Chapter:11 Wintermute

第11章 ウィンターミュート


[神薙]> することもないし、バーで待機だな。

[ヴィッキー]> アタシにはギグがあるわ〜!

[十六夜]> ‥‥バーに行くなら、ここは〈ジ・アフターライフ〉〈ヤロール〉XYZカクテルを飲んでいたいわ。かっこウソ(笑)。

[桐原]> 今頃、東京のどこかでぬいぐるみの争奪戦でもやってるかもな‥‥。

[中]> (ぼそっと)プリティ○ミーの人形とか。

[GM]> なんか言いました?

[十六夜]> 何でもありません。世の中には聞かなかった方がいいこともあるのです。

[GM]> さいですか。しばらく待ってると、今度は桐原にマウザー君から連絡が入ってくるよ。
『ホイ、チャマー。マウザーだ。レンラク・データタワーから漏れたネズミをちょいと捕まえてやったぜ』



 頑丈な公共テレコムで連絡を取る。千代田にあるレンラクの管理する施設に重役が来ていたらしく、レッド・サムライはその護衛の名目で動いていたようだ。
 あの後池袋の銃撃戦は終わり、当然のことながらレッド・サムライが勝った。だが、結局何も入手できなかった彼らはもう撤退したという。
 マトリックス内の〈ハッカー・ヘヴン〉で会った別のデッカーから聞いた話も教えてくれた。新宿の外れにある廃ビルで銃撃戦があったらしい。

Virtual Realities 2.0


>>>>>[マトリックスの中は最高にホットだよ? リアルスペースの窮屈な肉体を離れ、光の速さで駆け巡れるんだ。どんなに体が不自由でも、“飛んでる”時は関係ないのさ! そりゃ、凍りつくよなブラックICに出くわすこともあるけどね。
 サイバーデッキのテクノロジーもどんどん進んで、55年あたりからは一から自分でカスタマイズして造れるようになった。セミオートマチック・ノウボッツ(SK)じゃない本物のAIも、今じゃマトリックスの何処かにいるって話だ。
 最近の噂をもう一つ。デンバーのマトリックスの奥底で不思議な体験をした子供たちの中には、生きたペルソナを備え、サイバーデッキなしで“潜れる”ようになった子もいるんだってさ。本当かな。その名はチルドレン・オブ・ザ・ネット――別名“ジ・オタク”。
 マトリックスの中にはもうグレート・スピリットが宿ってるとか、もうエイリアンが侵入してるとかいう話もあるよ。マトリックスは広大だからね‥‥]<<<<<

――デッカー ネットボーイ

>>>>>[なあ、小僧。その“ジ・オタク”とやらも日本語にするとどうもヘンらしいんだが、どうなんだろうな?]<<<<<

――ストリート・サムライ レイザーエッジ


[GM]> 場所も教えてくれます。今で言うと住吉町の方だ。

[桐原]> 一つづつ潰していくしかない。すぐ行こう。

While The Earth Sleeps

 〈暁〉や〈ワイルド・ヘブン〉、〈シルバー・ムーン〉といった酒場の看板が他の店の宣伝に交じり輝く歌舞伎町を抜け、暗いストリートを進む。
 天使像のモニュメントの下で、聖書を手に何事か行き交う人々に語りかけている男がいた。揃いの色を纏ったストリートパンクが一瞥をくれただけで通り過ぎていく。
 仁王像の守る無国籍のナイトクラブの前に、ホンダの“バイキング”スーパーサイクルが止まっていた。バイクの銀色のラインを撫でているエルフの女性が、タキシード姿のトロールと何事か話している。
 夜の新宿も極めて危険な街だ。そびえ立つ摩天楼の陰に、何が潜んでいるか分からない。だが、渋谷に比べればこの街には分別があるとも言われている。本物のランナーも多いのだ。

 噂の廃ビルに近付く。少し霧は収まり、視界は良くなった。誰もいない一階で、数人が倒れている。どうやら片方がもう片方から逃げ出そうとしていたところのようだ。
 窓の外、遥か頭上には、SHAPELY-LTA方式のエアシップ・インダストリー社の飛行船、“スカイスウィマー”が、夜空をゆっくりと泳いでいた。船体の下にしつえられた巨大スクリーンの中に、DT1のニュースが流れていた。

【‥‥今年のUCAS大統領戦のスキャンダルを受け、来年の57年8月7日にやり直し選挙が行われることが決定。
 さる筋によりますと、今年市民権を得たロッキー山脈に住むあの著名なグレート・ドラゴン、デュンケルツァーン氏が無政党の独立候補として立候補する意向との、未確認の情報が入っております‥‥】

 地上のレーザー・ライトの明かりを受け、トリデオ画面の中でグレート・ドラゴンが片目をつむっていた。

Vote Dunkelzahn for president!


>>>>>[さすがは誉れ高き龍族、氏は圧倒的な支持率で見事当選致すそうだ‥‥だが、ウォーターゲート・ホテルでの勝利宣言の最中に、親愛なるビッグD氏は何処かの手の者にかかり爆殺されてしまうと聞いている。痛ましい限りよのう‥‥]<<<<<

――龍族の魔銃使い 白炎

>>>>>[用意周到な彼は幾頁にも渡る謎めいた遺言書を残しました。世界中の100を越える様々な勢力や団体、人々に、グレート・ドラゴンの実に様々な遺産が渡ります。様々な秘密が明かされ、様々な謎が生まれます。そしてまた、遥かなる第六世界はさらなる混乱へと巻き込まれていくのです‥‥]<<<<<

――異端イェロマーグ派の吟遊詩人 ハラーラ

>>>>>[ちなみに、ビッグDと同一人(?)物らしきグレート・ドラゴンが、あたしたちの世界にいるそうよ。第六世界から7000年の昔、ホラーの脅威が去り大地が夜明けを迎えた、このバーセイヴ地方にね]<<<<<

――名もなきトゥスラングの剣匠

Portfolio of  a Dragon: Dunkelzahn's Secrets


[十六夜]> ここで《敵探知》に反応がないということは‥‥このビル内にはいない?

[GM]> 双方とも撃ち合って死んだようだ。片方の三人は身元不明の日本人。スパイさながらの装備を隠し持ってる。もう片方――逃げようとしていた方の二人はバイクの玩具を持っていた。中にはデータソフトが隠されてる。

[中]> チェックしてみましょう。

[GM]> よく見るとBMWの“ブリッツェン2050”というカッチョイイ最速バイクの模型だ。データソフトは壊れていない。中を読み取ってみると『ZZZ-528528‥‥』と何かのコードが記された後、厳重なプロテクトが掛かっていてそこから先はアクセスできないようになっている。

[中]> これは使えそうか‥‥? 最初の方でも、暗号名は『Z-File』と出てましたね。

[神薙]> その二人の身元は?

[GM]> どちらもドイツ人のようだ。H&KのMP5-TXという銃身の短い使い回しのいいSMGを持ってる。クリップには珍しいAPDS弾が入ってるね。身元は不明だ。だが‥‥ドイツには大きな企業が一つあったね。

[ヴィッキー]> おお〜。もしかしてザーデル・クルップ?

[十六夜]> SMG用の徹甲弾が20発? これは使い回しができるわ。桐原、貰っときなさい!

[桐原]> じゃあ遠慮なく頂いておくぜ。チュン、分けてやろうか?

Saeder-Krupp

[中]> いや私はいい。この間弾を変えたから。

[GM]> ゲル弾を買ってなんか意味あるんスか?

[中]> いやだって主義主張を全部変える訳にもいきませんから。

[一同]> ‥‥‥‥はぁ??

[GM]> (‥‥君のキャラクターに主義主張やスタイルなんてあったのかい‥‥??)


>>>>>[ケッ。精神ダメージを与えるゲル弾は相手が転倒しやすくなるだけで、暴徒鎮圧にしか使わんぞ。ましてやシャドウランナーが使う機会なぞ普通はない。そんなに敵を捕まえて尋問したいのか? 訳がわからん。気色の悪いヤツだ]<<<<<

――フリーの走り屋 “クリムゾン・レッド”D.E.

>>>>>[第一のルールだ! スタイルは実像をしのぐ。重要なのは何を“どうやって”するかだ。人生自体を一つの 主 張 (ステートメント)に変えてやれ。そいつが、“サイバーパンク”のやり方だぜ!]<<<<<

――エッジランナー リパーJ

>>>>>[君がそうした世界に踏み込むのなら、自分を象徴する何かを持っていた方がいい。粋な通り名、お気に入りの武器や格好。堅い信念や自分だけの魂。胸に秘めた理想や誇り、自分の求めている何か。何でもいい。
 戦いの中で自らのアイデンティティが崩壊の危機にさらされる時、そうした君だけの輝きは何よりの助けになってくれるはずだ]<<<<<

――フリーのカブト “デス・ロード”アレックス

>>>>>[ヘイ、チャムリー、そう言う兄ちゃんは、一体何を探してるんだい?]<<<<<

――エルフ・デッカー メタリック・マウザー

>>>>>[さあな]<<<<<

――フリーのカブト “デス・ロード”アレックス


[神薙]> 待った。オレ達がこのチップを持ってるってことはかなり危険じゃないか?

[桐原]> ここを離れた方がいいな。

[十六夜]> 出羽さんにすぐ連絡を取るわ。

[GM]> すぐ電話は繋がる。パスワードの話を聞いた後、
『‥‥もしかしたら本物かも知れないわ。これだけ各勢力が動いて手に入らなかったのだからね‥‥』

[十六夜]> 「本物であったにせよ偽物であったにせよ、すぐお渡しした方が良いのでは」

[GM]> 『すぐ情報部に当たってみるわ。今どこ?』

[ヴィッキー]> この電話は盗聴されてないのよね?

[GM]> ええ、多分ね。

[神薙]> お嬢、済まないが《敵探知》の呪文は切らないでそのまま電話を続けてくれ。

[GM]> では十六夜は目標値+2で会話して下さい(笑)。場所を聞くと
『‥‥そうね、却ってそういう場所の方がいいかも知れないわ。他の勢力の襲撃や盗聴も考えられなくはない‥‥しばらく今のまま潜伏していて。大通りには出ない方がいいわ』

[ヴィッキー]> おおー、待つのね!

[神薙]> オレは辺りを物色しておく。ここで待つなら守り易い場所の方がいいからな。

[GM]> 『しばらく電話は切るわ』と言って携帯電話は切れます。君の呪文に今のところ反応はないし、辺りには誰もいないようだ。

Runners

[中]> 私は上空を警戒しておく。またあのヘリが来るという可能性がある。

[GM]> ここはかなり街中だし戦闘ヘリなんか使ったら目立ち過ぎるんですが。その心配はいらないよ。

[ヴィッキー]> ホントの企業同士の戦争になっちゃうわよね。

[神薙]> 遮蔽の取れそうな戦術的に有利な場所で待機だ。

[中]> 建物の中が基本的に有利だと思うんですが。

[神薙]> いや、全員が上にいると退路を絶たれる可能性が高い。迎撃するメンバーが下にいて上から別のメンバーが狙撃するなら別だがな。下の方がいい。

[桐原]> 俺もアサルトライフルは持ってきてないぞ。この死体も持ってたのはSMGだけだ。

[GM]> 二階から先は行けないようになってます。それにこのビルはかなり脆そうだよ。路地裏には幾らでも隠れる場所はある。廃ビルの外で問題ないのではないかな。

[十六夜]> 一旦呪文を切って、もう一度都市精霊を召喚しておく。フォースは4で。

[GM]> ‥‥では、それを見ている人たちは知力で知覚テストをしてもらおう。最高の目は‥‥41!? じゃあ、ヴィッキーと中は気付いた。

While The Earth Sleeps

 薄暗いストリートで連絡を待つ。吐いた息が白い。壁のパイプから、水の滴り落ちる規則的な音だけが辺りに響いていた。冬の東京スプロールには様々な場所がある。パレードの開催されるきらびやかな大通りがあると思えば、迷路のように入り組んだ闇深い路地裏もあるのだ。

【‥‥過密都市東京を脱出。広大なる新天地CFSへ!
貴方もカリフォルニア自由州へ移民しませんか? 現地では既に様々な日本企業が貴方を待っています。帝国政府は、メタヒューマンの移民を推奨‥‥】

 上空の飛行船も遠くへ行ってしまった。今夜ばかりは静けさが気味悪く感じられた。いっそ、何かが起こったほうが気が紛れるかもしれない。
 少し離れた場所にいたヴィッキー達は、人影に気付いた。
 道の向こう、別の通りからの入口の所に、一人の男が立っていた。逆光で顔はよく見えない。チェスターコートを羽織っているが、武装はしていないようだ。攻撃するつもりがないことを示そうとしたのか、彼も両手を上げた。何者だろうか‥‥?

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