六章

“真実はそこにある。”

 

 八咫烏はぽつりぽつりと、この村と神社の名の由来から話し始めた。
 平間村は、元は平魔村という名であった‥‥かつてここに存在した、もっと大きな村の。玉静(ぎょくせい)神社という名も、元は玉静(たましず)神社であった。村人の魂ではなく、兵士たちの魂を静めるための神社だったのだ。
 かつて数百年の昔、源平の戦があった頃。敗れた平氏の落ち武者たちはこの村まで必死に落ち延びてきた。が、厄介事を恐れた村人たちの手で、彼らは無念の思いと共に次々と殺されていったのだ。「いつの日か蘇り、この地に祟りをなさん‥‥」と呪詛の声を上げながら。

 

飛丸:実はつぶれた悪魔の村だったのか!

向島教授:なんだ落ち武者も弱っちぃなあ。

鏡:人間いつかは寝たり食べたりしなきゃなんないのよ。

 

 何年もしないうちに、彼らの言葉通り強大な力を持つ亡霊が現れ、村人を次々と惨殺していった。
 神社の表の院を守る白蛇、裏の院を守る八咫烏が力を合わせ、その亡霊を倒すと大きな結界を作り、その中に封じた。その周囲何キロにも及ぶ結界が、現在道路建設中の場所だったのだ。注連縄をつけた岩は、全て結界の一部だった。
 それから数百年。何故だか、白蛇の記憶からその事実は抜け落ちてしまった。道路建設に賛成する村人の側についた彼女の真意が分からず、八咫烏は一人で結界を守るために戦っていたという。

 

GM:なぜか理由があって、美鈴さんはそれを忘れてしまってるわけ。それから妖怪は倒されても消滅しないんだ。長い年月をかけてCPを回復すると復活する。それを結界で封じてたわけ。それ(結界)がどんどん壊されていって、もう復活する寸前だと彼は言ってる。

鏡:仏滅侍め! しかし痛すぎる。追加HPが残り少ないのよ。

向島教授:平家の呪いか。平家ガニかな。あー、蟹ラーメン食いてぇ〜。という訳でいったん帰りますか

飛丸:帰るって、どこにですか、教授?

向島教授:そうですね、勿論、その‥‥八王子に。

鏡:そうですねじゃない! 騒ぎが終わってから来るつもり?

向島教授:仲間を呼ぼうか。

GM:仮に連絡がついても来るまでにすごい時間がかかるって言ったよね。

 

●他のガープス世界に比べて妖魔夜行は確かに派手だ。ダイスがたくさんごろごろ飛びかう戦闘は『シャドウラン』みたいで気持ちがいいけど、あっさりとPCが死んじまうこともある。
 そこで、このゲームではPC作成時に余らせていた「未使用CP」を1点永久消費して、現実を超えた危険回避が行えるんだ。
 取れるのは「直前に受けたダメージの無視」「疲労の回復」「逃亡の成功」「仲間の召喚」「無力状態からの回復」「その他」。向島教授はネットワーク<月の雫>の妖怪たちの助けを呼ぼうと思ったらしいけど‥‥確かに電話も一台しかないこんなド田舎じゃあなぁ。

 

鏡:どうしよう。八咫烏と白蛇が二人で封印できたんだから、私たちでも何とかなるか。

GM:(えらそうに)言っておくが八咫烏と白蛇は昔はむ・ちゃ・く・ちゃ強かった。だってあなた方三人がかりで倒したでしょう? 今はだいぶ力を失っている。

飛丸:ふ〜ん。なんで?

GM:それは今はまだちょっと。それに白蛇が記憶を失った理由もまだ分からない。

向島教授:蛇さんを催眠療法にかけますか。

飛丸:おー、いいねえ。催眠術の有効性は立証されてるし、モルダー氏も使ってる。(←ちょっとX−ファイル)

鏡:逆行催眠ですか(笑)。でも<催眠術>技能ないし。

GM:八咫烏君は、とりあえず亡霊を封じた所へ行って様子を見てきて欲しいと言いますが。

向島教授:そんな所知ってるなら最初から教えてくれればいいのに〜。

鏡:穴みたいのがあるの?

GM:そう。洞穴が奥の院のさらに奥にある。美鈴さんは
「私も一緒に行ってもいいですけど、お役に立てるかどうかは‥‥」と言ってる。

鏡:行く前に応急手当だけでもしていきたいなあ。(←八咫烏の毛針でかなりダメージを負っているのだ)
 だって、傷口から血がだくだく流れてるんでしょ?

GM:いや、[追加HP]なら掠り傷だよ。だって肉体的影響全然ないもん。

向島教授&飛丸:おー、さすが妖怪!

 

●妖力の「追加HP]は0.5CPごとに1点、HPを増加させる。HPはふつう生命力と同じだから並みの人間なら10ぐらいだけど、オレたち妖怪なら50や60は当たり前だ。
 鏡さんも追加で50取ってるし、飛丸先生や教授は60。ついでに言うとオレも60だな。
 それに、妖力基本セットに「我慢強い」が入ってるオレたちには「衝撃」「朦朧状態」の効果も関係ない。“生命力の何分の一”をHPに読み替えれば、「転倒」も、腕や足が使えなくなることも滅多にないんだ。スゴイだろ?
 ガープスの戦闘は割合地味でちまちましてるけど、こんな豪快なとこも『妖魔夜行』の魅力の一つなんだ。

 

鏡:気分わるー。日向ぼっこして体力回復に努めよう。

GM:さて。今すぐ行きますか?

 

 白城美鈴に案内され、三人はその洞穴へと急いだ。玉静神社の奥の院のさらに奥、道なき道を草をかきわけながら進む。黄昏時の林は刻一刻と薄暗くなってくる。
 やがて、人目につかないように隠された洞穴の入口が一行の前に現れた。
 入口には石碑のようなものが置かれている。地面には何者かの足跡がついていた。つい最近、誰かがこの洞窟に入っていったようだ‥‥。

 

飛丸:さて、ランタンは誰が持とう? ‥‥ウソです。

鏡:もしかして、村上某? 余計なことを。

 

 洞窟をしばらく進むと、少し開けた場所に出た。スーツ姿の男が一人、奥の方を見つめている。
 一番奥の暗がりには、高さ五メートルぐらいのものがじっとしていた。半ば地面に埋もれたように、壁にはりついている。そのものは――何百年も昔の鎧を身にまとった、巨大な骸骨だった。

 

向島教授:貴様、何をしている! 骸骨か。弱いぞ。

飛丸&鏡:♪巨体が唸るぞ空飛ぶぞ〜〜(笑)。さて。村上のオーラは?

GM:さっきそれやらなかったよね。人間じゃありません。

鏡:あーっ、取り憑かれているぅ!

GM:いいえ、違います。くるっと振り向くとにやっと笑います。「やれやれ、ここまで来ちまったか」

鏡:なにーっ、貴様妖怪‥‥だったのね、最初から!

GM:「もう遅い。今からではこいつは止められない。ふはは」

 

 週刊サーズデイの記者であったはずの男の姿が変形していった。かりそめの姿を脱ぎ捨て、本来の姿へと戻っていく。彼は空中に浮かんでいた。燃え盛る夢幻の炎となって。幻めいたその炎は人影のような形を湛えている。

 

GM:って言って、彼は幻みたいな人間の形した炎の姿になる。『バンパイア』に出てくるパイロンみたいな感じ。

鏡:あー、なんかいかにもバンパイアやりすぎのゲーマーって感じの例え方だ〜(笑)。

飛丸:うわぁ〜、ゲーマーだゲーマーだぁ〜。

GM:説明のしようがない。

飛丸:さて。「おう記者さんよう。こんなもん復活させてどうしようってんだい」

GM:「さあてね。破壊と殺戮こそがこの俺の意志だ!」ばっ! って言って。

向島教授:デビルアナライズだ!(←メガテン) 誰だこいつは!

飛丸:データ未存在、解析不能(笑)。教授、こいつは一体誰ですか? 誇大妄想のナポレオン系ですか?

GM:「この地にはもはや用はない!」って言って手をばっとやると、そこから炎が噴き出します。誰かに当たったらそこで爆発するので全員効果範囲です。あなたです。(と鏡を指さす)

鏡:回避失敗。ああーっ、死んじゃう!

GM:[妖術抵抗(1レベル毎に抵抗時に1点ボーナス)]ある人いないね? じゃあ知力−10で抵抗して。「意志の強さ」は効く。

 

 向島教授は炎がまったく熱くないのに気づいた。
「これは幻だーっ!」と向こうで九十九鏡が叫んだのが微かに聞こえた。村上に一杯食わされたらしい。
 その村上は光の矢と化すと、洞窟の入口へと超高速で飛んでいった。あっという間に、正体不明の妖怪の姿は見えなくなった。

 

飛丸:熱いっスよ教授〜(笑)! 消してくれ〜!

鏡:これこれこういう事でこれは幻なのよ、と言う。

GM:かけた妖怪がいなくなったので、すぐ効果は消えます。が、すぐに足元がぐらぐら揺れ出すんですけど。

鏡:地震だ〜! もしかして、身長五十七メートル体重五百五十トンのあれが動きだしたの?

GM:はい。なんか地面に埋まっていた腕がガガッと動き出して、体が起きだしてきそうな感じ。

向島教授:逃げよう! 韋駄天で逃げるぞ!

鏡:逃げてどうするの(笑)!

 

梟の仕切り線です‥‥
......ガープス・妖魔夜行リプレイ『玉静 〜たましず〜』...六章 “真実はそこにある。”......
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