『ア・ルア・イーの魔道書』《演劇の書》
「三つの八弦琴の物語」
開門の章
遥かな過去。剣の帝国に復讐を誓い、その身を魔族へと変じた諸侯の中には、名を知られていない諸侯も多数います。かつてありし湖畔の王国の最後の一人、公女ディーヌもその一騎。しかし彼女はその角の魔力ゆえ、憎悪と狂気の中に沈むことなく魔棲代を生きました。一角獣フラールと共に銀の森に封印された後も、彼女は追憶の中に永遠に眠っていたのです。
そして妖精代末期。かつて影の王国の志士らがそうであったように、復讐を誓った者がいました。
彼女の名はアステリエ=フェザール。ヌルバの下級貴族、セルシェ=フェザール姫と遠縁に当たり、騎士だった父を失ってからはずっと病弱な姫に護衛として仕えていたのです。
病弱な姫が病に伏せった頃、領地を狙う敵対する貴族か誰かの企みでで館は焼かれ、北方から雇われた暗殺者によって姫以下の者が殺められました。貴方だけは生きてとの姫の最後の願いに、彼女は密かに復讐を決意し、姫の短剣を形見に国を離れます。
そして、昼と夜が幾度も巡った頃。騎兵として各地をさ迷っていた彼女はある魔道書(謎めいた『ア・ルア・イーの魔道書』のいずれかの写本かも知れません)から、形見の短剣に封印を破る力があること、そして南方の銀の森に、ある魔族らしきものが眠っていることを知ります。
魔族というものは何かを代償に、人の子の願いを叶えてくれる‥‥そう伝え聞いたアステリエは旅を続け、夢に導かれて銀の森まで辿り着きました。
そしてもう一騎、有角の公女ディーヌの放つ魔力の気に気付いたものがいました。鏡の大公ルドラウが娘、鏡の公女エリシェの影の一人。エリシェは同じ古鏡座に属する公女ディーヌならば、自分と父に手を貸すかもしれぬと考え、戯れに人の子を使って封印を破るように仕向けます。
公女ディーヌの追憶の想いが放つ夢、アステリエの想いの放つ夢に引かれ、幾人かの人の子が銀の森に集いました。
一角獣の幻影が彼らを霧煙る銀の森、朽ち果てた古城、鏡の並ぶ夢の迷宮へと誘います。さあ、物語の始まりです‥‥。
本作はテーブルトークRPG『深淵』のシナリオです。分類するならば『構造型』に属し、物語はほぼ一本道で進みます。プレイヤーの適正人数は2〜4人です。
それほど複雑なプロットはなく、プレイヤー全員が深淵に精通している必要はありません(一人ぐらいはいたほうがよいでしょう)。初心者でも楽しめることと思います。
ただ、深淵の基本コンセプトが「みんなで美しい物語を作り上げる」ことである、などといった説明は、プレイ開始前にある程度きちんとなさって下さい。
キャラクターに関しては、深淵に慣れていないプレイヤーがいる場合、
1.このゲームでは自分の思い通りのキャラクターでプレイできない時もあること
2.そしてそれを差し引いてもなお素晴らしいものであること
を伝えてあげてください。
また、魔道師系のキャラクターは
1.その役割上、世界の秘密その他を語ったりする役柄になりやすい
2.このゲームの魔法は反動が大きく、頻繁には使えない。またルールが独特である
ため、初めての人にはちょっと向かないかもしれないことを教えてあげて下さい。
キャスティングは以下の通りです。
I 戦闘系テンプレート1名
(騎兵、歩兵、傭兵、騎士など。騎士はサプリメント『城塞』の密使の書に記された若い方の「辺境騎士団の若き騎士」「漂泊の若き騎士」を流用することを勧めます)
夢の中で出逢った女性に、縁故5点を振ってください。
本編で重要な役割を果たすキャラクターです(だから期待しているよ、と担当プレイヤーに言ってあげましょう(笑))。性別は男性、年齢は若いキャラクターでなければなりません。放浪の旅を続けている、というのが設定としては一番適切です。
もう一つの運命はマスターが選んでも引かせても構いません。あまりに破滅的な運命は引き直すべきです。
II 魔法使いタイプ以外のテンプレート1名
解き放つべき封印に縁故5点を振ってください。
魔道師のような世の理に詳しいテンプレート以外を勧めます。このキャラクターも重要です。「奇妙な旅人」だとぴったりはまります(笑)。もう一つの運命は選ぶか引かせてください。
III その他のキャラクター1 (魔道師またはまじない師、吟遊詩人、戦闘系をもう1人、などなど)
ストーリー上では傍観者タイプとして比較的脇役となるキャラクターです。「吟遊詩人」、「異端イェロマーグ派の詩人」だと語る役としてぴったりかもしれません。
IV その他のキャラクター2(白馬を連れた娘やその他いろいろ)
運命は[18 導く者の伝説]、[65 再会の予言(誰かのPCにする)],、[31 幻視],[88 待ち人の予感(誰かのPCにする)]などが適切です。「白馬を連れた娘」がいるなら愛馬の運命は[66:魔族の血 13の星座以外:一角獣の血]にしましょう。これはプレイヤーには秘密です。
PCには男性・女性両方いたほうが物語として盛り上がります。戦闘ができるキャラクターは2人またはそれ以上いた方が適切です。
本編には「獅子王教団の兵卒」「死せる魂の守護者の六の位」「ラルハースの水の騎士」「(ユラスの)黒騎士」「呪われし天才剣士」などは適切ではありません。
それ以外のテンプレートや運命は、比較的融通が効くかもしれません(あいまいな言い方になって申し訳ありませんが)。GMはこのシナリオをよく読んで、プレイヤーが選んだテンプレート/運命がこの物語に適切であるかどうかをよく考え、セッション前に調整を行ってください。
調整の段階であれば、寿命を減らさずに運命を引き直したりしてもよいと思います。また、GMが運命やテンプレートは事前に全て決めておくのもよいでしょう。
本編中では“<技能名>目標値”で記述しています。技能判定や夢歩きの目標値、夢歩きの頻度など、細かい所は適当に変えて一向に構いません。(カードや寿命で補強できますからね。)
テーマカードは青の八弦琴
「語り残さん。これらすべてが夢で終わらぬために」
です。
誰のための言葉なのかは、まだ明らかではないと述べつつ、山札に入れましょう。
時は妖精代9522年、黒の野槌の年。八弦琴の月、光の牧人の日(13月10日)。日没より一時間ほど経った、闇の黒剣の時刻です。十二とひとつの星座の浮かぶ天空には、古鏡の舞姫が銀の光を投げかけています。場所はイクナーリ大平原が南、鏡の森。
今宵もまた、運命に導かれし人の子たちの物語が始まります‥‥
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