らいぶらりぃ
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第3回灘区コーラスフェスティバル

●日 時2000年10月1日(日)14時開演
●会 場神戸市立灘区民ホール・マリーホール
●出演&曲目1.私立親和中学校コーラス部
  指揮:麻田健洋/松下麻亜紗
  ピアノ:三宅珠代/橋本寛子
 ブリテン/「キャロルの祭典」より
 「天使にラブソングを…」より Chariot
2.神戸市立鷹匠中学校合唱部
  指揮:中務正則
  ピアノ:中井まゆみ
 桑田佳祐/TSUNAMI
 木下牧子/春に
 新実徳英/生きる
3.私立松蔭中学校コーラス部
  指揮:三井健嗣
 テルファー/「ミサ・ブレヴィス」より グロリア
 カライ/アヴェ・マリアII
4.神戸市立長峰中学校コーラス部
  指揮:森瀬智子
 福島雄次郎/「道之島唄」より 慢女節/海ぬ笹草
 アメージング・グレース
5.私立松蔭高等学校コーラス部
  指揮:三井健嗣
 ヴィクトリア/O sacrum convivium
 コダーイ/「山の夜」より
6.兵庫県立神戸高等学校合唱部
  指揮:山本龍弥
 ロッシーニ/O Salutari Hostia
 松下耕/はじめに…
 ブスト/Laudate pueri
7.神戸大学混声合唱団アポロン
  指揮:小川貴充
 三善晃/混声合唱のための「地球へのバラード」より
       私が歌う理由/沈黙の名/夕暮
8.混声合唱団はもーるKOBE
  指揮:平田勝
  ピアノ:細見真理子
 大中恩/「ピアノ伴奏による5つのうた」から 秋の女よ
 ピゼッティ/三つの合唱作品より Recordare,Domine
9.神戸中央合唱団
  指揮:松原千振
 清水脩/よいやな節/宇目の唄げんか
 小山章三/山河抄
10.神戸中央合唱団&混声合唱団はもーるKOBE&神戸大学混声合唱団アポロン
  指揮:平田勝
  ピアノ:山内朋子
 ベートーヴェン/オラトリオ「オリブ山のキリスト」終楽章より Welten singen

 この「灘区コーラスフェスティバル」というのは、2年前から始まった、灘区だけの合唱のお祭り。言うてみれば、県の合唱連盟がやっている「合唱祭」の灘区限定版といったところでしょうか。いい意味でも悪い意味でも、合唱祭を髣髴とさせるものがあります。そのことについては、また後ほど触れることにして、私自身の一番の関心は、やはり、後輩達(神戸大学混声合唱団アポロン)の演奏であります。確か、1回目から参加しているはずですが、それは、同団が灘区を代表する合唱団の1つであるということが、広く認められている証拠でもあり、いわば、この主催者である”役所”のお墨付きをいただいた、ということでもありましょう。(だから何だ、と言われればそれまでですが。)だからこそ、同じ区内、近所に住む者としては、ぜひとも行ってみなくては、と、ようやくに足を運ぶことができたのでした。

 さて、その内容はと言うと、ほんと、合唱祭を思い出させるようなものです。中学生の部があって、高校生の部があって、そして、大学・一般の部がある、というのは、合唱祭そのものでしょう。しかも、ここに出演しているのは、選りすぐりの団体ばかり、ということで、なかなかレベルの高い演奏を聴かせてくれます。往年の名門、鷹匠中学校合唱部や、最近台頭してきた、長峰中学校合唱部など、中学生の若々しい声に加えて、特にアルトの声が響いてくるのに、妙に感心したりしてしまいます。特に、鷹匠中の「TSUNAMI」は、あのヒット・ッポップスがこんなにも美しい女声3部コーラスのなるのか、と唸りたくなるほど、何か伝わってくるものもあり、素敵でした。(ちなみに、個人的なことですが、鷹匠中学校は、私が、今のところの前に、独身時代を過ごしたマンションのすぐ近くにあり、また、長峰中学校は学生時代を過ごしたマンションの近くにある、ということで、何かしら、親近感を覚えてしまいます…)また、高校の部では、神戸高校も、さすが名門校ですね。高校生とは思えないくらいと言ってもいいような素敵な声をしています。また、松陰の中学・高校も出ていましたが、こちらは、ア・カペラの作品を取り上げていて、その端正な曲づくりが素敵だと思います。1人の先生で中学・高校の両方を指導していらっしゃるのですね。それだけに、何か、じっくりと仕込んできたというような味わいのある演奏のようにも思えます。

 で、一番の関心事である、アポロンの演奏です。「地球へのバラード」、学生時代には私達も歌いたいと思っていた曲を、こうして取り上げられるというのは、とっても羨ましいような気がします。そう思って、期待していたのですが、いざ、曲が始まってみると、何か、曲が違うような気がするのです。確かに、まだ定期演奏会の2か月も前ですから、十分に仕上がっていないことは分かりますけど、曲として、音楽として、まとめあげられていない、というのが明らかなんですね。単に音のかたまりがステージから客席に向かって飛んでくるというだけ、なんです。声量的には問題はなく、よく出ていたと思うのですが、いかんせん、曲としての表情がないのは、ちょっと悲しい気がします。「私が歌う理由」なんか、もっと楽しそうに歌ってもいいんじゃないかい…? 12月の定期では、もっと頑張ってほしいものです。…と、身内の批評はこれくらいにしておきましょう。

 でも、その次のはもーるKOBEさんは、凄いですね。音楽が濃いと言うか、非常に音楽がぎゅっと濃密にまとめあげられている、という感じなんです。若い団員さん達のパワーと情熱が、その音楽にこめられている、ということをひしひしと感じ取ることができます。一方の、神戸中央合唱団さんは、こちらもまた緻密に音楽を練り上げてきていますね。「よいやな節」では、男声ソロ2人が、客席の中をぐるりと回るという、シアターピース的な展開で、会場を湧かせてくれます。松原先生ですから、北欧或は東欧ものかと思っていたのですが、意表を突くような、この日本の曲の選択は、なかなかお洒落なようにも聴こえました。

 ところで、今回のフェスティバルには、特別ゲストが出演していました。ちょうど、高校の部と大学・一般の部との間に登場してきた、沢の鶴酒造り唄保存会の皆さんです。灘区と言えば、やはり、”灘の生一本”で有名な酒どころ。沢の鶴さんも、その中の有名な蔵元であり、昔ながらの酒造りを今に伝えている、歴史ある蔵元です。その酒造りの最中に蔵人達が、作業効率を上げるため、或は労働意欲工場のため等の目的で唄っていたというのが、この酒造り唄なんです。ステージには、実際にはお酒は入っていませんが、大きなたらいが出てきて、それをかき混ぜたりする動作をしながらの唄の披露となります。他の真面目な(?)合唱曲とは違って、これは、いわば生活の中に溶け込んできた唄、会場の雰囲気はがらりと変わり、職人さん達の朗々とした唄を聴きながら、何か、本当のお祭りのような、一種独特の盛り上がりを見せていました。解説を交えながら、いくつかの種類の唄を披露してくれましたが、これが、言うてみれば、灘区の民謡ともいうものなのでしょう。地元の人間としても、こうした曲をしっかりと残して、次代へと伝えていかないといけないのかもしれません。そういう意味では、この舞台に、この保存かいの皆さんを招いたのは、大きなポイントになるとも言えましょう。これで利き酒なんかがあるともっと楽しいのに、なんてことも思ってしまいますが(^^;、でも、十分に楽しめたひとときでした。

 そうした、素敵な面も多々あったのですが、やはり、合唱祭と同様の問題点のようなものも、そのまま、残されていたような気も、一方ではしています。・聴きに来る人間が身内ばかりではないか。・聴く者=出演者という公式のもと、会場内外の出入りが多く、落ち着いて聴けない。・同様の公式があるのにも関らず、他の団の演奏をちゃんと聴かない者も多いのではないか。・会場全体での全体合唱で「サリマライズ」を取り上げるのは、私みたいな合唱団経験者にとっては嬉しいが(実際、久しぶりに歌えて、ちょっと嬉しかった…)、そうでない一般客に対しては、いくら楽譜を挟み込んでいるとは言うても、或は酷なのではないか。…等々、閉ざされた合唱の世界、という感触は拭い切れない、と言えましょう。もし、主催者側が、合唱音楽の文化を広めて、灘区を合唱の街にするとでもいうようなヴィジョンを持っているのだとしたら、今のままでは、成し遂げるのは難しいでしょう。せっかく、3回まで続いてきたのですから、このフェスティバルも、ずっと続けていって、更には灘区から合唱文化を発信していく、くらいのつもりでやっていってもらいたい、と思うのですが、どんなもんなんでしょうね。

 …と、つまらないことを考えたりしながら、帰路に着き、家で無事にシドニー五輪の閉会式のTV中継を見ることができたのでした。(^^;