らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2000年4月8日(土)18時30分開演 |
●会 場 | 近鉄劇場 |
●演 目 | 奇跡の人 |
●出 演 | アニー・サリヴァン:大竹しのぶ |
ヘレン・ケラー:菅野美穂 | |
アーサー・ケラー:渡辺哲 | |
ジェイムズ・ケラー:池田成志 | |
アナグノス/医師:吉田鋼太郎 | |
ヴァイニー:安田ひろみ | |
エヴ伯母:平木久子 | |
ケート・ケラー:余貴美子 | |
パーシィ:田鍋謙一郎 | |
マーサ:小椋あずさ | |
召使い:青木鉄仁 | |
盲学校の生徒:中込佐知子/佐藤絢子/松本明子 村石絵里菜/安井奈緒香/沼澤祐香 | |
ベル:ベル(犬:ラブラドールレトリバー) | |
演出:鈴木裕美 |
「奇跡の人」、言うまでもなく、あのヘレン・ケラーの物語りであります。子供の頃に読んだ偉人伝なんかの中に入っていたのを覚えています。何よりも、3重のハンディ.キャップを背負ったヘレンが、サリヴァン先生の元、見事にそれを乗り越えて生きていく、というその感動的な物語りが印象に残っています。それを、舞台上で見るとどうなるか、しかも、大竹しのぶさんと菅野美穂さんという、名女優がそれぞれの役を演じるとなれば、これは、ファンならずも気になるところであります。さて、話の展開は置いておきまして、印象に残っているところだけを書いていきます。一番印象的なのは、やはり、大竹しのぶさん演じるアニーと菅野美穂さん演じるヘレンでしょう。アニーは、上品な、と言うよりは、ちょっと粗雑な(とまでは言わないか…)、野暮ったい感じの女性のようで、その話し方は、まさに、べらんめぇ調。何か生っ粋の江戸っ子というようなしゃべり方が、妙におかしかったりします。けれども、その背景には、小さい頃から貧しく、弟と共に救貧院に預けられたこともあり、しかし、その救貧院で弟のジミーを亡くし、アニー自身も盲目に近い状態になっていたが、それを乗り越えて、盲学校で知識を身につけ、手術により視力も回復させた、という過去があるのです。そうした悲惨な過去を全く感じさせないような、前向きで、強い女性、という印象が、大竹さんの演技が、さらに引き立てています。どんなことが起ころうとも、何があろうとも、とにかく、前へ向かって行くだけ、続けていくだけ、というようなことを言う台詞がいくつか出てきますが、それらが、みな、とっても説得力があるのです。大竹さんの姿を見ていると、とにかく、何でもやってみれば、必ず道は開けてくるのだ、ということを、改めて考えさせられるのでした。
一方、菅野さん演じるヘレンはと言うと、これがまた強烈なインパクトをもって、私達の前に登場してきます。家の中をはいずりまわり、好き放題なことをしているヘレン、目が見えなければ、耳も聞こえず、そして、口もきけないという、私にはちょっと想像もできないような、いわば、全くの暗闇の中に生きているのでしょう。そうした役を演じることというのは、大変難しいのではないかと思うのです。菅野さん自身、前にもTVドラマ「君の手がささやいている」で聾者の役を演じており、大変な好評を得ていらっしゃったようですが、それ以上に、今回のは、大変な役なのではないでしょうか。それを、実に見事に、演じのけていると思うのです。当然、自分の感情を表現するのは、顔の表情と大袈裟なまでの身ぶり手ぶりだけ。時おり、言葉にならない奇声を発してはいますが、それ以外には、感情を表現する術を知らないわけですし、また、後にアニーが重視して教え込もうとする「ことば」という概念すら知らないわけです。…どう考えてみても、私には、自分自身がもしも、そうだったら、というふうに想像することすらできないです。ちょっと前に、TVの「情熱大陸」だったかで、大竹さんと菅野さんが登場されて、この公演(たぶん、東京公演でしょう)について、アンケートの回答を見ると、大竹さんが素晴らしい、ということばかりが目について、菅野さんに対する声があまり見られなかった、というようなことを言うていたかと思いますが、実際に見てみて、そうではない、と思います。確かに、大竹さんの演技は素晴らしいし、見るものを引き込むだけの説得力も持っています。けれど、菅野さんの演技は、それ以上に、私達には想像もできないような世界にひとりで住んでいる女の子というものを、実に見事に、リアルに表現していたと思うのです。改めて、菅野さんの演技力の魅力というものに感じ入ったのでした。
そういうお二人がぶつかり合う、闘い(?)のシーンは、まさに体当たりの、迫真の演技そのもの。お互いに大声を出して叫び、本気で殴り合い、転がり合う、それは、もう演技とは見えないくらいのリアルさで、見る者に迫ってきます。いろんなものを投げ合ったり、特に最後の、「水」という言葉を発するまでのシーンでは、井戸から水をばしゃばしゃと汲み上げてきて、それをいっぱいに掛け合う、という演技で、もう、舞台の上はぐちゃぐちゃ状態。そこまでするの?というくらいの闘いは、まさに、”生きるための闘い”であり、言うてみれば、人間の本質に迫ろうという闘いでもあるということを、表しているのだと思います。
他の皆さんの演技も素晴らしかったのですが、やはり、このお二人に尽きるでしょう。そして、生で見た大竹さんって、TVで見るよりもずっと若々しく、本当に可愛いらしい女性なのだなぁ、などと思ったのでした…(^^;