らいぶらりぃ
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モンセラ修道院聖歌隊公演

●日 時2000年5月25日(木)19時開演
●会 場神戸新聞松方ホール
●出 演ビジョルディ=アグスティ・ピケ・コリャード指揮モンセラ修道院聖歌隊
ピアノ:ビセンス・プルネス・リュレット
●曲 目ヴィクトリア/おお、聖なる宴
モラレス/おお、大いなる神秘
カサノバス/おお、いかに優しき
ブラームス/アヴェ・マリア
カザルス/わが肌は黒いけれど
シューベルト/自然における神
ハイドン/竪琴を弾き歌え
タルタブル/褐色の聖母に捧げる歌
メンデルスゾーン/善良な羊飼いはよみがえり
モレラ/エンポリウム
シビル/3つの太鼓
ロダミダンス/百合の花
滝廉太郎/花
中田喜直/夏の思い出
シューベルト/野バラ
カザルス/オラトリオ「まぐさ桶」より

 世界でも最古という少年合唱団が、このモンセラ修道院聖歌隊なんだそうで、これは、と思い、聴いてきました。

 この聖歌隊の歴史は相当に古く、日本との関りだけで言うと、戦国時代の末期、かの大友宗麟が遣わした、天正遣欧少年使節、彼らがローマ法王に謁見した後、スペインを訪れ、このモンセラの地にも滞在していたというのです。つまり、日本人でこの聖歌隊の演奏を初めて聴いたのは、伊藤マンショら、戦国時代の少年達であったというわけです。このモンセラ聖歌隊は、そういう時代から、ずっと永々として続いてきた歴史と伝統を誇っているわけです。このような解説を、演奏前のプレトークで、法政大学の助教授の田澤先生がされて、ますます期待が高まります。

 そして、演奏が始まります。久しぶりに合唱を聴くせいか、とってもよく響いて聴こえてきます。ヴィクトリアやモラレスといった、ルネサンス期の作曲家の曲を聴くのも久しぶり。その美しい響きに、ほぉっと安らぐとともに、感動を覚えます。少年ばかりの合唱団なのですが、その声はとても澄んでいて、ごく自然な感じで響いてくるのですね。他の、例えばウィーン少年合唱団なんかも素敵な声を聴かせてくれるのですが、彼らの演奏を聴くと、きれいな中にどこか作ったような、人工的なものを感じることもあったりするのです。が、モンセラ聖歌隊の少年達の声には、そうしたものがなく、本当に、自然に発声をして、あれだけの透明感のある声を出している、そのように感じるのです。どこか素朴ともとれるような感じが、またいいですね。変に飾りっ気のない、純朴な少年達だからこそ、あれだけの美しい声が出せるのではないでしょうか。

 ただ、来日の疲れからなのか、多少、高音域で苦しそうな感じがしたのも否めません。でも、逆に、それが何か人間臭さみたいなものを表しているようで、味のある演奏になっていたと思います。

 印象的なのは、カザルスやタルタブルといった、カタルーニャ地方出身の作曲家の曲です。特に、カザルスなどと言うと、どうしてもチェロの曲とイメージがあるのですが、こんなにも素敵な曲も書いていたのね、ということを改めて思い知らされます。「わが肌は黒いけれど」は、チェロで弾いてもおかしくないような、たっぷりとした叙情性のあるテーマが印象的です。また、タルタブルの「褐色の聖母に捧げる歌」も、素朴な感じのメロディーを展開していく形の曲で、すぅっと私達の心の中にも入ってくるような感じがします。そして、カザルスのオラトリオ「まぐさ桶」よりの抜粋、こんなにも力強い曲も彼は書いていたのかと思うと、ちょっと驚きです。全曲ではないからよくは分からない部分もあるのですが、囁くような感じの歌が、次第に盛り上がっていって、最後には、大音量でクライマックスを築く、まさに壮大な曲だと言うてもいいのでしょう。カザルス自身が、フランコ政権に対する怒りを込めて作曲した曲だということで、なるほど、それだからこそ、こんなにもドラマティックな曲なのだと納得するのでした。

 他にも後半の方では、モレラやシビル、ロダミダンスといった、やはりこの地方出身の作曲家の書いた親しみやすい曲が並んでいて、気分は、まさにカタルーニャ!なのでした。どこか親しみやすく、懐かしさのようなものすら感じる、飾りっ気のない素朴さというものがこれらの曲にもよく表れていたと思いますし、また、演奏する彼らの表情もまた、ひときわ明るかったような気もします。スペインと一口に言うても、フラメンコや闘牛の世界だけではない、素朴な中に熱い宗教心の溢れる世界もあるのだということを、実感させられた演奏会だったと思います。素敵な演奏会でした。