らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

阪哲郎指揮/オラトリオ「天地創造」

●日 時2000年9月3日(日)16時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演阪哲郎指揮大阪センチュリー交響楽団
ガブリエル:山本美樹
エヴァ:老田裕子
ウリエル:納田正明
ラファエル&アダム:片桐直樹
大阪第一合唱団
●曲 目ハイドン/オラトリオ「天地創造」

 阪さん指揮の演奏会を聴くのは、5月の神戸アーバンオペラに次いで、今年2回目です。しかも今回は、3年前にヴェルディのレクイエムを見事に演奏した、大阪第一合唱団との共演です。曲は、ハイドンのオラトリオ「天地創造」。また、大きな曲を…と思いながら、ふと、そう言えば、阪さんの指揮ではオラトリオというジャンルの曲は初めて聴くのでは、と気付き、これをどう料理されるか、楽しみに聴きに出かけてきました。

 でも、オラトリオだからと言うて、阪さんの指揮はいつもと変わることはありません。むしろ、普段からドイツでもオペラを数多くこなされているからか、相変わらずの歌わせ上手な棒さばきが冴えているかのように見えます。流れるような流暢な音楽づくりは、いつもと同じで、聴いていてもとても心地よいです。オーケストラもセンチュリー響で、神戸アーバンオペラでも最近、毎年のように共演しているから、息も合うのでしょうね。各場面場面での描写が実に生き生きとしていて、その旧約聖書の世界を見事に音楽で再現していたと思います。特に印象的なのは、第2部で、生き物達が次々に登場してくるシーンです。ライオンや虎、鹿に馬、牛、羊等々… ハイドンの曲自体が確かに良くできているからなのですが、それでも、この辺りの生き生きとした音楽描写の見事さと言ったら! まさに「生」の喜びあふれる演奏であった、と言うてよいでしょう。

 そして、もちろん、そうしたこの曲の音楽づくりの中で欠かせないのは、ソリスト達でしょう。特に印象的なのは、女声陣です。ガブリエルの山本さんの声がとっても素晴らしく、まさに天使の声にふさわしい、凛としたハリのある声をたっぷりと響かせていました。ちょうど、ガブリエルのソロのところって、自然の美をたたえるような、喜びに満ちた明るい曲が多かったからか、彼女の声はまさに曲にぴったりと合っていると思います。一方、第3部から登場のエヴァの老田さん、彼女も最初の方でこそ緊張していたのか、やや固い感じを受けたのですが、次第に調子を上げてきて、長々と続くアダムとのデュオのところでは、そのふくよかな響きをたっぷりと聴かせてくれました。

 男声陣について言えば、ラファエルの片桐さんは、(前にも彼の演奏を聴いた時にもそう感じたのですが)どこか棒歌いような感じがしてしまいます。十分に響いているのに、もうちょっと表情がついたら、特に第3部のエヴァとのデュオでは、(老田さんのエヴァがせっかく嬉しそうに歌っているのだから)もっと嬉しそうに歌ってもいいのではないか、と思ってしまうのです。また、ウリエルの納田さんは、調子が良くなかったのか、第1部から第2部のほとんどは、全く聴こえてこないという感じでした。特に、第1部の第4日目のところの、太陽と星が作られるシーンでは、オケが実に美しく夜空に星がきらめく様を描写していただけに(それはあたかも「トスカ」の「星は輝きぬ」のシーンを連想してしまうような美しさ!)、この上にのるウリエルのアリアが不十分に聴こえてしまったのは、ちょっと残念でもあります。

 と書いてきて、では肝心の合唱はどうだったのだと言うと、…合唱の出てくるところって、基本的に、神をたたえるシーンで、フォルテなところが多いんですよね。だから、勢いでごまかせてしまうような気もするのですが、なかなかどうして、健闘していたと思います。たまたま私のいた席が悪かったからか(3階の上手側のバルコニー席)、合唱の響きがやや散漫気味に聴こえてしまいがちだったのが、ちょっと気にはなったのですが、でも各部の最後のフーガなどもかっちりとまとめあげていて、素敵でした。特に終結部のハレルヤは、最高の盛り上がりを聴かせてくれて、素晴らしいものでした。私のような、”元”合唱人な人間にも、改めて合唱っていいな、と唸らせるほどの、いい演奏でした。

 前にも阪さん指揮のアンサンブル神戸の演奏で、ハイドンを聴いた時にも思ったのですが、ハイドンって、本当に奇麗で美しい曲を多く書いているのですね。普段、あまり気にして聴かないからか、その旋律やハーモニーの美しさというものを、見事に引き出してきて、我々に感動を与えてくれる阪さんの指揮はさすがだと思います。結構、間近に、阪さんの指揮をじっくりと見ることもできて、ちょっと嬉しい感じの演奏会でした。