らいぶらりぃ
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第163回神戸学院大学Green Festival

浅川晶子・横山奈加子・長谷川陽子 トリオとピアノ・ソロの午後

●日 時2000年12月2日(土)15時開演
●会 場神戸学院大学メモリアルホール
●出 演ピアノ:浅川晶子
ヴァイオリン:横山奈加子
チェロ:長谷川陽子
●曲 目ファニー・メンデルスゾーン/ピアノ・トリオニ短調Op.11
              「一年」より 5月/12月
クララ・シューマン/3つのロマンスOp.11
          ピアノ・トリオト短調Op.17

 久しぶりに神戸学院大学のグリーンフェスティバルに行ってきました。もちろん、お目当ては長谷川陽子さんです。(^^; 今回の演奏会は、ファニー・メンデルスゾーンとクララ・シューマンという、普段、滅多に聴かないような2人の女性作曲家の曲を取り上げており、それを、女性3人によるトリオがどう演奏されるか、が聴きどころです。

 ファニー・メンデルスゾーンは、あのフェリックス・メンデルスゾーンのお姉さんにあたる人で、当時、有名なピアニストだったそうです。ピアノを弾くかたわらで、作曲も手掛けたということで、最初はトリオ。第1楽章冒頭から力強く出てくるテーマが印象的です。ヴァイオリンとチェロとで朗々と歌われるテーマに、ピアノがさらさらと流れるような伴奏をつけていきます。このピアノパートがなかなか重要な役を果たしていますね。やはりピアニストだったということが影響しているのでしょう。伴奏部分でも音符の数が多いのか、細かなパッセージから編み出される音楽は、繊細さと流麗さに満ちています。ヴァイオリンとチェロは脇役という感じで、テーマを歌い上げる他では、割と簡単な伴奏やオブリガートをつけていくという形ですね。メインはあくまでもピアノなのでしょうか。第2楽章もピアノのゆったりしたテーマが印象的ですし、第3楽章も同様、ゆったりとした安らかなテーマがピアノ、チェロ、ヴァイオリンと歌われていくのが印象的です。そして、4楽章、この冒頭が一番印象に残っているのですが、何と、いきなりピアノのカデンツァが出てくるのです。唐突な感じもしないでもないのですが、それがやがて、2つの弦と一体となって、テーマを力強く歌い上げていく部分はなかなか感動的でもあります。ラストへ向けてじわじわっと曲が盛り上がっていく様は、ほんと、圧巻とも言えるものです。全体的に、ヴァイオリンやチェロをうまく効果的に使っていて、それが曲調を豊かなものにしていると思うのですが、その一方で、やや安易な感じもしないでもないと思ってしまうのです。ピアノが中心だから、仕方ないのかもしれませんが、もうちょっと複雑なことをさせてもいいのでは、とも思います。が、そういうシンプルさが、逆に、ファニー・メンデルスゾーンの人柄を表わしてもいるのでしょうか。聴きながら、何かとても優しい雰囲気に包まれて、心が底の方からほっと温まる、そんな感じの雰囲気が漂う曲なのです。女性らしい優しさとしなやかさに満ちた、とてもいい曲だと思います。

 次はピアノソロで、同じくファニー・メンデルスゾーンの曲。「1年」というのはタイトルのとおり、12の月ごとに曲が書かれているという曲集です。チャイコフスキーの「四季」みたいなもんでしょうか。その中からの「12月」が印象的です。ほんとに雪がちらちらと降っているかのような描写が素敵なんです。やはり、こういう繊細さは女性ならではなのでしょうね。最後にはルターの作曲したコラールが引用されて、味わい深く終わるのでした。

 続いて今度は、シューマンの夫人であったクララの作品です。クララも名前だけは知ってますが、その作品は聴いたことはありませんでした。ピアノソロの「3つのロマンス」は、まるでシューマンの曲であるかのような雰囲気がします。それだけ、クララがシューマンの影響を受けているということなのでしょうね。2曲目が一番、内容的に富んだ曲で、なかなか聴きごたえがあります。(だからと言うて、2曲目の段階で拍手をするのはどうかと思う…)聴いていて、これはシューマンの作品だと言うても、あまり分からないのでは、そんな気もします。それだけ、クララがシューマンを愛していたということでもあるのでしょうね。

 最後は、クララのトリオです。先程のファニーの曲と違って、こちらはより洗練された、充実した内容の作品になっているように思います。ファニーの曲は全体的に優しい穏やかな雰囲気に満ちているのですが、このクララの曲はより洗練された、優雅で華やかな感じがするのです。力強いテーマと、ロマンティックなテーマとが交互に織り合い、3つの楽器が見事なまでに絡まっていく様は、ほんと素敵です。1楽章のテーマの朗々とした様や、2楽章の実に優雅で美しいテーマ、3楽章の中間部のリズミカルな生き生きとした様など、どれも素敵ですが、個人的には4楽章のフーガが一番印象的です。各楽器ともによく活かされていて、この辺の音楽など、ベートーヴェンやモーツァルトにも決して負けないようなものなのでは、とも思うのです。そこには、もう、シューマンの域を越えた、クララ・シューマンとしての音楽がしっかりと完成されている、そういうことを実感することができます。素敵な曲でした。

 さて、演奏自体の方も、お3方による演奏は、そういうそれぞれの作曲家の特性をよく理解された、素敵な演奏であったと思います。ただ、陽子さんと奈加子さんの弦は、手前で実に朗々とたっぷりと歌い上げているのですが、ピアノの浅川さんはその奥に位置しているからか、ちょっと奥まって聴こえるのが、やや気になりました。どちらの作曲家の曲にしても、ピアノにかなりの比重が置かれていることは確かで、ピアノにテーマが出てくるところなどは、もっと大いに主張してもいいのでは、と思うのです。あえて難点をあげれば、それくらいですが、でも、女性演奏家による、優しく和やかな雰囲気での演奏はとても素敵でした。