『ア・ルア・イーの魔道書』《演劇の書》
「三つの八弦琴の物語」

湖畔の章

I 幕開け】【II 光の牧人の夜】【III 光の古鏡の日
IV 光の風虎の日】【V 扉開かれる時】【 VI 夢の迷宮へ
VII 鏡の主】【VIII 聖刻の時】【IX 終幕

I 幕開け

 十二とひとつの星座の見守る夜の銀の森から、物語は始まります。各自夢歩きをしてもらい、順に舞台に登場してもらいましょう。夢歩きのイメージには、この先何かが起こりそうなもの、何かを予感させるようなもの、を選びましょう。

 登場したPCはすることもないので野宿の準備などに取り掛かるでしょう。(焚火の明かりに引かれ、旅人たちが一人、また一人と揃うのもそれらしいかもしれません)。
 役者が全員揃い、自己紹介などしている所で、<知性>12に成功すると少し離れた所での剣戟の音に気付きます。それに混じって獣のような唸り声や若い女性の声も聞こえます。

 駆けつけると、獣道のような所で戦いが起こっています。槍を携えた騎兵が一人、それを囲むように立っている4匹の魔物‥‥犬の頭をした小鬼です。吐く息からは燐光が立ち昇っています。
 馬上の人物は瘴気を吐き掛けられたらしく、せき込んでいます。よく見ると長い髪を後ろで縛っていて‥‥女性のようです。
 <地域知識>8で、地中に住み、時折地上に出てくる地の小鬼ヴァルトであることを思い出します。この辺りには時折出没することもあるようです。

 ウォームアップを兼ねて簡単に戦闘してみましょう。1〜2匹倒されると、ヴァルトは戦意を喪失してどこかに逃げてしまいます。
 馬上の女性は「すまない!ご助力に感謝する!」と言って一旦PCの方に退却してきます。「奴らは瘴気を吐きます。お気を付けて!」などとカードで声援するのもよいでしょう。

 戦いが終わると馬上の女性は「助かりました。この辺りに時折出るとは聞いていたのですが‥‥」と一行に礼を言ってきます。古城の姫君といった感じではないものの、凛とした表情の美しい娘です。
【23 運命の出会い/異性】を担ったPCはここで<夢歩き>8をして下さい。今まで夢の中で逢った彼女の姿が次々と浮かび‥‥目の前の娘であることを確信します。

 彼女は名を聞かれると「確かに私の名はアステリエですが‥‥なぜそれを??」と不思議そうな顔をします。

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II 光の牧人の夜

 夜の森を進む必要もないので、一行は野営の焚火を囲んだりすることになるでしょう。夜の森は静まり返り、十二とひとつの星座が静かに一行を見下ろしています。もうヴァルトも出てこないようです。

 一緒にどうかと誘えば、アステリエも喜んで加わります。ここで改めて各PCに自己紹介などさせましょう。そして魔法使いや賢者タイプのPCには、この深淵世界では夢や予言、運命は実際に効力を持っており、今宵この場所で彼らが集ったのも何かの定めなのかも知れない、ということを思い出させましょう。
(そして他のキャラクターにもプレイヤーにも伝えましょう。)

 聞かれると、アステリエは見ての通りの騎兵ですと答え、各地を巡り、ある夢――一角獣の夢に導かれ、この先に何かがあるような気がして、この森へやってきたと答えます(これは半分本当です)。
 出身はヌルバだと答えます。(ちなみにヌルバがどういう国なのかは筆者も知りません(笑)。どこか遠くの国であればどこでも構いません。)
 <社交知識/貴族>15位に成功すると、彼女の話し方や素振りがなんとなく平民出らしくないこと、フェザール家の名をどこかで聞いた覚えがあるようなことを思い出します。詳しく問い詰められると、彼女は言葉を濁してしまいます。

 夜、交代で見張りを立てるなどして眠るなら、<夢歩き>の目標値は12〜15です。【封印の破壊者】の運命を持つPCは鏡の公女に誘われる夢を見ます。
 不思議な夢を見て夜中に目覚めたPCは、アステリエが短剣を握り締め、夢の中で「‥‥この無念は必ず‥‥!」などと呟いているのを目撃します。
 <夢歩き>技能の高いPCや魔法使いタイプのPCには、あのような小鬼が地上に出没したこと、全員が不思議な夢を見たことから、この先に何か、そのような影響をもたらす何かが待っているのかもしれないことを匂わせましょう。
(目覚めた朝に、不思議な夢についてPC同士で語り合うのもよいでしょう。)

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III 光の古鏡の日

 銀の森、行く手には微かに霧が掛かっているようです。道は一本道で、行く手に何かがあるような予感を全員が感じます。
(ちなみにある陛下の宮殿に秘せられし書物によると、『深淵』の公式設定での銀の森には古代の悪霊が出たり不思議な銀色の木の実があったりするそうですが、この物語の舞台には出てきません。きっと森のはずれの方なのでしょう。)

 GMの裁量で狼や小鬼ヴァルトとの戦闘をしたりしても構いませんが、基本的には何も起こらずに旅は進みます。PC同士で色々会話させあったり、親しくなった者には縁故を振らせたりしましょう。
 『深淵』が初めての人には、深淵のセッションは物語であり、次々出てくるワンダリングモンスターとこつこつ戦って金貨を溜めて‥‥というようなタイプのRPGとは趣が違うことを伝えてあげて下さい。(いや別にそれでも間違ってはいないと思いますが(笑)。)
 アステリエはそれほど陽気な性格ではないものの、聞かれれば色々と答えます。PCに女性がいれば打ち解けて親しくなるでしょうし、初対面のはずの青年に「夢の中で君に何度も出逢ったんだ‥‥」などと言われれば心動かされるでしょう(笑)。

 彼女には、幾つか不審な点があります。

女性の兵士、しかも(13歳で成人する世界とはいえ)若い娘は珍しい。
腕は立つようだが、あまり頑丈そうにも見えない。
騎兵なのに騎士の装備である鎧通しを持っていたりする。弓も持っていない。
時折思いつめたような表情をしている。
PC達と親しくなって和やかな場面などがあると、陰ったような表情を見せる(これから先、彼女はとんでもないことをしようとしているのです)。
自分のことや昔のことを聞かれるとはぐらかす。(親しくなってくると、少しずつ話し出します。)
魔法使い系のPCに「魔道師殿、魔族というものは何かを代償に、時に人の子の願いを叶えると聞きましたが、本当なのでしょうか‥‥」などと聞いてみたりする(笑)。
形見の短剣を大事そうに持っており、(夜の焚き火の前などで)眺めていたりする。
 聞かれると、「‥‥ある大切な人に貰ったものです」と答えます。(“大切な人”が男なのか女なのかは言いません。)
 他人には渡そうとしませんが、刻印を持った魔法使いがちょっと見てみると、<魔力>10で何かの魔力を帯びているような気がします。

 その夜はまた野営になります。<夢歩き>の目標値は10〜12に下がります。(何かに近づいていることをプレイヤー達にも教えましょう。)PCは前夜よりも、よりはっきりとした幻視を見ます。

 鮮明な夢に驚き、夜中に目覚めたりするかも知れません。アステリエは眠れないのか、少し離れた所で夜空を見上げています。(この先に自分が望んだものが本当に待っているのか、自分の為そうとしていることが正しいのかを考えているのです。)
 【運命の出会い】を担ったPCが話しかければ、昔のことを少しだけ語り出します。(これから自分がやろうとしていることだけは言いません。)
 銀の月が二人を照らし、ちょっとだけいい感じになるかもしれません。ちなみにプレイした時には、二人がうまくやってるか覗き見にいくために寿命を削って忍び歩きしてくれた皆さんがいました。う〜ん、That's 深淵。(←ウソです(笑))

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IV 光の風虎の日

 空は曇り、鳥のざわめきが遠くに聞こえます。森の中の小道には霧が出てきて、視界が悪くなってきます。
 <夢歩き>10をしてください。一行は霧の中に様々な幻視を見、全員がこの先に何かあるような予感を受けます。霧の中を駆けてゆく一角獣を目撃する、などといったものがよいでしょう。

 しばし進むと、急に森が開けます。目の前には湖があり、その湖面は銀の鏡の如く穏やかに、湖の中央にある朽ち果てた古城跡を映し出しています。今までこの情景を夢の中で見たことがあるPCがいれば、夢の中の情景とまったく同じことであることを教えてあげましょう。
(「同じだ‥‥」などと独り呟かせるとそれらしい感じになるかも。)
 古城跡のある小島は陸から分断されているわけではなく、細い小道を辿って湖の外側から入れます。

 遥か昔に朽ち果てた古城は土台や外壁だけで、ほとんど原形を留めていません。<建築>の技能のあるPCが見れば、この城が造られたのは10年や20年の昔ではないことに気付きます。

 古城跡には辛うじて無事な部屋もあります。中に入ると、壁には大きな絵が掛かっています。
 青白い一角獣を従えた、気品ある銀髪の女性の絵です。そして――その女性の額には銀の角がありますが、少しもその美しさを損なってはいません。
 今まで有角の公女の夢を見たことのあるPCは、彼女の姿が夢の中で見た女性と同一人物であることに気が付きます。
 アステリエは自分の持っている短剣を取り出し、そこに刻まれた一角獣の彫刻を見てはっとしています。(目の前の絵と似ているのです。)

 部屋を出ると辺りには相変わらず霧が立ち込め、物音一つしません。PCたちは、自分達が何か不思議な場所にいることを感じます。ここで夢歩きをするのもよいでしょう。(静かな湖面を湛えた湖に、一行以外の何かが数瞬だけ映る、など。)

 探索をするならば、手札から通火のカードを1枚捨てることで、松明の神ヒュオヌスの導きで雑草の中の石碑を発見できます。【封印の破壊者】の運命を担ったPCは、夢の中の鏡の公女の導き通りに判定なしで発見できます。
 雑草の中に隠れた石碑に刻まれた言葉は擦り減って読めませんが、古鏡の刻印がはっきりと刻まれています。
 手を触れると、込められた魔力か機械仕掛けか、側に地中への階段が現れます。中は真っ暗で、足を踏み入れた者は一行が最初のようです‥‥

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V 扉開かれる時

 松明等に火を点け、階段を降り、しばし進むと両扉があります。鍵は掛かっていません。
 中は広い部屋です。部屋の奥には、大理石に刻まれた等身大の一角獣の像が一行を待っています。その床には魔法陣が刻まれています。<魔法知識>のあるPCならすぐに分かります。一角獣を囲むように描かれた12の星座‥‥そして中央に配置されているのは古鏡の座。
 その時、アステリエの持っている短剣と、一角獣の像が青白く輝き出します。

 ここからの場面はちょっと重要です。
 魔法使い以外のPCも、あの短剣が一角獣の像と触れ合えば何かとてもよくないことが起こるような気がしてきます。
【封印の破壊者】の運命を担ったPCは<夢歩き>8の判定を行って下さい。鏡の公女の幻影が浮かび、PCをはっきりと導きます。「約定の時は来たれり。今こそ、そなたの運命が果たされる時じゃ。さあ、あの短剣を‥‥」

 一方、アステリエは意を決したように、短剣を握り締めて部屋の奥へと進んでいきます。
【運命の出会い/異性】の運命を担ったPCが止めようとすると、彼女は顔を伏せて「‥‥その手を放して下さい、○○さん‥‥」と言い、自分の過去を明かします。「‥‥私はその時誓ったのです。たとえ魔族に魂を売り渡してでも、この無念だけは晴らすと! 貴方になら‥‥この気持ちは分かってもらえるはず!!」
 PCは彼女の瞳に浮かんだ大粒の涙を目にします。ここで彼女をまだ止めるつもりなら<意志>目標値10+彼女への縁故(5)の判定をさせて下さい。(今こそ大失敗を買うべき時だ!とけしかけましょう(笑)!)
 他のPCに邪魔されたりすると、彼女は短剣を落としてしまいますが、短剣は転がって【封印の破壊者】のPCの近くに止まります。

 それでも駄目な場合は、一行の前に鏡の公女エリシェの幻影がはっきりと現れ、目標値17の影響値攻撃(支配、恐怖)を仕掛けてきます。あるいは【封印の破壊者】のPCの行動に+7のボーナスを与えるといったのもよいでしょう。(そのPCの背後に、銀髪の魔女の影が浮かびあがるのです!)
 GMは何とかして、破封の短剣を一角獣の像と触れ合わせて下さい。

 誰かが短剣を振り下ろすと、像と触れ合った瞬間に、部屋中がより強い青白い光に包まれます。光は銀色に変わり、全てが飲み込まれていきます‥‥

 必要なら休憩でも取って先へ進みましょう。いよいよクライマックスです。
 なお、実は一角獣の像は角の公女ディーヌの封印から漏れ出す夢を封じておくもので、短剣は彼女の夢の中へと繋がる鍵なのです。

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VI 夢の迷宮へ

 公女ディーヌの放つ魔力の気が形となった夢。PCたちの夢。そして『鏡の幻視』の魔力を持つ鏡の公女エリシェが介入してきたことで、PC達の行く手は銀の鏡の立ち並ぶ不思議な迷宮と化しています。(――という屁理屈になっています(笑)。)

 一行は気が付くと、一人一人別の場所にいます。回りには多彩の渦が巻き、様々な色彩の中で様々な情景が現れては消えていきます。目の前には幾重にも鏡が並び、どこかへ続いています。距離感も分からず、今までいた世界とは根本的に異なる場だと感じます。

 <魔法知識>のあるPCは、ここが現実世界と平行して存在する世界‥‥魔力の源が生のまま存在し、魔族や様々な存在のたゆたう危険な場‥‥深淵の中に似ているような気がします。
 が、異形も起こりませんし、危険な感じもしません。多少浮遊感がありますが、立って歩けます。装備も元のままですし、縁故を振った愛馬や小動物がいれば一緒についてきています。
 そして‥‥こうした場所では夢に取り込まれぬためにも、自分の意志の力が重要であることを思い出します。
(叙事詩“槍の白馬”にてルハーブの夢に取り込まれたキリコの如く、昔の師匠の言葉を思い出したのかも知れません(笑)。)

 ここから先は、夢歩きにて進みましょう。鏡の迷宮を進むPCは<夢歩き>10を行って下さい。4回成功すると、迷宮の中心へ辿り着けます。失敗した回は迷宮の中をさまようだけです。夢歩きの結果は、目の前の鏡の中に浮かび上がる幻視となって現れます。今まで見ていない夢のあるPCには、その夢を見せて全てを明かしてあげましょう。もう大方分かってきたPCには、自分の過去などを映してあげましょう。

 成功する毎に、同じように迷宮を進んでいた他のPCと再会できます。また、幾重にも並ぶ鏡の端々に、踊るように現れては消えていく銀の衣の女性の姿を垣間見ます(エリシェ様です)。

 アステリエは愛馬バージルと共に、一足先に迷宮の中心まで辿り着いています。目覚めた有角の公女ディーヌの幻影にそこで出会い、話を聞かされて驚いているところです。

 一行が迷宮の中心まで辿り着くと、そこには青白い一角獣を従えた公女が立っています。西方風の軽鎧に剣を携え、流れるような銀の髪をした穏やかな女性です。彼女と一角獣の姿は半ば透き通っており、奥に見える銀の如き湖が透き通って見えます(幻なのです)。
 必要なら目標値17の影響値判定をし、強い印象を与えるなり幻視を見せるなりしてください。ただ邪悪な印象は受けません。

 彼女の前で呆然としているアステリエに向かい、「さあ、連れの方々が来ましたよ」と公女は伝えます。アステリエは一行の方に駆け寄ってくると、【運命の出会い】のPCに「‥‥私にはもう、何がどうなっているのか‥‥」と困惑した表情を見せます。
 傷を負っているPCがいれば、幻影の一角獣が駆けてきて、角の魔力をもって癒してくれます。

 名を聞かれると幻影の公女は「いかにも、我が名はディーヌ。かつて有角の公女と呼ばれし、魔族の公女」と答えます。そして、「安心なさい。私がフラールと共に追憶の中に眠るのはこの古城の遥か深き場所。復活など望んではいません」と続けます。
「ここは何処?」「どうしてオレたちをここへ呼んだんだ!」などといった問いには、「ここは私の夢の中、そして貴方たちの夢の中。強き想いを持つ人の子が来たるゆえ、夢の中への扉が今一度開かれたのでしょう」と答えます。
(ちなみに一行の中に【魔族の血】を持つ馬がいれば、嬉しそうに一角獣フラールと戯れたりします。)

 そして「しかし私は、人の子を迷わせたり捕らえたりはしません。この鏡の数々‥‥もしや?」と眉をひそめます。
 一行に、彼女以外に夢の中で出会った存在を思い出させましょう。その時、一角獣フラールとPCたちの連れている馬や小動物が、何かを感じて首をもたげます。
 <魔力>8で、一行も背後に現れた魔力の気を感じます。<知性>13で何者かの気配を感じます。

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VII 鏡の主

 いつの間にか、一行の背後に一際大きな銀の鏡が現れています。その中から、銀の衣を靡かせつつ、鏡の公女エリシェが宙を舞うように姿を現します。
「誰だ!」などとPCが聞けば芝居掛かった口調で「我が名はエリシェ‥‥鏡の公女なり」と微笑みます。

 しかし、エリシェ様は企みが失敗したので少々苛立たしげです。
「ぬうぅ、人の子を操りそなたが封印を脱する手助けをしてみれば‥‥夢の中へと通じる扉だったとはご挨拶じゃのう、有角の公女よ」
と、ほとんどPCを無視して(笑)ディーヌの幻に語ります。
【封印の破壊者】を担ったPCが「あなたに従ってここまで来たのに!/何故自分を?」などと聞くと、煩げに「戯れじゃ。人の子の心を鏡の内にて操るのはことに楽しいからのう」などとあっさりと答えます。

 そして「今一度聞こう。我が父君の復活に力を貸さぬか? おぬしもわらわも同じ古鏡の座に属する身、そのよしみで今宵は手を貸したのじゃぞ」と尋ねるのですが、有角の公女の答えは「断る! 私はここで永遠の眠りにつく身。誰が魔女であるお前などに!」です。
 それを聞くとエリシェ様は激怒します。「うぬぅ、わらわを愚弄する気か? もうよいわ! ならば‥‥こやつらの魂を父君への土産としよう!」
 鏡の公女の表情が変わり、その両手の銀色の爪がす、と伸びて短剣の如く鋭くなり、一行の方へ向かってきます。

 戦闘開始です。戦闘能力のあるPCには、相手は人ではない魔族、かなりの強敵に思えることを教えましょう。魔法の能力を持つPCには、相手が魔法的な存在で危険な相手だということを悟らせましょう。アステリエは続いて起こった出来事に混乱していますが、誰かが声を掛ければ剣を取ります。

 また、戦闘できるPCが少ない場合には‥‥
一行の後ろに控えていた公女ディーヌと一角獣フラールの角が激しく輝き出し、その光が鏡の公女を射抜きます。エリシェ様の体を覆っていた銀の霊気のようなものが砕け散り、その動きも少し鈍ります。
(有角の公女ディーヌの影響値の7だけ、鏡の公女エリシェの行動値回避の判定値を減少させて下さい。また、防具の「魔族の防御:7」は消えて鎧なしになります。)
エリシェ様は「おのれェ、風の公女のお付き風情がッ!」と悔しがります(ちなみに本当にピスケール様のお付きだったわけではありません(笑))。
 一行のうち後方にいるPCには、公女ディーヌが「私の姿は幻影ゆえ、これくらいの力しか振るえません。あの魔女がこの迷宮の元凶であるはず!」と囁きます。

 エリシェ様は最初は一行を弄ぼうとしますが、だんだん本気になってきます。カード支援や達成値の補強を使って存分に戦うようプレイヤーにも示唆しましょう。
 何とか倒すと、鏡の公女エリシェ様は銀の血を流しながら「たかだか人の子の分際で‥‥わらわは影、影の一つに過ぎぬわッ!」などと最期のことばを残して倒れます。彼女の体はまるで鏡が割れるように砕け散り、銀の破片となって消えてしまいます。(あるいは重傷を負うと、鏡の中に逃げていってしまいます。)

 そして一行が通ってきた幾重もの鏡の迷宮の一枚一枚が砕け散り、消えてしまいます。後には一行と、公女ディーヌと一角獣フラールが残されます。鏡の迷宮が消えた後には‥‥かつてありし湖畔の王国の情景が映し出されています。

「鏡の公女が‥‥私の夢の中まで入り込んでくるとは」と有角の公女ディーヌの幻影は呟き、一行に語ります。「夢に導かれてこの地に辿り着いたというならば、この私の辿りしさだめも見たことでしょう」
 ディーヌは人の心が読めるので、まだ明かされていない運命を持つPCなどがいれば、疑問に答えたりもしてくれます。望めば古鏡の刻印も1点くらいなら刻んでくれるかもしれません。
 破封の力を持つ短剣のことを聞けば、確かにその短剣に彫られているのは自分の友である一角獣フラールであり、何かの導きによって貴方たちの手に渡ったのでしょう、と答えます。
 アステリエには、「私には貴方の記憶‥‥姫君との懐かしい思い出が見えます。その思い出を、大事になさい」と告げます。アステリエもここでようやく、復讐の無意味さを悟ります。
 <魔法知識>12で、ここは本来夢の迷宮であり、定命の人の子の来るべきところではないこと、強い想いがあれば元の世界に戻れるであろうことを思い出します。
 公女の幻影も「おゆきなさい、深淵の渦の音が聞こえてくる前に。貴方たちと元の世界とを結ぶものを、強く念じるのです」
と促します。

 この夢の迷宮から脱出するには<意志>17が必要です。縁故などのボーナスを併用することを示唆しましょう。【運命の出会い】を担ったPCが適切に声を掛ければ、アステリエも彼の手を握り、元の世界へと共に飛翔します。失敗したPCは夢の迷宮の中を、そして深淵の中を永遠にさ迷うことになります。

 多彩に輝く渦を越え、元の世界に戻る途中、一行はまたも様々な幻視の一端を垣間見ます。判定なしの<夢歩き>をしましょう。
 有角の公女ディーヌは自分の従った五公女が辿った狂気の道、そしてそれを見つめてきた自分の姿を見せ、そのような道を歩んではならぬと警告するかもしれません。また、未だ明かされぬ暗い運命を背負ったPCには、その運命についてささやかな(そして謎めいた)助言を残すかもしれません。
 最後に、彼女のことばがどこからともなく響きます。

「我ら魔族は呪われし不死の身。私は過去の記憶の中に永遠に生きましょう。なれど、貴方たち人の子には、思い出の先に未来があるはず‥‥」

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VIII 聖刻の時

 一行が目覚めると、そこは今までいた古城跡です。いつの間にか時は過ぎ、十二とひとつの星座が一行を見下ろしています。古鏡の舞姫テルティスの司る月が光り、鏡の如く静かな湖面に反射しています。あの石碑と、地下への入り口はどこにも見当たりません。
 アステリエは【運命の出会い】を担ったPCに、もう復讐のことなど忘れます、と告げ、そのPCにどこか行くべき場所があるならお供しましょうと言います。(そこから先はフェイド・アウトかな?)

 やがて夜の女神マルーヴァと原蛇の司る時は終わり、戦車の王サイベルが司る太陽が昇る時間になります。夜明け――闇の八弦琴の時刻です。
 吟遊詩人たちがいれば思い出します。今日は八弦琴の月、光の八弦琴の日。同一の星座が三つ重なる聖刻の時‥‥不思議なことが起こるとも言われる時です。

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IX 終幕

 エンディングです。手札を補充させ、ここで物語が終わることを全員に伝えましょう。これから各PCがどんな道を歩み、どう舞台から消えていくのかをしばし考えさせて、判定なしの<夢歩き>に進みましょう。既に死亡したり行方不明のPCも含みます。
 アステリエは、【運命の出会い】を担ったPCについてゆくことを選び、残りの一行に「世話になりました」と別れを告げ、二人共に舞台から退場していきます。
 彼女の持っていた一角獣の彫られた短剣は、これからは「効果値2、所有者の夢歩きに+3」の魔法の短剣として使えます。彼女は思い出のしるしに自分で持っているかもしれませんし、もう忘れようと、これから導きが必要になりそうなPCに譲るかもしれません。

 ある者は元の生活に戻るため、ある者は未だ明かされぬ運命を解き明かすため、一人、また一人と別れを告げ、舞台から去ってゆくことでしょう。
 明かされなかった暗い運命を背負ったPCには、旅の行く手に待つ暗雲のイメージを示すのもよいでしょう。倒したはずの鏡の公女の声がどこからか聞こえてくるのもよいかもしれません。

 全ての役者が舞台から去ってゆくと、場面には元の静かな情景‥‥朝靄の中に浮かぶ朽ち果てた静かな古城、鏡の如き湖面を湛えた湖の情景が浮かびます。
 そして、その情景に重なるように、湖畔を平和に駆ける一角獣たちと一人の女性、美しい城の幻影が浮かび上がります。

 それらすべてを背景に、テーマカードである

「語り残さん。これらすべてが夢で終わらぬために。」

ということばが語られます。
 名も知られぬ吟遊詩人の神が言ったのか、この世の全ての秘曲を知るという、歌の公女イェロマーグのことばか。あるいは謎めいた『ア・ルア・イーの魔道書』に記されし一節か‥‥。

 物語はここで幕を閉じます。お疲れ様でした。

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銀の仕切り線なり。
.........『ア・ルア・イーの魔道書』《演劇の書》「、、三つの八弦琴」の物語.........湖畔の章(本文)

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