Chapter:10 Night's Pawn

第10章 ナイツ・ポーン


 一層霧が濃くなった。遥か彼方に西新宿の超高層ビル街の明かりが見える。新宿の辺りまで行けば、とりあえずは大丈夫だろう。
 路地裏の向こうに、一台のバンが停車していた。ランドローバー・モデル2046。4WDの多目的車両。乗員数を増やしたロング・ホイールベースのバージョンだ。
 目立たない色に塗装された車には会社名が書かれていた。霧が分かれ、文字が読み取れた。“フチ・インターナル・セキュリティ”。ドアが開き、数人のコート姿が降りてくる‥‥。



[中]> フチか。だったら大丈夫だ。

[GM]> では[礼儀作法/企業]のテストをしてもらおう。


>>>>>[マイルズ・ラニアー率いるフチの有力部門の一つ。フチの重要施設の警護なんかを担当してるとこだな。『東京ソースブック』とかいうファイルにはセキュリティ担当となってるが、全部のセキュリティを任されてる訳じゃないね]<<<<<

――エルフ・デッカー メタリック・マウザー


[GM]> 十六夜の《敵探知》には反応があるぞ!

[十六夜]> ええっ?

[GM]> タチバナ氏は震える声で「や、やめろ‥‥隠れてくれッ!」と押し殺した声で叫ぶ。

[桐原]> すぐ隠れるぞ!

[GM]> 幸い暗いストリートには物陰が沢山ある。[隠密]で目標値2。技能のない神薙は敏捷力で目標値6だ。

[神薙]> くっ‥‥カルマを使って何とか成功。
「どうして隠れるんだ?」とタチバナに聞く。

Runners

[GM]> 「頼む‥‥静かに」彼は呟く。
 さて。十六夜はエルフだから暗視能力があるね? 目標値5の知覚テストをしてみよう。



 霧が地面をじっとりと湿らせていた。遥か頭上で、ドク・ワゴンTMのオスプレイIIのローター音が響いていた。あの武装VTOLは‥‥激しい銃撃戦の最中から加入者だけを救い出す、ハイ・スレート・レスポンス(HTR)・チームのものだろうか? 怪我の多いサムライやボディガード御用足しの武装救急会社だが、できれば世話になりたくはない。
 一人の男が一行のすぐ近くまで近付いてくると立ち止まった。だが、誰にも気付かずに彼は無線機を取り出した。暗くて分からないが――フチの関係者のようだ。
「‥‥こちら(おぼろ)チーム。連中はいないようです。これからデータチップの探索を続行します。期待しないで下さいよ? 本物がどれかも分からないんですからね」
 闇を見通すエルフの視力が、防弾コートの下の背広に付けられた記章を読み取った。見事な毛筆体で一文字、『朧』と書かれている。

 十六夜の脳裏に、自分の名がまだ長門美月だったあの夜――まだ、システム照合番号(SIN)を持つ登録市民(SIN-NER)だった二年前のあの夜の記憶が蘇った。
 自分を拉致しにきた謎の勢力の私兵。浜松氷川(ひかわ)神社は破壊され、自分を守ろうとした育ての親の長門夫妻は殺された。激昂した彼女は旋風精霊を呼び出し、彼らを惨殺したのだ。その時の男たちも、胸に『朧』と書かれた記章を付けていた‥‥!



[GM]> そのうち、フチ・イントセクの人々は諦めたらしく、車で何処かへ行ってしまいます。

[十六夜]> 「‥‥二年前の浜松でのオペレーションの事は知ってる?」とタチバナに聞いてみる。
「‥‥裏で、誰が糸を引いていたのかは?」

[GM]> 「君がなぜ知っているんだ!?」と彼は驚いて教えてくれます。イントセクの東京支社で裏工作や隠密作戦を指揮している、石見 正樹(いわみ・まさき)という男だそうだ。

[十六夜]> 「‥‥そう」としばらく黙って考え込んでる。

[GM]> 諸君、十六夜がなんか考え込んでるぞ?

[神薙]> オレは自分から言わない限り、人の過去は詮索しない。

[GM]> タチバナ氏は「朧チームか‥‥。なるほど、イントセクの連中も動いてるのか‥‥」と呟いてます。

[桐原]> 教えてくれ。“朧チーム”とやらは何なんだ?

[GM]> 「詳しくは言えないがね‥‥奴らは味方ではないんだ」

[神薙]> 同じフチでもか?

[GM]> 「君らもデッカーに知り合いがいれば、我々フチの技術力の高さは聞いているだろう。だが‥‥世界のフチと謳われてはいるが、我らがフチ帝国はそれほど頑丈にはできていないんだよ」と彼は苦々しげに笑います。
「すまん。ここから先は企業秘密だ」

[ヴィッキー]> ううーむ。

[中]> 私は想像できるところまでしか考えない。

[GM]> タチバナは十六夜に「ずいぶん詳しいようだが‥‥?」

[十六夜]> 「‥‥まあね」とだけ言っておくわ。

Corporate Shadowfiles
While The Earth Sleeps

 暗いストリートを進み、ようやく新宿にたどり着いた。西新宿とは対照的に、東新宿は治安が悪い。歌舞伎町を中心とする雑多な繁華街が広がっており、夜になると活気づいてくる。そして本物の――夜に生きている種類の人間たちも多い。
 シムセンス・デッキのジャックを額に繋げ、偽りの感覚に没入したチップヘッドの一団が通りをふらふらと歩いている。その向こうでは、インド風の僧服を着た別の一団が何かに祈っていた。



[GM]> 十六夜が出羽さんに定時連絡して、その事を話すと彼女も顔色を変えます。『そう‥‥。イントセクもそこまで動いていたのね‥‥』
 で、まだどこかの勢力が本物を手にして安全な所まで高飛びしたという情報はないそうだ。まだ探してるか、本物かどうか確認の連絡待ちのまま都内の何処か――新宿周辺のストリートに潜んでいるのでは。
 あとシアワセもどうやら動いてるようだから、今夜の件全部が情報攪乱だということはなさそうだ、ということです。

[神薙]> これだけダミーを用意するんだから、慎重な奴らだな‥‥。

[ヴィッキー]> さすがシアワセ、笑いながらもしっかりしてる(笑)。

[桐原]> 大阪の方でもすごい騒ぎになってるだろうな。

[十六夜]> 「また情報が入りましたら」と電話を切るわ。

[GM]> 『曖昧で申し訳ないわね』と彼女は言う。『橘さんにもよろしくね』

[神薙]> 医者に会うなら、タチバナとはここで別れることになるな。

Sprawl Map



「‥‥〈ライフ・ライン〉を始め、この辺には闇クリニックも沢山ある。もう大丈夫だ。世話になったな」
 敬礼でもするかのように軽く手を上げると、タチバナは一行に別れを告げた。最後にヴィッキーと十六夜の方を見ると、自嘲気味に軽く笑いかける。
「‥‥次は、バーかナイトクラブでお会いしたいね」
 痛む体を支え、工作員らしからぬ男は雑踏の中へ消えていった。光と音の奔流の中で、彼の姿はすぐに見えなくなった。
 ふと頭上を見上げると、緑のグリッドの踊る電光掲示板の中で、DT1のニュース速報の文字が流れていた。

【‥‥『よみがえる薔薇』『飛び翔ける不死鳥』のヒットで知られるRI財団から、新作シムセンス・ノベル『ネヴァー・ゴンナ・フェイド・アウェイ』が近々発表。
 災厄の起こったもう一つの世界、東京湾上に造られた架空の巨大都市を舞台に、悪徳企業に戦いを挑む主人公達のアクション・ストーリー。ミス・アレクサーナ、秋月寺霧子、静上薫、滝川恕子ら個性派シムセンス・スターを配役。
 ASISTコントロール・トランスポート(ACT)方式のモノPOV仕様、ポリPOV仕様、そして最高級のDIR-Xシステム対応型も同時発売‥‥】
【この作品に対し、独創的なソフト制作で知られるIN◎UEコーポレーションから『悪役として登場する企業があまりに当社に似ている』とクレームが付いた模様。成り行きは未だ不透明‥‥】

現 実 よ り も リ ア ル (リアラー・ザン・リアリティ) 人 生 よ り も リ ア ル に (リアラー・ザン・ライフ)
 フチ・エレクトロニクスのリアルセンスTMマスターシムはドリームライナー・シリーズの互換機です。貴方を未体験のリアルスペースTMの領域へ。シムセンスはフチ‥‥】



>>>>>[シムセンスのやりすぎで頭がニューロになっちゃった坊やたちのことを、第六世界ではデッキヘッドやチップヘッド、ワイヤヘッドって呼ぶみたいね。もちろん人生に夢は必要だけど、夢の見すぎもいけないわ]<<<<<

――NCB広報部“広報部の華” 静元涼子

>>>>>[RI財団は夜になるとエッジを踏み超えたワイヤヘッドを粛清して回ってるとか、強靱な意志を持った優秀な工作員が多いとか、有明の方によく出没するとか、どこかのコーポが賄賂用のゲームソフトを贈ったけど効かなかったとか、訳のわからんウワサが色々あるな。まあ、信用できないがね。第六世界には、こういう類いのウワサはいくらでもあるさ]<<<<<

――エルフ・デッカー メタリック・マウザー

>>>>>[はううぅ〜]<<<<<

――???

>>>>>[‥‥誰だい??]<<<<<

――エルフ・デッカー メタリック・マウザー

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