らいぶらりぃ
PrevNextto the Index

ハーグ・レジデンティ管弦楽団

●日 時2000年11月19日(日)16時開演
●会 場シンフォニーホール
●出 演ヤープ・ヴァン・ズヴェーデン指揮ハーグ・レジデンティ管弦楽団
ピアノ:小山実稚恵
●曲 目オルタウス/カプリッチョ(オーケストラ委嘱作品)
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番ハ短調Op.18
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調Op.64
(アンコール)
ブラームス/ハンガリー舞曲第5番
J.シュトラウスII/ポルカ「雷鳴と電光」

 オランダのオーケストラと言うと、まっ先にあがってくるのはアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団。でも、これ以上に素晴らしいオーケストラもあるのですね。往年の巨匠、オッテルローが育てたハーグ・レジデンティ管弦楽団がそうです。今回が初来日で、しかも共演が小山実稚恵さんということで、しっかりと行ってきました。

 最初はオルタウスの曲。このオーケストラのために新しく書かれた曲なのだそうで、このオケの特性をうまく生かすような作りになっています。このレジデンティ管の特性、それは簡単に言ってしまえば、非常にきびきびとした動きと、とてもクリアでシャープでありながらも幅のある豊かな音色、響きということになるでしょうか。この曲自体、非常にきびきびとした動きのある曲で、とても軽快に進んでいきます。パーカッションが大活躍をして、とってもメリハリのあるリズムを刻んでいきます。そして、管楽器の音色もとても豊かで、特にオーボエやクラリネットが印象的です。弦も非常に幅のある響きをしています。全てのパートをちゃんと聴かせるようにできているというこの曲は、まさに技術的に優れたメンバーばかりのレジンデンティ管にこそふさわしい曲だと言うことができるでしょう。もちろん、日本初演で初めて聴く曲でしたが、何だかとっても楽しい感じの曲でした。

 そして、小山さんの登場です。いつもの愛らしい笑顔でお辞儀をされて、いざ、曲が始まると… 今まで聴いたラフマニノフとは何かが違う、という感じがします。弦の奏でるメロディーが、非常にぶ厚い響きで、とても深みのある流れを作り出しているのです。それは、まるで大河が悠々と流れるかのようでもあり、その上に、小山さんのピアノが、水しぶきがぱしゃ!と立つかのようにきらめいている、そんな感じなのです。別に小山さんだから、というわけでもないのですが、思わず、NHK大河ドラマ「葵〜徳川三代」のオープニングのタイトル・バックのシーン(あの滝の部分)を思い出してしまったのは、私だけでしょうか…(^^; ここまで堂々とした、どっしりとしたラフマニノフは聴いたことがない、そう思うと、何だか背筋がぞくっとしてしまいます。圧倒的な迫力とパワーを秘めながらも、オケがたっぷりと歌い上げていくのに対して、小山さんもそれに同調するかのように、とてもパワフルかつ繊細なピアノを展開していきます。特に印象的なのは、2楽章。この美しい楽章を、小山さんのピアノは実に繊細にも情緒たっぷりと歌い上げていきます。それはまさに、透明度の高い純粋な清流が貯えられて、湖をつくり出し、それが静々と横たわっている、そんな情景を連想させます。それに、ピアノを導き出してくる木管のソロも素敵でした。印象的なのは、ホルン。何という柔らかな響き! これは、後半のチャイ5も楽しみだぞと思わせるに十分すぎる出来でした。そして、3楽章後半はもう怒濤の如く流れだし、圧倒的なパワーを見せつけながら一気にラストへ。実に感動的なラフマニノフでした。

 後半は、チャイコフスキー。ここまで聴いてきて、かなりこのレジデンティ管の魅力にハマってしまっているのですが、このチャイ5で、決定的にこの虜にさせられてしまいます。何が、そんなに魅力的なのか、それは、もう、私がかつて聴いた中で一番感動的なチャイ5であった、スヴェトラーノフ指揮のロシア国立交響楽団の演奏に近いものを感じるからに他ありません。このレジンデンティ管自体も、今のズヴェーデンさんを迎える前は、あのスヴェトラーノフさんを音楽監督に迎えていたわけですから、当然のようにスヴェトラーノフ・サウンドとでもいうようなものを身につけているのかもしれません。オケ自体がそうであったとしても、それ以上に、ズヴェーデンさんの音楽の組み立て方もまた、どこかスヴェトラーノフさんを思わすようなものがあるのですね。特に2楽章のテンポの揺らし方などは、まさに絶妙で、若い頃のスヴェトラーノフさんならこうなのかな、というくらいのものでした。それに、このズヴェーデンさんの指揮、とてもいいですね。何をしたいのかがはっきりと分かるし、指揮を見ているだけでも表現したいものが伝わってくるんです。その指揮を、オケが、しっかりと受け止めて、非常に精密に音楽に組み立てていき、演奏しているのです。精密、そう、彼らの演奏はまた、非常に精密でもあります。重厚な響きを鳴らしながらも、その中では、実に細やかな部分にまで音作りの配慮をしているのですね。ズヴェーデンさんの指揮も、非常に細かな部分にも指示を出していて、緻密に音楽を練り上げていることが分かります。低声や内声部に出てくる副旋律の部分にもきっちりと指示を出して、音楽にメリハリをつけようとしているのが、印象的です。そして、一番の殊勲賞ものは、先にも出てきたホルン。こんなにも美しいホルンが聴けるなんて、何と幸せなことなのでしょう。実に感動的なチャイ5でした。多分、私の中では、1、2を争うくらいの演奏になることでしょう。

 アンコールでも、ぱしっとメリハリのある曲を存分に聴かせてくれて、もう、聴衆も興奮状態でした。客の入りはやや少なかったものの、ホール中が感動の渦に巻き込まれた、素晴らしい演奏会でした。