーに埋葬されている。
伝説では、刻まれし者の魂は転生し、元の記憶を持って新たな英雄に宿るという。だが、いのちを持たぬ私にはそれは無理かもしれない。私は消えていくだけなのかもしれない。
志を共にする者よ、最後の頼みだ。ここで見て欲しいものがある。この箱の中にあるのは、《禿鷹の巣》ラナス支部から発表された、手配中の殺戮者の絵姿だ。
彼のものはハイデルランド最強の殺戮者。部下を引き連れ、東方より現れた。職員の談話話では、「どこかで見たような気もするが、気のせい」だと言っていた。どうやら鳥に似た姿を持っているそうだ。少なくともコロナのアルカナの力を有しているらしい。エルスもあるだろうか。それともファミリアが闇の鎖に捕らわれたのだろうか?
絵を目の前にすると、まだ姿があった頃のわたしの聖痕が震えるような気がする。自動人形を示す額のあの飾りが、魔剣が、そして瞳の奥の第三の聖痕が。
遠き友人よ、あなたも刻まれし者の一人ならば、殺戮者たちの姿を知っているだろう。堕落し、闇に堕ち、冒涜的な、星々に反逆するかのようなあの恐ろしい姿の数々を。
絵姿に描かれた彼のものも同じだ。その姿に凍り付いてしまうものもいるだろう。力の誘惑に耐えられず、共に堕ちてしまう同志もいるだろう。
だが、勇気を持って、目を開いて欲しい。そして彼のものの姿を心に焼き付けて欲しい。彼のものと遭遇したならば、刻まれし者の誇りをかけて戦い、打ち勝ち、その聖痕を暗い夜空に返してほしい。それこそ、我ら刻まれし者のさだめなのだから。
これが私の最後の頼みだ。もし見る勇気が奮い立たなければ、それでもよい。英雄には危険を避けることも必要だ。ただ、どうか覚えていて欲しい。かつて刻まれし者として戦った者の一人に、生を受けた自動人形がいたことを。その“白の”イルレインが、あなたの夢の中で最後の願いをしてきたことを」
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