第8章 トーキョー・バイ・ナイト
交通封鎖されている都心部を車で横切るのは危険だ。渋谷で車とバイクを降り、電車で行くことにとりあえず決めた一行は夜の東京を走った。
夜の都会には様々な顔がある。高級歓楽街や立ち並ぶ超高層ビル、迷路のように入り組んだストリートや低治安エリア。このトーキョー・スプロールは、20世紀の日本の首都東京とは違う都市になってしまった。何もかもが違う街に。
六本木を通る。治安レベルの高いこの辺りは、企業人や金持ちの集まる飲食街だ。様々なバーや高級レストラン、アミューズメント施設の看板が闇の中で光っている。
中世ヨーロッパ風の内装が売りの〈バロック・テクチャー〉というバーの近くを通った時。店から出てきたらしい若い女性が、道路の真ん中に突っ立っている‥‥!
[GM]> 先頭のバイクの2人は[バイク]で目標値4!
[十六夜]> 目は13!
[ヴィッキー]> 成功! スピンしてかっこよく停めたわ。
[GM]> どうやら泥酔してるみたいですね。長い髪を振り乱して、高そうな服を着てます。回りには取り巻きがいる。「気をつけなさいヨ、アンタ〜」とか言ってる。 [ヴィッキー]> フザケんじゃないー! |
[十六夜]> 気をつけるのは貴方の方よ。ところで見覚えは?
[GM]> 君はない。ヴィッキー、[礼儀作法/メディア]で目標値4。
[ヴィッキー]> カルマを使って‥‥成功!
[GM]> 君は知ってるね。アレスの有力部門、アレス・グローバル・エンターテイメントと契約を結んでる人気アイドル歌手、
[ヴィッキー]> バリバリ売り出し中ね。
[GM]> 裏では超わがままなことで有名です。けっこうぶりっ子系の人だね。
[神薙]> (いきなり)華原だ。
[ヴィッキー]> このまま轢いちゃった方が良かったかも。
[GM]> 関係はありませんが第1話のシナリオで、君たちがリガーと接触して高跳びしようとしたヤマテツの工作員と戦った時、トリデオの看板の中で踊ってたのは彼女です。
でお付きの人が「沙奈絵様、そろそろお戻りにならないと」とか言うと「ダメ〜! α-コロシアムにも行くのォ〜! ね、マイケル〜」とか言って横のホスト系の外人が「ヤ、レッツゴー」とか言ってる。
[ヴィッキー]> コロシアム‥‥?
[GM]> お付きの護衛が「すみません」とか謝って、彼らは行ってしまいます。 [十六夜]> 「何だバカか」って感じよね。 [ヴィッキー]> さすがアレス、お付きの人は礼儀正しい。帰りにディコートTMシュリケン投げつけようかな(笑)。 [一同]> やめろ! もったいない! |
渋谷に車とバイクを置き、モノレール車両に乗り込む。“多層都市”とも呼ばれる東京の高層ビル群は上へ上へと伸び、鉄道も幾層にも分かれていた。ビルの上と上とを結ぶ高層鉄道はよく管理され、時間にも正確、警備も行き届いている。利用しているのは大企業のエグゼク達だけだ‥‥あの高みから下を見下ろす彼らには、薄汚いストリートを蠢くものなど目にも入らないのだろう。
下に行くほど電車も管理がおざなりになり、駅のホームを独創的な落書きが飾っている。さすがに大きな武器は運べないので、桐原は派手なランに備えて揃えておいたヘッケラー&コッホの優秀なアサルトライフル――H&KG12A3zだけは断念した。
20世紀には山手線と呼ばれていた線を通り、一行は廃墟と化した街――池袋へとたどり着いた。
>>>>>[東京紛争の爪跡が残ってるだと? アサクラ電子技術? そんな企業は知らんぞ。あの天下のフチが東京のド真ん中で戦争? 信じられん!! 日本語版はなんて酷い設定だ!!]<<<<<
――ストリート・サムライ レイザーエッジ
>>>>>[まあまあ、先へ進もうよ。池袋からなら星が見えるんだってさ。ドラゴンの星も見えるかもね]<<<<<
――チャクラ “幻龍”明月寺霞
池袋東部は再開発区域からも外れ、放置されたままのコンクリート・ジャングルが広がっている。ここの低治安エリアは深夜になると、ECPのパトロールもやってこなくなくなる。彼らも企業警察なのだ。
傾いたビルの廃墟の向こうに、新宿方面のネオンの明かりが見えた。夜空が霞んでみえる。第六世界は、そして東京スプロールは繁栄の極みにあるように見えるが、そんなことはない。東京には幾つもの顔があるのだ。
夜空の星は汚れた大気に霞んでいた。亜軌道ジェットの点滅灯が空を横切っていく。南の空の彼方で明滅しているのは――新日本帝国の電力を賄う、巨大太陽発電衛星の光だろうか?
>>>>>[エネルギー衛星からマイクロウェーブに変換して、新日本帝国全土に送ってるんだって。やっぱり、ピンク色のレーザーにして富士山頂に送るのは変なの?]<<<<<
――あるニューロキッズ
[GM]> 夜なので治安評価はEからZへ。警察も絶対やってこないコンバット・ゾーンみたいなとこですね。銃撃戦の音がまだバリバリ聞こえます。
[十六夜]> とりあえず《敵探知》を。範囲は36m。
[ヴィッキー]> またあのヘリが来たらイヤねぇ。
[神薙]> まだ銃撃してるのか! 長期戦だな‥‥。
建物の陰を進む。暗闇の中で銃撃戦は続いていた。
片方は例の“勇敢なる吸血鬼”とかいう機装ギャングだろう。全員揃いの整形手術で歯を尖らし、サイバーウェアと強力な火器で武装して無謀なファイアーファイトを続けている。
もう片方は揃いのヘビーアーマーを着た部隊だった。どこかの企業軍だろうか? 肩には赤い紋章が輝き、統制の取れた動きで散開し、着実に敵を倒している。特殊部隊用のアレス・アルファ・コンバットガンや、フレンチ・スパス22のアサルトショットガンで武装していた。
[十六夜]> ただのギャングがこんなに持つのはおかしい。アストラル知覚で見てみるわ。
[GM]> なるほど。遠くてよくは見えないけど、エッセンスが減ったりドラッグを使ったりはしてるようだね。
人間メタヒューマン吸血鬼化ウィルス(HMHVV)に感染した本物の吸血鬼だとかいうことはないようです。
[桐原]> ヴァンパイアか。この前戦ったよな‥‥。
>>>>>[ビンゴ! 第六世界には本物の吸血鬼までいるの? ズイブン楽しいトコねェ‥‥今度Nシティから行ってみようカシら]<<<<<
――ナイトシティのギャング フィルハーモニック・ヴァンパイアズ
>>>>>[僕らはどの夜にも潜んでいます。呪われしカインの子として、永遠の仮面舞踏会を続けているんですよ]<<<<<
――トレアドール12世代 霞夕也
>>>>>[オレたちも、いるゼ]<<<<<
――“チルドレン・オヴ・ガイア”のガロウ
>>>>>[覚醒世界ニハ様々ナ生命体ガ潜ンデイル。ダガ、くりったー程度デ驚イテハイケナイ。
ぐれーと・どらごんノでゅんけるつぁーん氏ノ遺言状ノ一部ニハ、NASAガあれすニ買収サレあれす・すぺーす社ニナル直前ノ火星ノ写真ガ載ッテイル。ソコニハ、何トUFOラシキ物体ガ写ッテイルノダ。ハ、ハ、ハ、驚ケ地球人ドモ!]<<<<<
――レティクル星人
[GM]> ユニットの方はみんな非常に優秀ですね。肩には“赤武者隊”と書いてあります。[礼儀作法/企業]を。 [十六夜]> レッドショルダーよ! それはイヤ! [GM]> 成功した人は分かる。レンラクの誇るエリート・ユニット、レッド・サムライ・パックだ。 |
>>>>>[連中は最初はレンラクの社長、
『東京ソースブック』とかいうファイルにはセキュリティ担当って書いてあるらしいが、そいつはちょっと違うな]<<<<<
――エルフ・デッカー メタリック・マウザー
>>>>>[ケッ。間違いだらけだぜ。まったく‥‥]<<<<<
――ストリート・サムライ レイザーエッジ
>>>>>[マニアな濃いヒトって‥‥何だかこわ〜い。文句を言うのは簡単だけど、それだけじゃ物事は全然よくなりませんよ〜だ。
だって、一番大事なのは、私たちがどんなシャドウランを楽しめたかでしょう?]<<<<<
――ハーフエルフの冒険者 エリーシャ・フィオレット
>>>>>[当財団は、そんな貴方も応援します。新作シムノベルをよろしく。IN◎UEコーポレーションにはご注意を]<<<<<
――RI財団広報部より
[ヴィッキー]> おおー、前のニンジャ部隊と同じくらい強そうね。敵に回したくない。 [十六夜]> (1人で錯乱している)レッドショルダーはイヤ! キリコ・キュービーよ! [中]> とりあえず近づいて、ヴァンパイアズの方を退治しましょう。 [神薙]> レンラクの味方をするのか? オレは反対だ。 |
[中]> だって私レンラクのミスター・ヤマダさんの知り合いですよ?
[GM]> では。中は一人で少し近づきました。
折しも軽めのパーシャル・スーツを着た偵察兵らしい人が遮蔽の陰でサブマシンガンのクリップを取り替えてますね。日本の
「む! 誰だ!」と言って君の方を向く。
[中]> レンラクのミスター‥‥
[GM]> 距離はまだ少しあるね。彼はいきなり撃ってきます。バースト射撃で10S2個成功。その後さささっと移動してどこかに行ってしまいます。
[一同]> なに〜!
[中]> ‥‥プールを使って‥‥ダメージは何とか消した。
[GM]> 遠くから見る限りレンラクと戦うのはかなりヤバそうだよ。ヘビー・アーマーを着てるしかなり武装も強力だ。人数もいる。ギャングの方が負けてるね。
[十六夜]> 私が《敵探知》を切って
[GM]> こちらの知覚テストは目標値+18ですか。そりゃ絶対見つからないわな。
神薙のアストラル偵察で、銃撃を続けるギャングの後ろに死体らしきものが転がっているのは分かっていた。魔力の不可視の衣を纏った十六夜は流れ弾を避け、ドラッグとファイアーファイトのもたらす興奮に夢中の吸血鬼ギャングの後ろにそっと忍び寄った。
確かに、ヤカシマ・テクノロジーズの不運なチームのものらしき死体の側にデータソフトが転がっている。だが、中身は破壊されていた。
[十六夜]> これも偽物みたいね。一応貰っとくけど。ここを離れた方がいいのでは?
[神薙]> あたる、ここでミスター・ヤマダに聞いた方がいいんじゃないのか? あくまで忠告だが。
[中]> いや、それはやめた方がいいでしょう。
[GM]> 現場を離れてしばらくするとフチの出羽さんからレンラクがあります。背後の激しい銃撃音を聞いて、 [十六夜]> 「池袋です。レッド・サムライも動いているのでかなり大掛かりなのでは」 [GM]> 『確かにブースターギャングが騒いでいるという話は聞いたわ。そこに本物があるという情報はないけど。レンラクには関わらない方がいいわ。そこを離れて』 |
彼女の話では、何処かの勢力が確かに本物を入手したという話はまだないという。パレードは警戒が厳しいから、恐らくそれより北の新宿などの都心部――現在、一行がいる辺り――に潜伏している可能性が高いと。一行は銃撃の続く池袋の廃墟を後にした。
[神薙]> 全部の勢力の持ってるダミーを一つ一つ潰して回るのか? 情報が入るまで新宿で待機か‥‥。
[桐原]> デッカーのマウザーから連絡は?
[GM]> 彼もまだ大したことは掴んでないようだ。ただ、南の目白の方で騒ぎがあったという未確認の情報を教えてくれるよ。ちなみに今夜は、
[神薙]> うちのチームにメタヒューマンは‥‥いるけどお嬢は偽装してるんだから全員人間と思われるな‥‥。
[十六夜]> 私は別に気にしてないわ。
>>>>>[さっきからスーパーパワーズの勢力のオンパレードね。
確かに、第六世界の影は深いわ。企業に政府、メタヒューマン擁護派にポリクラブやテロリスト。ストリート・ギャングにゴー・ギャング。ヤクザやマフィア、
果ては人工知能に吸血鬼、精霊共にウィズウォーム(ドラゴンの俗称)‥‥この覚醒世界には力ある勢力が山ほど、深く危険な闇の中に蠢いてるって寸法よ。その中で、アタシたちは自分のアイデンティティってヤツを保ちつつスマートにビズをこなし、生き抜かなきゃなんないの。お分かり?]<<<<<
――シェイプシフター(人獣)の女傭兵 “ヴィクセン”
>>>>>[そうなの〜!? 私、日本のシャドウランナーってもうちょっとハッピーなのかと思ってたけどなー]<<<<<
――ハーフエルフの冒険者 エリーシャ・フィオレット
>>>>>[フン。それでも反旗を翻すのが
う〜む、我ながらシビれるねぇ。これこそサイバーパンクの醍醐味だぜ<<<<<
――ストリート・サムライ レイザーエッジ
>>>>>[この世界のことはよく分からないけど、自分の信じるもののために戦うのなら、それは素晴らしいことじゃないかな]<<<<<
――鬼サムライ ル=フェイン
>>>>>[うふふ、格好のよろしいこと。雑談はそれくらいにして、先に進みましょう?<<<<<
――NCB広報部 “広報部の華”静元涼子
夜の街を進む。無計画に高層ビルの建設や都市化が進み、2050年代の東京スプロールは一つの巨大な生きた迷宮のようになってしまった。
闇の深い危険なストリート。けばけばしく光るネオンサイン。磨きあげられたショッピング・モールのすぐ側で不法居住者がうろつき、トリデオ広告の中ではケルトの民族音楽をバックに歌舞伎役者が踊っている。光と闇が、混然と混じり合う街。
大通りに出た途端、ORCのドワーフの男性に署名を求められて一行は一時狼狽えた。様々な種族の大勢の人々がプラカードを掲げ、デモ行進が続いている。
“‥‥人権が認められたとは言え、この日本ではメタヒューマンは虐げられています。彼らもまたヒューマンです。
日本に住んでいるのは大和民族だけではありません。全ての生きとし生けるものに平等な権利を。新日本帝国に真の平和を。皆さんも考えてください‥‥”
[中]> 十六夜をちら〜っと見る。
[十六夜]> ‥‥別に。何の感慨も抱かないけど。人込みの中に混じってる、素振りの怪しい人間を探しましょう。
[GM]> 知力の平均+人数‥‥9で誰か代表が振ってくれ。
[桐原]> 目標値は5か‥‥3個成功!
>>>>>[わしらドワーフとエルフ、オーク、トロールの他にも、メタヒューマンのヴァリアント(亜種)は最近になって色々と誕生しとるそうだ。サイクロプスやジャイアントにオーガ、ノームにミノタウロスやサテュロス、ドライアドに黒エルフのジ・ナイト・ワンズ、フォモーリ‥‥第六世界もだいぶ賑やかになってきたのう]<<<<<
――ロックホームのLv5探検家ドワーフ ジーリック・ドルワルフ
>>>>>[公式設定では、日本帝国ではまだメタヒューマンには人権がないそうですけどね。
ところで日本帝国にはオニと、それから『コボロックル』という亜種がいるそうなんですけど‥‥一体どういうことでしょう??]<<<<<
――<仁代堂>の付喪神妖怪 九十九鏡
海外から人口の流入した日本には、様々な人種が溢れていた。そして様々な種族‥‥様々な種類の人間が。
群衆に交じり、デモ行進の側で辺りに油断なく目を配る欧米人男性に桐原は気づいた。サイバーの“眼”のオプションが視野を拡大する。防弾ジャケットの下に盛り上がる筋肉。年齢は50くらいだろうか? 隠した右手に、
しばらく前のランの記憶が、桐原の脳裏に蘇った。レンラクから盗まれたデータを取り返しに、池袋のギャングを掃除した時。ミツハマに雇われた傭兵たちが既にデータを奪取していた。
池袋西部の廃ビルの中での死闘。“大佐”の名で呼ばれていた彼が桐原に一騎打ちを挑んできたのだった。今はなきアメリカ合衆国の特殊部隊にいたという彼はナイフ・コンバットの名手。フィジカル・アデプトだった“大佐”はサイバーなしでも、サムライである自分とほぼ互角に戦った。
潔く自分の負けを認めると、彼は約束通りデータチップを渡してきた。 |
[GM]> 彼は振り向く。「!? ‥‥お前か!」
[桐原]> 大佐、なぜここに?
[GM]> 「仕事だよ。引退前にもう一仕事しようと思ってね」ヒューマニスの妨害を恐れるORCに護衛を頼まれたそうです。
「‥‥私はずっと戦場に生きてきた。少しは、世の中の役に立つことでもしようかと思ってね」
[ヴィッキー]> おおー。さすが大佐。
[桐原]> 今夜この東京で大きな事件が起こってるんだが、この辺で怪しい奴を見なかったか?
[GM]> 「なるほど。大掛かりなランがあるという噂は本当だったか」と言って、一つ教えてくれます。
この近くのある路地裏の奥の方で、何かの影が動くのを一瞬だけ見たそうです。デモに危害を加えるようではなかったので無視したそうですが。そこの場所を教えてくれるよ。
[桐原]> ありがとう。お仕事頑張ってくれ。
[GM]> 「お前のサイバーのエッジの理由は復讐だと言っていたな」大佐は笑います。
「あれから果たされたのか? せいぜい、気をつけることだ」
RI-Foundation > Shadowrun > "While The Earth Sleeps" > Chapter:8 |
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