らいぶらりぃ
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ジャン=マルク・ルイサダ ピアノリサイタル

●日 時2000年11月21日(火)19時15分開演
●会 場神戸新聞松方ホール
●出 演ピアノ:ジャン=マルク・ルイサダ
●曲 目シューベルト/ピアノソナタ第4番イ短調D.537
ベートーヴェン/ピアノソナタ第12番変イ長調Op.26
シューマン/アラベスクハ長調Op.18
      蝶々Op.2
ショパン/スケルツォ第2番変ロ短調Op.31
     ポロネーズ第6番変イ長調Op.53「英雄」
(アンコール)
ショパン/マズルカイ短調Op.17-4
     マズルカ変ロ長調Op.7-1
     前奏曲変イ長調Op.28-17

 あのブーニンがショパン・コンクールで優勝して、世界中の話題をさっらたのは、もう今から15年も前のこと。その時、4位に入賞したのが、一昨日、ハーグ・レジデンティ管弦楽団と競演した小山実稚恵さん。そして、5位に入賞したのが、ジャン=マルク・ルイサダさん。私としては、当時からブーニンよりも注目をしていたこのお2人の演奏を、今回、続けて聴くことができて、とてもラッキーなことです。

 さて、そのルイサダさんのピアノですが、当時の印象としては、どこかひょうひょうとした感じでありながら、いかにもフランスらしいお洒落な演奏をする方だな、と思っていました。が、今回、間近にその演奏に触れてみて、そのことはさらに深く実感することができます。そう、演奏がとてもお洒落で、柔らかなんですね。特にpの扱いが独特のもので、その、そよ風が鍵盤の上を舞うかのような、しなやかでさらりとして、ふわっとした温かみのあるタッチには、惚れ惚れとしてしまいます。シューマンの曲などではこれが実によく表れていて、こんなにも美しく温かいシューマンを生で聴いたのは初めてなような気がします。シューベルトやベートーヴェンでも、実にかっちりとした構成美の上に、そういう温かな音が出てきて、おぉっと思います。それに、ルイサダさんのピアノは、とても内声部も大事に扱っているのですね。ベートーヴェンのソナタの3楽章の葬送行進曲などでも、縦のラインのそろった和音が続きますが、その中でも内声部の音にアクセントを置くなどして、ほぉ、と思います。こういうことをするからこそ、曲に豊かな表情がつくというもので、お洒落なだけでなく、実にしっかりと曲を緻密に計算して作ってはるということが感じ取れます。

 と言うて、ただ単に柔らかな音色というだけではありません。もちろん、fになる部分では、実に固く力強い音をたたき出すのですね。この強弱のバランスが実に見事で、曲の表情がより一層、富んだものになっていたのは言うまでもありません。ちょうど、私達の席というのが、下手側の2階席最前部(一番舞台寄り)で、ルイサダさんの弾いている姿を下に見下ろすような場所だったのです。そこから、ルイサダさんの弾いている手や指の動きなどもしっかりと見て取れたのですが、pの時とfの時との弾き方が、違うのですね。pでは、まるで鍵盤をそぉっとなでるように、あくまでも優しく優しく扱っているのですが、それがfになると、指をきゅっと固くして上から下へたたき落とすというようで、そういう変化を瞬時にぱっとできるというのが、さすがなんだなぁと思います。ピアノ弾きの端くれとしましても、大いに勉強になります。(^^; それに、ルイサダさん、弾きながら歌ってはるのですね。力を入れるところなんかでも、ふんっ!というような声が聴こえてきたり、メロディーが流れるところで、イ〜とかウ〜とか唸りながら(?)弾いてはるんです。それだけ、演奏に気合いを入れていらっしゃるということでもあり、また、だからこそ、聴く側にもその気合いが十二分に伝わってくる、素敵な演奏だったと思うのです。

 ただ、最後のショパンは、どうも前半のシューベルトやベートーヴェンでかなり力を消耗してしまったのか、かなりお疲れのようでした。スケルツォも最初の方はよかったのですが、段々と疲労が出てきたようで、「英雄」では、かなりのミスタッチも見受けられました。ちょっと荒々しい演奏になってしまい、残念な気もします。

 でも、アンコールを求める拍手にも気前よく応えて、3曲も弾いてくれたのは、とても嬉しいことです。それに、私達の席のとこにも目を向けてくださって、妻と2人、ルイサダさんと目が合うてしもぉたぁ〜、と喜び合うのでした。(^^; 何か、非常に温かみのあるお人柄がしのばれるようで、こちらもとても温かな気持ちになれるのでした。