らいぶらりぃ | |||||
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●日 時 | 2000年8月12日(土)14時30分開演 |
●会 場 | 大阪城ホール |
●演 目 | リトル・マーメイド |
●出 演 | アリエル:イーナ・ヴォリアンスカヤ |
エリック:アレクセイ・キリヤコフ | |
セバスチャン:ケリー・マーシャル | |
ヴァネッサ:サンドラ・ガルド | |
シェフ・ルイとゆかいな仲間:ザ・フラップジャックス 〜クリスチャン・ライアン/リチャード・スゴリンジャー/ショー・グリーン |
今年もまた、ディズニー・オンーアイスの季節がやってきました。昨年に続いて、今年も行ってきました。今年のテーマは、「リトル・マーメイド」。”人魚姫”のお話しです。何年か前に映画で公開されて、話題となったものですが、これを、今回は、氷上に再現していこうというのです。一番難しいだろうと思ったのは、海中でのシーンと陸上でのシーンをどのように表現し分けるのか、ということ。実際に見てみると、照明で周囲の色を変えるのは当然なこととして、海中でのシーンでは、しゃぼん玉みたいなものを空中に飛ばせて、水中での気泡を表わすことで、そういう雰囲気をうまく作り出しています。それに、海と陸と2つの場を同時に舞台上に出さないといけない時は、舞台奥の段(スケーター達が登場してくるところ)の上に、陸上シーンを出すなどして、うまくこの2つの世界を表現し分けていました。
さて、今回のショーで印象的なのは、リフティングがとても多い、ということです。昨年の「ポカホンタス」では、皆さん、豪快なジャンプで我々を魅了してくれたのですが、今年は、ジャンプは少なく、ペアでのリフティングが多く、そのペアの美しさに見とれてしまいます。中でも印象的なのは、人魚姫のアリエルと人間のエリック王子とが初めて出会うシーンです。魔女アースラの企みによるとは言え、”足”を手に入れたアリエルが、その想いを寄せるエリック王子と出会う、それは、彼女にしてみれば、この上もなく幸せなことでしょう。ずっと思っていた想いが遂に実現した、その喜びを表わすかのように、2人で踊るのですが、…このシーンでは、アリエルは、何と、スケート・シューズをはいていないのです。裸足でいるわけで、その彼女の足が氷に着かないように、エリックがしっかりと彼女を支え、抱いているのです。エリックがアリエルを高らかに抱え上げて、アリエルもまた、その上で足を大きく開いて、体いっぱいにその喜びを表現していく、このシーンは本当に見応えがあります。そして、ふと、あえてシューズを脱いだのは、”足”を強調するための演出なのだ、ということに気がつきます。そう、人間としての存在の象徴として、ここでは”足”があるわけで、この”足”をアリエルが手に入れて、人間の仲間入りを果たし、夢をかなわせようとしている、ということを、強調したいのでしょう。だからこそ、アリエルもまた、ことさらに”足”を強調するようなダンスを、繰り返していたのでしょう。これは、なかなか素敵な演出だと思います。
そのアリエルのソロでも、脇に付き添いのような魚(?)(脇役のフランダーではなくて)がいて、脇から2〜3人がかりで、アリエルをリフトして、手と足を固定してもらった状態で、アリエルは、何と、あたかも水中を泳いでいるかのように体をくねらせるのです。これにも、おぉっと思いました。ここまでこだわった演出をしているのが、にくいですし、まあ、そうしたことができるだけの技術も持っているヴォリアンスカヤさんもすごいものです。また、一方のエリックもまた、すらっとした背立ちで、とても格好いいんですね。キリヤコフさんのその凛とした姿自体が、王子様という貫禄を表現しているようでもあります。エリックが最初に登場してくるところは、船乗り達の合唱なのですが(昨年の「ポカホンタス」もこんな出だしでしたねぇ…)、大勢の船乗り達を従えてのソロは、とてもたくましくも格好のいいもので、ほれぼれとしてしまいます。
2人の主役以外で、一番お気に入りなのが、セバスチャンです。海の王宮つきの作曲家のカニという肩書きをもっているのですが、ふとしたことから、アリエルのお目付役になるのですね。このカニのセバスチャンが、最初から最後まで、しっかりとアリエルをサポートしていくわけで、また、舞台上では常に客席の方をよく観察しているようで、こちらに向かって手を振ったりして、絶えず愛敬を振りまいているのが、可愛いですね。このセバスチャンの歌うアリア(?)で有名なのが、「アンダー・ザ・シー」。前半最後の場面で、このシーンが出てきます。歌が始まるとすぐに、いろんな魚達が登場してきて、海の世界の楽しさを賑々しく演出していき、それはそれはもう、この上なく楽しいものです。セバスチャンもノリノリで、舞台から客席の方へ飛び出てきて、最前列のお客さんの頭を抱いたりして、サービス満点です。ヒトデも出てきたのですが、これを横浜ベイスターズのキャラクターに似ていると思ったのは、私だけかしらん…(^^;
また、も1つのアリア「キスをして」は、たまらなくロマンティックなものですね。アリエルとエリックを何とかキスさせようと、ムードを作るために、セバスチャンが歌うのですが、この場面もまた素敵です。舞台の上に天上からするすると草が垂れてきて、その真ん中で抱き合う2人、周りをセバスチャンや他の動物達がかこみ、さぁ、キスをしなさいとささやく、何かほのぼのとした中のロマンティックというような感じで、見ていても、思わずうっとりとしてしまいます。いいもんですねぇ。
ところで、今回の舞台には、映画にはないシーンがいくつか登場してきます。セバスチャンがトリトン王から、アリエルの恋のことを問いただされる場面の前のモノローグなんかもそうですが、一番、面白いのが、陸の宮殿(?)の中でのシェフ達が繰り広げる料理のシーン。映画では、セバスチャンとシェフとの闘いというシーンでしたが、今回の舞台では、シェフ3人がどたばたと料理をしていて、セバスチャンとの追いかけっこはそのおまけ、という感じ。この3人のドタバタ喜劇が楽しいのです。まさにアメリカンな感じのコメディで、客席に向かって水をまいたり(大量のではないと思いますが…)、客席に飛び出してきて、1人、お客さんを立たせて、ポップコーンの投げ食いをさせて、最後には、そのポップコーンをざぁっとばらまいたり、もう、目茶苦茶です。…でも、思わずぷっと吹き出してしまうくらいの面白さがそこにはあります。ちょっとシリアスな感じのストーリーの中、ここだけが空気が違っていました。
さて、もう1人、注目すべきは、悪役の魔女アースラが、エリックを欺くために変身したヴァネッサです。変身した場面で、ソロがあるのですが、これが、フラメンコのリズムに乗せて、すごく官能的であり情熱的なのです。また、実際にエリックをアリエルから奪い、デュオになるところでも、とても官能的なダンスなのです。ガルドさんもまた、非常にしなやかな肢体で、特にその脚線美は素晴らしいものだと思うのですが、それを存分に生かした演技になっているのですね。これに惑わされない男なんていない、ってなもんです。でも、一方で、その化けの皮がはがれるところでは、アースラ独特の妙な(?)所作なんかもしっかりとこなしていて、彼女の演技力というものは、非常に高いものなのではないかと思います。
とまぁ、素晴らしい演出と演技とに魅了された2時間30分でした。家族連れが多かったですが、でも、大人でも十分に楽しめると思います。それがディズニー芸術の本質なのだとも言えるでしょうが、それは、このアイス・ショーという形態で、よりいっそう、はっきりとしてくるのだとも思います。子供の心に戻って(?)、純粋に楽しめた公演なのでした。