らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

水谷川優子チェロリサイタル

                             
●日 時2000年10月11日(水)19時開演
●会 場いずみホール
●出 演チェロ:水谷川優子
ピアノ:マルッティ・ラウティオ
●曲 目カサド/無伴奏チェロ組曲
ベートーヴェン/チェロソナタ第2番Op.5
シチェドリン/カドリール
ショスタコーヴィッチ/チェロソナタOp.40
(アンコール)
エルガー/愛の挨拶

 水谷川優子さんは、ザルツブルクを本拠にして活躍していらっしゃるチェリストです。彼女のすごいところは、スペシャル・オリンピックスというもののためのボランティア活動を繰り広げていることです。スペシャル・オリンピックスとは、「知的発達障害者の自立と社会参加を目指し、日常的なスポーツプログラムとその成果の発表の場である競技会を提供する民間ボランティア運動」のこと。日本では、元首相夫人である細川佳代子さんが会長として、積極的に活動をしているのだそうです。水谷川さんもそのボランティアとしての支援活動をヨーロッパでも展開しているそうで、今回の演奏会も、その支援のためのチャリティコンサートなのです。(…と言うておきながら、私は、ふと手に入れた招待券で行ってきたのです。ごめんなさい。m(__)m)

 さて、彼女の演奏を聴くのは初めてなのですが、なかなかしっかりした演奏をする方ですね。カサドの曲では、最初ということと、無伴奏ということで、緊張していたのでしょうか、いまひとつ、音に張りがないようにも感じましたが、3楽章あたりから、ちょっと調子が出てきたような感じですね。2楽章なんかは、もっと激しくてもいいのではないかと思いますし、また、音が所々、かすれるように聴こえたりして、その点はちょっと残念ではあります。が、ベートーヴェンになると、俄然、調子が出てきます。ピアノとチェロとが全く対等と言ってもいいくらいに掛け合いを展開するこの曲、ピアノのラウティオさんもかなりの名手で、非常にメリハリのあるピアノを聴かせてくれます。fになった次の瞬間にはすぐにpになる、或はその逆など、とてもはっきりとした演奏です。そして、その上で、水谷川さんのチェロも、同様にfとpとを行ったり来たりしながら、とても伸びやかに歌い上げていきます。ピアノが、まるで「熱情」ソナタを思わせるような細かいパッセージを弾いている上で、たっぷりと旋律を歌い上げていく、それは、聴いていてとても心地好いものです。全体にはとても丁寧に音楽を仕上げているという感じで、その細やかな音楽作りは、なかなか好感が持てます。

 後半になると、水谷川さんのチェロは更に、まるで水を得た魚のように歌い出します。シチェドリンの曲は、何か不思議な感じの曲ですね。ピツィカートがあったり、弦をわざとこするようにする所があったり、微妙な音程があったり、最後には不気味な感じさえするグリッサンドがあったり、と、ある意味では前衛的とも言えるのかもしれません。でも、そのテーマは、どこかで聴いたことのあるような親しみを覚えるもので、そういうメロディを奏でるチェロと、唐突にfを鳴らすピアノとの対比がまた、面白い曲でもあります。この一見、不思議な曲を、水谷川さんのチェロは、いとも簡単そうに、自由自在に弾いていました。

 そして、最後はショスタコ。やはり、ラストに持ってくるだけのことはあり、相当、気合が入っていましたね。古典的な中に、ショスタコらしさがしっかりと表れているこの曲を、見事に自分のモノとして演奏しているように見えます。1楽章は伸びやかな感じで進んでいきますが、最後に葬送行進曲が置かれており、ここでは非常に壮重な雰囲気がよく出ています。2楽章は激しい曲調。大胆なまでに激しく、ピアノとの掛け合いも、息を飲むほど緊張感に満ちています。それが、3楽章のラルゴになると一転、ショスタコーヴィッチって、こんなにも美しい曲も書いていたの?と思うほど(って、それは単なる私の勉強不足…?)、瞑想的な美しさに支配されます。水谷川さんのチェロもまた、非常に細い線で、ぴぃんと張り詰めたような中で、至上の美しさを歌っていくようで、これは、本当に聴き応えがあります。そして、4楽章、快活な雰囲気が戻ってきて、ピアノと一糸乱れぬ掛け合いを展開しながら、曲は一気にクライマックスへと向かいます。…とても充実した演奏でした。やはり、曲全体としては、とても丁寧に仕上げているという感じがしますが、それでも、ショスタコのこの曲を、ここまで弾きこなすというのも、相当なものなのでしょうね。見事な演奏でした。

 演奏会の最後には、水谷川さんご自身から、スペシャル・オリンピックスについてや、このコンサートの趣旨などについての説明も含めての挨拶がありました。こうしたボランティアに対しても、しっかりとしたお考えをお持ちのようで、その姿勢には、感心させられます。シドニーのオリンピックが終わり、もう少ししたらパラリンピックも始まるという、この時期、スペシャル・オリンピックスの存在を教えてくれた彼女に感謝しながら、帰路に着くのでした。